研究 技術 計画
Online ISSN : 2432-7123
Print ISSN : 0914-7020
高等教育と研究者の需要
Shin'ichi KOBAYASHI
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1988 年 3 巻 2 号 p. 182-190

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抄録

本研究は、研究者の労働市場における新規卒業者の需給の実態、特に産業界による新規卒業者の採用を中心に明らかにすることを目的とする。それを通じて研究者養成の「ミスマッチング」をめぐる問題を議論する視点を提供する。このために4つの調査の結果に基づいて議論を行った。わが国では、終身雇用制を前提とした場合、研究活動の変化に長期的に対応していく上で、新規卒業者の採用は重要な意味を持っている。しかし、大学における研究者の養成には「ミスマッチング」が存在し、拡大しつつある。これは大学側の研究者養成の不適合によるばかりでなくて、新規卒業者の就職行動や採用側である企業の研究者の採用方法や処遇のあり方にも起因する。しかし、わが国の企業は研究者養成の「ミスマッチング」を企業の内部で解消するような柔軟な適応機構を有しており、これが重要な役割を演じている。この適応機構は、わが国の雇用慣行と技術導入を中心とした従来の研究開発のあり方がうまくマッチした結果生まれたものだと考えられる。それが研究者養成の「ミスマッチング」に対しても有効に機能している。しかし、このことがある意味では企業側の過剰適応を招き、結果的に高等教育の改善を進めるインセンティブを弱めることにもなっている。

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1988 研究イノベーション学会
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