社会心理学研究
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集団間葛藤時における内集団協力と頻度依存傾向:少数派同調を導入した進化シミュレーションによる思考実験
中西 大輔横田 晋大
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2016 年 31 巻 3 号 p. 193-199

詳細

問題

集団間葛藤の問題は社会心理学における本質的なトピックである。伝統的にはSherifらにより牽引されてきた研究(e.g., Sherif, 1966)があり、それを展開させた社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1979)、集団協力ヒューリスティックス仮説(神・山岸,1997)など主に内集団ひいきの文脈で研究が蓄積されてきた。所属集団へのひいきと外集団の排斥傾向は集団間葛藤を激化させてしまう要因となるが、一方で外集団の脅威は集団内での協調を促進する。外集団による脅威が存在する場合に内集団に対して同調圧力が高まる例は、戦時中の隣組などの制度下における人々の行動にも見られる(長浜,1981)。

さて、こうした外集団の脅威による内集団の結束は一見合理的だが、外集団の脅威があってもなお、個人にとってはただ乗りの誘因が存在する(e.g., Tooby & Cosmides, 1988)。全員が協力しなければ集団自体が滅んでしまうような状況、すなわち個々人が集団崩壊のトリガーを握っている状況であれば、多少コストがかかってもそのトリガーに手をかける者はいないだろう。「税金を払わない者が一人でもいれば皆殺しに遭う」ということが分かっていれば、合理的な人間なら税金を払う。しかしこれは極端な例で、多くの場合戦時中であってもただ乗りをする者は現れる。第一次世界大戦中のイギリスでも16,000人以上の「良心的兵役拒否」を行う者が存在したことが報告されている(阿部,1969)。戦時中の日本人も労働力や資源の供出を喜んでしていた者ばかりではない。「非国民」という言葉が使われていたように、戦争の遂行に非協力的な国民を協力させることは「非常時の」国家には重要な課題であった。集団には必ずバッファー(非協力者が一定数存在しても集団の勝つ余裕)が存在するため、「自分一人ぐらい」の心理が働き、フリーライダー2)が存在する可能性がある。

このように、集団間葛藤時に、合理的な個体からなる集団において内集団協力傾向がどのように進化するかをマクロな観点から検討したのが横田・中西(2012)である。彼らは多層淘汰理論と文化伝達の観点から、多数派の行動を模倣する傾向を持つ個体が存在すればただ乗りが減少することを進化シミュレーションで示した。本研究では横田・中西(2012)の結果の頑健性を検討することを目的とする。まず、以下では横田・中西(2012)で得られた結果を概観し、検討が不十分であった要因について整理する。

多層淘汰理論と文化的群淘汰

横田・中西(2012)のシミュレーションでは、社会的ジレンマ事態にある複数の集団が存在し、それらの集団の間で資源を巡るゼロサム状況が設定された。つまり、社会的ジレンマが集団内、集団間両方に存在する状況を作った。その結果、同じグループの他者の行動を参照できる条件の方ができない条件よりも全体的な協力率が高く、また、他者の行動を参照して行動を決定する頻度依存型の行動戦略(渡部(1992)寺井・山岸・渡部(2003)による集団応報戦略と同義)が集団間淘汰のレベルが高くなるほど増加していた3)。また、集団間淘汰のレベルが低いとき(滅多に集団が絶滅することがないとき)、頻度依存戦略の存在が協力率を押し上げる効果が高かった。

以上の結果は、多層淘汰理論(Sober & Wilson, 1999)および文化的群淘汰理論(Boyd & Richerson, 2005)と一貫する。多層淘汰理論とは、群淘汰の新しいバージョンであり、個体レベルの淘汰と集団レベルの淘汰をそれぞれ考え、2つの淘汰圧の相対的な影響度に応じて集団に奉仕する傾向が進化するかどうかが決まると主張する理論である。古典的な群淘汰理論(Wynne-Edwards, 1962)では集団内における個体間の淘汰圧を無視するか軽視していたが、多層淘汰理論では集団間、個体間の両方の淘汰圧の相対的強弱により進化の行方が決まると考える。文化的群淘汰理論とは多数派同調バイアス(e.g., Boyd & Richerson, 1985; Kameda & Nakanishi, 2002, 2003)が群淘汰の働きを促進するという理論である。これら2つの理論の核は、相対的に集団内での行動分散が小さく集団間での行動分散が大きいことがただ乗り傾向を減少させるというものである。多層淘汰を前提とすることで集団間の行動分散が個人の適応度に影響を与える基盤が保証され、この行動分散を大きくする個人の多数派同調傾向の存在が文化的群淘汰理論によって支えられる。

社会心理学の領域でこのような集団間の葛藤事態を扱った実証研究として篠塚(1997)によるダブル・ジレンマ実験やRapoport & Bornstein(1987)およびBornstein, Erev, & Rosen(1990)による集団間葛藤のある公共財ゲームなどがある。前者は集団間での囚人のジレンマゲームを、後者は集団間での公共財ゲームを扱っており、本研究で想定している状況は後者のものに近い。

様々な種類の同調

シミュレーションの結果から、横田・中西(2012)は、情報獲得が不確実にしか行えない状況で正しい情報を獲得するという課題に対して適応的であった多数派同調(Asch, 1951)が集団間葛藤状況でも合理的だったと述べているが、こうした結論を下すのは尚早である。なぜなら、文化進化の文脈では、他者の行動を参考にする戦略として様々なものが取り上げられており(Boyd & Richerson, 1985)、横田・中西(2012)の議論ではその多様性が考慮されていないからである。文化的群淘汰が集団内の協力率を押し上げるのかどうかを議論するのに、多数派同調を扱うだけでは十分とは言えない。

本研究では、他者の協力率が閾値よりも低い場合に協力するという少数派同調について検討する。例えば、少数派同調が適応的となる例として、協力者が多ければ非協力を行い、非協力者が多ければ協力を行う戦略の有効性が示されている石橋・亀田(2007)のモデルや社会的補償(social compensation: Williams & Karau, 1991)として知られる心理傾向などがある。集団間葛藤の文脈で、自分以外のほとんどの者が相手集団との戦いに積極的であれば、自分一人くらいはさぼっても構わないと思うフリーライダーがいてもおかしくはない。むしろ、自分以外の全員が協力しているときに自分一人が協力することによって得られる勝利確率の増分はそれほど大きくないことが多いだろう。もし、十分な数の協力者が既に提供されているのであれば、自分はむしろコストを払わない方が集団全体のコスト量ということを考えても合理的である(Motro, 1991)。

一方、横田・中西(2012)でも示されているように、そもそも集団間葛藤に勝利することがどの程度個体の適応に重要かは集団間葛藤の程度に依存する。集団間葛藤の程度が高い状況では全体的に協力率が高くなり、また、少数の非協力者の存在が集団にとって深刻な結果をもたらす可能性が高くなる。このような状況下では全体的に協力率は高くなるが、「十分な数の協力者」の基準自体が厳しくなるため、少数派同調個体は自らの非協力によって集団を崩壊させてしまうリスクを負うことになる。しかし、集団間葛藤の程度が低い状況では協力率がある程度低い集団でも生き残ることができるため、少数派同調個体にはフリーライドできるというメリットも存在する。

このように、集団間葛藤状況下において集団内の少数派に同調することが合理的である状況は十分にあり得る。少数派同調的な行動パタンを人がとるということを想定した場合でも頻度依存的な戦略は協力傾向を押し上げるのだろうか。本研究では、以上の問いに答えるために、横田・中西(2012)のモデルに少数派同調4)を行うエージェントを追加した進化シミュレーションを行った。

方法

本進化シミュレーションの目的は、集団間淘汰の強さと頻度依存傾向戦略、協力率の関係について、少数派同調を導入したシミュレーションを行い、頻度依存的な行動が協力率を上昇させるという横田・中西(2012)の頑健性を検討することにある。特に多数派同調と少数派同調がそれぞれ内集団協力傾向にいかなる影響を与えるのかを検討することが第一の目的である。

進化シミュレーションのプログラムはC++を用いて記述し、GCC(Version 4.2.1)でコンパイルした5)。本研究では基本的に横田・中西(2012)のプログラムおよびパラメーター・セッティングを踏襲して行った。10個体からなる集団を1,024集団、合計10,240個体からなる全体集団を作成した。個体はこの全体集団のいずれかの集団にランダムに配置され、集団内で繰り返しのある社会的ジレンマゲームを行った。各個体は資源を自集団に供出するかしないかの決定を行うが、この決定にあたり各個体は以下のような様々な戦略を採る。

戦略の多様性

遺伝子の機能の一覧をTable 1に掲載した。個体の遺伝子は協力傾向(G1:デフォルトの協力率)、協力の閾値(G2)、同調スイッチ(G3)、内集団ひいき傾向(G4)6)、同調方式(G5)の5つの遺伝子から構成される。同調方式以外は横田・中西(2012)と全く同じ遺伝子である。同調スイッチG3がOFF(0)の場合には個体は協力傾向G1に従って協力するか否かを決定する。このスイッチがON(1)の場合には協力の閾値G2に従う。協力の閾値とは、集団内の何%以上(多数派同調の場合)あるいは以下(少数派同調の場合)の個体が前試行に協力していたら協力するかどうかを決定する遺伝子である。内集団ひいき傾向とは資源を内集団成員に分配するか外集団成員に分配するかを決める遺伝子である。同調方式は今回のシミュレーションで新たに導入された遺伝子であり、多数派同調をするか少数派同調をするかを決定する。多数派同調の場合には集団内の協力者率が協力の閾値G2を超えていれば協力するが、少数派同調の場合にはG2を下回っていれば協力する7)。したがって、本研究における多数(少数)派同調は、閾値G2を参照して、それより多数(少数)の者が採用する行動をとるということを意味している。

Table 1 遺伝子
遺伝子説明
G1自らが生まれつき持っている協力傾向0~1まで連続的に分布
G2協力の閾値(同一集団の何%の者が協力/非協力したら自分も協力するか、の値)0~1まで連続的に分布
G3G1に従うかG2に従うかをスイッチする遺伝子(G1に従う場合G2やG5は用いられず、G2に従う場合G1は用いられない)2値型
G4内集団ひいき傾向(資源を内集団成員に分配するか、外集団成員に分配するか)2値型
G5少数派に同調するか、多数派に同調するかを決定する遺伝子2値型

初期分布

初期分布も横田・中西(2012)に従い、G1が0.01, G2が0.99, G3が0(G1に従う)、G4およびG5がランダムの状況からスタートした8)

試行と淘汰

シミュレーションは10試行1世代からなり、1000世代のシミュレーションを1レプリケーションとした。各個体は初期状態では各グループにランダムに配置され、配置されたグループで社会的ジレンマゲームを行う9)。10試行の社会的ジレンマゲームが行われると淘汰が起こる。

淘汰は個体レベル、集団レベルのいずれかで起こる10)。その世代でいずれが起こるかは後述するパラメータによる。個体レベルの淘汰は全集団で相対的な利得(分配された資源量−提供した資源量)を算出し、その値を生存確率として利得の低い個体を除く11)。集団レベルの淘汰は、集団に提供された合計資源量を全グループで相対化し、その値をその集団の存続確率として資源量の低いグループを丸ごと絶滅させる。この淘汰の結果死亡した個体は、生き残った個体のうちから利得の高い個体を確率的に選択して置き換える。

突然変異

突然変異は5%の確率で個体の各遺伝子に対して起こる。なお、横田・中西(2012)では突然変異率を0.5%に変更してもシミュレーションの結果にほとんど影響がなかったため、本シミュレーションでは5%で固定している。突然変異が行われる場合、G1およびG2は0~1までの乱数を発生させた値で置き換え、G3からG5については2値型のいずれかの値を等確率で置き換えている。

シミュレーションの条件

本シミュレーションでは横田・中西(2012)によって行われた2つの条件(他者の行動を参照して同調することが可能な条件と同調が不可能な条件)を基本とし、参照可能な条件の中に多数派同調のみが可能な多数派同調条件、少数派同調のみが可能な少数派同調条件、多数派同調と少数派同調の両方が可能な混合戦略条件を設けた。したがって、全条件は4条件である12)。集団レベル淘汰の頻度は横田・中西(2012)に1段階足して10段階とした。1段階目から9段階目までは横田・中西(2012)と全く同一である。段階1は0.1の確率で集団間淘汰、0.9の確率で個人間淘汰が起こるが、段階10では毎世代集団レベル淘汰のみが起こる。

なお、同調不可能条件と多数派同調のみが可能な条件については、横田・中西(2012)で既に行われたものと基本的に同じシミュレーションである。進化シミュレーションの流れをFigure 1に示した。

Figure 1 進化シミュレーションの流れ

結果

進化シミュレーションは、参照条件(4)×集団レベル淘汰の頻度(10)で計40条件行った。以下の分析では、それぞれのパラメータが結果にどのような影響を与えたかを検討するため、シミュレーションの結果が確実に安定する500世代以降のデータ(10世代ごとに結果を出力するため、データポイントは50)を平均した。

Figure 2に集団レベル淘汰の頻度と協力率の関係を示した。このパタンより、同調不可能条件と多数派同調条件では横田・中西(2012)の結果が完全に再現されたことが分かる。Figure 2のパタンより、多数派同調条件で最も協力率が高くなることが分かる。一方、少数派同調が含まれる2つの条件(少数派同調条件および混合戦略条件)では、むしろ他者情報の参照ができない同調不可能条件よりも協力率が低い。参照条件(多数派同調/少数派同調/混合戦略/同調不可能)と集団レベル淘汰の頻度(10段階)を独立変数とした4×10の分散分析を行ったところ、参照条件の主効果(F(3, 3960)=7573.98、p<.01、η2=.15)、集団レベル淘汰の頻度の主効果(F(9, 3960)=13582.58、p<.01、η2=.81)、交互作用効果(F(27, 3960)=53.63、p<.01、η2=.01)のすべてが有意となった13)。なお、協力の閾値(G2)は多数派同調条件で.47(集団レベル淘汰頻度1)から.40(集団レベル淘汰頻度10)、少数派同調条件で.49(集団レベル淘汰頻度1)から.62(集団レベル淘汰頻度10)、混合戦略条件で.50(集団レベル淘汰頻度1)から.38(集団レベル淘汰頻度10)となり、集団レベル淘汰の頻度が高くなるほど、協力率が高くなる方向に閾値が変化する傾向が得られた14)

Figure 2 集団レベル淘汰の頻度と協力率

次に、Figure 3に集団レベル淘汰の頻度と頻度依存個体率の関係を示した。Figure 3より、頻度依存的に行動する個体率(G3がG2に従うことを示している個体率)は多数派同調条件で最も高く、少数派同調条件では集団間淘汰の頻度が増すと次第に減少している。

Figure 3 集団レベル淘汰の頻度と頻度依存個体率

多数派同調と少数派同調の両方が含まれた混合条件のデータのみ取り出して、同調個体の中で少数派同調の個体率が集団間淘汰の程度に応じてどのように変化したのかを検討したのがFigure 4である。グラフより、少数派同調個体率(G5が少数派同調を示している個体率)は集団レベル淘汰の頻度が増すと次第に減少していることが分かる。しかし少数派同調個体は、集団レベル淘汰の低いときには頻度依存個体の中で20%から50%程度の均衡比を保っている。また、こうした少数派同調個体の存在が、マクロには協力率の低下を招いているということが分かる。

Figure 4 集団レベル淘汰の頻度と少数派同調個体率(混合戦略条件)

なお、内集団ひいき傾向(G4)については、どの条件でもほとんどの個体が内集団だけに資源を分配する内集団ひいき傾向を示すという結果が得られている。

以上の結果より、協力率は少数派同調個体を入れることにより低下し、むしろ他者の情報を参照できない条件よりも悪くなっていることが分かる。頻度依存戦略(多数派同調/少数派同調両方を含む)には適応基盤が存在するが、少数派同調個体の存在は全体の協力率にはネガティブに影響することが分かった。

考察

本研究では横田・中西(2012)の進化シミュレーションに少数派同調を行うエージェントを追加した追試を行った。シミュレーションの結果、多数派同調のみを導入した場合には横田・中西(2012)と同じパタンの結果が得られた。一方、少数派同調を導入したシミュレーションでは少数派同調個体は一定数の比率で存在しており、少数であれば適応基盤が存在することが示された。集団全体では少数派同調を導入したシミュレーションの方が多数派同調だけのシミュレーションよりも平均協力率が低くなった。

また、協力の閾値は、多数派同調条件では集団レベル淘汰の頻度が高まるほど低くなり、少数派同調条件では集団レベル淘汰の頻度が高まるほど高くなった。つまり、いずれの条件でも集団レベル淘汰の頻度が高まるほど協力率が上昇する方向に変化した。

本研究の結果は、少数派同調個体に適応基盤があるということ、また少数派同調個体が存在する場合には一定比率で均衡して集団全体の利得を下げてしまうことを意味する。混合戦略条件のデータを見る限り、少数派同調は集団間淘汰が低い条件でより全体集団内で高い比率を占める。つまり、少数派同調が適応的な状況とは、相対的には集団レベル淘汰が低い条件であると言える。このことは、集団間の競争が激しい場合には一定の基準よりも協力率が多い場合に協力するという戦略が適応的であるが、集団間の競争が緩い場合には一定の基準よりも協力率が低い場合に協力するという戦略も一定の適応基盤を持ち得ることを示している。

以上の結果は文化的群淘汰理論の限界を示すものである。文化進化の文脈では様々な社会的学習のパタンが検討されている(e.g., 頻度依存バイアス、成功者バイアス、名声バイアス)。しかし、文化的群淘汰を協力行動の研究に応用する際に想定されるのは、頻度依存のバイアスの中の多数派同調傾向だけである。頻度依存バイアスには希少な者を模倣する少数派同調傾向も含まれるが、そのことはこれまで検討されてこなかった。進化シミュレーションの結果から、少数派同調を導入した条件では同調不可能条件よりも協力率が低くなる可能性が示された。このことは、文化的群淘汰理論が予測するように社会的学習が必ずしも協力の促進に貢献するとは限らないことを示している。そのため、頻度依存バイアス以外の様々な社会的学習パタンを導入した場合にどのような結果が得られるか、さらに詳細に検討する必要がある。

本研究の成果は文化的群淘汰の再考を促すが、実際の人間が集団間葛藤時にどのような社会的学習のパタンを示すかを検討するためには実証研究が必要である。特に一定の集団間葛藤のレベルにおいて、集団内の相互作用によって多数派同調や少数派同調を行う者が一定比率で均衡する状況が観察できるのかといった問題や、集団によって少数派同調や多数派同調を行う者の比率が異なるのかそれとも一定比率に収束するのか、といったグループ・ダイナミックスについての検討を行うことは重要である。また、本研究のシミュレーションでは情報的同調と規範的同調の区別ができていないが、実際の集団場面では情報的同調と規範的同調いずれの動機が協力行動と関連するのか、検討を行う必要があるだろう。場面想定法を用いた部分的な検討は中西・横田(2009)によって行われており、そこでは多数派同調的な傾向が支配的であった。例えば、集団を階層として導入した集団間葛藤時の社会的ジレンマ実験を行うことで、実際に人々が多数派同調以外の社会的学習戦略を採用するかどうか、さらなる検討が待たれる。

脚注
1)  本研究は第1筆者に与えられた科学研究費補助金「集団間葛藤状況における社会的影響と協力の進化(研究課題番号2538062)」および広島修道大学ひろしま未来協創センター調査研究費(重点領域研究「グローバル化の進行とローカル文化の行方—都市と地方/流行(ポップ)と伝統に関する比較を中心として—」)、第2筆者に与えられた科学研究費補助金「集団間葛藤と同調行動がもたらす『文化』生成の検討(研究課題番号26780351)」により行われた。

2)  ここでの「フリーライダー」という言葉には倫理的な意味は含まれていない。例えば宗教上あるいは個人の信念を理由とした戦争への協力拒否も、ここでは集団間葛藤におけるフリーライドとして捉える。

3)  横田・中西(2012)における頻度依存戦略とは、個体が持つ一定の基準(閾値)よりも集団内の協力率が高ければ協力する行動パタンのことを意味する。彼らはこれを「多数派同調」と名付けているが、閾値が0.5を下回る場合には、50%未満の個体が採用している行動を模倣することもあり得る。その意味で、必ずしも「多数派」に同調する場合だけではないことに注意が必要である。

4)  ただし、本研究における少数派同調は、一定の基準(閾値)を参照して、それより集団内の協力率が低ければ協力するということを意味している(これは横田・中西(2012)における多数派同調の定義に従っている)。したがって、少数派への同調なのか、多数派への反同調なのかといった区別はできない。

5)  コンパイルオプションとして-lstdc++を指定し、最適化オプションO3を付与している。コンパイルおよび実行はMac上のOS X 10.9のTerminalで行い、シミュレーションはMac Pro Late 2013モデルで実行した。

6)  G4は横田・中西(2012)のモデルと比較可能にするために導入したもので、本研究では主たる検討対象とはしていない。

7)  なお、この値が参照する協力率には自己の協力・非協力も含まれる。

8)  本シミュレーションでは結果が初期値にほとんど依存しないことが、複数回行ったシミュレーションで確認されている。

9)  横田・中西(2012)に従い、ベースラインの適応度として各個体はデフォルトで100資源を持つ。各試行で各個体は10資源(協力のコスト)を提供するかどうかを決定する。提供された資源は5倍され、1個体の協力によりグループには50資源が提供されることになる。

10)  本シミュレーションでは横田・中西(2012)に従い、1回の淘汰について個体レベルか集団レベルいずれかで淘汰が起こる実装にしてあるが、これはモデルを単純化するためである。実際には2つのレベルの淘汰は同時に起こりうるがシミュレーションにおける時間軸は必ずしも現実の時間軸と対応していない(例えば実際には1世代の長さは個体によって異なる)。

11)  最大の利得を得た個体の利得で全個体の利得を割り(利得の最大を1に変換し)、その値を生存確率とした。淘汰についてもアルゴリズムもすべて横田・中西(2012)と同様である。

12)  多数派同調条件と少数派同調条件ではG5が無効とされ、G3がG2に従う遺伝子を持つ者について、前者では必ず多数派同調を行い、後者では必ず少数派同調を行う。同調不可能条件ではG3が無効とされ必ずG1に従う。混合戦略条件ではすべての遺伝子が有効となる。

13)  交互作用に関する単純主効果についてもすべてが有意となった。シミュレーションデータはサンプルを任意の数だけとることが可能であり、そもそも統計的検定に意味があるかどうかといった議論もあるだろう。

14)  混合戦略条件における多数派同調個体と少数派同調個体の閾値の違いは無視できるほど小さいことが別に行ったシミュレーションにより確認されているため(具体的には、集団レベル淘汰1では多数派同調個体.50/少数派同調個体.50、集団レベル淘汰10では多数派同調個体.37/少数派同調個体.42)、ここでは両戦略のデータをまとめて提示した。

References
 
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