2025 年 40 巻 2 号 p. 243-257
【目的】本研究の目的は,自然科学分野のプロジェクトで不確実性の低減に用いられる冗長性について,ヘルスケア分野のイノベーション・エコシステムにおける知見を集積整理すること及び研究余地の示唆を得ることである。【対象と方法】2000年から2023年までの間の文献を対象に,Web of Science,CiNii及びJ-STAGEの学術文献データベースを用いてスコーピングレビューを実施した。【結果】検索の結果,645文献を特定し,スクリーニングにより10文献を選抜,最終的に2014年から2022年の5文献を採用した。【結論】冗長性に関する研究は自然科学分野で最も多く,経営学,社会学及び行政学を含む社会科学分野における先行研究は少なく,イノベーション・エコシステムにおける研究はほとんど行われていない。一方,採用した文献では,エコシステムにおける複数のアクター間の相互作用による冗長性の存在が同定され,冗長性による不確実性の低減において正の作用と負の作用があること及び冗長性の定量的な測定手法が示された。理論的フレームワークとして,トリプルヘリックス理論による相互冗長性が不確実性を低減させること,アクター間に生ずる冗長性の分析には非公式な「弱い紐帯」(weak ties)に着目したソーシャルネットワーク分析のアプローチが有効である可能性が示唆された。イノベーション・エコシステムにおける冗長性の研究は初期段階にあり,研究余地があることが確認された。