p. 95
本研究の目的は,インタフェースデザインにおけるアイデアの発想の起源を明らかにし,優れたデザインを支援する方法を構築することにある.インタフェースデザイナーは,対話経験(日常生活における人のふるまいを注意深く観察して蓄積された記憶)を参照しながらアイデアを創出することがある.筆者らは,こうした対話経験の参照行為をFound Behaviorと名づけた.本稿では,Found Behaviorとインタフェースデザイン成果の関係について報告する.実験では,デザイン学生と実務経験者数名に音楽を再生する斬新なスイッチをデザインしてもらい,そのアイデアの根拠について認知的インタビューを行った.発想の根拠は,プロトコル分析を行い,参照される対話経験を原初的なものと応用的なものに分けて数量化した.アイデアの評価は,インタフェースの専門家数名が独創性と実用性それぞれの観点で得点化した.その結果,Found Behaviorが多いほど,アイデアの評価が高いという相関関係が見られた.このことから,優れたインタフェースデザインとは,その過程において日常生活における対話経験を多く参照したものであると考えられる.