学校病理などといった形で生徒の歪みが多数報告されている今日,人間関係を中心に据えた教育観に基づく新しい教育パラダイムが求められている。筆者らは,これまでの客観主義の立場とは異なる人間学的な立場からの理科教育を構想してきた。その一環として授業実践に間主観的なアプローチを導入する試みは,そうした意味から今日的な意義を持ち得ると考えられる。自然科学の影響の強い理科教育では,この観点でのアプローチはほとんどなされていないが,ここでは間主観的アプローチを生徒についての「前理解」・生徒の背景の主題化・間主観性の高めあいの3つのプロセスとして捉え,高校理科教育における力学概念形成の授業実践(理科I)の中でその機能について考察した。生徒の意味世界を確かなものとするのに適したアプローチであり,今後,様々な授業実践の中で積極的に追求されていくことが期待される。