社会心理学研究
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資料論文
オンライン調査モニタのSatisficeはいかに実証的知見を毀損するか1)
三浦 麻子小林 哲郎
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2015 年 31 巻 2 号 p. 120-127

詳細

問題

本研究の目的

本研究は、Webを用いたオンライン調査回答に際するモニタの行動について、Satisfice(協力者が調査に際して応分の注意資源を割こうとしない回答行動)に注目して検討するものである。まず、先行研究(三浦・小林,2015)においてSatisfice傾向を示した個人が別の調査においても同様の行動を示すかどうか、すなわちSatisfice傾向がどの程度特性依存的なのかを検討し、その上で実験的操作を含むオンライン調査におけるSatisficeがデータをどの程度どのように毀損するか、すなわちSatisficeが実証的知見の導出に及ぼす影響、を実験的に検討する。

オンライン調査におけるSatisfice

近年、社会心理学におけるデータ収集に際してWebインタフェースを介したオンライン調査、中でも対象者として調査会社の登録モニタを利用するものが急増している。オンライン調査の利点は、対象者ごとの任意の環境で協力を得られることによるデータ収集コストの低減のほかに、尺度項目の提示順序のランダマイズによる順序効果の相殺や画像/音声を利用した刺激提示や実験的操作の実施といった工夫が施しやすく、よりダイナミックな環境でデータが収集できることにある。一方、オンライン調査で深刻となる可能性があるのがSatisficeの発生によるデータの毀損である。Satisficeとは元来「目的を達成するために必要最小限を満たす手順を決定し、追求する行動」を指す言葉(Simon, 1957)で、この文脈においては協力者が調査に際して応分の注意資源を割かないで行動することを意味する(Krosnick, 1991)。オンラインモニタにとって調査への協力は報酬の獲得と直結しており、その結果としてかれらは日常的に数多くの調査に回答している(山田・江利川,2014)。協力の目的が主に報酬獲得にあるとすれば、中身はどうあれ「すべての設問に回答したものを送信する」ことがまず重要となり、「それを達成するための必要最小限を満たす手順」に調査内容の精読やそれによる正確な理解と反応が含まれない可能性がある。

三浦・小林(2015)は、こうした状況をふまえ、教示や質問文を精読しなければ適切に回答できないオンライン調査を実施してSatisficeの発生率や発生パタンを実験的に検討している。スクリーニング調査ではIMC(Instructional Manipulation Check; Oppenheimer, Meyvis, & Davidenko, 2009)を用いた教示文の精読を要する設問を、本調査では質問文で回答選択肢を指定する方式を用いた項目内容の精読を要する設問を用いてSatisfice傾向を検出した。調査会社2社で同一内容の調査を実施した結果、教示文の読み飛ばしによるSatisficeは非常に頻繁に生じる(A社51.2%、B社83.8%)ことが示され、尺度項目の読み飛ばしによるSatisficeは相対的には少ない(A社10.0%、B社16.1%)がその発生パタンには調査会社による違いがあることがわかった。尺度項目の読み飛ばしについては、項目数の違い(12/32/52項目)によるSatisfice発生率の差も検討され、項目数が多い条件で発生率が高く、回答に際する負担が大きい状況でSatisficeが生じやすい、すなわち調査場面の状況に依存する側面があることが示唆された。一方で、すべての尺度項目に中間値「3」を回答した「確信犯」的Satisfice率には項目数条件間の差が見られないことから、モニタ個人の特性依存的なSatisficeの存在も示唆された。

Satisficeについて、多岐にわたる検出手法を組み合わせた多くのオンライン調査により実態を把握し、リサンプリングやシミュレーションも含む多様な分析を展開することで、Satisficeによる不注意回答が研究課題やデータの質、相関分析、実験操作、そして検定力の維持に及ぼす悪影響を検証したのがManiaci & Rogge(2014)である。不注意な回答者の自己報告データはきわめて質が悪く、実験操作の効果や重要な回帰分析の結果を曖昧にさせるに十分であること、不注意回答者を除外することによって検定力は向上し、効果サイズの落ち込みを緩和できることなどが示されると同時に、きわめて不注意な協力者は3~9%であるとし、状況依存で発生するSatisficeをなるべく低減させるために研究者が採るべき工夫が提案されている。

本研究の着眼点

本研究の第一の目的は、調査協力に際して常にSatisficeを示す可能性の高い「確信犯」的協力者、すなわち特性的な傾向として当該行動を呈するモニタがどの程度存在するのかを、パネルデータを用いて検証することである。そのために三浦・小林(2015)に協力したサンプルを用いて、その際の「教示読み飛ばし」「尺度項目読み飛ばし」によるSatisficeの有無を先有傾向として分析に組み込む。また、先行研究ではSatisficeを二分法(有無)で測定したが、本研究では映像刺激の視聴時間を測定することで連続変量として捉え、Satisficeの程度を検討範囲に含める。

もう一つの目的は、Satisficeが実証的な因果関係の推定に及ぼす影響を検討することである。三浦・小林(2015)は、オンライン調査におけるモニタのSatisficeの発生比率とそれに関連する変数に調査会社による違いがあることを見出したが、あくまで目的をその検出に置いたことから、調査自体には特定の因果関係を推定する枠組みを設定していなかった。本研究では、メディアの議題設定効果/プライミング効果を実験的に検証する枠組みを持ち込むことによって、Satisficeが実証的知見をどれだけ毀損するかを検討する。

メディアの議題設定効果は、たとえばテレビニュースが特定の争点を報道することが「今何が重要な問題か」「何が公に議論されるべきか」といった人々の認識に影響を与え、両者は正の相関をもつとする仮説である(McCombs & Shaw, 1972)。さらに、特定の争点がメディアによって強調されることによって、有権者が政権や政治的リーダーを評価する際の基準としてのその争点の比重が増すとする仮説がプライミング効果(Iyengar & Kinder, 1987, p. 63)である。議題設定効果については国政選挙に際するメディア報道と有権者を対象とした社会調査を対応づけた研究(McCombs & Shaw, 1972; 最近のレビューとしてMcCombs, Shaw, & Weaver, 2014)や実験室実験(Iyengar & Kinder, 1987)、メディアのプライミング効果についても社会調査を用いた研究(Krosnick & Brannon, 1993; Lenz, 2009)や実験室実験(Iyengar & Kinder, 1987; Miller & Krosnick, 2000)など、いずれもさまざまなアプローチによって検証されている。日本においては社会調査や内容分析を用いた竹下(2008)による議題設定効果研究や鹿野(1997)によるプライミング効果研究があるが、両効果をオンライン実験で検証した例は管見の限り存在しない。効果の通文化性や因果関係、さらにニュース接触過程におけるインターネットの比重の高まりを考慮すれば、日本において両効果をオンライン実験で追試することの意味は大きいだろう。

また、本研究では報酬体系の差異がSatisficeに及ぼす影響についても検討する。Satisficeの発生の重要な要因として動機づけの低下があるが(Krosnick, 1991)、それに端的に影響を及ぼすと考えられるのが協力に対する報酬である。報酬獲得があらかじめ約束されているのであれば、協力の質を高めようとする(つまり、誠実に調査に対応しようとする)動機づけは低下する可能性がある。実際、三浦・小林(2015)においてよりSatisfice率の高かったB社は、換金性のあるポイントが協力者全員に付与される報酬体系であった。しかし、調査を実施した2社により報酬体系(協力者全員/抽選による獲得)が異なっていたため、調査会社によるモニタの質の差異と報酬体系による差異を切り分けることができなかった。そこで本研究では同じ調査会社のモニタに2つの異なる報酬条件をランダムに割り当てることで、報酬体系の差異がSatisficeに及ぼす影響を検討する。

方法

調査対象者

三浦・小林(2015)に協力したオンライン調査会社の登録モニタのうち、A社においてスクリーニング調査に回答し、本調査の対象となった成人1800名(男性1052名・女性748名、平均年齢(SD)48.1歳(13.56))に協力を依頼した。以降、三浦・小林(2015)の調査を第1波、本研究を第2波と表記する場合がある。第1波のスクリーニング調査ではIMC設問への回答によって測定された「教示読み飛ばし」が、本調査ではリッカート式5件法設問への回答によって「尺度項目読み飛ばし」によるSatisficeの有無が測定されており、これらを先有Satisfice傾向とみなし説明変数の一つとして用いる(ただし後者は本調査に回答した協力者1297名のみで得られている)。そのほかに、当該時点での個人属性(性別・年齢・居住地域/婚姻状況・子ども有無/職業)、社会経済地位(Socioeconomic Status; SES)の主観的評価、オンライン調査への協力頻度、理系/文系学術研究に対する信頼に関するデータが得られており、これらは処置の効果を推定する際に共変量として用いる。

調査期間

2014年12月3日13時~2014年12月8日13時。調査期間中の回答の督促は特に行わなかった。すべての調査の実施に際する説明と同意等の倫理的配慮は、A社の定めるモニタ規約および個人情報保護方針にしたがって行われた。

刺激映像とSatisficeの測定

Satisficeの測定には、調査内で視聴が求められる刺激映像の視聴時間を用いた。刺激映像は各45~50秒程度の3本のニュースからなる160秒程度のもので、いずれのニュースも関連する映像を背景に報道内容が読み上げられ、内容を要約したキャプションが3つ付される構成であった。読み上げる報道内容とキャプションは実際に最近報道されたニュースを参考に筆者らがオリジナルのものを作成し、映像はNHKクリエイティブ・ライブラリー所蔵のものを利用した。

刺激映像の視聴時間は秒単位で計測した。ただし調査環境の制約から、Webブラウザで刺激映像を視聴する画面に遷移し閲覧を開始した時点から次の画面に遷移するまでの時間(秒)が計測された。遷移にはいずれも協力者自身による操作が必要で、自動的ではない。すなわち、ここでいう「刺激映像視聴時間」には、教示文を読む時間、動画再生ボタンをクリックしてから実際に再生が始まるまでの時間、動画が正しく視聴できたかどうかを問う設問に回答する時間、再生が終了してから次の画面に遷移する操作をするまでの時間などが含まれていることには注意を要する。

実験条件

刺激映像の種類と報酬の種類を操作した。いずれの条件についても参加者間計画で、調査対象者をIMC設問への回答によって測定された先有Satisfice傾向(2値)によってブロッキングした後にランダムに割り当てた。刺激映像の種類は、ニュース映像視聴による議題設定効果とプライミング効果を検証するために操作したものである。視聴する3本のニュースのうち2本目が、(1)処置:「政治とカネの問題」に関連するもの(閣僚の政治資金使途に不明瞭な点があり、国会で追及されたというニュース;158秒)か、(2)統制:「政治とカネの問題」に関連しないもの(iPS細胞研究で早老症のニホンザルが発見されたというニュース;162秒)の2水準を設けた。1本目と3本目のニュースは両条件で同じで、それぞれ日本人の幸福度に関する意識調査と世界の野生動物の生存数に関する統計の結果を報じるものであった。報酬の種類は、本実験におけるSatisfice傾向に与える影響を検証するために操作したもので、オンラインショッピング(Amazon)のギフト券100円分を、(1)全員:協力者全員に付与か、(2)抽選:協力者から抽選で100名に付与、の2水準を設けた。

質問項目

調査は「あなたのお考えに関する調査」と題して実施された。メディア接触を操作するためのニュース映像視聴の前後に以下の設問を配置した。まず視聴前には、政治関心、支持政党、イデオロギー、日常的なメディア(全国ネットテレビ局6社・主要新聞5紙)接触、政治知識(6問、4肢+「わからない」から択一)、個別争点(財政構造改革、外交、政治とカネの問題、景気対策)に関する現内閣評価と重要度認知(5件法)について問うた。ニュース映像視聴の際は、動画が正しく視聴できたかどうかを問うた(3肢択一)。ニュース映像視聴後の項目は、現内閣の全体としての実績に対する評価と、争点(事前設問と同一トピック)評価と重要度認知、ニュース映像の内容に関する質問(各ニュース1問、4肢+「わからない」から択一)であった2)

結果と論議

協力者の特徴

本研究への協力を依頼した1800名中、回答を完了した有効回答者数は1067名であった。このうち刺激映像視聴に際する設問に「部分的に見ることができた」「全く見ることができなかった」と回答したケースを除外し「音声も含めてすべて視聴できた」とした回答者を基本的な分析対象サンプルとした3)

本研究でのSatisficeと先有Satisfice傾向

今回の調査での映像視聴時間のヒストグラムを映像刺激条件ごとに示したのが図1である。なお、ここでは分布全体の約95%パーセンタイル=360秒を超えたサンプルを外れ値とみなしてデータから除外している。第1波のスクリーニング調査(教示読み飛ばし)および本調査(尺度項目読み飛ばし)で示されたSatisfice傾向との関連を検討した。分析対象としたサンプルのうち、第1波の本調査に協力し、なおかつ映像視聴時間が360秒以内だった684名を対象として、映像視聴時間を従属変数とし、2つの先有Satisfice傾向(基準カテゴリ:読み飛ばし有)、実験条件(報酬の種類、刺激映像の種類)を独立変数とし、性別と年齢を統制変数として投入した重回帰分析を行ったところ、先有Satisfice傾向は教示読み飛ばし(Coef.(B)=36.85)と尺度項目読み飛ばし(Coef.(B)=50.69)のいずれもが映像視聴への効果が有意(ps<.001)で、先有Satisfice傾向をもつ回答者の視聴時間の方が短いことが示された(Intercept(B)=43.66)。統制変数のうち年齢の効果(Coef.(B)=0.95)が有意(p<.001)で、より若年の方が視聴時間が短いことが示された。2つの先有Satisfice傾向の有無群ごとの映像視聴時間の平均(SD)は、「いずれも無」群(n=284)が179.6(57.61)秒、「教示読み飛ばしのみ有」群(n=322)が140.7(81.30)秒、「尺度項目読み飛ばしのみ有」群(n=10)が95.1(72.32)秒、「両方あり」群(n=68)が90.1(87.40)秒であった。第1波で何らかのSatisficeをした群の平均値はいずれも刺激映像全体の長さより短く、その傾向は「尺度項目読み飛ばし」をした群においてより顕著であった。該当者は少ないものの、先有Satisfice傾向をより強くもつ回答者の「見飛ばし」傾向が強いことは、特性的にSatisfice傾向をもつモニタの存在を示唆するものである。

図1 刺激映像視聴時間のヒストグラム

一方で、実験条件はいずれも有意な効果をもたなかった。刺激映像の種類による有意差がなかったことは実験操作として望ましいことである一方で、報酬の種類による差が見られなかったことは、本研究においては全員に対する報酬付与が動機づけの低下をもたらさなかったこと、すなわち三浦・小林(2015)で見られた2社間の差は、単に報酬の種類ではなく、2社のモニタの質の差異に由来していた可能性を示唆している。

刺激映像視聴に際するSatisfice傾向の分類

次に、刺激映像を視聴する際のSatisfice傾向を分類した。こうした場面において、刺激に対して「応分の注意資源を割かない」行動には2種類—映像をすべて見る前に次の設問に移行する「見飛ばし」と、映像終了後に次の設問に移行するまでに大きなタイムラグが生じる「放置」—があると考えられる。本研究で検証する議題設定効果やプライミング効果は、メディアの報道(を擬した刺激映像)への接触を前提とするものであるから、「見飛ばし」は明らかにデータを毀損する。また報道への接触がもつ効果は時間経過に応じた減衰が予想されるから、「放置」も効果サイズを不当に小さくする方向に働く可能性が高い。本来、この異なる意味をもつ2つのSatisfice傾向をいずれも抽出、検討すべきであるが、今回は主に「見飛ばし」のみを扱うことにした。なぜなら前述したとおり、本研究で計測された映像視聴時間は、Webブラウザで刺激映像を視聴する画面に遷移し閲覧を開始した時点から次の画面に遷移するまでの時間(秒)であり、遷移にはいずれも協力者自身による操作が必要であった。そのため純粋な刺激映像視聴時間を特定できず、また、再生の一時停止や巻き戻しによる再度視聴といった操作も可能であった。さらに、ネットワーク回線の不具合により映像が中断した可能性なども考えられることから、刺激映像の長さ以上の「映像視聴時間」が計測されているケースが「放置」かどうかを特定することは難しいと判断した。

刺激映像「見飛ばし」Satisfice傾向は、Maniaci & Rogge(2014; Study 1)にならって「刺激映像の総時間の半分未満しか視聴しなかった」場合に出現しているとみなした。つまり、処置群で79秒未満、統制群で81秒未満の回答者を「見飛ばし」群とした(n=189)。一つのニュースが45~50秒なので、「見飛ばし」群は実験操作を含む2本目のニュース映像を完全には視聴していない可能性がきわめて高い。第1波「尺度読み飛ばし」有群では52.4%がこの「見飛ばし」Satisficeをしており、同・無群(18.9%)よりも出現比率が高かった(χ2(1)=46.33, p<.0001)。

対照群として、刺激に応分の注意資源を割いた「優良」群を抽出した。ここでは、刺激映像の音声終了(つまり実質的なニュースの終了)時間(処置群154秒、統制群158秒)を始点とし、視聴ページに遷移してから再生開始までのバッファと再生終了から次ページに遷移するまでのバッファ(それぞれ最大15秒)を加算したものを終点とする範囲を「刺激映像をすべて視聴した」ケースとみなした(n=365)。つまり、処置群で154~188(158+15+15)秒、統制群で158~192(162+15+15)秒となる。なお「優良」群で考慮したバッファを「見飛ばし」群で考慮しなかったのは、なるべく厳格な基準でSatisfice傾向を抽出する(逆に「優良」群は広めに抽出する)ためである。なお、「放置」群を設定するならば処置群で189秒以上、統制群で193秒以上視聴した回答者(n=232)がこれに該当するが、前述した理由により以下の議題設定効果とプライミング効果に関する仮説検証は行わない。

これら3群間でニュース映像の内容に関する質問への正答数(0~3)に差があるかどうかを順序ロジットモデルにより検討したところ、「見飛ばし」群では負(Coef.(B)=−1.40)の、「優良」群と「放置」群では正の係数が得られた(順にCoef.(B)=2.17, 1.66)。また3群間の係数の差はいずれも1%水準で有意で、「優良」群>「放置」群>「見飛ばし」群の順で正答数が多かった。この傾向は、第1波と第2波で測定された種々の共変量を統制変数として投入したモデルにおいても一貫していた。なお、第1波における「教示読み飛ばし」と「尺度項目読み飛ばし」との対応については、いずれにおいても「読み飛ばし」をした群の正答数が有意に低いことが示された。これも、Satisfice傾向が通状況的に生じている、つまり特性的にSatisfice傾向をもつモニタの存在を傍証するものである。

Satisfice傾向が議題設定効果とプライミング効果に及ぼす影響

まず、サンプル全体、視聴時間にもとづく回答者の再分類のうち以降の分析に用いる「優良」群と「見飛ばし」群、これに加えて「優良」群のうちニュースの内容に関する質問にすべて正答した回答者を抽出した「最優良」群(n=286)を設定し、4群それぞれにおいて、映像視聴時間による層化と脱落による共変量バランス毀損の有無を確認した。具体的にはHo, Imai, King, & Stuart(2007)にしたがい、第1波と第2波それぞれで測定したすべての共変量について、実験条件(映像刺激の種類)群間で平均値の差を求め、これが0.25SDよりも大きい場合にインバランスとみなすことにした4)。分析の結果、「最優良」群の「フジテレビ(系列局を含む)への接触」「争点の重要度認知(外交)」「争点の重要度認知(政治とカネの問題)」、「見飛ばし」群の「性別」「職業(主婦)」「現内閣評価(政治とカネの問題)」「現内閣評価(景気対策)」において標準化された平均値の差が0.25を超えていた。つまりこれら2群においては共変量バランスが一部毀損しているため、以降の分析ではこれらの共変量を推定に含めることで、生じうるバイアスに対処する。

議題設定効果は、ニュース映像の視聴前後で現内閣の抱える政治問題に関する重要度認知を比較し、「政治とカネの問題」に関して視聴後に上昇が見られれば、効果が確認されたことになる。従属変数をニュース映像視聴後の「政治とカネの問題」に関する重要度認知、独立変数を刺激映像条件(基準カテゴリ:統制群)と報酬の種類条件(基準カテゴリ:全員群)、視聴前の「政治とカネの問題」に関する重要度認知とした順序ロジットモデルを、分析の対象としたサンプル全体、および「優良」「最優良」「見飛ばし」群のそれぞれで検討した結果を表1にまとめる。ブロック変数として用いた第1波IMC設問での先有Satisfice傾向(2値)、および「見飛ばし」「最優良」群ではバランスが毀損している共変量を統制変数として投入している5)。視聴した刺激映像の種類による効果は有意ではなく、議題設定効果は見られなかった。ただしSatisfice傾向によりその係数の正負に違いが見られ、「最優良」群においては正(つまり、仮説と合致する方向)の係数が得られた一方で、「見飛ばし」「優良」群においては負(つまり、仮説とは逆方向)の効果を示していた。

表1 議題設定効果に関する順序ロジットモデルの推定
従属変数:「政治とカネの問題」争点の重要度認知(処置後)全体見飛ばし群優良群最優良群
Coef.(B)
映像刺激の種類(処置)−0.178−0.037−0.0890.109
(0.143)−0.315(0.244)(0.284)
報酬の種類(抽選)0.1870.1820.3250.240
(0.143)−0.303(0.245)(0.288)
「政治とカネの問題」争点の重要度認知(処置前)12.571**10.024**13.866**14.283**
(0.468)−0.929(0.824)(0.961)
ブロック変数(1:1波IMC遵守ブロック、2:1波IMC違反ブロック)−0.0870.267−0.064−0.083
(0.144)−0.387(0.250)(0.294)
カットポイント10.928**1.0061.207**1.467*
(0.249)−0.611(0.430)(0.677)
カットポイント24.179**2.952**4.840**5.202**
(0.261)−0.619(0.468)(0.718)
カットポイント37.671**5.966**8.753**9.056**
(0.333)−0.747(0.615)(0.857)
カットポイント410.952**8.808**12.243**12.747**
(0.425)−0.892(0.781)(1.034)
N946189365286
擬似決定係数0.4790.3820.5390.554

カッコ内数値は標準誤差** p<0.01, * p<0.05, p<0.10共変量は群ごとに異なるので省略した。

プライミング効果は、ニュース映像視聴後の現内閣に対する全体的評価とニュース視聴前の「政治とカネの問題」に関する個別争点評価の相関が、「政治とカネの問題」に関するニュース映像視聴によって高まっていれば、効果が確認されたことになる。従属変数をニュース映像視聴後の現内閣に対する全体的評価、独立変数を刺激映像条件と視聴前の「政治とカネの問題」争点評価、および両者の交互作用とする順序ロジットモデル(共変量は議題設定効果と同様に投入した)をサンプル全体、「見飛ばし」「優良」「最優良」群のそれぞれで検討した結果を表2にまとめる。「政治とカネの問題」に関する評価と映像視聴条件の交互作用効果は、「最優良」群において有意、「優良」群において有意に近く、その方向はプライミング効果の予測と一致していた一方で、「見飛ばし」群においては有意ではないがそれらとは逆方向の係数が得られた。「最優良」群における刺激映像条件ごとのプライミング効果をシミュレーションしたところ、たとえば「政治とカネの問題」争点評価(事前)が最大値(かなり良い)だったサンプルが事後の内閣の全体的評価が最大値(かなり良い)を選択する確率は実験群で75%程度であるのに対し、統制群では40%程度であった。処置群の方が統制群よりも傾きが大きく、「政治とカネの問題」争点に対する評価に反応して事後の内閣の全体的評価が異なる程度が高いことが示された。

表2 プライミング効果に関する順序ロジットモデルの推定
従属変数:現内閣の全体的評価(処置後)全体見飛ばし群優良群最優良群
Coef. (B)
「政治とカネの問題」争点の評価(処置前)5.477**2.493**4.971**4.405**
(0.383)−0.922(0.671)(0.781)
映像刺激の種類(処置)0.1510.759−0.450−0.515
(0.196)−0.452(0.316)(0.362)
「政治とカネの問題」争点の評価(処置前)×処置−0.572−1.6661.5091.962*
(0.484)−1.095(0.839)(0.948)
報酬の種類(抽選)−0.0940.142−0.382−0.267
(0.120)−0.28(0.196)(0.229)
ブロック変数(1:1波IMC遵守ブロック、2:1波IMC違反ブロック)0.1960.5650.1820.181
(0.120)−0.364(0.197)(0.229)
カットポイント1−0.448**0.817*−0.587*−0.166
(0.165)−0.4(0.275)(0.578)
カットポイント20.972**2.938**0.681*1.025
(0.166)−0.462(0.276)(0.576)
カットポイント32.614**5.460**2.210**2.509**
(0.184)−0.567(0.300)(0.591)
カットポイント45.052**8.215**4.913**5.190**
(0.238)−0.719(0.394)(0.674)
N946189365286
擬似決定係数0.1340.2960.1560.156

カッコ内数値は標準誤差** p<0.01, * p<0.05, p<0.10共変量は群ごとに異なるので省略した。

まとめと展望

本研究では、オンライン調査回答に際するSatisficeについて、(1)Satisfice傾向はどの程度特性依存的か、(2)Satisficeが実証的知見の導出に及ぼす影響、を三浦・小林(2015)で先有Satisfice傾向が測定されているパネルデータを用いて実験的に検討した。本研究では「刺激映像視聴に十分な注意資源を割かない」Satisfice傾向を視聴時間の測定データにもとづいて同定した。

Satisfice傾向がどの程度特性依存的なのかについては、第1波で「尺度項目読み飛ばし」をしたサンプルにおいて映像視聴の「見飛ばし」程度が特に高かった。教示は読み飛ばしたが尺度項目は読み飛ばさなかった群の映像視聴時間の平均値(140.7秒)が映像の総時間より短いもののそう大きくは変わらないことと合わせて考えると、尺度項目の読み飛ばしを犯すサンプルは刺激や状況によらずSatisficeを冒しやすい、すなわち特性的なSatisfice傾向が高いと考えられる。第1波と第2波の両方でSatisfice群に分類されたケースはサンプル全体の5%程度となり、これはManiaci & Rogge(2014)におけるきわめて不注意な協力者の存在比率(3~9%)の範囲内であった。

メディア接触に関する2つの効果に関する因果推定においては、映像視聴においてSatisficeをした協力者のデータが実証的知見を毀損する方向に働く可能性が示された。実験的に操作された刺激映像視聴が政治的態度にもたらす効果の推定結果において、Satisficeの有無によって効果の方向が異なる傾向が認められた。議題設定効果はどの群においても有意ではなく、また仮説を支持する方向の係数が得られたのも「最優良」群のみであった。プライミング効果は「最優良」群において有意かつ仮説を支持する方向の交互作用効果が得られ、その傾向は「優良」群においても見られた。しかし「見飛ばし」群では有意な効果は得られず、係数も仮説とは異なる方向であり、そのことがサンプル全体の分析結果にも波及していた。

また、Satisficeをせずに映像を視聴した可能性がもっとも高い「最優良」群において、プライミング効果については仮説を支持する結果が得られた一方で、議題設定効果は見られなかったことは興味深い。メディアのプライミング効果が議題設定のような意識的過程を経て生じるのか、それともアクセシビリティベースで自動的に生じているのかについては論争があるが(cf., Miller & Krosnick, 2000)、本研究の結果は後者を示唆するものである。サンプルサイズが小さいためこれ以上効果の詳細を検討することは難しく、またごく短いニュース動画に一度接触させたのみという刺激の(先行研究と比較した)弱さが影響している可能性は否めないが、メカニズムにまで踏み込みうるだけの十分なデータを得て今後さらに検討を進めたい。

本研究では、報酬体系はSatisfice傾向に影響をもたなかった。同じ「全員」対象でも付与される額が三浦・小林(2015)におけるB社の数円相当と本研究の100円相当では異なるものの、必ず報酬が獲得できることが単純に動機づけを低下させ、データを毀損するとは限らないことが示された。

本研究の既知の問題点は、ニュース映像の視聴時間を厳密には測定できていない点である。再生前後のタイムラグが特定できないことに加えて、視聴に関わるあらゆる操作が協力者に委ねられていた点も、Satisfice有無の識別力を低下させていることは否めない。また、映像の長さにもごくわずかではあるが条件間に違いがあった。動画全体、各ニュースのいずれもより厳密に等しく統制することが望ましいだろう。

研究実施者はオンライン調査環境での協力者の回答行動を監視することができない。従来、実験室環境など厳密な統制状況で行われていたデータ収集をここに適用する場合は、本来収集すべき変数のデータに加えて監視に代替しうるさまざまなデータを収集して、Satisficeの有無や程度を知るための状況証拠として活用する努力を怠るべきではない。また、オンライン調査環境より可能性は低いだろうが、集合場面で配布・回収する調査や実験室実験であってもSatisficeが生じるケースは十分にありえる。いかなるデータ収集場面であっても、本研究や三浦・小林(2015)のように、回答内容だけではなく、回答態度や回答行動を知りうるデータを収集することが肝要である。

脚注
1)  本研究は、関西学院大学「人を対象とした臨床・調査・実験倫理審査」の承認(2014-39)を受けて実施された。

2)  調査票の質問項目一覧(刺激映像を視聴可能なURLを含む)はオンライン付録(URL; https://researchmap.jp/mupqibigp-864/)を参照。

3)  分析対象としたサンプルのサイズは共変量投入の有無などにより異なるため、以下それぞれの分析において個別に言及する。

4)  三浦・小林(2015)で用いたJoint-probability testは簡便である一方、個々の変数の有意性は他の変数の効果やモデルのパラメトリックな仮定(ここではロジスティック関数)に影響されるので、全体としてバランスが取れているかどうかを確認する際は有効だが、多くの共変量について個別のバランスをチェックする際には適していない。また、個別の共変量についての平均値の差のt検定はNの大きさや条件群間のNのバランスに影響されるので望ましくない(Balance test fallacy; Imai, King, & Stuart, 2008)。

5)  映像刺激の種類(処置)とブロック変数の交互作用はいずれのモデルでも有意ではなかった(表では記載を省略)ため、ブロックごとに推定するのではなくブロック変数を共変量として含めた。プライミング効果の分析についても同様である。

References
 
© 2015 日本社会心理学会
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