2001 年 47 巻 6 号 p. 17-26
筆者らはこれまで、戦前の日本における椅子観の成立から金属製回転昇降椅子の開発に至るプロセスを詳細に考察してきた。本稿では、これまでの歴史的考察により得られた知見をもとに、材料技術と道具観の相互依存関係についてより一般的な知識を得るために理論的考察を試みた。最初に一連のプロセスを社会的知識創造として捉え、その過程が組織的知識創造理論に従っているかを検討した。その結果、一連のプロセスは、組織的知識創造理論における四つの知識変換モードからなる階層構造として展開されていたことが示唆された。次に、組織的知識創造理論にもとづいて、社会的知識創造の動的な構図を明らかにした。そして、金属製回転昇降椅子の開発プロセスに見られた金属加工技術と椅子観との関係を得られた構図にもとづいて検証した。最後に、道具観と材料技術の相互依存関係を「矛盾の発生」から「相互作用の展開」「道具観の変化」「新たな相互依存関係の成立」へと至る相互作用のプロセスとして図式化した。