2012 年 58 巻 5 号 p. 5_97-5_104
本稿は、アヘン戦争から改革開放までの中国における「印刷広告」の観察を通して、そこから読み取れる「広告によるコミュニケーション文化」の特質を考察したものである。主要な論点は、次のようである。(1)「印刷広告」は、生活・物財・サービスに関する知識・情報の伝達という基本的機能を有している。(2)「印刷広告」は、そこに盛られているメッセージと図柄を通して、人びとに生活文化への覚醒をもたらしている。(3)「印刷広告」は、人びとに、生活文化に関する新たな価値を、ともに模索し、ともに考える契機を提供している。(4)「印刷広告」は、伝統文化の保持・育成、生活文化の新展開などに関する問題提起を、広範な地域の多くの人びとが共感をもって受け止める、生活者視点に根差して制作されている。(5)上記の諸要素を包含する「印刷広告」は、当該の地域・社会の人びとの間に共有可能な価値観・生活志向を惹起し、当該地域・社会における生活文化的基盤の安定化・創新化をもたらしている。