日本セキュリティ・マネジメント学会誌
Online ISSN : 2434-5504
Print ISSN : 1343-6619
解説
数理暗号と物理暗号を融合した量子雑音ストリーム暗号
吉田 真人中沢 正隆
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2025 年 39 巻 1 号 p. 40-47

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抄録
排他論理和を利用したストリーム暗号は,元データの暗号化・復号化の処理速度が速いことから,音声通話,ビデオ会議などのリアルタイム通信に広く利用されている.その排他論理和に使用する乱数列の生成に複雑な数学を利用することで暗号の計算量的安全性を高めている.しかしながら,最近の量子コンピュータの進展に伴い,この計算量的安全性が量子計算によって崩壊する可能性が指摘されている.この問題を回避する一つの手法として,暗号信号のS/Nを劣化させた状態で送信し,盗聴者へ受信符号誤りを与えることが有効である.この場合,盗聴者は複数回の測定を介してようやく正しい信号レベルを受信できることから,暗号の測定量的安全性を高めることができる.このような物理的にストリーム暗号の安全性を向上させる手法として,光のもつ量子雑音で信号レベルをマスキングする量子雑音ストリーム暗号が注目されている.ここで量子雑音のレベルは古典的な光通信のパワーレベルと同等であり,単一フォトンやエンタングルメント を用いているわけではないことに注意したい.本方式では,ストリーム暗号を超多値レベルの信号へ変換した状態で光雑音を付与し,この雑音に覆われる信号レベル数を増大させることで測定誤り率を高めている.盗聴者はストリーム暗号の解読を始める前に,雑音の中に埋もれた暗号のレベルを先ず正しく検出する必要がある.このように本方式は従来の数理暗号へ物理暗号を融合したハイブリッド暗号と呼べる.本稿ではこの量子雑音ストリーム暗号について,その動作原理と最近の研究成果について解説する.
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