1994 年 8 巻 3_4 号 p. 276-285
技術予測には技術的可能性と社会的受容性の両面を考慮する必要があるが,後者を体系付けて技術動向を予測したものは余り見られない。そこで我々は個人〜社会のニーズ・ウォンツ(欲求)をその主体とレベルで作られる平面上に位置付け,過去の技術開発・製品化事例をポジショニングして考察することで,マクロな技術・市場動向予測を試みた。まず欲求の主体を地球(人類),国家,社会,企業,個人の5つに分け,それぞれMaslowの欲求5段階/生存,安全,帰属,尊敬,自己表現/に相当する豊かさのレベルを設定し,デマンドマトリクスと呼ぶ表形式で表した。次いでPCM符号化技術,フロン,電子スチルカメラおよび過去のヒット商品のいくつかの技術開発と市場への浸透過程をこのマトリクス上にプロットすることにより成功する技術戦略をパターン化した。このような検討の結果,1)欲求が満たされつつある価値(ボーダー領域)は経時的に変化するものの開発に成功した技術・製品はほとんどボーダー領域にポジショニングされること,2)技術・製品開発の成功・失敗例は基本的に6つのパターンに分類できること,3)これらのパターンを適用することにより技術予測において社会的受容性の確認が可能となること等を確認した。さらに,本研究の方法を信号制御システム,TV電話,リニア新幹線の3例を取りあげて,これらの今後の望ましい技術開発戦略の姿を検討した。