我が国では,2015年9月4日に閣議決定された「サイバーセキュリティ戦略」及びその後の改訂版において「人材の確保,育成,活躍促進」が横断的施策として挙げられるとともに,2022年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」及び「国家防衛戦略」において「我が国全体としてのサイバー安全保障分野での対応能力の強化を図ることが重要」としている.そして,同日に閣議決定された「防衛力整備計画」において「2027 年度を目途に,自衛隊サイバー防衛隊等のサイバー関連部隊を約 4,000 人に拡充」としている.これらを成り立たせるためには,この分野での人材育成が極めて重要である.これは,単に政府,特に防衛省・自衛隊での人材育成施策だけでなく,サイバーセキュリティ業務に従事する要員の候補となりうる人材を教育している大学の教育機関の状況も考慮する必要があろう.
では,防衛省・自衛隊及び大学におけるサイバーセキュリティ関連教育の状況は,どのようになっているのであろうか.本稿では,防衛省・自衛隊におけるサイバーセキュリティ関連教育の施策を紹介するとともに,各国立大学のサイバーセキュリティ関連講座の開講状況を踏まえて,大学におけるサイバーセキュリティ関連教育の現状を概観して取りまとめるものである.この取りまとめは「今後のサイバーセキュリティ人材育成のあり方」検討の参考になるであろう.
取りまとめの結果として,各国立大学においては,全学生が対象の科目として「情報リテラシー」などの科目の中で情報セキュリテイ教育を実施している大学が多く,また,専門分野である工学部等での「サイバーセキュリティ」教育において実技演習まで実施している大学は少ない.更には,法学部等での関連法(国際法,国内法)や国際政策教育部などでのサイバー空間での国際紛争などを教育している大学は極めて少ないということである.政府,特に防衛省・自衛隊においては,大学におけるこれらの状況を意識した部内教育等の施策の充実が重要となるであろう.
抄録全体を表示