This study examined the relationship between the damage of bullying in junior high school and school adaptation after entering high school. Three surveys of 281 high school students were conducted at various points in time. The first survey was conducted immediately before the respondents started high school to measure the extent of bullying respondents had experienced in junior high school. The second survey was conducted in June, shortly after the respondents started high school, to measure their depressive tendencies and future prospects. The final survey was conducted in November to measure the extent to which respondents had adjusted to high school. An analysis of the survey results suggested that the “prosocial effort orientation” factor and the “positive and active future image” factor that compose a positive future outlook may be related to the process by which being a target of bullying reduces an individual’s ability to adjust to school.
いじめ防止対策推進法(平成25年6月28日)第二条において、「いじめ」は「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されている。同法成立以降、第十六条に基づく「いじめ」に関する調査が多くの高校では定期的に行われ、不登校をはじめとした「いじめ」被害による学校適応上の諸問題の抑制に活用されている。一方、「いじめ」被害の影響が長期間に及ぶことを示す研究(e.g., 三島,2008; Pellegrini & Bartini, 2000; Sourander, Helstelä, Helenius, & Piha, 2000)があることから、中学生当時に受けた「いじめ」被害と高校入学後の学校不適応等が関連する可能性がある。令和2(2020)年度に文部科学省が行った「いじめ」に関する調査では、高校の「いじめ」認知件数が13,126件であったのに対して、中学校の認知件数は6倍以上の80,877件であり(文部科学省,2021)、高校生の学校適応等に及ぼす「いじめ」の影響を考える場合、中学生当時に受けた「いじめ」についても視野に入れる必要がある。しかし、小・中学校間の情報共有に比して、中学・高校間の情報共有が乏しく(前川,2012)、中学生当時に生徒が受けた「いじめ」被害の情報が、学校間の情報共有というかたちで高校に提供される可能性は低い。さらに、「中学校への学校移行、大学への学校移行に比して高等学校への学校移行と学校適応に関する研究は非常に少ないという報告が多い」(p. 516)という永作・荒井(2005)の指摘や、日本をはじめとした東アジアの国々では、高校への移行期に関する心理的な研究が不足しているというIimura & Taku(2018)の指摘があるように、「いじめ」の問題に限らずこの時期を対象とした研究は少なく、中学生当時に受けた「いじめ」被害と高校入学後の学校適応等との関連については、十分な検証がこれまでなされていない。そこで、本報告では中学生当時に受けた「いじめ」被害と、高校入学後の学校適応等との間に関連がみられるのかどうかを検証する。さらに、学校適応と関係する高校生の個人特性についても、中学生当時に受けた「いじめ」被害との間に関連がみられるのかどうかを検討し、「いじめ」被害の影響を抑制する生徒支援の方向性についても考察する。
「いじめ」被害と学校適応との関連については、次のような先行研究がある。Rigby(2008)はオーストラリアでの3万人規模の調査結果をもとにして、「いじめ」が原因となり不登校になる生徒について報告している。Kowalski, Limber, & Agatston(2012)は、先行研究をもとにして、「いじめ」は被害者の学習活動に影響し、登校意欲の減退や学力の低下に関連すると述べている。Nakamoto & Schwartz(2010)は、「いじめ」被害と学力との関連について33の関連研究をメタ分析した結果、両者の間に負の関連(r=−0.10, p<.001)がみられたことを報告しており、中学生当時の「いじめ」被害と高校入学後の学校適応との間に負の関連がみられることが予想される。こうした負の関連を弱め、学校適応の低下を抑制するためには、どういった側面からの支援を生徒に対して行うことが効果的なのかを探索するために、本研究では抑鬱傾向と将来展望といった2つの個人特性に着目する。
「いじめ」被害と抑鬱傾向との関連についてKowalski & Limber(2013)は、アメリカの青年約900人を対象に「いじめ」被害と不安・抑鬱、自己評価などに関する調査を行った。その結果、不安や抑鬱の強さと「いじめ」被害との間に関連があることを示す結果が得られた。Kaltiala-Heino, Rimpelä, Marttunen, Rimpelä, & Rantanen(1999)は、フィンランドの14~16歳の青年約16,000人を対象に「いじめ」と抑鬱・自殺念慮等の関連を調査し、「いじめ」被害者の抑鬱傾向が強いことを示した。Klomek, Marrocco, Kleinman, Schonfeld, & Gould(2007)は、アメリカの高校生約2,000人を対象にした調査の結果から、いじめ被害と抑鬱等との間に関連がみられたことを報告している。また、伊藤・相馬(2019)は、小学5年生から高校2年生約5,000人を対象にした調査の結果から、「いじめ」被害の有無が児童生徒の抑鬱感に関与し、「いじめ」被害を報告している児童生徒ほど抑鬱感が強いことを報告している。
Finning, Moore, Ukoumunne, Danielsson-Waters, & Ford(2017)は、抑鬱傾向や不安傾向などの情緒的な問題と、学校の欠席状況との関連に関する研究をレビューし、こうした情緒的な問題が欠席状況に関連することを報告している。また、大久保(2005)は中学生から大学生約2,000人を対象に質問紙調査を行い、適応感と抑鬱との間に負の相関関係がみられたことを報告している。以上のことから、「いじめ」被害や高校生の学校適応に関連する要因として、抑鬱傾向という要因に着目することとした。
「いじめ」被害と将来展望との関連について、Mizuta, Okada, Nakamura, Yamaguchi, & Ojima(2018)は、日本の中学生約2,800人を対象に、時間的展望と「いじめ」被害などとの関連を調査し、「いじめ」被害者の将来に対する希望が低位であることを示す結果を報告している。Janeiro, Duarte, Araújo, & Gomes(2017)が高校生を対象に行った調査の結果から、将来展望の明確さは内発的な動機づけによる深い学びの促進に関連し、こうした深い学びの促進が学業成績の向上に結び付くことを示唆している。中学生を対象とした調査ではあるが、南・浅川・岸野(2011)は将来に向けた時間的展望(希望)が、学校適応感にポジティブに関連することを示唆する結果を得た。以上のことから、「いじめ」被害や学校適応に関連する要因として、将来展望という要因にも着目することとした。
これら先行研究の大部分は「いじめ」被害と学校適応等とを同時に調査したものではあるが、「いじめ」被害に関連する要因を抽出する上で有用な情報を提供している。しかし、本研究の主要な目的である中学校当時の「いじめ」被害と高校入学後の学校適応との関連の有無を検証するためには、両者の間に時間的な隔たりや学校環境の変化があることから、先行研究の知見を踏まえつつも新たな調査・分析が必要と考えた。そこで、本研究においては、高校入学直前に中学校で受けた「いじめ」被害の程度を調査し、高校入学直後ではなく、高校入学後一定期間をおいた時期における適応状況を調査する方法を採用し、両者の関連について探索的に検討することとした。
A県立B高等学校の1年生281人(男子130人,女子151人)を対象に調査を行った。本研究では、中学生当時に受けた「いじめ」被害と、高校入学後の学校適応等との関連の有無を確認するために、三期にわたる調査を実施した。調査の対象とした高校は、卒業生の大部分が大学へ進学する地域の進学校である。中規模地方都市に高校はあり、市内外の多くの中学校から生徒を迎えている。
第1期調査は中学校を卒業した直後の2018年3月、第2期調査は高校入学後の2018年6月、第3期調査は2018年11月に実施した。第1期調査はB高校の入学説明会の折、保護者を対象にして今回の調査に関する説明と協力依頼を行い、保護者に調査紙を配布し、各家庭で生徒が記入後、添付の封筒に厳封して入学式の時期にホームルーム担当教員に生徒が提出するように依頼した。それ以降の第2・3期調査に関しては、朝のホームルームの時間を利用して、ホームルーム担当教員が調査紙を配布・回収する方法で行った。今回の調査では3期にわたる調査により収集した資料を対応づける必要があることから、調査紙には出席番号を生徒に記載させた3)。
以上の方法により実施した調査の結果、すべての調査項目に回答した243人(男子109人,女子134人)のデータを分析対象とした。
調査内容(Appendix 1)本研究においては、いじめ防止対策推進法の定義を参考にして、「いじめられた」という生徒本人の判断をもとにして「いじめ」の被害程度を測定する。具体的には第1期調査で、中学生当時に受けた「いじめ」被害に関する3項目(v1: 中学生のころ、クラスのみんなからいじめられたように感じた。v2: 中学生のころ、仲間はずれにされたと感じた。v3: 中学生のころ、親しい仲間からいじめられたように感じた)に5件法(5: 感じた。4: ときどき感じた。3: あまり感じなかった。2: ほとんど感じなかった。1: まったく感じなかった)で回答する形式の調査を行った。
第2期調査では、高校生の将来展望に関する15項目の調査を行った。調査項目の作成にあたり、Zimbardo & Boyd(1999)が作成したZTPI(Zimbardo Time Perspective Inventory)や、白井(1994)が作成した時間的展望体験尺度の中で、過去・現在・未来という3つの時間的な領域のうち、未来に関する因子を構成する項目を参考にした。さらに、尾崎(1999)は将来展望として、個人がどのような生き方を望んでいるかという観点による調査を行った結果、職業や結婚などの具体的なライフイベントだけでなく、「人の役に立つ生き方がしたい」など、抽象的な生き方観もみられたことを報告しており、向社会的な生き方観も将来展望の構成要素の一つとした。これらの尺度等を参考にして、現役の高校教師5名に協力を求め、調査項目を作成して調査を実施した。
第2期調査では、生徒の抑鬱傾向を測定するために、簡易抑うつ症状尺度(QIDS: 藤澤・中川・田島・佐渡・菊池・射場・渡辺・山口・舳末・衛藤・花岡・吉村・大野,2010)16項目のうち、高校側から調査の承認が得られた7項目(Y1: 眠れなかったり、早く目が覚めたりして睡眠が十分にとれない。Y2: 日常生活の中で、「悲しい」と感じることが多い。Y3: 食欲がない。Y4: 注意力が低下している。Y5: 生きることが空しいように感じる。Y6: 自分の好きな遊びや活動に対する興味や意欲が減退している。Y7: 疲れやすい。)に5件法で回答する形式の調査を行った。
第3期調査では、生徒の学習・友人適応を調査した。学習面における適応状況、友人関係に関する適応状況を把握するための調査項目を、高校生活適応感尺度(浅川・森井・古川・上地,2002)を参考にして高校教師5名の協力を得て作成し、学習適応(4項目)・友人適応(4項目)の8項目に5件法で回答する形式の調査を行った。
将来展望を測定する15項目の因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った(Table 1)。固有値の推移(5.47→2.51→1.21→0.87→…)、解釈可能性の高さから3因子解を候補とした。それぞれの因子に対して大きな因子負荷量(>.40)を示す項目を観測変数としたモデルを作成して確認的因子分析を行った結果、データに対するモデルの当てはまりは許容できるものであり(GFI=.95, AGFI=.91, CFI=.97, RMSEA=.051, SRMR=.043)、3因子解を採用した。
| 内容 | Factor 1 | Factor 2 | Factor 3 | 共通性 |
|---|---|---|---|---|
| Factor 1: 向社会的努力志向 α=.79 | ||||
| 人の役に立つような生き方がしたい | .70 | .23 | −.22 | .45 |
| 勉強や部活動などで“苦しい”と感じてもがんばることは、自分の将来に役立つと思う | .61 | −.01 | −.09 | .32 |
| この学年での今後の生活が楽しみだ | .58 | −.12 | .30 | .60 |
| 親友や友人とは、これからも長くつき合い続けたい | .57 | −.01 | .04 | .35 |
| 前向きな生き方がしたい | .47 | −.14 | .19 | .33 |
| 将来の自分にとって、この学校での生活は価値があると思う | .46 | −.12 | .33 | .47 |
| Factor 2: 将来イメージ・目標の明確さ α=.89 | ||||
| 私には、将来の目標がある | .20 | .93 | −.18 | .85 |
| 高校や大学を卒業した後の就職先など、自分がやりたいことは決まっている | .02 | .91 | −.04 | .82 |
| 卒業後の進路は決まっている | −.15 | .82 | .07 | .67 |
| 高校卒業後の自分の姿を思い描くことができる | −.22 | .55 | .49 | .62 |
| Factor 3: 肯定的・積極的将来像 α=.73 | ||||
| 3年後の自分は、今以上に充実した生活をしている | .16 | −.13 | .74 | .63 |
| 私の将来には、希望がもてる | .00 | .26 | .66 | .64 |
| 今よりも、未来の方が“楽しい”ことが多い | −.07 | −.02 | .62 | .33 |
| 自分の将来は、自分できりひらく自信がある | .22 | .28 | .35 | .45 |
| 努力すれば、自分の未来は望む方向に変えられる | .33 | .14 | .26 | .34 |
| Factor 1との因子間相関 | .23 | .59 | ||
| Factor 2との因子間相関 | .39 | |||
「人の役に立つような生き方がしたい」「勉強や部活動などで“苦しい”と感じてもがんばることは、自分の将来に役立つと思う」などの6項目が第1因子に大きな負荷量を示したことから「向社会的努力志向」因子と第1因子を解釈した。「私には、将来の目標がある」「高校や大学を卒業した後の就職先など、自分がやりたいことは決まっている」などの4項目が第2因子に大きな負荷量を示したことから「将来イメージ・目標の明確さ」因子と第2因子を解釈した。「3年後の自分は、今以上に充実した生活をしている」「私の将来には、希望がもてる」など3項目が第3因子に大きな負荷量を示したことから「肯定的・積極的将来像」因子と第3因子を解釈した。
抑鬱傾向を測定する7項目の因子分析(最尤法)を行った。固有値の推移(2.52→1.07→0.89→…)、解釈可能性の高さから1因子解を採用した。「食欲がない」「自分の好きな遊びや活動に対する興味や意欲が減退している」の2項目を除いた5項目が大きな因子負荷量(>.40)を示し、これら5項目を観測変数としたモデルを作成して確認的因子分析を行った結果、データに対するモデルの当てはまりは良好であり(GFI=1.00, AGFI=1.00, CFI=1.00, RMSEA=.000, SRMR=.009)、抑鬱傾向をこの5項目(α=.67)で測定することとした。具体的には5項目の合計点を抑鬱傾向得点とする。
学習・友人適応に関する8項目の因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った(Table 2)。固有値の推移(2.52→1.49→1.02→0.86→…)、解釈可能性の高さから2因子解を候補とした。それぞれの因子に対して大きな因子負荷量(>.40)を示す項目を観測変数としたモデルを作成して確認的因子分析を行った結果、データに対するモデルの当てはまりは比較的良好であり(GFI=.98, AGFI=.95, CFI=.97, RMSEA=.062, SRMR=.045)、2因子解を採用した。「困ったことがあったら、友だちに相談する」「友だちには、自分の秘密など何でも話すことができる」などの3項目が第1因子に大きな負荷量を示したことから「友人適応」因子と第1因子を解釈した。「最近約2カ月間の学校における学習活動」「授業中、先生の話をよく聞いている」などの3項目が第2因子に大きな負荷量を示したことから「学習適応」因子と第2因子を解釈した。
| 内容 | Factor 1 | Factor 2 | 共通性 |
|---|---|---|---|
| Factor 1: 友人適応 α=.70 | |||
| 困ったことがあったら、友だちに相談する | .83 | −.02 | .67 |
| 友だちには、自分の秘密など何でも話すことができる | .80 | −.16 | .58 |
| 友だちから自分は大切にされている | .42 | .14 | .23 |
| Factor 2: 学習適応 α=.64 | |||
| 最近約2カ月間の学校における学習活動 | .00 | .66 | .43 |
| 授業中、先生の話をよく聞いている | .02 | .64 | .41 |
| 国語や数学など、学校で受ける授業は楽しい | .11 | .51 | .31 |
| 最近約2カ月間の友人や家族との関係など、自分を取り巻く人間関係 | .36 | .21 | .21 |
| 授業中、近くの席の子などと、授業に関係のない話をした | .08 | −.20 | .04 |
| Factor 1との因子間相関 | .31 |
「いじめ」被害に関する3項目の合計点を「いじめ被害」得点(α=.74)とした。また、将来展望や学校適応に関する因子の解釈に用いた項目の合計点をそれぞれの因子の尺度得点とした。「いじめ被害」得点と尺度得点との相関係数、それぞれの尺度得点の平均値および各尺度得点間の相関係数をTable 3に示す。
| 内容 | 平均値(SD) | 調査時期・項目数 | いじめ被害 | 将来展望F1 | 将来展望F2 | 将来展望F3 | 抑鬱傾向 | 学校適応F1 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| いじめ被害 | 4.19 (1.76) | 入学前・3項目 | ||||||
| 将来展望F1: 向社会的努力志向 | 24.52 (3.13) | 6月・6項目 | −0.31*** | |||||
| 将来展望F2: 将来イメージ・目標の明確さ | 11.99 (3.72) | 6月・4項目 | −0.03 | 0.22** | ||||
| 将来展望F3: 肯定的・積極的将来像 | 10.37 (2.07) | 6月・3項目 | −0.31*** | 0.54*** | 0.41*** | |||
| 抑鬱傾向 | 13.17 (3.32) | 6月・5項目 | 0.23*** | −0.37*** | 0.02 | −0.18** | ||
| 学校適応F1: 友人適応 | 10.66 (2.17) | 11月・3項目 | −0.36*** | 0.44*** | 0.23*** | 0.41*** | −0.14* | |
| 学校適応F2: 学習適応 | 9.95 (1.91) | 11月・3項目 | −0.19** | 0.44*** | 0.19** | 0.34*** | −0.37*** | 0.23*** |
***:p<.001, **:p<.01, *:p<.05
将来展望の「向社会的努力志向」因子・「肯定的・積極的将来像」因子、学校適応の「友人適応」因子・「学習適応」因子の尺度得点は、「いじめ被害」得点と有意な負の相関関係を示し、抑鬱傾向得点は、「いじめ被害」得点と有意な正の相関関係を示した。この結果は、中学生当時に受けた「いじめ」被害の程度が高校入学後の学校適応に関連することを示唆している。
「いじめ」被害と将来展望・抑鬱傾向・学校適応の関連に関する探索的検討中学生当時の「いじめ」被害の程度と高校入学後の学校適応との間に関連があることが示唆されたことから、「いじめ」被害の程度と学校適応との直接的な関連と、将来展望や抑鬱傾向を介しての間接的な関連を探索的に検討する。「いじめ被害」得点と有意な相関がみられなかった「将来イメージ・目標の明確さ」を除いた残り5つの尺度得点と「いじめ被害」得点をもとにしてパス解析を行った。
本研究では3つの時期に調査を行っている。狩野(2002)は、体調や動機づけのレベルなど、被験者の内的状態の日々の変動などにより、「同時に測定した項目の誤差間に共分散が生じることはしばしば見受けられる」(p. 184)と述べており、同時期に測定した将来展望の「向社会的努力志向」因子と「肯定的・積極的将来像」因子、および抑鬱傾向それぞれの誤差間、さらに、学校適応の「友人適応」因子と「学習適応」因子の誤差間に共分散を想定した。こうして作成したモデルをもとにしてパス解析を行い、パス係数が小さく有意な水準にないパスを削除したところFigure 1に示す結果が得られた。このモデルのデータに対するあてはまりは良好であり(GFI=.99, AGFI=.94, CFI=.99, RMSEA=.063, SRMR=.026)、このモデルをもとにして変数間の関連を検討する。

採用したモデルから、「いじめ」被害は、高校入学後の抑鬱傾向の強さや将来展望を構成する2つの因子に関連し、将来展望に関するこれら2つの因子が友人適応に関連する可能性がある。また、抑鬱傾向と「向社会的努力志向」因子は、学習適応に関連する可能性もある。これらの点を探索的に検討するために、ブートストラップ法による標準誤差の推定を用いて間接効果の検定を行った。その結果、「いじめ」被害と「友人適応」因子の間に、「向社会的努力志向」因子を媒介とした間接効果(標準化推定値:−.08, p<.05)と、「肯定的・積極的将来像」因子を媒介とした間接効果(標準化推定値:−.06, p<.05)がみられた。さらに、「いじめ」被害と「学習適応」因子の間にも、「向社会的努力志向」因子を媒介とした間接効果(標準化推定値:−.11, p<.05)と、抑鬱傾向を媒介とした間接効果(標準化推定値:−.06, p<.05)がみられた。こうした結果が得られたことから、将来展望や抑鬱傾向が、中学生当時の「いじめ」被害の程度と高校入学後の学校適応とを一定程度媒介する可能性があることが示唆された。
中学生当時に受けた「いじめ」被害が、高校入学後の学校適応に関連することを示唆する結果が得られた。こうした結果が得られたことから、高校入学時あるいは入学前説明会などの場面で、中学生当時の「いじめ」被害状況を把握し、被害体験のある生徒に対しては、適応感を高める個別的な支援を充実させる必要がある。また、探索的な分析の結果ではあるが、「向社会的努力志向」「肯定的・積極的将来像」といった生徒の将来展望や抑鬱傾向が、中学生当時の「いじめ」被害と高校入学後の学校適応とを媒介する可能性も示唆された。本研究で用いた方法では、「いじめ」被害と学校適応等との因果関係を検証することはできない。そのため、結果の解釈は慎重に行う必要はあるが、本研究の結果から、中学生当時に「いじめ」被害を受けた高校生に対しては、これまで行われてきた抑鬱傾向低減等を目的とした情緒的な側面に対する支援(e.g., 山崎・髙木・樋口・樫原・中川・下山,2015)だけでなく、生徒の将来展望を強化するキャリア教育という側面からの支援も重要と考えられる。
本研究にはいくつかの課題がある。測定に用いた項目に関する課題として、「最近約2カ月間の学校における学習活動」などと体言止めによる質問が調査項目の中に混在しており、調査に用いる質問の表現方法を統一する必要がある。
本研究の測定に用いた項目は、授業や進路相談などでのかかわりを通して、高校生の将来展望や学校適応について考える機会が多い高校教師の協力を得て作成し、その後、探索的因子分析・確認的因子分析により尺度として利用する項目を選定した。本研究で利用した尺度相互の関係については、それぞれの尺度間に予想される関係の方向性と整合する結果(Table 3)が得られ、本研究で収集した資料の範囲内で実施可能な検証においては、一定程度の妥当性を確認することができた。そのため、これらの尺度を使用したことに格段の問題はないと考えられる。
しかし、本研究により収集した資料だけでは、それぞれの尺度との関連が予想される既存の尺度との関連性の検証や、再テスト法による信頼性の検証を行うことができない。今後、こうした面からの詳細な検討も必要である。
「いじめ」と抑鬱との因果関係については、抑鬱傾向の強い子どもは「いじめ」被害を受けやすいという報告(Fekkes, Pijper, Fredriks, Vogels, & Verloove-Vanhorick, 2006)もあることから、抑鬱傾向の強い生徒が中学生当時だけでなく高校入学後も「いじめ」被害を受け、学校適応を低下させる可能性がある。さらに、「いじめ」被害を受けても、学力の高い生徒は抑鬱傾向を示す可能性が低いことを示唆する報告(Hemphill, Tollit, & Herrenkohl, 2014)もある。先行研究により示されたこうした知見を取り入れ、中学生当時の「いじめ」被害と高校入学後の学校適応を、将来展望や抑鬱傾向が媒介するプロセスに関するより詳細な因果モデルの作成と検証も必要である。
本研究では地方都市の進学校で調査を実施した。高校の場合、在籍する生徒の進路希望や在住地域の範囲などが学校ごとに異なる。そのため、多様な校種の高校で、本研究で得られた結果と同様の結果が得られるのかどうかを検証し、本研究で得られた結果の一般化を進めたい。

1) 著者が所属する大学の研究倫理審査会の承認を得て本研究を実施した(承認番号:290093-2)。
2) 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K04379)によるものである。
3) 倫理的配慮 本研究にかかわる調査を実施するに当たり、保護者に対する説明・協力依頼を行った際、回答は任意であることも説明した。また、ホームルームの時間に教員が行った調査時にも同様の説明を行った。なお、収集したデータに関しては、1~3期のデータを統合した後、データを統合するために利用した出席番号情報は削除して分析に利用した。