2020 年 35 巻 3 号 p. 143-148
本稿では,数学科授業において学習者が多様な考えに触れることによってどのような変容がみられるのかについて,特に独立的な多様性に焦点をあてて明らかにすることを目的とする.そのために,中学校第一学年の一人の生徒に焦点をあて,生徒Aが作成したレポート,その内容が授業で共有される過程,期末試験における記述の分析,及びインタビュー調査を通して,生徒Aの捉えに関する事例的検討を行なった.
その結果,生徒Aにとって最も納得できる説明というものが変化する様子を捉えた.そして,バリエーション理論の視点を導入することで,生徒Aが経験したバリエーションが相互に補完し合いながら新たな見方が構築されていったことを論じるとともに,数学に関わる「言葉の立体的理解」という観点から学習者の経験を捉えることの重要性を指摘した.