社会心理学研究
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原著論文
「自由」なメディアの陥穽:有権者の選好に基づくもうひとつの選択的接触
稲増 一憲三浦 麻子
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2016 年 31 巻 3 号 p. 172-183

詳細

問題

人々を取り巻くメディア環境においてインターネットの存在感が増す中で、社会心理学・コミュニケーション研究の分野において半世紀以上の歴史を持つ選択的接触研究に再び注目が集まっている。本研究は、多くの研究の蓄積がある「党派的な有権者が自らの先有態度に沿った情報に接触する」という党派性に基づく選択的接触ではなく、Prior (2007)が示した娯楽・ニュースという有権者のメディア内容に対する選好に基づく選択的接触研究を発展させ、新たに登場するインターネット上の各サービスと有権者の政治・国際ニュースについての知識の関連を検証する。次々と登場する新しいサービスの表面上の違いを追いかけるのではなく、有権者の知識の差を拡大しうるのか縮小しうるのかという観点から各サービスを捉えることで、民主主義社会に重大な危機をもたらす有権者の分極化と関連づけて考察するフレームワークを提示する。

メディア環境の変化と有権者の分極化

人々が自らの先有態度に沿う情報に接触し、沿わない情報を回避するという選択的接触は、マスメディアの限定効果論の中心であった(Klapper, 1960)。選択的接触が生じることで、マスメディアへの接触は有権者の態度を補強する効果は持つが、態度を変えるような効果は持たないというのである。その後、Sears & Freedman (1967)による批判的なレビューにより、実証研究の知見が必ずしも一貫しないこと、とくに、有力な理論的根拠とされる認知的不協和によって選択的接触が生じることを示した研究が少ないことが指摘されるとともに、議題設定効果やフレーミングといった「新しい強力効果論」と呼ばれる研究群が登場したことにより、70年代以降は選択的接触研究への注目は低下していった。

しかし、近年のメディア環境の変化が選択的接触研究を再びメディアコミュニケーション研究の中心へと押し上げた。まず、情報発信環境の変化により、メディアが一部の層のみを狙う戦略を取れるようになった。日本を含む多くの国では中間的なイデオロギー的立場の有権者が多く(蒲島・竹中,1996)、新聞や地上波テレビなどのマスメディアの事業者たちは、読者を確保するために、ある程度の中立性を確保した両面的な報道を行うよう動機づけられる。しかし、ケーブルテレビやインターネット上のブログなどは既存のマスメディアほどの視聴者・読者を必要としないため、あえて極端な主張を行うことで、特定の層の強固な支持を得る戦略を取ることができる(Bennett & Iyengar, 2008; Stroud, 2011)。

加えて、インターネットの普及率が8割を超え(総務省,2014)、20代ではテレビと利用時間で並ぶなど(諸藤・関根,2012)、メディア環境の中でその存在感が増していることは、政治情報の受容をも変化させた。チャンネルを選択すれば決まったニュースが放送されるテレビや毎朝自宅に配達される新聞のように、自動的にパッケージ化された情報がやってくる受動的なマスメディアに対して、インターネットで自らが望む情報を獲得するためには記事の検索や、一覧表示から特定の記事を選択してクリックする、といった行動が必要となる。こうした能動性が要求されるインターネットでは、情報を獲得するコストが増大し、わざわざ自分の態度と異なる情報に接触する行動は減少すると考えられる。

さらには、インターネットが持つ技術的特徴も選択的接触を促進する可能性がある。Sunstein (2001)は、主張が同じサイト同士のリンクや情報フィルタリング技術によって、民主主義の前提となる「自らと異なる意見への接触」が減少する危険性を指摘した。またPariser (2011)は、Google検索、Facebook記事表示、Amazon商品推薦など、多様なサービスで個人の過去の行動履歴に基づくパーソナライズが行われており、自分の関心とは異なる情報に触れにくくなっていることを指摘した。彼は人々が個人ごとに異なる自分だけの情報世界に包まれ、お互いのそれが交わらない状況を「フィルター・バブル」と表現している。このようにインターネットが個人の関心に沿った情報のみへの接触を促すことへの社会的警告がある一方で、近年利用者が増加しているニュース・キュレーションアプリ(ニールセン株式会社,2014)など、人々の関心に沿う情報を届けるサービスは広がっている。

インターネット利用と党派性に基づく選択的接触についての実証研究

インターネット利用が選択的接触を促進するという言説はデータによって支持されているのだろうか。実は、両者の関係性を示した経験的研究は、理論的研究やジャーナリスティックな指摘に比して少なく、知見も一貫していない。

Stroud (2010)は、RDD法に基づく電話調査データを用いて、保守・リベラル両陣営寄りのメディアへの選択的接触と有権者の態度の分極化の関連を示しているが、ラジオ、新聞、テレビなど他メディアとインターネットでの接触を合算して党派的メディアへの接触がもたらす効果を検討しており、インターネット利用のみを取り出しているわけではない。

インターネット利用と選択的接触の関連を示した研究には、電話調査による2004年アメリカ大統領選時のものがある(Garrett, 2009)。この研究では、ブッシュ・ケリー陣営のサイトへの接触に対して、ブッシュ支持層においてのみ選択的接触を示す結果が見られた。ただし、オンラインニュースへの接触において、自らの先有態度に沿う情報に接触する傾向は見られたものの、沿わない情報を回避する傾向は見られなかった。Garrett, Carnahan, & Lynch (2013)による電話調査を用いた研究でも、先有態度に沿う/異なるニュースサイトへの接触の間に正の関連が示されており、これは先有態度に沿わないサイトを回避する傾向とは矛盾している。また日本においても、Kobayashi & Ikeda (2009)がJESIIIの面接調査データを用いて、2005年衆院選時の郵政民営化争点について、ウェブ上での政治情報探索行動と自身の態度に沿った論点への接触の間の正の関連を指摘しているが、態度に沿わない論点の回避を示す結果は得られていない。さらには実験における知見も、選択的接触の存在を部分的に支持するに留まっている。オンライン雑誌を模したサイトの記事への接触を測定した研究(Knobloch-Westerwick & Meng, 2009)では、先有態度に沿う記事への接触時間の平均値は沿わない記事への接触時間より36%多かったが、全接触時間の43%は先有態度と異なる記事への接触に割り当てられていた。また、オンラインでの情報接触におけるイデオロギー的な分極化の程度は、対面でのコミュニケーションや新聞接触よりも低い(Gentzkow & Shapiro, 2011)という知見や、インターネット利用が異質な情報や他者への接触を促進する(Lee, Choi, Kim, & Kim, 2014; Messing & Westwood, 2014; Wojcieszak & Mutz, 2009)という選択的接触とは正反対の知見も得られている2)

インターネットが持つマスメディアと異なる立ち位置や技術的特性から予想される事態とは異なり、インターネット利用による選択的接触を支持する明確なデータが得られていないのは、Prior (2013)が指摘するように、そもそも党派性に基づいてメディアに接触する有権者の割合の少なさによると考えられる。たとえば、Nie, Miller, Golde, Butler, & Winneg (2010)は、右寄りとされるFOXニュース視聴者と左寄りとされるCNN視聴者を対象とした調査で、これらのニュースに加えてオンラインニュースにも接触しているものは(そうでないものよりも)FOXニュース視聴者は右、CNN視聴者は左にさらに寄っていることを示している。しかし、テレビニュースと同様にインターネットでも党派に基づいた選択を行う有権者がどの程度一般的なのかは疑問である。Iyengar, Hahn, Krosnick, & Walker (2008)は、複数の政策に対する民主・共和両陣営の候補者の演説が視聴可能なウェブサイトを構築することで、人々の情報接触行動を追跡した実験によって、党派性よりも全体的な政治関心や政策争点との関わりにおいて選択的接触が生じやすいことを示している。また、Dvir-Gvirsman, Tzfati, & Menchen-Trevino(in press)は、イスラエルの選挙戦において人々の実際のウェブ閲覧を測定したデータの分析から、党派性に基づく選択的接触はわずか3%という結果を得ている。さらに日本では、NHK放送文化研究所による政治意識月例調査の政党支持項目において、選挙前後を除けば「支持なし」「わからない・無回答」の合計が4割を超え続けており、そもそも党派性自体を持たない有権者も多い(https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/)。

有権者の選好に基づくもうひとつの選択的接触

民主主義社会で党派性に基づく選択的接触が問題となるのは、異なる党派の意見との接触の喪失が、人々をより極端な方向へと分断する分極化が生じるためである(e.g., Baum & Groeling, 2008; Prior, 2013)。強い党派性に基づいて政治と関わる有権者が決して多くないことは、インターネットの普及が即座に党派性に基づく選択的接触による有権者の分極化に繋がらない原因となりうるが、関わりが強固でないからこそ起こる問題もある。

Downs (1957)による政治に関する経済学的研究や、Riker & Ordeshook (1968)のR(報酬)=P(自分の1票が結果に影響する確率)×B(候補者・政党間の政策の相違に基づく利益の差)−C(コスト)+D(義務感)というモデルが示すように、多くの有権者が政治に関わる民主主義社会においては、個人の投票が結果に与える影響は極めて小さいため、政治参加やその前提となる知識の獲得にコストをかけることは合理的ではない(合理的無知)。したがって、民主主義社会を支えるには、参加コストを下げる仕組みが必要になる。中でも参加の前提となる知識獲得の際に重要なのは無料の情報入手、とくに政治情報の入手を目的としない活動を通じた偶発的・副産物的な学習である(Downs, 1957; Popkin, 1994)。たとえば「さあ、今から政治について学ぶぞ」と構えずとも、朝の支度をしながら時計代わりに点けている情報番組から政治ニュースを知ることができるような仕組みである。

これに対してPrior (2007)は、偶発的・副産物的な政治学習は地上波テレビを中心とした特定のメディア環境に依存することを示している。チャンネル数つまり選択肢が少ないメディア環境では、どの局もニュースを放送している朝や夕方の時間帯に、テレビを消すよりは良いからとニュース番組を視聴し、結果的に政治情報を入手する有権者が少なくなかった。しかし、ケーブルテレビやインターネットの普及で「いつでも娯楽番組を視聴する自由」「政治情報に触れない自由」を獲得した人々の選好がメディア視聴に直接反映されるようになった。その結果、娯楽志向の強い人々は完全に政治から離れ、ニュース番組を好んで視聴する人々との間で政治知識や投票における格差が拡大した。実際、過去数十年の米国の政治知識量は、平均値にほぼ変化がない一方で、分散は拡大しているという。

こうしたメディア環境の変化による問題は、党派性を持って政治と関わる有権者が多数派でない社会でこそ成り立つものである。しかし、結果として生じうるのは、党派性に基づく選択的接触と同様に有権者の分極化である。偶発的・副産物的政治学習によって最低限の知識を得て政治に参加していた有権者たちが完全に政治から遠ざかることで、政治に関わり続けるのは元々強い関心を持つ人々のみとなる。こうした人々は党派性を持つ場合が多いため、中間的な態度の有権者が失われたことで有権者全体が分極化し、彼らの支持を獲得するために政党や候補者が極端な主張を掲げることになるというのである。

Prior (2007)の研究を受けて、マスメディアを通じた偶発的・副産物的な政治学習の効果に関する研究が進められている。Shehata (2010)の面接調査による研究は、テレビや新聞への接触が投票参加に際する社会経済的地位に基づくギャップを埋める働きを持っていることを、またShehata (2013)はサンプルの代表性が確保された2波のインターネット調査によって、テレビ視聴、とくに受動的な視聴行動が政治知識の平均化をもたらすことを示している。さらにKsiazek, Malthouse, & Webster (2010)は、ニュースを避けるNews Avoiderとニュースに積極的に接触するNews Seekerはほぼ同程度ずつおり、News Avoiderでニュース接触と市民参加の関連が強いこと、つまりNews Avoiderにおける「偶発的に少しでもニュースに接触する」ことの重要性を示唆する結果を得ている。

その一方で、偶発的・副産物的な政治学習の減少については、Blekesaune, Elvestad, & Aalberg (2012)が、4波の国際比較パネル調査データの分析により、ヨーロッパにおいてニュースに全く接触しない人々が増加していることを明らかにしている。またStromback, Djerf-Pierre, & Shehata (2013)の研究は、1986年から2010年までの時系列データを用いて、News AvoiderとNews Seekerの間でニュース消費傾向の違いが拡大し、政治関心の有無がニュース消費の程度を分ける決定的要因になりつつあることを示している。

Sunstein (2001)Pariser (2011)の議論は、有権者の党派性による選択的接触と選好による選択的接触を明確に区別してはいなかった。しかし、Prior (2007)に繋がる研究群は、両者を区別すること、そして後者に注目することの重要性を示している。

日本のメディア環境の特徴と有権者の情報接触行動

とはいえ、Prior (2007)の米国データを用いた指摘がそのまま日本においてあてはまるかどうかについては留保が必要である。なぜなら、同時代においても国や地域ごとにメディア環境は大きく異なるためである。

たとえば、Shehata & Stromback (2011)の欧州におけるメディア環境を扱った国際比較研究では、新聞中心のメディア環境が存在する国では個人レベルの教育程度や政治関心と新聞購読の有無の関連が弱いことが示されている。また、Iyengar, Curran, Lund, Salovaara-Moring, Kyu, & Coen (2010)は、欧米4か国の国際比較調査を行い、メディア環境の市場化の影響を検討している。その結果、個人の関心に基づく政治知識の差は市場化が進んだ米国では大きく、進んでいない北欧諸国では小さいことを示している。

翻って日本のメディア環境について見ると、Papathanassopoulos, Coen, Curran, Aalberg, Rowe, Jones, Rojas, & Tiffen (2013)の11か国の国際比較調査によれば、日本は全体としての新聞利用者数は多いものの、相対的に利用率の高い高齢層と利用率の低い若年層の年代差がもっとも大きいという特徴を併せ持つ。つまり、有権者の選好がニュース接触に直接反映されにくい一方で、将来的にはこのメディア環境が失われる可能性も高い。また、Prior (2007)はケーブルテレビの普及を有権者の選択肢の増加の重要な要因として挙げているが、日本では現在でもケーブルテレビよりも地上波テレビのシェアがかなり大きい(総務省,2014)。その一方で、前述のとおりインターネットの普及率は8割を超えており、若年層では利用時間がテレビと並ぶ(諸藤・関根,2012)というデータも存在する。つまり現状では、日本は有権者の選好が直接情報接触に反映されやすいメディア環境にあるとはいえないが、近い将来マスメディアの存在感の低下とインターネット利用のさらなる拡大によって環境が激変する可能性は低くない。したがって、日本においてメディア環境の変化が有権者の情報接触行動に及ぼす影響の検討は喫緊の課題である。

ただし、Prior (2007)の出版から既に10年近くの歳月が経過し、「インターネット利用」と一口に言ってもその中身の多様さは増す一方であることを忘れてはいけない。Kobayashi & Inamasu (2015)は、日本ではポータルサイト、中でもYahoo!の利用率が圧倒的であることがもたらす特徴的なメディア環境を明らかにしている。彼らの研究では、多くの有権者がポータルサイトのトピックスとして表示された政治・経済・国際などの「堅い」ニュースに偶発的に接触しており、それにより娯楽志向を持つ人々とニュース志向を持つ人々の政治知識の差が縮小することを示唆する結果が得られている。つまりPrior (2007)が示した、偶発的・副産物的学習によって「個人の選好に基づく政治知識の差を縮小するメディア」と「選好がそのまま反映されるメディア」という視点は重要だが、もはや「マスメディアとインターネット」という大まかな区別のみで対応しうる状況にはなく、この視点を元に個別のサービスを捉える必要があろう。

リサーチクエスチョン

本研究では、Prior (2007)が提示した個人の選好に基づく政治知識の差を縮小するメディア、拡大するメディアという枠組みを現代日本のメディア環境に適用し、さまざまなウェブサービスがどちらに該当するのかを検証する。そして、各サービスの特徴を捉える上でも、この枠組みが適用可能であることを示す。有権者における政治知識の差に注目するため、政治情報が扱われているサービス—ポータルサイト、新聞社サイト、Twitter, Facebookといったソーシャルメディア、ニュース・キュレーションアプリ(以下ニュースアプリ)、2ちゃんねるまとめサイトを研究対象として選定した。

これらのサービスの中には登場してから日が浅く、日本に特徴的なサービスも含まれるため、個々のサービスについての仮説を立てる上での先行研究は不十分である。とくに、有権者の選好に基づく選択的接触に注目した研究はほとんど存在していない。そこで本論ではリサーチクエスチョンを立てるに留め、各サービスが個人の選好に基づく知識の差を縮小/拡大する傾向について得られた結果を、過去のメディア研究の知見を引用しながら考察する。ただしポータルサイトについては、Kobayashi & Inamasu (2015)で検討されており、利用により有権者の選好に基づく政治知識の差が縮小することが示されている。これについては彼らの知見の再現性を検証する。ただし、Kobayashi & Inamasu (2015)は、ニュース番組と娯楽番組への接触頻度を測定し、娯楽番組への接触頻度を両者の合算値で除した値を有権者の選好分析に用いている。これに対して本研究ではPrior (2007)の先行研究に近い測定法を用いるとともに、より外的妥当性を考慮した手法を用いる。もし、本研究においても、Kobayashi & Inamasu (2015)が示した結果が再現されれば、彼らの知見の測定手法の違いに対する頑健さを示すことになる。

本研究では先行研究において検討されてきた政治ニュースだけでなく、国際ニュースについての知識にも注目する。奥村(2010)が「(ヤフーニュースでは)コソボは独立しなかった」という刺激的な言葉で表しているように、インターネット上で好んでクリックされるニュースは国内のものが圧倒的で、少なくとも日本では国際ニュースをわざわざクリックして読む人々の割合は非常に少ない。彼の議論に鑑みると、新聞・テレビニュース・ポータルサイトなどにおいて設けられている、国外の政治・経済・社会問題を扱う「国際」カテゴリーは、「(国内)政治」以上に娯楽志向の強い人々に避けられる可能性が高いジャンルとなる。したがって人々が偶発的・副産物的に接触できる機会の有無による違いは、国内の政治ニュースよりも国際ニュースにおいてより顕著になる可能性がある。

リサーチクエスチョン:政治・国際ニュースが扱われるインターネット上のサービスのうち、有権者の選好に基づく知識の差を縮小するメディア、拡大するメディアは何か

方法

予備調査と対象者のスクリーニング

まず、2014年9月下旬に、従属変数である政治・国際ニュース知識を測定する質問を選定するため、の実験参加者募集システムに登録している学部学生のうち200名を対象に予備調査を行った。知識測定方法は、選挙研究における標準的手法(cf., Delli Carpini & Keeter, 1996)に倣い、正答1つに誤答3つを加えた4択のクイズ形式である。なお、メールで調査URLを通知して協力を求めるウェブ調査を行ったので、正解を調べてから回答することが容易にできる状況にあった。そこで、「わからない」という選択肢を設け、調査目的は個人ごとの正解数を競うものではなく時事ニュースの周知度を知ることであり、知らない場合には調べたりせずに「わからない」を選択するよう教示した3)。2014年8月および9月前後のニュースを題材に、(国内)政治・国際・社会文化・スポーツの4ジャンル10問ずつ計40問の4択の時事問題を作成し、半分の5問ずつ計20問の質問を100名ずつの対象者に行い、各設問の正答率を求めた。項目の選定に際しては「朝日新聞デジタル」「読売Online」の「政治」「国際」「カルチャー」「社会」「スポーツ」カテゴリー、およびポータルサイト「Yahoo!」の「国内」「国際」「エンタメ」「スポーツ」カテゴリーを参考に、マスメディア・インターネットの両方で取り上げられているニュースであることを基準とした4)

その上で、2014年10月にウェブ調査サービスFastaskの登録モニタ17637名を対象としたスクリーニング調査を行った。三浦・小林(2015)が示すとおり、ウェブ調査の登録モニタには、謝礼目的で登録し、調査回答にかけるコストを最小限に留めようとする回答者が一定数含まれることは避けがたい。質問項目を読まずに回答されたデータは結果を歪めることに繋がると考え、あらかじめ不注意回答傾向のあるモニタを特定し、本調査の対象から除外することにした。スクリーニングには反転項目を含む2つの尺度(5件法)—正当世界尺度(今野・堀,1998)と批判的思考態度尺度の「客観性」項目(平山・楠見,2004)—を用いた。性別と年代(20~60代以上)に基づく層化を行い、2×5=10セルの回答者数がなるべく等しくなるよう調査を依頼した。いずれかの尺度で「3=どちらともいえない」以外の同じ回答を選択し続けた1812名を本調査の対象者から除外した。

本調査5)の配信は2000名の回収を目標に行ったが、最終的に2250名の協力を得た。回答者の平均年齢は45.19歳(SD=14.64)、男女はそれぞれ1125名ずつであった。

独立変数

独立変数はインターネット上における各サービスの利用である。ポータルサイト、新聞社サイト、ニュースアプリ、2ちゃんねるまとめサイトの利用については、「5=ほぼ毎日」「4=週数回」「3=週一回程度」「2=それ以下」「1=利用しない」の5段階で頻度の測定を行った。ソーシャルメディアとしては、調査時点の日本国内において利用者が多く、政治・社会的なニュースがよく扱われるTwitterならびにFacebookを取り上げ、「5=聞いたこともない」「4=知っているが使ってはいない」「3=閲覧はするが、情報発信やコメントはしない」「2=情報発信はしないが、他の人にコメントする」「1=このコミュニケーションの場を通じて発信する」という5つの選択肢を設けた。このうち、5と4はともに利用していないという内容であるため統合し、その上で値が大きいほど活発な利用を示すように値を反転した6)。なお、ソーシャルメディアについて利用頻度ではなく利用形態を尋ねたのは、これらはコミュニケーションツールであるため他者との交流によってアクセス頻度が大きく左右されること、利用者の多くが一日に一回以上アクセスしており、ポータルサイト等のような形で頻度を測定することが難しいことによる7)

干渉変数

Prior (2007)を参考に、干渉変数として、娯楽・ニュース志向を取り上げた。彼は有権者の選好の測定に際して、Knowledge network panelを対象としたウェブ調査において番組ジャンル(ニュース・音楽・スポーツなど)やケーブルテレビのチャンネルを提示して好みの/見たいものを選択させることで、REP(Relative Entertainment Preference)という尺度を作成している。この尺度は相対的な番組の好き嫌いを尋ねるため、政治にどれくらい注意を払っているかを尋ねる政治関心に比べて、社会的望ましさの影響を受けにくいとされる。そこで、本研究では、研究の外的妥当性を考慮するとともに、ニュースを選ぶことが社会的に望ましいという規範の影響を極力避けるため、「もし仮に、夜の9時に次の番組が放送されており、あなたがいずれかの番組を視聴するとすれば、どの番組を視聴しますか。」という形で実際に番組を選択させる質問を行った8)。本研究の独立変数は人々のウェブ上における各サービスの利用であり、干渉変数となる有権者の選好を測定する上では、それとは独立したウェブ以外の場面における行動を用いる必要があるため、テレビ番組の選択状況を用いた。選択肢はニュース(「NHKニュースウォッチ9」「ここがポイント!! 池上彰解説塾」)、バラエティー(「きょうの料理」「人生が変わる1分間の深イイ話」)、ドラマ(「月曜ゴールデン」「信長協奏曲」)の3ジャンル6番組である。午後9時という時間帯を設定した理由は、総務省の平成23年社会生活基本調査において「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」という行動をしている回答がもっとも多く、唯一3割を超える時間帯だからである(総務省,2011)。また、月曜日を選んだ理由は、調査実施当時主要局で放送されていた番組が各ジャンル2番組ずつと内容のバランスが良いためである。

従属変数

本論文は、予備調査で選定した知識項目のうち、ニュース志向ではなく娯楽志向を持つ人々は避けがちだが、有権者が政治と関わる上で必要だと考えられる政治および国際ニュースについての項目のみを取り上げる。回答者の過度の負担を避けるために問題数を4問に絞るとともに、知識を持った回答者とそうでない回答者を弁別しやすくするため、難易度にばらつきを持たせた。具体的には、予備調査の正答率が0~25%、26~50%、51~75%、76~100%の項目を1つずつ選び、正解数0~4の尺度とした。国内政治ニュースは「ヘイトスピーチ」「吉田調書」「第2次安倍改造内閣の名称」「2014年8月のGDP速報値」、国際ニュースは「エボラ出血熱」「スコットランド独立住民投票」「香港における民主的な選挙を求める学生運動」「トルコにおける初の大統領選」についての質問(いずれも予備調査の正答率が高い順)を用いた。

統制変数

上記の変数に加えて、デモグラフィック要因として性別(0=女性、1=男性)、年齢、教育程度(1=中学校・高校卒、2=専門学校・短大卒、3=大学・大学院卒)を分析に投入した。また、ニュースを扱うマスメディアとして「新聞」「NHKニュース」「民放のストレートニュース」「民放のニュースショー」「ワイドショー」への接触頻度を「5=ほぼ毎日」「4=週数回」「3=週一回程度」「2=それ以下」「1=利用しない」の5段階で測定し、統制変数として分析に投入した。

分析

分析にはHAD ver.13.1(清水・村山・大坊,2006)を用いたが、Stata ver.13を用いても結果が同様になることを確認している。従属変数は非負のカウントデータであるため、Long (1997)を参考に、ポアソン分布を仮定した一般化線形モデルによる分析を行った。

結果

単純集計

各インターネットサービスの利用状況の度数分布はTable 1に示したとおりである。ポータルサイトの利用が非常に多く、半数近くの回答者がほぼ毎日接触している一方で、ニュースアプリは全く見ない回答者が7割弱を占めていた。それ以外のサービスは、全く利用しない回答者が半数程度存在していた。

Table 1 インターネットサービス利用についての度数分布
全く見ない週1回以下週1回程度週数回ほぼ毎日
ポータルサイト321 (14.3%)179 (8.0%)182 (8.1%)393 (17.5%)1175 (52.2%)
新聞社サイト881 (29.2%)502 (22.3%)235 (10.4%)342 (15.2%)290 (12.9%)
ニュースアプリ1518 (67.5%)285 (12.7%)105 (4.7%)149 (6.6%)193 (8.6%)
まとめサイト1000 (44.4%)498 (22.1%)227 (10.1%)288 (12.8%)237 (10.5%)
利用しない閲覧のみ閲覧・コメントのみ情報発信する
Twitter1252 (55.6%)468 (20.8%)90 (4.0%)440 (19.6%)
Facebook1181 (52.5%)433 (19.2%)144 (6.4%)492 (21.9%)

娯楽志向・ニュース志向の測定においては、「ニュースウォッチ9」「ここがポイント!! 池上彰解説塾」を選択した回答者をニュース志向(1245名)、それ以外の番組を選択した回答者を娯楽志向(1005名)と分類した。クイズ形式の質問の正答数で測定した国内の政治ニュース知識の平均値は1.8(SD=1.03)、国際ニュース知識の平均値は2.5(SD=0.95)であった(以下ではそれぞれ政治知識、国際知識と表記する)。なお、個々の質問の正答率には、学生を対象とした予備調査と最大で30%程度の差異があるものもあったが、正答数の分布に著しい偏りはないため、分析に支障はないとみなしてそのまま分析を行った9)

リサーチクエスチョンの検証

ポアソン分布を仮定した一般化線形モデルを用いた分析結果をTable 2に示す。交互作用を分析に投入しないモデル1-1および2-1においては、ポータルサイト・新聞社サイト・まとめサイト・Twitterの利用が政治知識と、ポータルサイト・新聞社サイト・Twitterの利用が国際知識と、いずれも統計的に有意な正の関連を持っていた。このようにインターネット上のサービスは総じて知識との間に正の関連を持っていたが、本研究において問題となるのは交互作用である。交互作用が有意であったものの一部をFigure 1, 2に示す。なお、図中のエラーバーは標準誤差を表している。

Table 2 政治知識・国際知識を予測する一般化線形モデル(ポアソン分布)
政治知識国際知識
モデル1-1モデル1-2モデル2-1モデル2-2
BSEBSEBSEBSE
性別(女性=0 男性=1)0.057(0.025)*0.059(0.024)*0.035(0.016)*0.035(0.016)*
年齢0.004(0.001)***0.003(0.001)***0.005(0.001)***0.005(0.001)***
教育程度0.089(0.014)***0.086(0.014)***0.049(0.009)***0.048(0.009)***
娯楽志向−0.135(0.026)***−0.156(0.027)***−0.042(0.017)*−0.045(0.017)**
新聞接触0.015(0.007)*0.015(0.007)*0.010(0.005)*0.010(0.005)*
NHKニュース接触0.045(0.011)**0.045(0.010)***0.022(0.007)**0.022(0.007)**
民放ストレートニュース接触0.041(0.014)**0.038(0.014)**0.019(0.009)*0.017(0.009)
民放ニュースショー接触0.018(0.012)0.019(0.012)0.014(0.008)0.013(0.008)
ワイドショー接触−0.034(0.010)**−0.032(0.010)**−0.013(0.007)−0.011(0.007)
ポータルサイト利用0.072(0.010)***0.076(0.010)***0.037(0.006)***0.038(0.006)***
新聞社サイト利用0.021(0.009)*0.029(0.009)**0.007(0.006)0.011(0.006)
ニュースアプリ利用−0.018(0.009)−0.025(0.010)*−0.009(0.007)−0.012(0.007)
まとめサイト利用0.025(0.010)**0.026(0.010)**0.002(0.007)0.002(0.007)
Twitter利用0.045(0.011)***0.042(0.012)**0.016(0.008)*0.013(0.008)
Facebook利用−0.013(0.011)−0.012(0.011)−0.006(0.007)−0.005(0.007)
娯楽志向×ポータルサイト0.075(0.021)***0.029(0.013)*
娯楽志向×新聞社サイト0.061(0.017)***0.023(0.011)*
娯楽志向×ニュースアプリ−0.059(0.021)**−0.036(0.014)*
娯楽志向×まとめサイト0.014(0.019)0.023(0.013)
娯楽志向×Twitter−0.012(0.024)−0.046(0.016)**
娯楽志向×Facebook0.003(0.023)0.007(0.015)
切片0.529***0.534***0.900***0.903***
R squared(近似値).175.189.132.149
Cox–Snell.112.120.052.055
N2250225022502250

***p<.001, **p<.01, *p<.05, p<.10

多重共線性を避けるために変数の中心化を行った上で交互作用を投入したモデル1-2・モデル2-2で、娯楽志向とメディア利用の間に正の交互作用が見られたのは、ポータルサイト(Figure 1)および新聞社サイトにおいてであった。また、娯楽志向とまとめサイト利用の間には、国際知識を従属変数としたモデル2-2においてのみ正の交互作用が見られた。図に示すとおり、娯楽志向を持つ者とニュース志向を持つものの知識の差は、ポータルサイト利用が高い場合により縮まっており、図は省略するが新聞社サイトについても同様の結果が見られた。すなわちこれらは、有権者の選好に基づく知識の差を縮小するメディアであることが示唆される。

Figure 1 政治知識・国際知識に対する娯楽志向とポータルサイト利用の交互作用(モデル1-2, 2-2;エラーバーは標準誤差)

一方で、モデル1-2・モデル2-2において、娯楽志向とニュースアプリ利用との間に負の交互作用が見られた。また、国際知識を従属変数としたモデル2-2においてのみ娯楽志向とTwitter利用との間に負の交互作用が見られた(Figure 2)。図に示すとおり、娯楽志向を持つ者とニュース志向を持つものの知識の差は、Twitter利用が高い場合により拡がっている。すなわちこれらは、有権者の選好に基づく知識の差を拡大するメディアであることが示唆される。なおFacebookについては、政治知識・国際知識との間に統計的に有意な関連は見られず、娯楽志向との交互作用も有意ではなかった。

Figure 2 娯楽志向とTwitter利用の交互作用(モデル2-2;エラーバーは標準誤差)

次に政治知識と国際知識の比較では、全サービスで、政治知識を従属変数としたモデル1-1・1-2のほうが国際知識を従属変数としたモデル2-1・2-2よりも偏回帰係数の値が大きかった。これは、各インターネットサービスの利用において主に国内のニュースが扱われているため、サービスの利用は国際知識よりも政治知識と強く関連していることを反映していると考えられる。しかし、そのような状況下でも、まとめサイト・Twitterの利用と娯楽志向との交互作用においては、モデル2-2のほうがモデル1-2よりも偏回帰係数の絶対値が大きくなっていた。統計的仮説検定の結果も、両者ともモデル2-2においてのみ有意であった(まとめサイトについては10%水準)。これは、ふだんマスメディアで取り上げられる機会が少ない国際ニュースだからこそ、ニュース志向を持たない人々の偶発的・副産物的接触の有無というメディアの特徴が顕著に現れることを示唆する結果である。

なお、これまでに説明してきたウェブサービスの利用に関する分析結果については、すべてマスメディアへの接触を統制した上でのものだが、これらの変数を分析から取り除いても偏回帰係数の値はほとんど変わらなかった。つまり、マスメディアへの接触とウェブ上のサービスへの接触は、独立して政治知識・国際知識と関連を持っているようである。

考察

本研究は、インターネット上のさまざまなサービスが、偶発的・副産物的学習によって個人の選好に基づく政治・国際知識の差を縮小するメディアなのか、それとも選好がそのまま反映されることで将来的に選好に基づく知識の差を拡大するメディアなのかを検討した。ウェブ調査による検討の結果、差を縮小していたのはポータルサイト、新聞社サイト、2ちゃんねるまとめサイトの利用、差を拡大していたのはニュースアプリとTwitterの利用であった。

ポータルサイト利用についての結果は、Kobayashi & Inamasu (2015)による先行研究に沿うものである。有権者が接触可能なメディアの選択肢が多様化する中でも、ポータルサイトの利用が選好に基づく政治知識の差を縮小するという知見は、彼らの調査から経過した4年という歳月と娯楽志向の測定法の違いに対して頑健であった。一方で、新聞社サイトについては、Kobayashi & Inamasu (2015)でも測定されてはいたが、統計的に有意な交互作用は得られていなかった。本研究では選好に基づく政治知識・国際知識の差を縮小するという知見が得られた。サイトの特徴から考えると、アクセスするとまず「新着」という形で「政治」「国際」ニュースを含むさまざまな記事が表示される新聞社サイトの利用は、ポータルサイトと同様に偶発的・副産物的学習の促進に繋がってもおかしくない。日本の主要紙において電子版購読サービスが出揃ったのは2011年以降であったことを考えると10)、この4年でインターネット上での新聞社サイトの存在感が増し、ポータルサイト同様の役割を果たすようになったことを示唆している。

2ちゃんねるまとめサイトにおいても同様の効果が得られた。しかしこうしたサイトでは、政治や外交についての記事が取り上げられる一方、ポータルサイトや新聞社サイトのようにジャーナリストとしての使命に基づき「堅い」ニュースが扱われているわけではなく、あくまで娯楽のひとつとして扱われている場合が多い。これは偶発的・副産物的な接触というよりは、政治関心を持たない有権者が娯楽性に基づいてニュースに接触するという現象(Baum, 2003)に近いものであろう。Baum (2003)が“Soft news goes to war”と表現したように、娯楽的メディアを通じて外交問題に触れることは、安易に戦争を支持する世論の形成などネガティブな帰結を招く可能性もある。2ちゃんねるまとめサイトの利用はレイシズムとの関連も指摘されており(高,2014)、これを通じた国際ニュースに関する知識の獲得が社会的に望ましい結果に繋がるかどうかは別途検討する必要がある。

GunosyやSmartnewsといったニュースアプリは登場した当初は個人のウェブ上における行動を元に関心に沿った記事を表示するパーソナライゼーションを行っていたものの、近年この機能は廃止されている。しかし、表示されるニュースのジャンルならびにその順番については利用者がカスタマイズすることが可能である。したがって、インターネット上の情報が個人には選択しきれないほど莫大になる中で、個人に対しては自身の関心に沿った記事のみに簡単に接触できるというメリット、広告主に対しては商品やサービスに興味を持つ可能性が高い利用者に広告を届けやすくなるというメリットを提供する。本調査における利用率は3割程度と少なかったものの、今後普及していく可能性は高い。しかし、党派性に基づく選択的接触に関しては、このようなサービスが異質な意見への接触を減少させることが示されている(Beam, 2014)のに加えて、本研究では有権者の選好に基づく政治知識・国際知識の差を拡大する効果を持つ、すなわち選好に基づく選択的接触も促進することを示唆する結果が得られた。したがって、現在のシステムのままのニュースアプリがマスメディアに代わって広く用いられるようになると、娯楽志向を持った人々をニュースから遠ざけ政治から退場させるとともに、残った党派的な人々は先有態度に沿った情報のみに接することで分極化が加速するという危険性を孕む。ニュースアプリが社会において主要なニュースメディアとしての地位を得るとするならば、社会的責任として、ポータルサイトなどと同様に、利用者の選好に関わらず一定程度の政治的・社会的なニュースが含まれるようなシステムを構築することが望まれる。

ソーシャルメディアのうち、Twitterにおいては、マスメディアのアカウントや社会的な発言を行う著名人などをフォローすることも一般的であり、主効果においては政治知識・国際知識と正の関連を持っていたことからもわかるように、ニュース知識を届けるメディアとして有用である。しかし、モデル2-2の負の交互作用(Table 2, Figure 2)に表れているように、知識を獲得できるのは元々ニュースを求める選好を持った人のみだという傾向が強い。ソーシャルネットワーク研究においては、ウェブ上に限らず、人間は自分と似たような他者を好む傾向(homophily; McPherson, Smith-Lovin, & Cook, 2001)を持つことが古くから指摘されているが、ソーシャルメディアについても、自身と似たような関心を持つ他者、あるいは自身の関心に沿った内容を投稿する他者をフォローしたり、リンクを申請すると考えられる。利用開始と同時にニュースを発信するアカウントをフォローした状態になるといった仕組みがなく、誰をフォローするかが完全に個人の選択に任されている現状においては、テレビニュースや新聞の代替にはなりえないだろう11)

本研究で取り上げたサービスのうち、選好に基づく政治知識・国際知識の差の縮小に貢献すると考えられるものは「ポータルサイト」「新聞社サイト」「2ちゃんねるまとめサイト」の3つ、差を拡大すると考えられるものは「ニュースアプリ」「Twitter」の2つであった。これらの結果を踏まえて、日本の有権者を取り巻く情報環境の変化について考えると、このままでは決して「メディアを通じた接触によって情報の偏りが解消される」明るい未来が拓けているとはいえない。2013年末の時点でインターネット利用率は82.8%であるのに対して、自宅のパソコンから利用しているものは58.4%、スマートフォンは42.4%と両者の割合は近づきつつある(総務省,2014)。パソコンからのメディア接触はブラウザ起動から始まり、最初に表示されるページとしてポータルサイトを設定していることが多い。一方、スマートフォンによるメディア接触(たとえばニュースアプリやTwitterの利用)は、ポータルサイトにアクセスすることなく、自らの望むサービスをアプリとして直接起動するのが一般的である。したがって、スマートフォンを通じたアクセスが増加し、パソコンを通じたアクセスが減少するならば、選好に基づく知識の差を拡大するメディアばかりが利用されるということにもなりかねない。サービス提供者・利用者ともに、人々が接触したい内容だけに自由に接触できるメディア環境には陥穽が潜むことを理解する必要があるだろう。

本研究には今後対応すべき課題がいくつかある。まず、ウェブ調査会社の登録モニタは当然インターネットにアクセスできる者に限られ、その中でも積極的な利用者層であると考えられる。日本の有権者全体との乖離が懸念される一方で、インターネットサービスの利用がもたらす社会的影響を検討することを目的とする本研究においては、現時点でこのような層を調査対象とすることは避けがたい。しかし、各サービスが普及する中で、ランダムサンプリングに基づく調査で知見の妥当性を確認することも必要であろう。また、本研究におけるメディア利用変数は自己報告によって測定されているが、こうした手法においては利用頻度が過大評価される傾向があることが知られている(Kobayashi & Boase, 2012; Prior, 2009)。各サービスの利用については、調査対象者の許可を得た上で実際のアクセスログを取得するなど、測定法の洗練が求められる。さらには、本研究は横断的な調査に基づいており、インターネット上のサービスの利用が知識の獲得に繋がるのか、それとも知識を持った者がインターネット上のサービスを利用するのかという因果関係については統計的に検証できない。この点は、今後追跡調査による検証を行う予定である。

望む情報に自由に接触できることがインターネットの基本的な特徴である以上、選択的接触は常に問題となる。中でも先行研究のレビューを通じて示したように、より広範な影響力を持ちうるのは、党派性ではなく選好に基づく選択的接触であると考えられる。「日本の有権者の大半が強い党派性を持つ」「日本の有権者の大半が政治に強い関心を持つ」といった変化が起こらない限りは、選好に基づく政治知識・国際知識の差の拡大・縮小という枠組みは、インターネット上のサービスが民主主義社会にもたらすインパクトについて考える上で有効であり続けるだろう。本研究が対象としたサービスの中に数年後には使われなくなっているものがある可能性は十分にあり、また現在は存在しないサービスが政治ニュースを扱うようになる可能性もある。しかし、本研究のフレームワークはインターネットの基本的な特徴に関わるものであり、表面的なサービスの変化に関わらず適用可能なものであると考えられる。Prior (2007)の研究を発展させ、選好に基づく政治知識・国際知識の差の拡大・縮小という枠組みが国や時代を超えて適用可能であることを示した点が、社会心理学あるいは政治コミュニケーション研究に対する本研究の理論的な貢献である。

脚注
1)  本研究は日本選挙学会2015年度研究会において、「インターネット利用と有権者の情報環境の偏り」として発表されたものを再構成したものである。本研究は科学研究費補助金の助成を受けた(若手研究(B) 課題番号26870749)。また、審査の過程で有用なコメントをして下さいました匿名の査読者3名の先生方に心より感謝申し上げます。

2)  Lee et al. (2014)およびMessing & Westwood (2014)はインターネットの中でもソーシャルメディアを対象とした研究である。

3)  それでも、自記式の調査においてクイズ形式の質問を行う際には、回答を調べる行動を完全に防ぐことは不可能であるが、教示に逆らい、わざわざ時間をかけてまで回答を調べようとする対象者は多くはないと考えられる(cf., Goodman, Cryder, & Cheema, 2013)。

4)  質問の作成にあたっては、神戸大学大学院法学研究科秦 正樹氏にご協力いただいた。

5)  調査票の詳細はosf.io/p69rsから参照可能である。

6)  なお、これらの項目を間隔尺度とみなして回帰分析に投入することには問題があるとも考えられるため、「このコミュニケーションの場を通じて発信する」を1、それ以外を0としたダミー変数、あるいは「このコミュニケーションの場を通じて発信する」「情報発信はしないが、他の人にコメントする」「閲覧はするが、情報発信やコメントはしない」を1、それ以外を0としたダミー変数を用いた分析も行い本研究の知見が測定項目の違いに対して頑健であるかを確認したが、結果に大きな違いは見られなかった。

7)  なお、ソーシャルメディアに関しては利用の頻度や活発度以外に、フォローしている人の数やどのようなアカウントをフォローしているかといった点が情報入手行動に影響すると考えられる。しかし、本研究においては他のウェブ上のサービスと同様の枠組みで分析を行うため、これらについては対象外とした。

8)  一方で、具体的な番組を示したことによって、例えば出演者が好きかどうかといった要因が娯楽・ニュース志向とは別に影響するという懸念も存在するだろう。しかし、例えば、ドラマに出演する俳優やバラエティータレントが好き、ニュース解説者が好きというのも、娯楽志向・ニュース志向という有権者の選好を構成する一側面であると考えられるため、本研究の手法においてこの選好とは独立して番組が選択されるケースは少ないと考えられる。

9)  各知識項目の正答率ならびに各番組の選択率についてはosf.io/p69rsに記す。

10)  それまではインターネットサイト独自の無料の速報のみを提供するサービスが多かった。

11)  本研究ではFacebookについては主効果・交互作用ともに統計的に有意な結果は得られなかったが、これはFacebookにおいてはあくまで個人的なつながりに基づいて関係性が構築されており、Facebook上で政治的な発言をする、ニュースをシェアするといったことが一般的ではないことによるのであろう。

References
 
© 2016 日本社会心理学会
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