社会心理学研究
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資料論文
異性愛者のジェンダー自尊心と同性の同性愛者に対する態度1)
鈴木 文子池上 知子
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2015 年 30 巻 3 号 p. 183-190

詳細

問題

本研究では、異性愛者の同性愛者に対する偏見に焦点をあて、その心的過程を検討することを目的とする。

Herek(2000)は、性指向を理由とした否定的態度を“sexual prejudice”と称した。その代表例である同性愛をめぐる偏見には性差が存在する。一般に、男性の方が女性よりも同性愛者に対して否定的な態度を示し(Herek, 2002)、さらに男性同性愛者(以下、ゲイ)に対する態度が最も否定的であることが示唆されている(Kite & Whitley, 1996)。このような性差が生じる原因について、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)は社会的アイデンティティ理論の枠組みを用いて検討している。社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1986)では、人は集団所属性に基づく肯定的な自己概念を形成し、自尊心を維持または高揚させるために、自分が所属する集団(内集団)と他の集団(外集団)を比較し、所属集団が他集団にはない優れた特徴をもつことを確認するよう動機づけられているとされている。したがって、外集団が内集団と類似し、両者の弁別性が曖昧になると、外集団に対して差別的態度を示すことで明確な弁別性を維持しようとする(Branscombe, Ellemers, Spears, & Doosje, 1999)。こうした観点に即して考えると、男性異性愛者がゲイに対して否定的態度を示すのは、自分たちとゲイとの差異を明確にし、男性としての自己評価を肯定的に維持するためであるといえる。そこで、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)は、「自分が男性/女性であることを誇りに思っている」など性別に基づくアイデンティティへの自己評価をジェンダー自尊心(“gender self-esteem”)と定義し、同性愛者に対する態度との関係を検討している。その結果、男性異性愛者は、ジェンダー自尊心が高いほど同性愛者に対して否定的になるが、その関係は、同性愛者と異性愛者の間には生物学的な相違(遺伝子や脳の構造上の相違)があることを架空の解説文によって示されると、緩和された。また、生物学的な相違に関する情報が与えられると、同性愛者に対する態度も好意的になった。以上の結果から、ゲイに対する否定的な態度は、男性異性愛者とゲイとの弁別性を明確にし、男性としてのジェンダー自尊心を維持するための方略であると結論づけられている。

同性愛者に対する態度における性差や性役割との関連については、日本においても検討されている。和田(1996)によると、「社会的容認度」や「ポジティブイメージ度」において、女性異性愛者は男性異性愛者よりも肯定的であることが示されている。また、同性愛者に対する否定的な態度を意味する「心理的距離感」については、男性異性愛者の方が女性異性愛者よりも得点が高く、特に男性異性愛者はゲイに対して心理的距離を感じていることが示されている。また、和田(1996)では、自分自身の男性性を高いと認識している男性異性愛者ほど、ゲイに対して否定的であることも見出されている。しかしながら、日本での同性愛者への偏見とジェンダー自尊心の関連を検討した研究はそれほど多くはない。Falomir-Pichastor & Mugny(2009)が見出した結果の頑健性と一般性をさらに検討するために、本研究では日本における男性異性愛者を対象に検討を行う。

一方、女性異性愛者については、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)では、ジェンダー自尊心と同性愛者に対する態度に明確な相関関係が認められなかったことから、生物学的情報操作を加えた検討は行われていない。しかし、Millham, San Miguel, & Kellogg(1976)は、女性はゲイよりも女性同性愛者(以下、レズビアン)に対して個人的な不安を感じやすいことを報告している。さらに、宮澤・福富(2008)は、対象となる同性愛者がゲイであれレズビアンであれ、男性よりも女性の方が社会的認知において肯定的であったのに対し、ゲイに対しては女性の方が男性よりも親しみを示し、レズビアンに対しては男性の方が女性よりも親しみを示すことを明らかにしている。加えて、上記の和田(1996)の研究では、男性異性愛者と同様に、女性異性愛者も性役割同一性が高い(自分自身の女性性を高いと認識している)者ほど、ゲイやレズビアンに対して否定的になりやすいことが見出されている。したがって、女性のレズビアンに対する態度についても、ジェンダー自尊心が影響している可能性が窺える。そこで本研究では、女性異性愛者のレズビアンに対する態度についても男性異性愛者と同様に生物学的情報を操作し検討を行う。

さらに、本研究では以下の点についても検討を行う。同性愛者との差異化を図ろうとする者は、同性愛者を自身のアイデンティティへの脅威と知覚している者であると考えられる(Talley & Bettencourt, 2008)。Falomir-Pichastor & Mugny(2009)は、同性愛者と異性愛者では生物学的な相違があると伝えられた男性異性愛者は、両者の心理面での類似性を高く知覚するようになり、態度が肯定的になったことを見出している。先述したように、その際、ジェンダー自尊心と否定的態度の関係が緩和したことから、生物学的事実として同性愛者と異性愛者の弁別性が客観的に確保されると、ジェンダー自尊心への脅威が低減し(それに伴い心理的類似性の知覚が上昇する)、ジェンダー自尊心を維持するために否定的態度を取る必要性が低下するのではないかと述べている。そこで、本研究では、同性愛者との心理的類似性を低く知覚する者ほど、同性愛者を脅威とみなし同性愛者との心理的側面での差異化を図ろうとしている者ととらえることとする。また、そうした差異化を図ろうとしている者ほど、同性愛者と異性愛者の弁別性に関する情報に対して敏感に反応することも予測できる。したがって、本研究では、同性愛者との心理的類似性の知覚の程度を、調整変数として用いることで、生物学的情報がどのような場合により明確に作用するのかについて明らかにすることとした。具体的には、同性愛者との心理面での類似性を低く知覚している者ほど、ジェンダー自尊心と同性愛者に対する態度の関係が生物学的相違に関する情報によって変化しやすいという予測を検討する。

本研究の仮説

男女ともに異性愛者は自分と同性の同性愛者に対して否定的態度を示すことで集団間の弁別性を明確にし、ジェンダー自尊心を維持するという仮説に基づき予測を立てた。

方法

実験参加者と手続き

日本の大学生411名(男性213名、女性196名、不明2名)を対象に質問紙実験を実施した。実験参加の依頼にあたっては、同性愛者に対する態度を調べることを目的としていること、回答は自由意志によることなどを質問紙の表紙に明記し、口頭でも説明を行った。

質問紙の構成

1. 性別

まず、性別について「男性・女性・その他」から選択してもらった。性別の質問項目において、「その他」と回答した者や無回答の者には、続くジェンダー自尊心に関する回答は求めず、次頁の同性愛者との類似性知覚の質問項目へ進むように指示した。

2. ジェンダー自尊心

Falomir-Pichastor & Mugny(2009)の用いた3項目を和訳し使用した(e.g., 「自分が男性/女性であることに満足している」)。回答者の性別に応じて該当する項目に7件法(「1.全くそう思わない~7.非常にそう思う」)により回答を求めた。

3. 同性愛者との類似性知覚(差異化の程度)

Falomir-Pichastor & Mugny(2009)を参考に、「喜びや悲しみといった感情」など心理的な類似性に関わる6項目について、回答者とゲイ/レズビアン一般の間でどれくらい違っていると思うか7件法(「1.非常に違っている~7.全く違わない」)により回答を求めた。

4. 実験操作文の提示

教示文で「同性愛者と異性愛者の生物学的根拠について、あなたの考えをお聞きします。以下に記しているこれまでの研究の結果を読んだ上で、あなたの考えをお教えください。」と説明した。そのうえで、相違あり条件では、同性愛者と異性愛者では脳の活性化の様子や遺伝子の構造が異なっているといった内容の架空の解説文を、相違なし条件では、同性愛者と異性愛者は脳の活性化の様子や遺伝子の構造は全く同じであるといった内容の架空の解説文を提示した。各条件の回答者は、解説文を読んだ後に操作確認のため同性愛者と異性愛者の生物学的相違に関する3つの質問項目(e.g., 「同性愛者と異性愛者は、生物学的に異なっている」)に7件法(「1.全くそう思わない~7.非常にそう思う」)で回答した。統制条件では解説文は提示せず、回答者は生物学的相違に関する質問にのみ回答した。解説文や質問項目は、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)を参考に作成した。

5. 同性愛者に対する態度

Falomir-Pichastor & Mugny(2009)は、同性愛者に対する態度の指標として、独自に作成した25項目により1次元尺度を構成し使用している。本研究では多次元的なアプローチを取ることとし、宮澤・福富(2008)の「社会的認知因子」「心理的距離因子」から14項目を選択、Millham et al.(1976)の「個人的不安」「道徳的非難」「抑圧的危険意識」から12項目を選択し邦訳した。これら26項目を使用し、ゲイに対する態度、レズビアンに対する態度を測定した。回答は「1.全くそう思わない~7.非常にそう思う」の7件法を用いた。

6. 個人属性

最終頁において、年齢、性指向について回答を求めた2)。性指向の回答は、「異性愛・その他(同性愛、両性愛など)・分からない」から選択してもらった。

ディブリーフィング

最後に実験の真の目的を説明し、架空の解説記事が含まれていたこと、さらに同性愛者に関する様々な記述により不快な思いをさせた可能性について謝罪した。

結果

(1)男性異性愛者のゲイに対する態度

分析対象

性別を「男性」、性指向を「異性愛」と回答した男性異性愛者184名(統制条件72名・相違あり条件58名・相違なし条件54名)を分析対象とした。平均年齢18.63歳(SD=0.77)。

尺度構成

ジェンダー自尊心

得点が高いほどジェンダー自尊心が高いことを示すように、使用した3項目の合計点を項目数で除した値を尺度得点とした(α=.88, M=4.86, SD=1.34)。

ゲイとの類似性知覚(差異化)

ゲイとの心理的な類似性について尋ねた6項目により、合計点を項目数で除した値を尺度得点とした(α=.87, M=4.58, SD=1.48)。得点が低いほどゲイとの非類似性(差異)を強調する傾向が強いことを示す。

ゲイに対する態度

ゲイに対する態度を測定した26項目について、因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った。固有値1以上を基準とし、スクリープロットの形状と解釈可能性を勘案し4因子を抽出した。因子負荷量がどの因子においても.40以下である項目や、二つ以上の因子に高い因子負荷量を示す項目を除外し分析を繰り返した結果、最終的に「心理的距離(7項目、α=.91)」「道徳的非難(6項目、α=.89)」「嫌悪感情(5項目、α=.81)」「社会的容認(5項目、α=.82)」と命名しうる4因子を得た。各因子それぞれについて、項目合計点を求め項目数で除した値を尺度得点とした。

操作チェック

解説記事が同性愛者と異性愛者の生物学的相違の認識に影響を与えたか確認するため、操作確認に用いた3項目の合計点を項目数で除した値を尺度得点とし(α=.74)、実験条件間で比較した。なお、得点が高いほど両者の生物学的相違を強く認識していることを示す。一要因の分散分析の結果、実験条件の主効果が有意であった(F(2, 181)=12.15, p<.001)。テューキーのHSD検定による多重比較を行ったところ、相違あり条件(M=3.68, SD=1.34)は、統制条件(M=2.70, SD=1.21)と相違なし条件(M=2.66, SD=1.26)のいずれと比較しても得点が有意に高く(ps<.001)、生物学的に相違があると認識されやすくなることが示された3)。相違なし条件と統制条件の間には有意差は認められなかった。

階層的重回帰分析

予測の検証を行うため、ゲイに対する態度の4つの下位尺度得点を従属変数、ジェンダー自尊心(多重共線性を回避するため平均値により中心化を行った)、実験条件間の比較に関する2つのコントラスト変数、ゲイとの類似性知覚得点(平均値により中心化)をstep 1、それぞれの変数間の2要因交互作用項をstep 2、3要因交互作用項をstep 3で投入する階層的重回帰分析を行った。2つのコントラスト変数については、相違あり条件と相違なし条件および統制条件との対比(C1:相違あり条件=2、相違なし条件=-1、統制条件=-1)、相違なし条件と統制条件との対比(C2:相違あり条件=0、相違なし条件=1、統制条件=-1)とした。R2の増分が有意であったstepで投入されていた独立変数の標準偏回帰係数(β)をTable 1に示した。

Table 1 ゲイに対する態度における階層的重回帰分析結果
心理的距離β道徳的非難β嫌悪感情β社会的容認β
ジェンダー自尊心.11†.09.21**.06
相違ありvs.相違なし・統制(C1).07.03-.02.02
相違なしvs.統制(C2)-.09.04-.10.09
類似性知覚-.48***-.45***-.33***.39***
ジェンダー自尊心×C1-.21**.02
ジェンダー自尊心×C2.15*-.09
ジェンダー自尊心×類似性知覚.03-.06
類似性知覚×C1-.03.03
類似性知覚×C2.02.12†
ジェンダー自尊心×C1×類似性知覚-.20**
ジェンダー自尊心×C2×類似性知覚-.01
調整済みR2.24***.25***.15***.17***
R2(step 1→step 2).02.07**.04.03
R2(step 2→step 3).01.02.01.04*

注)***p<.001, **p<.01, *p<.05, †p<.10

予測1について

ジェンダー自尊心の主効果が「嫌悪感情」で有意であり(β=.21, p<.01)、ジェンダー自尊心が高くなるほど、ゲイに対して「嫌悪感情」が強まることが示された4)

予測2について

「道徳的非難」において、予測2に関わるジェンダー自尊心×C1、およびジェンダー自尊心×C2の2要因交互作用が有意であったため、ダミー変数を用いて各条件におけるジェンダー自尊心の単純主効果について検討した(Figure 1)。

Figure 1に示されるように、相違なし条件においてジェンダー自尊心が高くなるほど道徳的非難が有意に強まるという関係が認められ(β=.24, p<.001)、統制条件ではそのような関係は認められなかった(β=.03, n.s.)。相違あり条件では、有意傾向ではあるが、ジェンダー自尊心が高いほど道徳的非難が低下するといった関係がみられた(β=-.12, p<.10)。統制条件と相違なし条件にみられた結果の全体的パターンはおおむね予測2に沿うものである。

Figure 1 ゲイに対する道徳的非難における各条件のジェンダー自尊心の主効果

予測3について

「社会的容認」において、予測3に関わるジェンダー自尊心×C1×類似性知覚の3要因交互作用が有意であった。そこで、ゲイとの類似性知覚の高い場合(+1SD)と低い場合(-1SD)ごとに下位検定を行った。その結果、ゲイとの類似性知覚が低い場合(-1SD)においてのみ、ジェンダー自尊心×C1の2要因交互作用が有意であった(β=.23, p<.05)。さらに下位検定を行ったところ、相違あり条件ではジェンダー自尊心が高いほど社会的容認態度が強まった(β=.25, p<.01)のに対して、相違なし条件(β=-.08, n.s.)および統制条件(β=.03, n.s.)ではジェンダー自尊心の効果は有意ではなかった。

(2)女性異性愛者のレズビアンに対する態度

分析対象

性別を「女性」、性指向を「異性愛」と回答した女性異性愛者157名(統制条件48名・相違あり条件58名・相違なし条件51名)を分析対象とした。平均年齢18.67歳(SD=0.73)。

尺度構成

ジェンダー自尊心

使用した3項目の合計点を項目数で除した値を尺度得点とした(α=.85, M=4.72, SD=1.15)。

レズビアンとの類似性知覚(差異化)

レズビアンとの心理的な側面における類似性についての6項目の合計点を項目数で除した値を尺度得点とした(α=.86, M=5.06, SD=1.22)。得点が低いほどレズビアンとの非類似性(差異)を強調する傾向が強いことを示す。

レズビアンに対する態度

レズビアンに対する態度の測定に使用した26項目について因子分析を行い、「心理的距離(5項目、α=.93)」「道徳的非難(8項目、α=.91)」「嫌悪感情(6項目、α=.85)」「社会的容認(4項目、α=.86)」の4因子を得た。

操作チェック

操作確認に用いた3項目の合計点を項目数で除した値を求め(α=.86)、実験条件間で得点を比較した結果、実験条件の主効果が有意であった(F(2, 153)=36.13, p<.001)。相違あり条件(M=3.92, SD=1.33)は、統制条件(M=2.38, SD=1.03)と相違なし条件(M=2.30, SD=0.92)のいずれと比較しても得点が有意に高かった(ps<.001)3)。相違なし条件と統制条件との間に有意差は認められなかった。

階層的重回帰分析

予測の検証を行うため、男性異性愛者と同様に階層的重回帰分析を行った(Table 2)。なお、「心理的距離」と「道徳的非難」については、R2の変化量の有意確率が10%水準に止まった2要因ないし3要因の交互作用を含むモデルをあえて採用した。モデル自体の説明率が有意であることや、さらに交互作用についても有意なものが認められたため、男性異性愛者と女性異性愛者の心的過程の差異について参考となる情報が得られると考えたからである。ただし、結果の解釈は慎重に行った。

Table 2 レズビアンに対する態度における階層的重回帰分析結果
心理的距離β道徳的非難β嫌悪感情β社会的容認β
ジェンダー自尊心.00-.19*-.04.18*
相違ありvs.相違なし・統制(C1).02.04-.03.15†
相違なしvs.統制(C2).07.11.03-.03
類似性知覚-.54***-.49***-.38***.32***
ジェンダー自尊心×C1.05-.07
ジェンダー自尊心×C2.16*.14†
ジェンダー自尊心×類似性知覚-.01-.00
類似性知覚×C1.10.12
類似性知覚×C2.01-.12†
ジェンダー自尊心×C1×類似性知覚-.08
ジェンダー自尊心×C2×類似性知覚-.14*
調整済みR2.30***.25***.12***.12***
R2(step 1→step 2).03.05†.05.03
R2(step 2→step 3).03†.00.01.00

注)***p<.001, *p<.05, †p<.10

予測1について

「道徳的非難」と「社会的容認」において、予測とは逆に、ジェンダー自尊心が高くなるほど、レズビアンに対する「道徳的非難」が緩和され(β=-.19, p<.05)、「社会的容認」の程度が高まる(β=.18, p<.05)という関係が見出された。

予測2について

「心理的距離」において有意であったジェンダー自尊心×C2の交互作用の下位検定を行ったところ、統制条件ではジェンダー自尊心が高いほど心理的距離が縮小(β=-.14, p<.05)し、相違なし条件ではその関係が認められず(β=.10, n.s.)、予測とはかなり異なる結果が見出された。

予測3について

「心理的距離」において、ジェンダー自尊心×C2×類似性知覚の3要因交互作用が有意であったため、レズビアンとの類似性知覚が高い場合(+1SD)と低い場合(-1SD)ごとに下位検定を行った。その結果、上述のジェンダー自尊心×C2の効果は、類似性知覚が低い場合(-1SD)においてのみ有意であり(β=.30, p<.01)、統制条件では、ジェンダー自尊心が高いほどレズビアンにする心理的距離が縮小しているのに対し(β=-.25, p<.01)、相違なし条件ではそのような関係は認められなかった(β=.17, n.s.)。

考察

男性異性愛者のジェンダー自尊心とゲイに対する態度

Falomir-Pichastor & Mugny(2009)では、統制条件においてみられた、ジェンダー自尊心が高くなるほど同性愛者への偏見が強まるという関係が、同性愛者と異性愛者の間には生物学的な相違があるという情報が与えられると消失するという結果が得られている。本研究の場合、ゲイに対する道徳的非難において、統制条件では男性異性愛者のジェンダー自尊心との間に有意な関係は認められず、同性愛者と異性愛者は生物学的に同じであることが明示されると、ジェンダー自尊心が高いほど道徳的非難が強まるという関係が現れた(Figure 1参照)。この結果は、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)の結果とは厳密には対応していないが、同性愛者と異性愛者の集団間の弁別性が非常に曖昧になったときに、否定的な態度を示すことでゲイとの差異化を図りジェンダー自尊心を維持する過程が働くことが示唆された点で、矛盾するものではない。したがって、ジェンダー自尊心維持のための方略として、ゲイに対し否定的態度を示すという心理機制は、日本の男性異性愛者にもある程度存在すると考えられる。ただ、統制条件においてジェンダー自尊心とゲイに対する偏見との間に明確な関係が見られなかったのは、欧米と比べ日本では、男性としての自尊心を維持するうえで性指向が異性愛である(ゲイではない)ことの重要性が相対的に低いからかもしれない。

さらに、ゲイに対する社会的容認においても、ゲイとの心理的類似性を低く知覚し差異を強調している場合において、生物学的相違が明示されるとジェンダー自尊心が高いほど容認的な態度を示した。これは、ゲイが自分たちとは本質的に異なる集団であることが明確に保障されれば、男性としての自尊心はゲイに対する寛容な態度を促進しうることを意味しているとも考えられる。このような関係はFalomir-Pichastor & Mugny(2009)では認められていないが、先述したように、日本では欧米と比べ、男性の自尊心において性指向が異性愛であることの重要性が相対的に低く、弁別性が確保されていれば、むしろ男性として自信がある者ほどゲイに対して擁護的になるのかもしれない。あるいは、日本においては、同性愛者に対して偏見を示すことはよくないといった規範意識が、偏見表出への抑制として強く働いている可能性も考えられる。

本研究の結果は、男性異性愛者のゲイに対する態度に関する仮説と基本的方向性において矛盾するものではない。しかし、Falomir-Pichastor & Mugny(2009)とは異なるパターンがいくつか見出されており、その要因の一つに文化的背景の違いが可能性としてあげられる。加えて、Falomir-Pichastor & Mugny(2009, study 5)では、対象者の平均年齢が25.16歳、そのうち大学生は49.4%であったのに対し、本研究の対象者は全て大学生であった(平均年齢は18.63歳)。よって、年齢や属性による相違の可能性も含めて今後検討する必要がある。

女性異性愛者のジェンダー自尊心とレズビアンに対する態度

女性異性愛者は、男性異性愛者と異なり、ジェンダー自尊心が高い者ほどレズビアンに対して好意的な態度(道徳的非難の低減や社会的容認が促進)を示した(Table 2参照)。ジェンダーに関する多くの研究では、女性性の中核となるものは共同性とされており、その共同性の中には、思いやりをもって人と接することなどが含まれる(土肥・廣川,2004)。また、女性性が高いほど他者に対する共感性が高いことが示されている(Karniol, Gabay, Ochion, & Harari, 1998)。これらの知見から、上記の結果について2つの可能性が考えられる。まず、女性異性愛者は、レズビアンに好意的態度を示すことによってジェンダー自尊心を維持している可能性である。もしくは、もともとジェンダー自尊心が高く共感性が高い女性異性愛者が、レズビアンに対して好意的態度を示していたのかもしれない。本研究では因果関係を同定することはできないが、少なくとも本研究の対象となった女性異性愛者は、レズビアンを共同性や共感性を示す対象ととらえていた可能性が考えられる。

さらに、心理的距離については、統制条件においてはジェンダー自尊心が高いほどレズビアンに対する心理的距離が縮小する関係が見られたのに対し、同性愛者と異性愛者は生物学的には同じであると明示される相違なし条件では、その関係が消失する傾向が示された。この理由は、女性異性愛者においては、生物学的相違に関する情報が、集団間の弁別性を確認する手がかりではなく、同性愛の原因に関する手がかりとして作用するからではないかと推察される。帰属理論によると、本人の意志によって統制が困難なスティグマをもつ集団よりも、本人の意志により統制可能なスティグマをもつ集団に対してより否定的になると考えられるからである(Weiner, Perry, & Magnusson, 1988)。同性愛者についても、「同性愛生得説」を信じている者ほど同性愛に寛大であることが報告されている(Haider-Markel & Joslyn, 2008)。つまり、女性異性愛者にとって、同性愛に生物学的基盤があるという情報は、同性愛が生得的なもので本人による統制が困難であるという認識をもたらし、同情や支援の対象とみなす傾向を強めるのではないかと考えられる。他方、同性愛者は異性愛者と生物学的に相違はないという情報は、同性愛が非生得的で統制可能であるという認識をもたらし同情や支援意図を低下させたのかもしれない。ジェンダー自尊心とレズビアンに対する好意的態度との関係が消失する傾向が見られたのは、そのためではないだろうか。女性異性愛者についての交互作用に関する結果は統計的有意性が弱く、あくまで参考程度にとどまるが、これまで明確にされていなかった女性異性愛者の心的過程の特徴を示唆している可能性があり、検討の余地があろう。

本研究の課題と限界点

本研究において、男性異性愛者と女性異性愛者を対象に同様の検討を行ったことで、大きく4つの課題および限界点が見出された。

まず一つ目に、異性愛者の同性愛者に対する類似性知覚の程度による生物学的相違に関する情報への反応の結果から、生物学的情報の機能についても性差が存在する可能性が考えられる。男性異性愛者においては、ゲイとの類似性を低く知覚している場合に、仮説と矛盾しない結果がみられたことからも、ゲイとの差異化の動機づけが高い場合、同性愛者と異性愛者の弁別性の手がかりに敏感に反応したのではないかと考えられる。女性異性愛者においても、レズビアンとの類似性を低く知覚している場合に、生物学的情報に対する反応が顕著である傾向が見出された。しかし、ジェンダー自尊心とレズビアンに対する態度の関係が仮説とは全く異なる傾向が示されたことから、生物学的情報が同性愛者と異性愛者の弁別性を高めるように機能していたと結論づけるのは難しい。本研究の結果は、レズビアンとの類似性を低く知覚し差異化がなされていた女性異性愛者において、レズビアンが同情や支援の対象としてふさわしいか否かに関する情報に敏感に反応した結果ではないかと考える。同性愛の生物学的基盤に関する情報は、ゲイをジェンダー自尊心への脅威とみなす男性異性愛者では弁別性と結びつきやすく、他方レズビアンを社会的マイノリティ集団として知覚する女性異性愛者は、同性愛の原因帰属と結びつきやすいのかもしれない。今後、女性異性愛者のレズビアンに対する態度については、ジェンダー自尊心維持よりも帰属理論による説明の可能性について検討していく必要がある。

二つ目に、男性異性愛者、女性異性愛者ともに、同性愛者との類似性の知覚が最も態度への影響が強かった点である(Tables 1, 2参照)。この結果は、心理面において同性愛者との差異化を強調する者は、同性愛者を自身のアイデンティティへの脅威ととらえ、否定的態度を示すことの裏づけといえるかもしれない。しかし、ジェンダー自尊心と同性愛者との類似性知覚の相関係数を算出したところ、男性異性愛者(r=-.22, n.s.)、女性異性愛者(r=-.11, n.s.)とも、いずれも有意な相関関係は認められなかった。これは、男性異性愛者は自身のアイデンティティを維持するために同性愛者との差異化を図ろうとする、また女性異性愛者はレズビアンを支援や同情の対象である外集団ととらえジェンダー自尊心が高いほど肯定的態度を示すといった主張と乖離しており、類似性の知覚自体がジェンダー自尊心と独立に同性愛者への態度を規定している可能性を示唆している。類似性の知覚自体がどのような指標であるのかも含め、今後慎重に検討する必要があろう。

三つ目に、方法論上の限界点である。本研究の仮説を厳密に検証するには、実験操作によりジェンダー自尊心への脅威を与えた後、同性愛者に対して否定的態度を示すことで、低下したジェンダー自尊心が回復することを確認する必要がある。しかし本研究の手続きではそうした検討が行えない。本研究の解釈をより裏づけるためにも、今後、脅威操作の前後にジェンダー自尊心を測定し、同性愛者に対する態度との関連を検討する必要がある。

四つ目に、本研究では同性愛者に対する態度を多次元的にとらえたが、各次元はジェンダー自尊心をはじめ他のさまざまな要因の影響を同じように受けるわけではないことが明らかになった。例えば、心理的距離、道徳的非難、社会的容認は、生物学的情報の影響を何らかの形で受けているが、嫌悪感情はそれらの影響を全く受けていない。その理由は、本研究からは直ちに明らかにはできないが、認知的経験的自己理論(Epstein & Pacini, 1999)による説明が考えられる。この理論によると、経験的システムは自動的で非合理的な感情に基づく処理を行うのに対し、合理的システムは分析的で論理的な思考による処理を行う。道徳的非難や社会的容認は、合理的システムを反映し論理的に判断をしようとしたために、生物学的情報の影響を受けやすくなり、嫌悪感情は、経験に基づく感情が優先され外部からの情報を利用しなかったのかもしれない。

本研究の意義

最後に、本研究の意義として、同性愛者に対する態度に見られる性差は、男性異性愛者は女性異性愛者に比べて、同性の同性愛者に対して否定的態度を示すことがジェンダー自尊心維持の方略となるからだというFalomir-Pichastor & Mugny(2009)の主張を、より実証的に明らかにした点が挙げられる。加えて、女性異性愛者はジェンダー自尊心が高いほどレズビアンを擁護する可能性が示されたことは、特筆に値すると言えよう。

セクシュアリティの多様性が広く認識されつつあることは社会にとって望ましい。しかし、性指向の異なる集団を内集団であると知覚することは、偏見を促進する可能性を本研究は示唆している。したがって、セクシュアリティについては、多様な集団に対して内集団との弁別性を維持しながら、互いに認め合うことが望ましいと考えられる。

References
 
© 2015 日本社会心理学会
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