デザイン学研究
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明治20年代の意匠奨励の言説にみられる「意匠」概念
-日本におけるデザイン思考・行為をあらわす言語概念の研究(7)
樋口 孝之
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2016 年 62 巻 6 号 p. 6_69-6_78

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抄録

 本稿では,明治20年代にみられた意匠奨励の言説における語「意匠」の論じられ方を検証し,「意匠」の意味内容について考察を行った。当時は美術と工芸が次第に区分されるようになってきた時代であり,工芸においては,工匠が高い製作技術を有しながらも,製品へ優れた意匠を適用することが少ないことが指摘されていた。そのため,工芸界の指導者あるいは識者により意匠考案の奨励がなされ,制作における,意匠のはたらきが説かれた。大村西崖は「意匠論」と題する論説を発表し,「落想」の概念とその重要性を示しながら,美術や工芸における「意匠」の意味とはたらきを論じた。前田健次郎は「日本意匠会」と称する会を発足させた。それらの言説の多くでは,手工の技能である技術と並べて,製品や絵画をかたち・色・図柄として具現化する過程における思考上の技能として意匠が肝要であると説かれた。これらの言論を通して,語「意匠」は,美術あるいは工芸における特定の行為・思考を指し示す術語としての意味内容を明確にしていった。

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© 2016 日本デザイン学会
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