社会心理学研究
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原著論文
成人形成期の子どもの父親に対する態度を規定する要因:父親からの行動に関する子どもの認知に着目して
大髙 瑞郁唐沢 かおり
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2015 年 31 巻 2 号 p. 89-100

詳細

問題

本研究の目的は、成人形成期の子どもを対象に、彼らが父親に対して抱く態度を規定する要因として、父親からの行動に関する子どもの認知を取り上げ、これが子どもの父親に対する態度を規定するかどうか検討することである。成人形成期は、乳幼児期・児童期・青年期に続く発達段階としてArnett(2000)によって新たに提唱されたもので、具体的には18~25歳の時期を指す。高学歴化や晩婚化が進む先進諸国で、従来成人期の一部と見なされてきたこの時期に、結婚し、子どもを産み育て“成人”になる人は少数となった。そうした社会背景に鑑み、Erikson(1968 岩瀬訳 1973)が言及した青年期延長と心理社会的モラトリアムを理論的根拠として、青年期とも成人期とも異なる発達段階として提唱されたのが成人形成期である。

成人形成期の父子関係

成人形成期の親子関係について、子どもは親からの自立を目指すと共に、親との情緒的繋がりを求めるといわれている(Aquilino, 2006, for review)。子どもが親から自立することと、親と情緒的絆を結ぶことは一見相反するようで、この両方を同時に満たすことは難しいと思われるかもしれない。しかし、青年期の発達課題として、親からの情緒的自立を提唱したHavighurst(1953 荘司訳 1958)は、情緒的自立を「親に対する依存心をなくし、親に頼らずに親への愛情を発達させること」と定義しており、さらに親に対する肯定的態度は、成人形成期の子どもの情緒的自立を促進することが実証的に示されている(Leondari & Kiosseoglou, 2000; Perosa, Perosa, & Tam, 2002; Ryan & Lynch, 1989)。したがって、成人形成期に親から情緒的に自立することと、親に対して肯定的態度を抱くことは両立するといえるのである。

またParsons & Bales(1955 橋爪他訳 1970)は、子どもの社会化過程について、母親は社会化の初期過程で、子どもを家庭内で育む役割を担う一方、父親は社会化の後期過程で、子どもを家庭外の社会へ自立させる役割を担うと論じている。成人形成期は、社会化の後期過程にあたり、子どもが社会へと自立するために、父親が重要な役割を果たすと考えられる。

さらに成人形成期の親子関係に関して、子どもの父親に対する肯定的態度と、母親に対する肯定的態度はそれぞれ、成人形成期の子どもの情緒の安定や、不安の低減といった精神的健康に繋がることが既に明らかにされている。

まず、成人形成期の男性を対象に、父親に対する態度と精神的健康の関連を検討した研究は、父親に対する肯定的態度が、子どもの情緒の安定や(Stagner, 1938)肯定的な自己概念(Millen & Roll, 1977)に結びつくことを明らかにしている。これらの研究は男性のみを対象としているが、男女を対象とした研究も、子どもの性別・年齢に関わらず、父親を負担に感じるほど、子どもは落ち込みや不安を感じ易いことを示している(Umberson, 1992)。なお、このような結果についてUmberson(1992)は、父子の繋がりが所属と愛の欲求を満たし、自己の存在意義を感じられるためであると論じている。

ただし、これらの研究は、父親に対する態度だけでなく母親に対する態度も、子どもの情緒の安定性や(Stagner, 1938)、抑鬱・不安(Umberson, 1992)と関連することを示している。こうした結果は、子どもの父親に対する態度が、母親に対する態度とは関係なく、独自に子どもの精神的健康と関連する可能性を示唆する一方、母親に対する態度が肯定的であれば、父親に対する態度に関わらず、子どもは精神的健康を充分に保つことができる可能性も含有している。

この点を明確にすることを目的としてAmato(1994)Benson, Harris, & Rogers(1992)は、母親に対する態度を統制したうえで、父親に対する態度と子どもの精神的健康の関連を検討した。その結果、子どもの年齢・性別および母親に対する態度に関わらず、父親に対する態度が肯定的であるほど、子どもは幸福で悩みが少ないこと(Amato, 1994)、生活に満足すること(Amato, 1994; Benson et al., 1992)が示された。したがって、成人形成期の子どもが精神的健康を保つためには、母親に対する肯定的態度とは別に、父親に対する肯定的態度が有効だといえる。

一方Rossi & Rossi(1990)および小野寺(1993)は、子どもの父親に対する態度は、母親に対する態度ほど肯定的ではないことを示している。これは裏を返せば、子どもの父親に対する態度には、母親に対する態度に比べて、より好転する余地があることを意味する。そして、上述の子どもの父親に対する態度と精神的健康の関連を踏まえると、子どもの父親に対する態度がより肯定的なものになれば、子どもの精神的健康は向上すると考えられる。そのため、成人形成期の子どもの精神的健康を考えるうえで、父親との関係に焦点をあて、父親に対する態度の規定要因を明らかにすることは重要な課題だといえる。なぜなら、その規定要因を特定することによって、子どもが父親に対して肯定的態度をもち、精神的健康を増進するための方策を社会に提言することができると考えられるからである。

また、発達段階が児童期から青年期へと進むほど、子どもの父親に対する態度は否定的になり(Rossi & Rossi, 1990)、父親の子どもへの関与(共行動や会話など)頻度も低下すること(Furstenberg, 2000; 内閣府政策統括官『第2回青少年の生活と意識に関する基本調査』,2000)が指摘されている。こうした傾向は、父親の子どもへの関与が、子どもの父親に対する態度を規定するという知見(Fabricius, Braver, Diaz, & Velez, 2010; King & Sobolewski, 2006; Veneziano & Rohner, 1998)と整合的で、子どもに対する父親の関与が少ないほど、子どもが父親に肯定的態度を抱くことは困難であるがゆえと考えられる。

ところが成人形成期の父子関係については、父親の子どもに対する関与頻度は児童期・青年期より低下するものの(Furstenberg, 2000; 内閣府政策統括官『第2回青少年の生活と意識に関する基本調査』,2000)、子どもの父親に対する態度は児童期と同程度に肯定的であることが示されている(Rossi & Rossi, 1990)。このような特徴は、成人形成期の子どもが父親に対して態度を形成する際に、父親の子どもへの関与はそれほど大きな影響を与えず、他の要因が、子どもの父親に対する態度を左右する可能性を示唆する。では、成人形成期の子どもの父親に対する態度は、他のどのような要因に影響されるのだろうか。

成人形成期の子どもの父親に対する態度を規定する要因

他者に対する態度を規定する要因について、態度を抱く主体の認知が重要であるという主張がKelly(1940)を初めとする複数の研究者によって繰り返しなされてきた(Bradbury & Fincham, 1990; Davis & Kraus, 1991; Davis & Oathout, 1987, 1992; Long, 1993; Long & Andrews, 1990; Long, Angera, Carter, Nakamoto, & Kalso, 1999; 浦,2000)。まずDavisら(Davis & Kraus, 1991; Davis & Oathout, 1987, 1992)は、二者の対人関係のなかで、相手に対する態度を直接規定するのは、相手の行動についての認知だと主張している。また、浦(2000)も対人間の援助に関して、与え手が受け手に利益をもたらそうと意図した援助でさえ、受け手の認知次第では、受け手に心理的反発や緊張、不安、課題遂行の低下といった否定的な効果を与え得ることを指摘している。これらはいずれも、相手からの行動を、受け手がどのように認知するかが重要であることを示唆するものである。そのため本研究は、父親からの行動に関する子どもの認知に着目し、子どもの父親に対する態度を規定する要因を見出していくこととする。

父親からの被視点取得

では具体的に、父親のどのような行動についての子ども認知が、子どもの父親に対する態度を左右するのだろうか。この問いに関して、Long & Andrews(1990)は、“自分が認知する”相手の自分に対する視点取得(特定他者からの被視点取得)の重要性を主張している。視点取得とは、他者の視点から対象を捉えることを指し、対人相互作用を円滑なものにする重要な変数である(Davis & Kraus, 1991, for review)。この視点取得についてLong & Andrews(1990)は、Kelly(1940)の、相手に対する態度は、相手の行動を自分がどのように認知するか、に左右されるという主張に基づき、相手が自分の視点を取得しようと努めており、事実、取得しているという「他者からの被視点取得」が、相手に対する態度を規定すると指摘している。そして、159組の夫婦に郵送調査を行い、配偶者からの被視点取得と配偶者に対する態度の関連を分析し、夫についても妻についても、相手が自分の視点を取得していると認知するほど、配偶者に対して肯定的態度を抱くことを明らかにしている。さらにLong(1993)も同様の結果を示していることから、特定他者からの被視点取得は、相手に対する肯定的態度と関連すると考えられる。したがって、これらの研究結果を父子関係に援用すれば、父親が自分の視点を取得していると認知する子どもほど、父親に対して肯定的な態度を持つと予測されるのである。

父親からの否定的行動に関する非難

二者の対人関係における、相手からの行動に関する認知の重要性はBradbury & Fincham(1990)にも指摘されている。彼らは、対人関係において、相手の行動をどのように認知するかが、相手に対する態度と関連する重要な要因であることを主張し、とりわけ、相手が自分を批判する、といった否定的な行動に関する認知が、相手に対する態度を大きく左右すると論じている。人は他者からの行動をどのように捉えるのか、という問いは、これまで主に帰属理論のなかで論じられてきており、相手の行動をどのように帰属するかと相手に対する態度の関連については、主に夫婦関係を対象として数多くの研究が行われてきた。Bradbury & Fincham(1990)はそれらの研究を展望し、配偶者からの否定的行動を好意的に帰属することが、配偶者に対する肯定的態度に繋がるという知見を提供している。例えば、配偶者から批判された場合に「自分に反省すべき点があり、相手は自分の為を思ってあえて指摘してくれた」と好意的に帰属することで、相手からの行動が否定的なものであったとしても、相手に対する態度は肯定的になり得るということである。

なお、これらの研究は、帰属を統制・安定性・全体性・意図・動機・非難の6側面から捉え、6側面をまとめて帰属とするか、もしくは統制・安定性・全体性の3側面を原因帰属、意図・動機・非難の3側面を責任帰属として、相手に対する態度との関連を検討してきた。ただし、帰属の生起過程に関する議論は、原因帰属が責任帰属を、責任帰属が非難を、そして、非難が感情を引き起こすことを想定していることから(Fincham & Jaspars, 1980; Shultz & Schleifer, 1983)、相手に対する態度と直接関わるのは、非難の側面であると考えられる。このように概念的に区別されうる6側面を合わせて用いることは、変数の正確な機能や位置づけについて混乱を招く可能性がある。そのため本研究は、子どもの父親に対する態度を直接規定する要因として、父親からの否定的行動に関する非難を取り上げて検討する。

その際、父親からの否定的行動としては“父親が子どもを叱った・注意したこと”に着目する。なぜなら、叱る・注意するというコミュニケーションは、受け手の捉え方次第で、有益だと捉えられたり、思いやりの顕れだと好意的に捉えられたりする一方、干渉だと批判的に捉えられることもあるため(Goldsmith & Fitch, 1997)、父親からの行動をどのように捉えるかが、父子関係に与える影響を左右する可能性を検討するにあたり、着目に値する行動だと考えられるからである。

ところで、父親からの行動に関する子どもの認知が子どもの父親に対する態度の規定要因だと主張するためには、縦断的研究を行い、双方向の因果関係を検証する必要がある。なぜなら、父親からの行動に関する子どもの認知が、子どもの父親に対する態度を左右するという方向の因果関係は存在せず、子どもの父親に対する態度が、父親からの行動に関する子どもの認知を規定するという逆方向の因果関係のみが存在するとしても、横断的研究では両変数が関連するという同じ結果が得られるためである。はたして、子どもの父親に対する態度が、父親からの被視点取得や、父親からの否定的行動に関する非難を規定する、という逆方向の因果関係は存在するのだろうか。以下、それぞれの変数と子どもの父親に対する態度の因果関係について考えていく。

父親からの被視点取得と子どもの父親に対する態度の因果関係

相手からの被視点取得と相手に対する態度の因果関係については、Long et al.(1999)が夫婦関係を対象に介入研究を行って検討しており、共感性を高める研修を体験することで、配偶者からの被視点取得が高まった人ほど、研修後の配偶者に対する態度が肯定的になることを示している。このような結果は、特定他者からの被視点取得が、相手に対する態度を規定するという因果関係を示唆する。しかし、逆方向の因果関係、つまり、相手に対する態度が、特定他者からの被視点取得を規定するという因果関係については、検証されていないため未解明のままである。

ここで、そうした方向での因果関係は想定され得るのか、という点について、態度の起源に立ち返って考えれば、そもそも態度とは、行動や認知を予測するものとして考案された仮説的構成概念である。ゆえに、相手に対する態度が、相手が自分の視点を取得しているか否か、という認知を予測する可能性を排除することはできないだろう。

父親からの否定的行動に関する非難と子どもの父親に対する態度の因果関係

相手からの否定的行動に関する非難と相手に対する態度について、その因果関係を考えてみると、父親からの否定的行動に関する非難が子どもの父親に対する態度を規定するという方向の因果関係だけではなく、その逆の方向の因果関係も考えられる。というのも、夫婦関係を対象としたいくつかの研究が、相手からの否定的行動に関する帰属と相手に対する態度の因果関係について縦断的研究を行っており、それらの結果は、帰属が相手に対する態度を規定することと(Fincham & Bradbury, 1987, 1993; Fincham, Harold, & Gano-Phillips, 2000)、相手に対する態度が帰属を規定すること(Fincham & Bradbury, 1993; Fincham et al., 2000)の両方を示しているためである。

以上のように、父親からの被視点取得と父親からの否定的行動に関する非難のいずれに関しても、子どもの父親に対する態度によって規定される可能性があるため、これらの変数が子どもの父親に対する態度を規定する要因だと明言するためには、双方向の因果関係を検証する必要がある。したがって本研究は、これらの2変数それぞれと子どもの父親に対する態度の間に双方向の因果関係の存在を仮定して検証することとする。

なお、結果が父子関係に特有のものであるのか、親子関係に普遍のものであるのかを検討することを目的として、母子関係についても父子関係と同様の仮説に基づき検証を行い比較検討する。また、親に対する態度は、子どもの性別によって異なることが明らかにされており(小高,2008; 小野寺,1993; Rossi & Rossi, 1990)、帰属と相手に対する態度の因果関係については、性別ごとに異なる結果を示す研究もあることから(Fincham & Bradbury, 1987, 1993)、子どもの性別によって、変数間の因果関係が異なる可能性も考えられる。そのため、子どもの性別も考慮に入れて検証することとする。

仮説

1. 子どもは、父親が自分の視点を取得していると認知することによって、父親に対して肯定的態度を抱く

2. 子どもは、父親からの否定的行動に関して父親を非難しないことによって、父親に対して肯定的態度を抱く

3. 子どもは、父親に対する態度が肯定的であることによって、父親は自分の視点を取得していると認知する

4. 子どもは、父親に対する態度が肯定的であることによって、父親からの否定的行動に関して父親を非難しない

方法

私立大学生を対象に、約2ヵ月の期間を置いて2波のパネル調査を行った。具体的には、私立大学生を対象に、授業中に調査票を配布・回収する集合調査を講義期間中に長期休暇を挟まず2回実施し、最終的に501名の回答を得た。

変数

分析には、子どもの親に対する態度、親からの被視点取得、親からの否定的行動に関する非難の3変数を用いた。態度についてはPositive Affect Index(PAI; Bengtson & Schrader, 1982)5項目を翻訳したものを使用し、父親と母親のそれぞれについて「とてもあてはまる」から「全くあてはまらない」までの6件法で尋ねた。そして、それぞれ信頼性を確認したうえで単純加算し平均値を求め、変数として用いた。なお、値が大きいほど、態度が肯定的であることを示す。

親からの被視点取得については、Other Dyadic Perspective Taking(ODPT)Scale(Long, 1990)20項目を翻訳し、父親と母親のそれぞれについて「とてもあてはまる」から「全くあてはまらない」までの6件法で尋ねた。そして、父親・母親、1波・2波のそれぞれにおいて因子分析(1因子)を行い、因子負荷量が.40未満であった4項目(「お{父・母}さんは、私の問題をきちんと理解できていないように感じる」「お{父・母}さんは、私に対してすぐにイライラし始める」「お{父・母}さんは、もし自分が正しいと思った場合には、私の意見を聞いて時間を無駄にするようなことはしない」「お{父・母}さんは時々、私の視点から物事を見るのは難しいと感じる」)を除き、それぞれ信頼性を確認したうえで単純加算し平均値を求め、変数として用いた。なお、値が大きいほど、親が子どもの視点を取得していると子どもが認知することを示す。

親からの否定的行動に関する非難については、親からの否定的行動として「親が子どもを叱った・注意したこと」を取り上げ、父親と母親のそれぞれについて「とてもあてはまる」から「全くあてはまらない」までの6件法で尋ねた(項目:お{父・母}さんが、あなたを叱ったり、注意したりしたとき、以下の文章(「お{父・母}さんは、私を叱った・注意したことを責められるべきだ」)について、あなたはどう思いますか)。なお、値が大きいほど、親からの否定的行動に関して親を非難することを示す。具体的な項目および信頼性を表1に示す。

表1 各変数の項目と信頼性
変数(信頼性α)項目
子どもの父親に対する態度(1波.88、2波.90) 子どもの母親に対する態度(1波.90、2波.90)私は、お{父・母}さんを理解している
私は、お{父・母}さんを信頼している
私は、お{父・母}さんに対して理不尽ではない
私は、お{父・母}さんを尊敬している
私は、お{父・母}さんに対して愛情を抱いている
父親からの被視点取得(1波.90、2波.90) 母親からの被視点取得(1波.92、2波.94)お{父・母}さんは、私と議論をするとき、私の視点を考慮に入れ、かつその視点を自分のものと比較検討するタイプの人間だ
お{父・母}さんは、私の話を聞くだけでなく、私の言っていることを理解し、かつその根拠についてもきちんと把握できているように思う
お{父・母}さんは、私がどう感じているかわかっていないように思う(逆)
お{父・母}さんは、お{父・母}さんの視点を正確に私のものと比較検討することができる
お{父・母}さんは、状況判断を下す前に、私の動機を評価する
お{父・母}さんは、私の立場に立って考えることができない(逆)
お{父・母}さんは、私の言いたいことをほとんどいつも正確にわかっている
お{父・母}さんは、私が感じていることに気付かない(逆)
お{父・母}さんは、私が何かうまく言えない場合にでも、私の言いたいことを理解している
お{父・母}さんはたいてい、私がお{父・母}さんに言うことの意味を完全には理解していない(逆)
お{父・母}さんは、私が体験したことを私自身がどのように感じているか評価することができる
お{父・母}さんは、私を非難する前に、私がどのように感じているかを想像してみる
お{父・母}さんは、私の立場から物事がどう見えるか想像して、私をもっと理解しようとする
お{父・母}さんは、全ての意見には2つの側面があると考え、その双方の面について考慮するようにしている
お{父・母}さんは判断を下す前に、私の見方について考えるようにしている
お{父・母}さんは、私に対して怒っているとき、しばらく、私の立場に立って考えようとする

分析

まず、子どもの親に対する態度・親からの被視点取得・親からの否定的行動に関する非難について、それぞれ、2つの従属変数で測定されている親の性別(父親/母親)、ならびに調査時点(1波/2波)を参加者内要因、子どもの性別(息子/娘)を参加者間要因とする3要因混合計画の分散分析を行った。

つぎに、統計ソフトAmos 19を用いて、父子関係と母子関係のそれぞれについて、子どもの性別ごとに集団を分け、集団間の等値制約を置かずに多母集団同時分析を行い、仮説を検証した。初期モデルとして、相関し合う1波の3変数(親からの被視点取得・親からの否定的行動に関する非難・子どもの親に対する態度)が、それぞれ2波の3変数を規定し、2波の3変数の誤差が相関し合うことを想定したフルモデルを構築し(図1)、最尤法にて母数を推定し、息子と娘のどちらにおいても効果が有意ではないパスを除外していくことによってAIC(Akaike information criterion)を低めていき、最もAICが低いモデルを最終モデルとした。なお、モデルの適合度はNFI(normed fit index)(基準:0.90以上)とRMSEA(root mean square error of approximation)(基準:0.05未満)を指標として判断した。最後に、子どもの性別による変数間の関連の違いを検証するため、息子における推定値と娘における推定値の差についてz検定を行った。

図1 初期モデル

結果

回答者の属性

回答者の性別は男性331名(66.07%)・女性166名(33.13%)・不明4名(0.80%)、平均年齢は19.34(標準偏差=1.18)歳・不明3名(0.60%)、父親のいない回答者は28名(5.59%)、母親のいない回答者は9名(1.80%)であった。回答者の父親の平均年齢は51.73(標準偏差=5.09)歳・不明31名(6.19%)、子どもとの同別居は同居260名(51.90%)・別居211名(42.12%)・不明2名(0.40%)、職業はフルタイム職442名(88.22%)・パートタイム職10名(2.00%)・無職15名(2.99%)・不明6名(1.20%)であった。回答者の母親の平均年齢は48.82(標準偏差=4.55)歳・不明41名(8.18%)、子どもとの同別居は同居294名(58.68%)・別居192名(38.32%)・不明6名(1.20%)、職業はフルタイム職131名(26.15%)・パートタイム職240名(47.90%)・無職113名(22.55%)・不明8名(1.60%)であった。

記述統計

各変数の平均値および標準偏差を表2に示す。

表2 各変数の記述統計
変数1波2波
息子息子
子どもの父親に対する態度平均値(標準偏差)3.97 (1.17)4.22 (1.17)3.99 (1.12)4.35 (1.23)
父親からの被視点取得平均値(標準偏差)3.17 (0.78)3.21 (0.92)3.18 (0.70)3.32 (0.87)
父親からの否定的行動に関する非難平均値(標準偏差)2.27 (1.22)2.06 (1.31)2.40 (1.22)2.09 (1.21)
子どもの母親に対する態度平均値(標準偏差)4.07 (1.10)4.89 (0.93)4.13 (1.11)4.97 (0.85)
母親からの被視点取得平均値(標準偏差)3.48 (0.84)3.82 (0.96)3.40 (0.89)3.86 (0.96)
母親からの否定的行動に関する非難平均値(標準偏差)2.47 (1.34)2.15 (1.25)2.53 (1.32)2.04 (1.21)

子どもの親に対する態度

子どもの親に対する態度について分散分析を行った結果、親の性別×子どもの性別の交互作用が有意で(F(1, 251)=20.52, p<.001)、単純効果の検定を行った結果、娘は父親より母親に対して肯定的態度を抱いていること(F(1, 251)=62.42, p<.001)、息子より娘の方が、母親に対して肯定的態度を抱いていること(F(1, 502)=26.13, p<.001)が示された。

なお、親の性別の主効果も(F(1, 251)=44.13, p<.001)、子どもの性別の主効果も (F(1, 251)=12.33, p<.001) 有意で、子どもは父親より母親に対して肯定的態度を抱いていること、および、息子より娘の方が、両親に対して肯定的態度を抱いていることが示された。

親からの被視点取得

親からの被視点取得について分散分析を行った結果、親の性別×子どもの性別の交互作用が有意で(F(1, 326)=6.11, p<.05)、単純主効果の検定を行った結果、息子も(F(1, 326)=11.62, p<.001)娘も(F(1, 326)=47.68, p<.001)、父親より母親から視点を取得されていると認知すること、および、息子より娘の方が、母親から視点を取得されていると認知すること(F(1, 652)=20.45, p<.001)が示された。

また、親の性別×調査時点の交互作用も有意で(F(1, 326)=4.14, p<.05)、単純主効果の検定を行った結果、1波においても(F(1, 652)=56.73, p<.001)、2波においても(F(1, 652)=36.56, p<.001)、子どもは父親より母親から視点を取得されていると認知すること、および、1波より2波の方が、子どもは父親から視点を取得されていると認知する傾向(F(1, 652)=3.83, p<.10)がみられた。

なお、子どもの性別の主効果も(F(1, 326)=14.59, p<.001)、親の性別の主効果も(F(1, 326)=53.18, p<.001)有意で、息子より娘の方が、親から視点を取得されていると認知すること、子どもは父親より母親から視点を取得されていると認知することが示された。

親からの否定的行動に関する非難

親からの否定的行動に関する非難について分散分析を行った結果、子どもの性別の主効果のみ有意で(F(1, 323)=14.71, p<.001)、娘より息子の方が、親からの否定的行動について、親を非難することが示された。

仮説の検証

多母集団同時分析の結果、最終的に得られた父子関係に関するモデル(息子:N=314、娘: N=155、χ2(10)=12.96, p=.23, NFI=0.99, RMSEA=0.03)の標準化係数・相関係数およびz値について表3、母子関係に関するモデル(息子:N=326、娘: N=162、χ2(4)=4.59, p=.33, NFI=1.00, RMSEA=0.02)の標準化係数・相関係数およびz値について表4に示す。

表3 父子関係に関する最終モデルの多母集団同時分析結果
推定値z値
息子
標準化係数
父親からの被視点取得(1波)→父親からの被視点取得(2波).53***.49***0.10
父親からの被視点取得(1波)→父親からの否定的行動に関する非難(2波)
父親からの被視点取得(1波)→子どもの父親に対する態度(2波)【仮説1】.11*.001.33
父親からの否定的行動に関する非難(1波)→父親からの被視点取得(2波)
父親からの否定的行動に関する非難(1波)→父親からの否定的行動に関する非難(2波).41***.43***0.05
父親からの否定的行動に関する非難(1波)→子どもの父親に対する態度(2波)【仮説2】
子どもの父親に対する態度(1波)→父親からの被視点取得(2波)【仮説3】.26***.39***2.01*
子どもの父親に対する態度(1波)→父親からの否定的行動に関する非難(2波)【仮説4】−.25***−.25**0.06
子どもの父親に対する態度(1波)→子どもの父親に対する態度(2波).71***.86***2.87**
相関係数
父親からの被視点取得(1波)↔父親からの否定的行動に関する非難(1波)−.34***−.45***1.65
父親からの被視点取得(1波)↔子どもの父親に対する態度(1波).56***.71***1.91
父親からの否定的行動に関する非難(1波)↔子どもの父親に対する態度(1波)−.45***−.55***1.04
父親からの被視点取得(2波)誤差↔父親からの否定的行動に関する非難(2波)誤差
父親からの被視点取得(2波)誤差↔子どもの父親に対する態度(2波)誤差.26***.34***0.39
父親からの否定的行動に関する非難(2波)誤差↔子どもの父親に対する態度(2波)誤差

p<.10, * p<.05, ** p<.01, *** p<.001

表4 母子関係に関する最終モデルの多母集団同時分析結果
推定値z値
息子
標準化係数
母親からの被視点取得(1波)→母親からの被視点取得(2波).61***.81***2.50*
母親からの被視点取得(1波)→母親からの否定的行動に関する非難(2波)−.14*−.16*0.15
母親からの被視点取得(1波)→子どもの母親に対する態度(2波)【仮説1】
母親からの否定的行動に関する非難(1波)→母親からの被視点取得(2波)−.08−.10*0.49
母親からの否定的行動に関する非難(1波)→母親からの否定的行動に関する非難(2波).51***.56***0.57
母親からの否定的行動に関する非難(1波)→子どもの母親に対する態度(2波)【仮説2】−.15**−.081.11
子どもの母親に対する態度(1波)→母親からの被視点取得(2波)【仮説3】.17**.061.42
子どもの母親に対する態度(1波)→母親からの否定的行動に関する非難(2波)【仮説4】
子どもの母親に対する態度(1波)→子どもの母親に対する態度(2波).70***.72***0.17
相関係数
母親からの被視点取得(1波)↔母親からの否定的行動に関する非難(1波)−.31***−.24**0.52
母親からの被視点取得(1波)↔子どもの母親に対する態度(1波).54***.60***0.20
母親からの否定的行動に関する非難(1波)↔子どもの母親に対する態度(1波)−.42***−.39***1.30
母親からの被視点取得(2波)誤差↔母親からの否定的行動に関する非難(2波)誤差−.28***−.22*1.08
母親からの被視点取得(2波)誤差↔子どもの母親に対する態度(2波)誤差.36***.39***0.94
母親からの否定的行動に関する非難(2波)誤差↔子どもの母親に対する態度(2波)誤差−.18**−.24*0.11

p<.10, * p<.05, ** p<.01, *** p<.001

まず、親からの被視点取得と子どもの親に対する態度の因果関係について、父子関係において、子どもは性別を問わず、父親に対する態度が肯定的であることによって、父親は自分の視点を取得していると認知する一方(仮説3)、母子関係においては、息子の場合のみ、母親に対する態度が肯定的であることによって、母親は自分の視点を取得していると認知すること(仮説3)が示された。なお、仮説1については、息子の場合のみ、父親からの被視点取得が子どもの父親に対する態度を規定することが示された。

つぎに、親からの否定的行動に関する非難と子どもの親に対する態度の因果関係については、父子関係において、子どもは性別を問わず、父親に対する態度が肯定的であることによって、父親からの否定的行動に関して父親を非難しないこと(仮説4)が示された。一方、仮説2については、息子の場合のみ、母親からの否定的行動に関する非難が子どもの母親に対する態度を規定することが示された。

なお、子どもの性別による推定値の差についてz検定を行ったところ、息子より娘の方が、子どもの父親に対する態度が父親からの被視点取得を規定する効果(仮説3)が大きく、子どもの父親に対する態度と母親からの被視点取得について調査時点(波)間の安定性が高いことが示された。また、1波における、父親からの被視点取得と父親からの否定的行動に関する非難の関連、ならびに父親からの被視点取得と子どもの父親に対する態度の関連については、息子より娘の方が強い傾向も示唆された。

考察

本研究は、成人形成期の子どもの父親に対する態度の規定要因として、子どもが父親と関わり合うなかで、父親からの行動を子どもがどのように認知するかという点に着目し、父親からの被視点取得と、父親からの否定的行動に関する非難の2変数を取り上げ、子どもの父親に対する態度との双方向の因果関係を検証した。まず、各変数と子どもの親に対する態度との因果関係について得られた結果を整理していく。

父親からの被視点取得と子どもの父親に対する態度の因果関係

まず、息子と父親の関係においては、父親からの被視点取得と、子どもの父親に対する態度の間に、双方向の因果関係が存在することが示された(仮説1支持・仮説3支持)。こうした結果は、息子が、父親が自分の視点を取得していると認知することが、父親に対する態度の原因と結果の両方の役割を果たしていることを示すと同時に、被視点取得が生じれば、循環的に父親に対する態度が好転していく可能性を示唆する。

ただし、それ以外の親子関係―娘と父親の関係・息子と母親の関係・娘と母親の関係―においては、親からの被視点取得が親に対する態度を規定するという因果関係はみられなかった(仮説1不支持)。また、息子と父親の関係においては、親が子どもの視点を取得するという事象が、他の親子関係に比べて活発ではないことも示唆されている。これらの結果はいずれも、男性より女性に情緒的な役割が期待されていること(Franzoi, Davis, & Young, 1985)と関わるかもしれない。というのも、男性同士である息子と父親には、どちらにも相手の視点を取得するという情緒的な役割は期待されていないため、結果として、息子と父親の間で視点取得は生じ難いことが予測される。にも関わらず、父親が息子の視点を取得しようとすることは、父親が期待されていない役割をあえて果たすということであり、そうした父親の尽力に対し、息子は父親に好意を抱く可能性が考えられる。一方、女性である娘や母親は、相手の視点を取得し易く、返報性の観点から、被視点取得を当然と見なし、親からの被視点取得が親に対する好意に繋がらないのかもしれない。

さらに、娘と母親の関係においては、母親に対する態度が母親からの被視点取得を左右するという効果もみられなかった(仮説3不支持)。この理由も、女性に視点取得が期待されていることから説明することが可能だろう。女性である娘と母親には、そもそも相手の視点を取得することが求められているため、たとえ娘の母親に対する態度が肯定的ではないとしても、母親は娘の視点を取得するのかもしれない。ただし、これらの点を明らかにするためには、親子関係のなかで、相手に視点取得を期待する程度を測定する等して、検討を積み重ねていく必要があるといえる。

父親からの否定的行動に関する非難と子どもの父親に対する態度の因果関係

つぎに、親からの否定的行動に関する非難については、子どもの性別に関わらず、子どもの父親に対する態度が父親からの否定的行動に関する非難を左右することが示された(仮説4支持)一方、母親からの否定的行動に関する非難は、子どもの性別を問わず、子どもの母親に対する態度に規定されないことが示された(仮説4不支持)。

また、仮説2については、親子の性別の組み合わせ次第で異なる結果が得られ、息子と母親の関係においては、親からの否定的行動に関する非難が子どもの親に対する態度を規定する(仮説2支持)一方、その他の親子関係―息子と父親の関係・娘と父親の関係・娘と母親の関係―においては、親からの否定的行動に関する非難によって子どもの親に対する態度が左右されるという因果関係は見出されなかった(仮説2不支持)。

このように、親子の性別の組み合わせによって、非難と態度の因果関係について一貫した結果が得られないのは、親が子どもを叱ったり注意したりする内容や手段が、注意する親が父親か母親か、そして相手が息子か娘か、によって異なるためかもしれない。例えば、母親からの叱責・注意の内容が、父親からのものと比較して具体的だとすれば、その解釈は、子どもが母親に対して好意を抱いていようがいまいが、変わり得る余地が残されていないと考えられるだろう(仮説4不支持)。また、母親の息子に対する叱責が、他の親子関係における叱責に比べて、とりわけ煩わしいものだとすると、他の親子関係における叱責は、それ自体の衝撃が小さく、その非難も親に対する態度を左右するほどの影響力を持たない可能性も考えられる(仮説2不支持)。ただし、親子関係だけでなく夫婦関係に関しても、帰属と態度の因果関係に、一貫した知見は未だ見出されていないため(Fincham & Bradbury, 1987, 1993; Fincham et al., 2000)、これらを包括的に説明することのできる理論の構築が待たれるといえる。

他方、仮説としては想定していなかったが、母子関係においてのみ、子どもの性別を問わず、母親が自分の視点を取得していると子どもが認知することによって、母親からの否定的行動に関して、子どもは母親を非難しないという結果も得られた。このことは、母親が子どもの立場から考えたうえで、子どもを叱ったり、注意したりするのであれば、それに関して子どもは母親を責めない、ということを示している。また、娘と母親の関係においてのみ、母親からの否定的行動に関する非難が母親からの被視点取得を規定する効果も見られた。ただし、これらの効果も、親子の性別によって一貫していないため、結果の再現性を含め、今後検討していくべき課題だといえる。

以上の結果は、子どもが息子の場合には、父親からの被視点取得が子どもの父親に対する態度を規定することを示唆するものであり、ゆえに、子どもが息子の場合に、父親からの視点取得に関する子どもの認知が、父親に対する態度に影響を及ぼし得るという結論が導かれる。したがって、成人形成期の息子が父親に対してもつ態度を肯定的なものにするためには、父親が子どもの立場から物事を考えようとしていると子どもが認識することが大切だと提言することが可能だろう。

また、子どもが息子の場合には、母親からの否定的行動に関する非難が子どもの母親に対する態度を規定することも考え併せると、ここで得られた結論は、先行研究(Bradbury & Fincham, 1990; Davis & Kraus, 1991; Davis & Oathout, 1987, 1992; Kelly, 1940; Long, 1993; Long & Andrews, 1990; Long et al., 1999; 浦,2000)が繰り返し述べてきた、対人関係において相手の行動をいかに認知するかが、相手に対する態度を決める決定的な要因であるという主張を傍証するものだといえる。

さらに、このことは、成人形成期の子どもは、児童期や青年期ほど頻繁には父親に関与されていない(Furstenberg, 2000; 内閣府政策統括官『第2回青少年の生活と意識に関する基本調査』,2000)にも関わらず、児童期と同程度の肯定的態度を父親に対して示す、その理由を説明し得る。というのも、青年期までの子どもにとっては、父親の子どもへの関与が、父親に対する態度を規定する重大な要因である(Fabricius et al., 2010; King & Sobolewski, 2006; Veneziano & Rohner, 1998)一方、成人形成期の子どもにとっては、父親からの関与より、父親からの行動に関する認知の方が、父親に対する態度を左右する決定的な要因であり、そのために、関与の頻度が低くとも、その少ない関与を肯定的に捉えることで、肯定的な態度に繋がると考えられるからである。ただし、発達段階によって、子どもが父親に対して抱く態度を規定する要因が異なるかどうかは、成人形成期だけでなく幅広い発達段階の子どもを研究対象とし、父親からの関与と父親からの行動に関する認知の双方と、父親に対する態度の関連を相対的に比較検証する必要があるだろう。

子どもの性別

子どもの親に対する態度について、娘は父親より母親に対して肯定的態度を抱いていること、および、息子より娘の方が母親に対して肯定的態度をもっていることが明らかにされた。同じ傾向が、親からの被視点取得においてもみられており、なおかつ、息子も父親より母親から視点を取得されていると認知することも示された。これは、男性より女性の方が相手の視点を取得し(Long & Andrews, 1990)、なおかつ、視点取得が返報されるためではないかと考えられる。女性である母親は男性である父親より子どもの視点を取得し、女性である娘は男性である息子より、母親の視点を取得し、そうした娘の視点取得に報いるために、母親は息子より娘の視点を取得すると考えられるのである。加えて、息子の父親に対する態度より、娘の父親に対する態度の方が安定しており、これが父親からの被視点取得をより強く規定すること、および、娘の母親からの被視点取得も、息子の母親からの被視点取得より、調査時点(波)間で安定していることも示された。

これらの結果は、子どもが息子の場合より娘の場合の方が、親子関係が安定して良好であることを示唆している。はたして、このような結果はなぜ得られたのだろうか。その理由のひとつとして、家族関係を維持する役割は女性に課されているというHagestad(1986)の主張に着目することができるだろう。Hagestad(1986)は、家族関係を維持する務めには、家族間の会話を円滑に保つことや、家族同士での助け合いを促すこと、家族内での人間関係を把握すること、などが含まれており、こうした務めを果たすことが女性に期待されていると論じている。したがって、息子より娘の方が、日常の家族内の相互作用のなかで、家族関係を良好に保つために、親子関係に配慮すると推測される。ただし本研究は、家族関係を維持する役割を誰が担っているのかについて検討していないため、このような議論の妥当性を直接検証することはできない。しかし、家族関係に関わる重要な問題として、今後さらなる検討が必要であることを指摘しておく。

ところで本研究においては、娘の親に対する態度を左右するような要因を見出すことはできなかった(仮説1不支持・仮説2不支持)。そのような要因を特定するためには、親からの被視点取得や、親からの否定的行動に関する非難以外にも複数取り上げて検討することから始めるべきだろう。また、本研究では、回答者の負担を最小限に止めるという倫理的配慮から、父親からの行動として「叱った・注意した」行動のみを取り上げているが、父親が子どもを叱る・注意する機会が少ない可能性も考えられ、父親の子どもに対する行動には、他にもさまざまな種類があることから、外的妥当性の検討が課題として残されている。したがって今後の研究では、父親の子どもに対する行動を複数取り上げて検討していくことも必要だと考えられる。

調査時点

さらに、親からの被視点取得に関しては、調査時点(波)によって異なる傾向もみられた。調査時点(波)による違いは、他の変数(子どもの親に対する態度、親からの否定的行動に関する非難)については得られていないこと、および被視点取得は、介入によって変化すること(Long et al., 1999)を考慮すると、他の変数と比べて変化し易い可能性が考えられる。そして、変化し易いがゆえに、1波の調査を実施したこと自体が、被視点取得を左右し、こうした結果が得られたのではないかと推察される。ただし、被視点取得が、態度や非難より可変性の高いものなのかどうか定かではないため、これらの点を解明するために更なる検討が待たれる。

また、本研究は変数間の双方向の因果関係を検証することに主眼を置き、大学生の講義期間中の日常的な父子関係を切り取ることを重視し、1波と2波の間を約2ヵ月としたが、父子関係は、より長い期間において大きく変化することもあれば、日々の生活のなかで少しずつ変化することもあるだろう。したがって今後は、波と波の間隔や回数などを変えて検討していくべきだと考えられる。

脚注
1)  審査者の先生方から大変貴重なご意見を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。なお、本論文は第一筆者が平成24年度、東京大学大学院人文社会系研究科に提出した博士学位論文の一部を加筆・修正したものです。

References
 
© 2015 日本社会心理学会
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