抄録
食料の安定供給や農作物輸出の拡大をはかる上で,重要な基盤の一つが種苗である。本研究では,種苗の新品種育成(農作物育種)に焦点を当て,農作物育種を行う日本の民間企業の研究開発に対する専有可能性の確保手段として機能する要因を明らかにするために,質問票調査を実施しその結果の因子分析を行った。本分析では,植物の繁殖特性を考慮して,野菜と花きとに分けて分析を行った。因子分析の結果,農作物育種を行う企業の専有可能性の確保手段として機能する要因のうち,野菜・花き共通のものとして,育種資源(遺伝資源・人的資源)の確保が示唆された。また野菜に特有の要因として,知的財産権以外での権利保護制度やFl技術による育種に対する技術進歩および技術獲得が示唆された。花きに特有の要因としては, F1技術以外の新技術(遺伝子組換え技術など)の導入による製品化の実現性が示唆された。本研究の結果から,農作物育種を行う民間企業の研究開発インセンティブを高めるためには,これまで農作物育種の議論の中で取り上げられてきた育成者権の拡充の観点だけでなく,知的財産権以外での専有可能性の確保手段となりうる制度の検討や,企業における先端技術の獲得による専有可能性の確保手段などについても.検討の必要があると考えられた。