外科と代謝・栄養
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特別講演1
SL-1 栄養から考えるこれからの集中治療
西田 修
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2019 年 53 巻 3 号 p. 47

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抄録
 集中治療領域における比較的短期の生命予後は、近年目覚ましく改善してきている。一方で、ICUに長期間入室した生存者の多くは、退院後も長期間に及ぶ、身体障害や精神障害、認知機能の低下が生じ、社会復帰が困難となっていることが明らかになり、Post intensive care syndrome(PICS)として注目されている。少子高齢化が進む中で、救命してもその多くが要介護となるような構図は社会的に見ても決して健全な状態とは言えず、集中治療の存在自体が揺るぎかねない潜在的な問題をはらんでいる。
 PICSの身体障害の主要なものは、ICU-acquired weakness(ICU-AW)と呼ばれるびまん性の筋力低下であり、重症患者の40%に発症するともいわれる。重症患者では、ICU入室後10日間に15-25%の筋肉を失っているといわれる。ICU-AWは単なる廃用萎縮ではない。主な原因は炎症であり、侵襲を早期に低減すること(侵襲制御)が、異化亢進を抑えるとともに、長期予後改善に向けた栄養管理においても最重要となる。一方で、Overfeeding によるAutophagyの抑制も筋力低下の大きな要因であると考えられている。また、不活動も筋力低下の主な要因であり、早期リハビリはICU-AWの発症率を低下させることが示唆されている。しかしながら、十分な蛋白を含む適切な栄養管理を伴わないリハビリは意味をなさない。逆に、栄養管理単独でもその効果は半減する。鎮静と鎮痛を明確に区別し、鎮痛を主体とした管理も重要である。侵襲制御を行いながら、人工呼吸管理下でも積極的に覚醒させ、栄養管理と早期からのリハビリを行うことが重要である。これらは、病態を勘案しながら滴定すべき集中治療のバンドルである。
 Critical care nutritionの目的は、異化を抑えて同化を促すことであるが、侵襲下での栄養管理は複雑であり、エビデンスが不十分な点も多い。本講演では、私なりのエビデンスの解釈とそれに基づいた我々の栄養管理を紹介するとともに、これからの集中治療のあり方と栄養管理の位置づけについてお話ししたい。
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© 2019 日本外科代謝栄養学会
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