パーソナルデータは,本人の志向に合わせたマーケティング戦略において有用である反面,プライバシーの対象となり得る情報であるため,パーソナルデータを取り扱う組織に適切な保護が求められている.パーソナルデータの主体である本人の権利意識の高まりに伴い,誰に開示するのか,どのように取り扱うかを本人が決定することができる自己情報コントロール権が注目されている.本人が主体性をもって自己の情報の取り扱いについて意思決定するには,どの組織が,自身が提供したパーソナルデータの個人情報取扱事業者であるかが明確であることが前提となる.しかし自動車販売業務では多くの場合,製販分離の原則が採用されているため,自動車を製造する自動車製造者と,自動車を販売する自動車販売会社は,別の組織となっている.このことから,本人は,どの組織を自身が提供したパーソナルデータの個人情報取扱事業者とみなすのか,どのような取り扱いであれば妥当と考えるのかが,パーソナルデータを取り扱う個人情報取扱事業者にとって重要となる.
本研究では,本人は主体性をもち,自己の情報の取り扱いについて意思決定できる必要があるものとする.そのうえで自動車販売業務における製造者であるトヨタと,販売者であるトヨタ販売会社の関係を事例として取り上げる.製造と販売が分離されている自動車販売業務において本人は,パーソナルデータをどの組織に提供したと考えるのか,どの組織が個人情報取扱事業者であるのか,さらには利用目的に応じた組織をまたがる取り扱いの妥当感について,仮説を設定し,質問紙調査を通じて比較分析を行っている.また,トヨタとトヨタ販売会社の事例をもとにした仮説の検証結果を自動車製造者および自動車販売会社に一般化し,自動車販売業務におけるパーソナルデータの取り扱いについて提案している.
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