抄録
本稿で筆者らは,農作業体験が個々の生徒の人間形成,とりわけ自然に対する認識の形成に及ぼす今日的影響について検討した。具体的には,都内公立中学校に在籍する中学生と,小学校から高等学校までの期間において何らかの農作業を体験したことのある大学生を対象としてアンケート調査を実施した。この結果,1) 小学生,中学生,高校生の各成長の段階において何らかの農作業を体験したことのある大学生にあっては,その約半数の者が,そうした体験が自然とりわけ植物に関する興味・関心や有益な知識・理解を自分にもたらしたという意識をもっている。一方,2) 中学生にあっては,理科の学習内容に興味をもつ生徒が必ずしも農作業体験が豊富であるとは限らない。しかし,3) 多様な農作業を体験している中学生ほど,理科の「植物のつくりや各器官のはたらき」「生物の殖え方」「自然と人間の関わり」といった学習内容には興味を持つ傾向がある,等の実態が明らかにされた。