2023 年 38 巻 1 号 p. 130-145
現在,直面している深刻な環境問題を解決するには,製造業は地下資源に頼ったものづくりから持続可能なものづくりへの変革が求められている。日本において企業数の99.7%,従業員数の約7割を占める中小企業も例外ではなく,特に各地域の中小企業が積極的にイノベーションを起こしながら変革していくことが重要である。
本研究ではそのための最初の取組みとして,ものづくり中小企業経営者の暗黙の思考構造がどのようなものであるかを,オントロジー工学の手法である行為分解木を使って明示化することを試みた。山形県米沢市に所在する,新事業開発に意欲的な3社の経営者に経営に関するインタビューを実施し,その内容を行為分解木で記述した。それぞれの行為分解木から経営のゴールに関する上位の概念と,分解された下層にある下位概念を抽出し,それらの思考および思考構造が,米沢地域の他の経営者にも存在することをアンケート調査で明らかにした。これらの結果より,行為分解木手法は経営者の暗黙の思考構造の明示化に有効であることが判った。
また,抽出した概念と米沢地域に独自の歴史,文化との関係についても検討した。江戸時代より連綿と続いている伝統的な産業「米沢織」の重要性に関する質問について,行為分解木から抽出したいくつかの質問との相関が確認され,地域の歴史や文化が現在のものづくり経営者の思考に影響している可能性が示された。