土と微生物
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微生物環境としての水稲根圏
木村 真人和田 秀徳高井 康雄
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1983 年 25 巻 p. 45-55

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抄録

植物根圏に関する研究は主に畑作物に関してなされ,水稲を対象とした研究はこれまで極めて少なく,しかもこの少数の研究においても水稲根圏の特性が十分に考慮されてこなかった。そこでまず,多くの知見が集積している畑作物の根圏に比べて水稲根圏がどのような特徴を具えているかを追求した。その結果,平板法で求めた微生物数のR/S比は,畑作物では著しく高いことが知られているにもかかわらず,湛水土壌中に生育する水稲では低いことが見出された。これは,測定した微生物が好気性ないしは通性嫌気性であって,還元状態が発達した場ではその数が減少すること,湛水土壌に生育する水稲の根圏は最高分けつ期以前の一時期酸化的であるが,その後は著しく還元的になることに主要な原因があることが明らかとなった。この考えは,嫌気性菌については湛水土壌に生育する水稲では高いR/S比を示すこと,水稲根圏は微生物の基質に富んでいることなどの実験によっても支持された。ついで,水稲根圏が還元的になる原因とそれに伴なって生じる根圏での物質代謝の変動状況を追求した。この実験によって,水稲根圏が最高分けつ期頃を境として酸化状態から還元状態に転じるのは,水稲自身の生理的特性に主として依存していることが確かめられた。また,水稲根圏が酸化状態から還元状態に転じるに伴って,根圏での代謝産物がCO_2, N_2O→N_2→H_2, Fe^<2+>→CH_4, (H_2S)と変化すること,この時期,根面に酸化鉄の沈着が急増するとともに根内に侵入していたPolymyxa graminis様の生物が根から消失することが見出された。

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