土と微生物
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植物病原糸状菌の寄生性分化 : 半身萎凋病菌の病原性系統とレース
宇佐見 俊行伊藤 瑞穂
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2015 年 69 巻 1 号 p. 30-33

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抄録

半身萎凋病菌(V. dahliae)は土壌伝染性の植物病原糸状菌で,幅広い双子葉植物に萎凋性病害をもたらす。本菌の菌株は複数種の植物に病原性を示すが,その宿主範囲は菌株ごとに様々である。また,トマトに病原性を示す系統では,真性抵抗性遺伝子Ve1を持つトマト品種に病原性を示すレース2と,示さないレース1に分化している。これらのレースは,各菌株が非病原力遺伝子VdAve1を持つか否かによって決定されている。本菌の完全世代はこれまで確認されていないが,交配型遺伝子の解析より,潜在的にはヘテロタリックな菌であると考えられる。しかし,交配型の分布が大きく偏っていることから,本菌が有性生殖を行っている可能性は低く,むしろ擬有性生殖により菌株間の遺伝的交雑が生じていると考えられる。一方,擬有性生殖を用いた病原性系統間の人為的な交雑により,トマトに対する病原性を決定する遺伝因子について情報が得られつつある。また,近年V. dahliaeによるレタスの病害が新たに発生した。さらに,レース2抵抗性のトマト台木品種を犯す新しいレースも報告されている。今後,本菌の病原性やレースが決定される遺伝的メカニズムを解明し,病害防除に役立てる必要がある。

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