土と微生物
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土の養分運搬から地球環境にまで働いている土壌微生物
犬伏 和之
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2023 年 77 巻 2 号 p. 93-100

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抄録

土壌微生物の影響は作物生産から地球環境にまで広く及ぶ。まず土壌微生物バイオマスの水田土壌生態系における窒素動態での役割を解明するため,クロロフォルム燻蒸法を改良し土壌ATP も測定し長期肥料連用と湛水の影響を調べ,土壌微生物が養分循環の要となっていることが量的質的に示された。また水田土壌中の微生物が畑土壌より,嫌気的湛水ストレスに適応し,レジリエンスが強いことも見いだされた。肥効調節型被覆肥料の水田土壌中の微生物バイオマス窒素量への影響を尿素と比較して4 種類の土壌で調べ,表層と次表層では増減が異なるものの,それぞれで湛水後の経時変化には土壌間で類似性が見られ,肥料による有意差は認められずリン脂質脂肪酸組成でも同様の傾向が見られた。CO2 濃度上昇により土壌微生物バイオマス炭素は増加したが,土壌生物バイオマス窒素では収穫期まで増加せず水稲と微生物の間で窒素競合が起こっていたことが示唆された。またCO2 濃度上昇によってCH4 放出量が増えることも見いだされた。東南アジア水田で土壌全鉄含量が高いほど,CH4 生成量が抑制され,製鋼スラグを用いて,水田からのCH4 放出が抑制され水稲収量も増加する可能性が見出された。さらに水資源の限 られた南インドにおいて節水栽培がCH4 放出を抑制しN2O発生量や水稲の生育収量には変化がないことが圃場試験で実証された。また中国の内モンゴルや中央アジア,ウズベキスタンなどで塩類土壌でのシアノバクテリアの生態や植物生育に及ぼす効果が検証された。

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