社会心理学研究
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資料論文
内集団ひいきと評価不安傾向との関連:評判維持仮説に基づく相関研究
三船 恒裕 山岸 俊男
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2015 年 31 巻 2 号 p. 128-134

詳細

問題

人々は自分の所属する集団(内集団)に対して、自分が所属しない集団(外集団)よりも好意的・協力的に行動する傾向を持つ。この内集団ひいき現象は様々な種類の集団間で観察されるのみならず(e.g., Sumner, 1906)、実験室内でのみ存在する名目的な集団、すなわち最小条件集団(Tajfel, Billig, Bundy, & Flament, 1971)においても生じることが多くの研究で確認されている(e.g., Brewer, 1979)。近年、この最小条件集団における内集団ひいきは、適応論的視点からの集団協力ヒューリスティック仮説(e.g., 神・山岸,1997; Yamagishi, Jin, & Kiyonari, 1999)や評判維持仮説(Mifune, Hashimoto, & Yamagishi, 2010; Yamagishi & Mifune, 2008)によって説明されている。本研究の目的は評判維持仮説に基づき、評判を気にする心理傾向と内集団ひいき行動との関係を検証することにある。

社会的アイデンティティ理論

最小条件集団における内集団ひいきの原因を初めて説明したのは社会的アイデンティティ理論である(e.g., Tajfel & Turner, 1979)。社会的アイデンティティ理論において、人々は個々人の特性によって規定される個人的アイデンティティと、自身が所属する集団の特性によって規定される社会的アイデンティティないし内集団アイデンティティの二つのアイデンティティを有すると仮定される。人々は自尊心の維持・高揚に動機づけられており、社会的アイデンティティの側面における自尊心の維持・高揚は自己が同一化している内集団を、外集団と比較して相対的にポジティブに差をつけることで達成される。最小条件集団の状況では、個人は他者を所属集団でのみ弁別できるため個人的アイデンティティではなく、社会的アイデンティティに基づいて意思決定を行う。よって、内集団成員に対して外集団成員に対するよりも多く報酬を分配するなどの内集団ひいきが生じると説明される。

集団協力ヒューリスティック仮説

山岸らの研究グループは社会的アイデンティティ理論とは異なり、適応論(長谷川・長谷川,2000)に基づいた集団協力ヒューリスティック仮説を提唱している(神・山岸,1997; Yamagishi et al., 1999)。集団協力ヒューリスティック仮説では、集団内に存在する一般交換システムへの適応行動として内集団ひいき行動が説明される。一対一で直接資源を交換する直接交換と異なり、一般交換システムとは、資源の提供者と返報者が異なる間接的な資源交換が集団内に存在している状態を指す(Ekeh, 1974)。集団協力ヒューリスティック仮説では、集団とはこうした一般交換システムが存在する場だという信念を人々が保持していると仮定する。一般交換システムが集団内に存在している状況では、内集団成員に資源を渡している人間は、内集団成員の誰かから資源を渡される。つまり、一般交換システム内部では、他者に対する利他行動は自身がシステム内の成員から利他行動を受けるための条件となる。そのため、「1)集団内では互いに協力し合うことが自己に利益をもたらすと認知し、2)他の個人も集団内で協力し合うことを望んでいると期待する」(神・山岸,1997, p. 192)。これまでの囚人ジレンマ研究では、相互協力をめざす人間は、相手が協力してくれるだろうと期待できる場合にのみ協力行動をとることがよく知られており(Pruitt & Kimmel, 1977; Yamagishi, 1986)、したがって、自分に対して協力してくれると期待する内集団成員に対して、そうした期待の持てない外集団成員に対するより協力的に行動する。

この予測を検証するため、神・山岸(1997)は囚人のジレンマゲームを用い、相手が持つ所属集団に関する知識を操作した実験を行った。彼らの実験では、相手が内集団に属しているか外集団に属しているかと、その相手が参加者のことを内集団あるいは外集団だと知っているのか、それとも知らないのかが独立に操作された。集団協力ヒューリスティック仮説に基づけば、相手が参加者の所属集団を知っている知識共有条件では、内集団を相手にした参加者は相手が内集団である自分に対して協力するだろうと期待できるため、内集団に対する協力行動が増加すると予測される。一方、参加者は相手の所属集団を知っているが相手は参加者の所属集団を知らない知識非共有条件では、相手が(内集団だとは思っていない)自分に対して特に協力してくれるだろうと期待できない。そのため、内集団成員に対する協力度と外集団成員に対する協力度に差が生じないと予測される。結果は予測を支持し、知識共有条件では外集団相手よりも内集団相手のときに協力が高まったが、知識非共有条件では内集団相手と外集団相手とで協力率に差が見られなかった。

その後、Yamagishi & Kiyonari (2000)は、同時決定囚人のジレンマと順序付き囚人のジレンマでの先決めプレイヤーの行動とを比較することで集団協力ヒューリスティック仮説を検証した。この研究では、同時決定の囚人のジレンマでは内集団への協力度が外集団への協力度を超えるが、順序付きの囚人のジレンマでは内集団相手と外集団相手の協力度に差が見られないことが報告されている。この結果に対し彼らは、相手からの直接のお返しが期待できる一対一の直接交換では、直接互恵性の期待が強く働くため、間接互恵性に基づく期待がない外集団成員が相手の場合にも返報の期待が生まれ、知識共有条件においても協力行動に集団差が見られないと解釈し、集団協力ヒューリスティック仮説を支持するものだと主張した。

評判維持仮説

一方、集団協力ヒューリスティック仮説では説明できない現象がSimpson (2006)によって報告されている。彼は順序付きの囚人のジレンマゲームを用いて、最初に意思決定を行う先決めプレイヤーでは(Yamagishi & Kiyonari, 2000の結果と同様)内集団ひいきが生じないが、相手が意思決定をした後に自分の手を決める後決めプレイヤーでは(少なくとも先決めプレイヤーが協力行動をとっている場合には)内集団ひいきが生じることを示した。集団協力ヒューリスティック仮説では、順序付きの囚人のジレンマゲームでは直接的な返報の期待が強く働くために、先決めプレイヤーでも後決めプレイヤーでも内集団への協力度が外集団への協力度を超えないとしている(Yamagishi & Kiyonari, 2000)。したがって、Simpson (2006)の結果は集団協力ヒューリスティック仮説に対する反証となるはずである。

この結果を受けて、Yamagishi & Mifune (2008)は集団協力ヒューリスティック仮説の改訂版として、新しく評判維持仮説を提唱した。評判維持仮説では、一般交換を可能とする情報としての評判(Nowak & Sigmund, 1998)の働きを重要視する。一般交換システムにおいて利他的な資源分配が適応的となるのは、誰が資源分配を行う利他主義者で、誰が資源分配をしない利己主義者なのかを弁別し、その評判情報に基づいて利他主義者には資源を分配するという戦略を集団成員が採用する場合である(Nowak & Sigmund, 1998)。この場合、自身が他者に対して資源を提供する人間であるという評判を得ないかぎり他者から資源を分配されないため、そうした評判獲得のための他者への利他的な資源分配が適応的となる。

評判維持仮説は集団協力ヒューリスティック仮説と同様、内集団ひいきの原因を、集団内での交換関係における協力行動の適応性に求めている。ただし、集団協力ヒューリスティック仮説では、内集団の成員は自分に対して協力してくれるだろうという期待が内集団成員に対する協力行動を高めるとしていたが、評判維持仮説では、集団内での交換関係における協力行動の適応性を担保する評判の重要性に着目する(三船,2011)。そうした交換関係において適応的な行動とは、自身が悪い評判を獲得し集団内の交換関係から排除されないように振る舞うことである。集団内に存在する交換関係からの排除可能性を下げるため、内集団の成員に対しては自分の評判を上げる(下げない)ように協力的に振る舞い、したがって内集団ひいき行動が生じるというのが、評判維持仮説である。

この評判維持仮説からは、順序付き囚人のジレンマの先決めプレイヤーは内集団ひいきを示さず、後決めプレイヤーが内集団ひいきを示す理由が説明可能である。それは、非協力行動に対するネガティブな評価の強さが、先決めプレイヤーの場合と後決めプレイヤーの場合とで異なっているためである。先決めプレイヤーが非協力をとる理由は、利己的な動機に加え、自分が協力しても相手が協力してくれないのではないかという不安がある。これに対して、相手がすでに協力を選択したことがわかっている後決めプレイヤーの場合にはこの不安は存在せず、したがって非協力の動機は利己的な動機に限られることになる。このため、非協力行動に対するネガティブな評価は先決めプレイヤーの場合にはそれほど強くないが、後決めプレイヤーの場合には強くなると予測される。

堀田・山岸(2010)は、シナリオを用いた先決めプレイヤーと後決めプレイヤーの非協力行動に対する評価を実験参加者に尋ね、ネガティブな評価に予測通りの差が見られることを示している。その上で、彼らは後決めプレイヤーの場合に、内集団である自分が非協力をしたことが相手に伝わる知識共有条件では内集団ひいきが生じ、自分が内集団であることが伝わらない非共有条件では内集団ひいきが生じないことを示した。同様に、Yamagishi & Mifune (2008)では独裁者ゲームにおいても、知識共有条件では内集団ひいきが生じるが、知識非共有条件では内集団ひいきが生じないことを示している。さらにMifune et al. (2010)は、知識非共有条件のみを用い、参加者が直面するコンピュータ画面に抽象的な目の絵が表示されるか否かを操作し、独裁者ゲームでの内集団相手と外集団相手への分配額を比較した。彼らは、目の絵が参加者に評判を気にする傾向を引き出すと考え、目の絵がある場合には知識非共有条件でも内集団ひいきが生じると予測した。実験の結果は明確にこの予測を支持した。

本研究の目的

本研究の目的は、評判維持仮説に基づき、内集団ひいき行動と評判を気にする心理傾向との関連を検討することにある。評判維持仮説に基づきMifune et al. (2010)は、抽象的な目の絵によって内集団ひいき行動を引き出した。この実験においては目の絵をコンピュータ画面の壁紙として用いているだけで、インストラクション等において絵に対する言及はなされていない。したがって、Mifune et al. (2010)の参加者が示した内集団ひいき行動は、参加者が意識的に評判を気にしたから生まれたのではないと考えられる。つまり、評判維持仮説で想定しているのは、人々が自分の行動の評判を常に意識的に評価しながら行動しているということではなく、人々はまわりの(つまり内集団からの)監視と評価の可能性に対して敏感に反応するように動機づけられているということである。しかし、この評判に対する敏感さが内集団ひいきと結びついていることを積極的に検証した研究はこれまでに存在していない。そこで本研究は、評判に関する敏感性と関連する心理特性を測定することで、評判への敏感さと内集団ひいきとの関連を示す新たな知見を示すことを目的とする。

本研究で他者の目を気にする心理特性として注目したのはFear of Negative Evaluation (Watson & Friend, 1969; 以下、FNEと略記する)である。FNEとは、対人場面での主観的不安感であり、特に他者からの否定的な評価に対する不安を反映している(Leary, 1983)。また、FNEが高いほど人々は様々な場面で自身が他者に受け入れられるように振る舞おうとする(Schlenker & Leary, 1982)。評判維持仮説では他者からの監視と評価の可能性がある状況において、自己に悪い評判がつくことを避けるために内集団ひいき行動を行うと考えられている。したがって、FNE得点の高い人ほど他者からの否定的評価を避けようとし、内集団ひいき行動を行うだろう。ただし、このFNE得点と内集団ひいき行動の正の相関関係は、自身が「内集団が内集団に対して利己的に行動した」という情報が伝わる知識共有条件のみにおいて見られ、自らの評価を気にする必要がない状況である知識非共有条件ではFNEと内集団ひいき行動との関連は見られないと考えられる。よって、以下の仮説が導かれる。

本研究の仮説

FNE得点の高さは、評判が重要な知識共有条件では内集団ひいき行動の程度と正相関を示すが、評判が重要な役割を果たさない知識非共有条件では、内集団ひいき行動の程度とは相関を示さない。

本研究の第2の目的

上述のとおり、本研究の主たる目的は、評判維持仮説の妥当性を内集団ひいき行動とFNEとの関連性から検証することにある。この目的と同時に、本研究は評判維持仮説の外的妥当性を検証することを第2の目的とする。

これまで、集団協力ヒューリスティック仮説ないし評判維持仮説は主に学生サンプルを用いて検証されてきた(e.g., 神・山岸,1997; 清成,2002)。また、その多くでは日本人の学生サンプルが用いられてきたが、近年では日本人以外の学生サンプルでも仮説が支持されている(Foddy, Platow, & Yamagishi, 2009; Platow, Foddy, Yamagishi, Lim, & Chow, 2012; Yamagishi, Mifune, Liu, & Pauling, 2008; これらの研究を含む最小条件集団における内集団ひいき行動のメタ分析としてはBalliet, Wu, & De Dreu, 2014を参照されたい)。例えば、Yamagishi et al. (2008)は日本とニュージーランドの学生サンプルを用い、それぞれの文化で最小条件集団における内集団ひいきを測定したところ、どちらの文化のサンプルでも知識共有条件においてのみ内集団ひいきが生じ、知識非共有条件では内集団ひいきが生じないことを報告している。このように、異なる文化圏の学生サンプルを用いた外的妥当性の検証作業は進んでいる。しかし、これまでに学生以外のサンプルを用いて外的妥当性を検証した研究は存在しない。評判維持仮説では年齢によって内集団ひいきが生じるメカニズムが異なることを予測していない。したがって、外的妥当性の観点からは、10代後半から20代前半という限られた年代のサンプルのみならず、幅広い年齢層において仮説が支持されることを示すことが望ましい。本研究では札幌市内在住の非学生サンプルを用い、学生サンプルを用いた先行研究と同様の結果が再現されるかを検討する。

方法

参加者

本研究の参加者は、2007年12月に、札幌市北区を中心に配布した新聞の折り込み広告を通して募集した。募集広告には、学生は応募できないこと、実験参加者には報酬が支払われること、実験は何度も繰り返し行われるため、なるべく継続的な参加が望まれることが記されていた。折り込み広告に対する応募者から各年代の男女比が偏らないように108名(男性51名、女性57名)が選ばれた。108名の参加者の平均年齢(プロジェクト開始時点)は47.1歳、最も若い参加者の年齢は21歳、最も高齢の参加者の年齢は69歳であった。ただし、本研究に参加した人数はその内の92名(男性44名、女性48名)であった。

デザイン

参加者の内集団ひいき傾向は、囚人のジレンマにおける相手の所属集団と、所属集団に関する知識を操作して測定された(神・山岸,1997; Yamagishi & Mifune, 2009)。相手の所属集団(相手が内集団か外集団か)と、相手が持つ参加者の所属集団に関する知識(相手も参加者の所属集団を知っているか、相手は知らないか)が参加者内で配置され、従属変数は囚人のジレンマゲームにおける協力度であった。

手続き

実験は2009年11月に実施された。参加者は個室に分かれ、互いに顔を合わせない状態で実験に参加した。1セッションあたりの参加人数は6人から8人であった。

参加者は初めにFNEを測定する質問紙(石川・佐々木・福井,1992)に回答した。FNEは他者からの評価を気にする傾向(例:誰かが私のことを評価していることがわかると、緊張して神経過敏になる)を測定する30項目で構成され、それぞれに対して自分に当てはまるかを「はい」か「いいえ」で回答した。「いいえ」と回答した場合を0、「はい」と回答した場合を1とコードし、「はい」回答の比率を分析に用いた。α係数は0.94であった。

質問紙への回答が終了した後、最小条件集団実験が実施された。この実験では二つの課題を行うと説明された後、ひとつ目の課題としてコンピュータを用いた「絵画の好み課題」が実施された。この課題で参加者は、画面上に提示される二枚の絵のどちらを好むかを、28組の絵について回答した。回答終了後、それぞれのペアの一枚はクレーの絵であり、もう一枚はカンディンスキーの絵であること、およびそれぞれの参加者は、クレーの絵を好む程度の強いクレー集団か、カンディンスキーの絵を好む程度の強いカンディンスキー集団のいずれかに割り振られることが告げられた。その後、参加者本人がどちらの集団に属するかが告げられた。引き続き、参加者は集団に対する同一化の程度を測定する尺度(Grieve & Hogg, 1999を日本語訳したもの)に回答した。参加者は「クレー好きの人たち」と「カンディンスキー好きの人たち」のそれぞれを対象とし、「あなたはどの程度クレー(カンディンスキー)好きの人たちを好きになれると思いますか?」などの9項目ずつ合計18項目に対して「1:全くそう思わない」から「9:非常に強くそう思う」などの9点尺度で回答した4)

次に参加者は囚人のジレンマゲームに関する説明を受けた。参加者への説明はコンピュータ画面上で、Microsoft Power Pointによる画像やアニメーションを用いて行われた。参加者にはまず、実験で獲得した金額がその日の参加報酬に上乗せされることが強調され、実験の内容が説明された。説明の内容は以下のとおりである。参加者は他の参加者の一人と二人一組のペアになる。ペアのそれぞれは自分に与えられた元手の300円のうちから、50円単位でいくらを相手に渡すかを決定する。相手に渡すことに決定した金額は実験者によって2倍にされて相手に渡り、渡さなかった金額はそのまま決定者の手元に残る。このやり取りをお互いが同時に行い、その後、ペアの相手を変えて同様のやり取りを複数回繰り返す。先ほど行った「絵画の好み課題」の結果によってやり取りを行う相手が決まり、相手がクレー集団の場合やカンディンスキー集団の場合、あるいは相手がどちらの集団かわからない場合がある。さらに、自分は相手の集団を知っている場合でも、相手は自分の集団を知らない場合がある。以上の説明の後、実際に実験を行うコンピュータ画面を用いてもう一度説明が繰り返され、最後に決定の匿名性が保障されていることが強調されて、説明が終了した。

全員が説明を理解したことを確認した後、コンピュータプログラムを用いて実験が行われた。参加者は、相手が同じ集団で相手もそのことを知っている「内集団共有条件」、相手が自分と異なる集団で相手もそのことを知っている「外集団共有条件」、自分は相手を内集団だと知っているが相手は自分の所属する集団を知らない「内集団非共有条件」、自分は相手が外集団だと知っているが相手はそのことを知らない「外集団非共有条件」を一度ずつ経験した。さらに、相手はどちらの集団かわからない「統制条件」を二度経験5)し、合計6回のやり取りを行ったが、どの条件をどの順番で行うかはランダムに配置された。また、各回の結果は全ての試行が終了するまで参加者には教えられなかった。

結果

知識の操作チェック

相手が参加者自身の所属集団を知っているか知っていないかという知識の操作が成功していたかを確かめるため、各回のやり取りの直後に相手が自分の所属集団を知っていたかどうかを回答させた。内集団共有条件および外集団共有条件の場合に相手が自分の所属集団を「知らなかった」と回答した数、内集団非共有条件および外集団非共有条件の場合に相手が自分の所属集団を「知っていた」と回答した数を誤答とし、各参加者の誤答数を算出した。結果、誤答数が0の参加者が80人、誤答数1が6人、誤答数2が6人であり、ほとんどの参加者が知識の操作の意味を理解していたと考えられる6)

所属集団の知識の操作が成功していれば参加者は「相手が内集団であれば、同じ内集団である自分に対して協力してくるだろう」と考え、内集団共有条件において他の条件よりも相手の提供金額の推測金額(期待金額)が高まると予測される(神・山岸,1997; Yamagishi et al., 2008)。各条件の提供金額を決定した直後、所属集団の知識を確認した後に測定した期待金額の平均値をFigure 1(左)に示す。統制条件を除く4条件の期待金額を従属変数とし、2(集団:相手が内集団か外集団か)×2(知識:共有か非共有か)の分散分析を行った。結果、集団の主効果(F(1, 91)=24.69, p<.01)、知識の主効果(F(1, 91)=6.08, p<.05)、集団と知識の交互作用効果(F(1, 91)=34.84, p<.01)のいずれもが有意であった。知識共有条件において参加者は、相手が内集団の場合は外集団よりも高い金額を提供されると推測していたが(t(91)=6.76, p<.01)、知識非共有条件ではその差が見られなかった(t(91)=0.92, p=.36)。これらの結果は、所属集団の知識の共有性の操作が成功していたことを示している。

Figure 1 (left) Expectation level and (right) cooperation level in each condition (error bars show standard errors)

行動データの分析

各条件において相手に渡した金額の平均値(協力度)をFigure 1(右)に示す。評判維持仮説からは、内集団ひいきが生じるためには集団所属に関する知識の共有性が必要とされるという予測が導き出される。この予測を検証するために、統制条件を除く4条件の協力度を従属変数とし、2(集団)×2(知識)の分散分析を行った。具体的には、以下の3つの予測が検証された。①知識共有条件では協力率に有意な集団差が認められる。②協力率の集団差に関して、知識2条件の間に有意な差が認められる(集団と知識の交互作用)、③知識非共有条件では協力率に有意な集団差が認められない。分析の結果、集団の主効果が有意に見られたが(F(1, 91)=22.10, p<.01)、知識の主効果は有意ではなかった(F(1, 91)=2.65, p=.11)。予測された集団と知識の交互作用効果は有意であり(F(1, 91)=12.84, p<.01)、知識共有条件では内集団に対して外集団よりも有意に高く協力していたが(t(91)=5.14, p<.01)、知識非共有条件では両者に有意な差が見られなかった(t(91)=0.98, p=.33)。これらの結果は、知識共有条件では内集団成員から外集団成員よりも高い協力が期待でき、そのために内集団ひいき行動が生起すること、また、知識非共有条件では内集団からの協力が期待できないために内集団ひいき行動が生起しないことを示しており、先行研究の結果(e.g., 神・山岸,1997)を再現した。

内集団ひいきとの相関

内集団ひいきの程度を内集団への協力度から外集団への協力度を引いた値とし、知識条件ごとにFNEとの相関を分析した。結果、知識共有条件における内集団ひいきとFNEとは有意な正の相関が見られた(r=.28, p<.01)。年齢および性別の効果を統制した偏相関係数は0.35(p<.001)を示した。一方、知識非共有条件では有意な相関が見られなかった(r=.11, p=.32; 偏相関係数0.06, p=.57)。これらは、評判維持仮説から導き出された予測を支持する結果である。

考察

本研究の目的は、評判維持仮説に基づき、自身の評判を気にする傾向と内集団ひいきとの関連を示すことにあった。また、第2の目的として、非学生サンプルを用いることで評判維持仮説の外的妥当性を検証した。結果、知識共有条件でのみ内集団ひいきが生じ、自分は相手の所属集団を知っているが相手は自分の所属集団を知らない知識非共有条件では有意な内集団ひいきが生じないとする、評判維持仮説からの予測が再度確認された。さらに、知識共有条件ではFNEが内集団ひいきと正に相関し、知識非共有条件ではFNEと内集団ひいきが有意な相関を示さない結果が示され、本研究の第1の目的が達成された。また、上述の結果が非学生サンプルにおいて得られたことにより、本研究の第2の目的である、結果の外的妥当性の検証がなされた。

ただし、本研究は相関研究にとどまっており、評判維持仮説が想定する「自身の評判を気にすることが内集団ひいきを生じさせる」という因果関係を直接検証したものではないことには注意すべきである。また、本研究結果は評判維持仮説と一貫しつつも、例えば内集団からの協力を裏切ることに対する不安感とFNEが相関した可能性など、集団協力ヒューリスティック仮説からの解釈も可能なレベルの結果だと考えることもできる。例えば知識共有条件の内集団相手に対して特に相手からネガティブな評判を受ける可能性があることを気にする傾向が強くなるなど、FNEという個人差変数から内集団ひいき行動を生じさせるまでの心理プロセスを明らかにすることで、より精緻に評判維持仮説の妥当性を検証することが今後の研究に残された課題である。

脚注
1)  本研究はJSPS科研費(19046005)の助成を受けたものです。

2)  本研究の実施にあたってご協力いただいた、犬飼佳吾氏、高岸治人氏、堀田結孝氏、橋本博文氏、李 楊氏に深く感謝申し上げます。

3)  山岸俊男 現所属: 一橋大学

4)  参加者自身がクレー集団の場合はクレー集団に対する9項目を内集団同一化得点、カンディンスキー集団に対する9項目を外集団同一化得点とした(参加者自身がカンディンスキー集団の場合はこれらの逆とした)。内集団同一化得点の信頼性係数αは0.92であり、その平均値は4.40 (SD=1.44)、外集団同一化得点の信頼性係数αは0.88であり、平均値は3.97 (SD=1.16)、内集団同一化得点と外集団同一化得点との差は有意であった(t(91)=4.23, p<.01)。

5)  「あなたの相手はどちらの集団に属しているかわからない」と教示される統制条件は知識非共有条件の相手側の条件にあたるため、内集団相手と外集団相手の2回経験された。

6)  1度でも誤答していた参加者を除外した分析結果と、全ての参加者を含めた分析結果で有意性検定の結果に大きな差は見られなかったため、本文では全ての参加者を含めた結果を記載した。

References
 
© 2015 日本社会心理学会
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