日本セキュリティ・マネジメント学会誌
Online ISSN : 2434-5504
Print ISSN : 1343-6619
研究ノート
「国民IDの原則」の素描:選択の自由を手放さないために
小泉 雄介
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2023 年 37 巻 2 号 p. 13-26

詳細
抄録
我が国では、マイナンバーカードと健康保険証の一体化により、マイナンバーカードの取得を実質的に義務化しようとする政策が推進されている。しかし、取得が任意とされていたマイナンバーカードを実質義務化することには市民や有識者等からの反対意見も多い。反対意見が多い背景には、日本政府が何らかの原理・原則に基づかずにマイナンバー政策を推し進めていることが影響しているとも考えられる。国などが発行する公的な身分証明書を本稿では「国民ID」と呼ぶ。世界各国で発行されている国民IDは、マイナンバーカードのような物理的な身分証明書(IDカード)と、公的個人認証サービスの電子証明書のような電子的な身分証明書(デジタルID)の2つに分類される。本稿は、これらの国民IDが満たすべき「国民IDの原則」について、現代社会の構成原理に基づいて、そのラフスケッチを検討する。それは「国民IDは、個人の『自由』を保障するために基礎的インフラ・サービス・セーフティネットへのアクセスを提供するものでなければならず、また、個人の『自由』を妨げるもの(個人に何かを強制したり、行動・生き方の選択の幅を狭めるもの)であってはならない」というものである。この国民IDの原則の観点からは、政府は保健医療へのアクセスルートをマイナンバーカード1つに限定するべきではなく、従来の健康保険証等の恒常的な選択肢を残すべきである。また、マイナンバーカードを取得しなくてもデジタルIDを取得・利用できる手段も設けるべきであり、例えばマイナンバーカードを介さずにスマートフォンに公的な電子証明書を発行する方法を選択肢として設けるべきである。このような制度設計は、エシックス・バイ・デザインを実践するものであり、EU各国など、近年の電子政府先進諸国における政策潮流とも整合的である。
著者関連情報
© 2023 日本セキュリティ・マネジメント学会
前の記事 次の記事
feedback
Top