抄録
底質と流れとの流体力学的な相互作用によって形成される侵食痕のうち,比較的規則性があるものには,隕石の表面,風成が作用する面,洞窟の壁面,重力流堆積物基底など,環境や場所,時代を問わず様々な例が古くから知られている.これらの侵食痕は,異なる環境の下で生じるが,形と配置,大きさの点で類似性を持つだけでなく,これらを形成する流れの流体力学的な作用も類似することが指摘されている.また,これらの侵食痕の形成実験では,流れの侵食作用の時間が長いほど,平坦面から,孤立した侵食痕,密集した侵食痕へと発達することが明らかになっている(Allen, 1971b).本研究では,このような侵食痕のうち,タービダイト基底に認められるフルートマークの特徴についてまとめ,同様な特徴が天然のタービダイトサクセッションで認められるかどうか検討した.その結果,対象とした日南層群のオーバーバンクおよび小チャネル充填相のタービダイトサクセッションでは,侵食痕の形状,大きさ,分布の頻度,基底面に侵食痕の占める割合の違いが認められた.これらは,それぞれのタービダイトの堆積場の違いで解釈可能である.すなわち,自然堤防決壊性タービダイトは,相対的に短期間での流れと堆積が考えられるのに対し,チャネルに近い層相では長期間の重力流の流出が想定される.長期間の侵食作用時間を受けたタービダイトの基底では,相対的に熟成されたフルートマークが分布するのに対し,ディスタルな相や自然堤防決壊性のタービダイトでは相対的に未成熟な侵食痕が分布する.日南層群のタービダイトサクセッションでは,それぞれの例の侵食痕の差異と,上位に重なるタービダイトの層相との明確な対応は認められない.しかしながら堆積物重力流の頭部で行われる侵食作用を定量化する上で,侵食痕や侵食痕群を数値化し,解析することにはタービダイトの堆積場の状況や堆積物重力流そのものの特徴をまとめる上で重要な指標となる可能性がある.