社会心理学研究
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社会的ジレンマ状況における罰の逆効果の検討:Remove the sanctionパラダイムを用いて
水野 景子, 清水 裕士
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電子付録

2023 年 38 巻 3 号 p. 51-58

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Translated Abstract

Previous research has demonstrated that sanction systems increase cooperation in social dilemma situations. However, specific literature indicates that sanctions undermine cooperation and trust in others. This study defined the detrimental effects of sanctions as decreasing cooperation after sanctions are removed in groups adopting sanctioning compared to a control group playing the public goods game without a punishment system. This study conducted a conceptual follow-up of previous studies and examined whether the detrimental impact of sanctions was consistent. The hypotheses, sample sizes, and analytical design of the study were pre-registered. This study’s result did not conceptually replicate the detrimental effects of sanctions. This finding suggests that the detrimental effects of sanctions, if any, were minimal in the way punishments were introduced in this study.

問題

社会的ジレンマ状況における罰システム

社会的ジレンマ状況で人々の協力を促す手段として、非協力者へ罰を与える罰システムの導入がある(Chen, Pillutla, & Yao, 2009; Mulder, van Dijk, De Cremer, & Wilke, 2006)。罰が協力を増やすことを示した実証研究は多く(Eek, Loukopoulos, Fujii, & Gärling, 2002; Fehr & Gächter, 2000, 2002; Yamagishi, 1986)、Balliet, Mulder, & Van Lange(2011)の126の研究を対象としたメタ分析研究では、罰は協力に対して効果量d=0.70(95%CI[0.60, 0.80])の正の効果を持つことが示されている。

罰システムは単に協力することの利益を増やすだけでなく、人々に心理的な影響を与えることによっても協力を促す。代表的には、他者が協力するだろうという期待を高める効果がある。社会的ジレンマ状況では他者の協力への期待が協力行動の重要な規定因である(Braver & Barnett, 1974; Pruitt & Kimmel, 1977; Van Lange, Vugt, Meertens, & Ruiter, 1998)。Shinada & Yamagishi(2007)が他者の協力への期待を高めることで協力を促進することを示しているほか、Yamagishi(1986)は一般的信頼(他者は一般に協力的であるという信念)の低い参加者ほど罰システムを支持する傾向が見られたことを報告している。また、罰には協力するのが道徳的に望ましい、裏返せば非協力的な行動は望ましくないと人々に感じさせる効果もある(Mulder, 2008)。

では、罰を導入しさえすれば、協力を増やし続けることが可能なのだろうか。権力側は罰システムが有効だと信じ、罰システムを設けることで人々をコントロールしようとする傾向がある(Mooijman, Van Dijk, Ellemers, & Van Dijk, 2015)。次節では、罰システムの導入がむしろ協力を阻害する可能性があることについてレビューする。

ここで、社会的ジレンマ状況における罰研究で扱われる罰は、誰が罰を行使するのかによって大きく分けると、成員同士で罰を与え合うタイプのものと、罰を行使する主体がグループ外にある中央集権タイプのものに分かれる(Balliet et al., 2011)。ポイ捨てに対する罰金を行政が導入するなど、実社会において協力を増やすために公的な罰システムを導入する場面で一般に実装されるのは中央集権タイプの罰が多いように思われる。よって、本研究では、中央集権タイプの罰システムを扱う。

罰システムの弊害

罰システムが協力を促す知見がある一方で、中央集権タイプの罰システムが人々の本来持っている利他心や道徳心を阻害してしまうことも指摘されている2)(Bowles & Polania-Reyes, 2012)。人は自身の置かれている状況における正しい行動をさまざまな手掛かりから判断する。罰があると、人々は社会的ジレンマを協力的に振舞わなければならない倫理的な状況であるというフレームではなく、罰を回避して報酬を得る状況であるというビジネス的なフレームで認識するようになり、その結果として協力が低下することがある(Cardenas, Stranlund, & Willis, 2000; Tenbrunsel & Messick, 1999)。

罰システムの導入がもたらす心理的な弊害として、他者への信頼の破壊もある(Mulder et al., 2006)。罰のある状況を経験することによる他者の協力への期待の低下を検討するために開発されたのがRemove the sanction(RTS)パラダイムである。RTSパラダイムでは、中央集権罰のある状況を経験したあと罰が取り除かれる実験群と、罰のある状況を経験しない統制群が用意される。実験群も、罰が取り除かれたあとは統制群と同じ「罰のない状況」になる。実験群では他者が協力したことが罰システムの存在に帰属され、他者は罰がなくなると協力しなくなると考えられるようになるため、罰を取り除いたあとの協力期待が大きく低下する。Mulder et al.(2006)では、予測通り実験群は統制群よりも他者の協力への期待が低かった。同様の実験がChen et al.(2009)やIrwin, Mulder, & Simpson(2014)でも行われ、結果が再現されている。特に、Chen et al.(2009)Study 1では、他者の協力への期待だけでなく協力の程度も実験群のほうが低かったことが報告されている。これらの研究の実験設定を、表1に示している。表中の「フェーズ」とは罰システムの有無が変わるまでの区切りであり、統制群も罰条件と同じタイミングでフェーズが変わる。「ピリオド」は公共財ゲームの1試行を表している。

表1 RTSパラダイムを使った主要な研究

Mulder et al.(2006)、Chen et al.(2009)、Irwin et al.(2014)における罰システムの特徴をまとめると、罰を行使する主体がグループの外にあること、罰の行使に関して罰行使者の意思が反映されないこと、グループのメンバーが罰システムの導入や行使、維持に関与しないことの三点であろう。「罰の行使に関して罰行使者の意思が反映されない」とは、一度決められた誰をどのように罰するかの基準が罰行使者の意思によって変わらないという意味である。例えば、罰行使者が毎回各グループメンバーの貢献額を見て誰を罰するか決めたり、引かれるポイント数が罰行使者の意思によって毎回変わったりする場合は、罰の行使に関して罰行使者の意思が入ることになる。加えて、グループのメンバーが、罰を導入するか維持するか、誰を罰するかを決めることもない。これは、法などの公的な罰システムに対する人々の関与が極めて低い状況としてとらえられる。本研究においても、これらの研究と同じ設定の罰を扱う。

本研究では、罰システムを取り除いたあとの実験群の協力の程度が罰システムのある状況を経験していない統制群よりも低くなる現象を罰の逆効果と定義する。もし、罰を導入することで協力が低下することのみに注目するのであれば、罰を導入する前後での協力の低下によって罰の逆効果を検討することも可能であろう。しかし、社会的ジレンマ状況で繰り返し意思決定をすると次第に協力が低下する(Isaac & Walker, 1988; Ledyard, 1995)ため、罰の導入前と廃止後の協力を比較することでは、協力の低下が繰り返しによるのか罰システムのある状況を経験したことによるのかが識別できない。そこで本研究では、統制群との比較を行うことで罰の逆効果の検討を行う。

本研究では、上で定義した罰の逆効果という現象自体が起こるか否かに注目する。罰の逆効果は限られた研究(Chen et al., 2009 Study 1)でしか見られていないが、現実場面の罰システムの導入を考えるうえで重要な示唆を与える現象である。罰システムの運用には監視のコストがかかるため、制度を維持できなくなるリスクがある。コストの観点から罰システムを維持できなくなったときに、制度を導入しなかった場合よりも協力が低下してしまうのであれば、制度の導入には慎重になるべきだろう。不要な罰の導入を防ぐためにも、罰の逆効果が安定して起こる現象なのか確認する必要がある。

したがって、本研究では、状況認識のフレームと協力期待の低下のどちらで罰の逆効果を説明できるかといった、心理的プロセスの特定は行わない。なぜなら、罰の逆効果が頑健に再現されることを確認したうえでそれがどのようなプロセスによって起こっているかを特定するという手順を踏まなければ、心理的プロセスを特定する意義は制限されるためである。本研究は、研究対象となる現象が安定して起こることを確認したのちに次の課題としてそれが起こるプロセスを検討するという過程の、現象が再現されるかの確認の段階に位置づけられる。他者の自発的な協力への期待の低下が罰廃止後の協力行動を低下させるという説明でも、状況認識のフレームが変わって利他心や道徳心が働かなくなり、いったんフレームが変わると罰廃止後も戻らないという説明でも罰の逆効果が起こることは説明できるが、どちらの説明が妥当であるか検討することは罰の逆効果が頑健に起こることを確認したのちの将来的な課題である。前提となる現象が頑健であるかを確認したのちに心理プロセスの特定を行うアプローチは、心理学における再現可能性危機問題(池田・平石,2016; Open Science Collaboration, 2015)への対処にも有効であると考えられる。

これまでの議論より、本研究ではOpen Science Framework(OSF)への事前登録をしたうえで、罰の逆効果が起こったことが報告されているChen et al.(2009)Study 1に基づいた概念的追試を行う。Chen et al.(2009)Study 1では罰システムのある状況から実験が始まっているが、グループメンバーの協力を促すために外から罰を導入するか否か、導入するならばどのような罰にするかという問題に示唆を与えるためには、途中で罰が導入される設定にすべきであろう。また、本研究では例数設計を行ったうえで参加者数を決定する。

本研究の仮説は以下の通りである。

仮説

繰り返し公共財ゲームにおいて、中央集権的な罰システムが一時的に導入された実験群は、同じ回数公共財ゲームを繰り返している統制群よりも罰を取り除いた後の貢献額が低くなる。

方法

参加者

サンプルサイズについて例数設計を行った3)。有意水準αを0.05, 効果量dを0.8に設定し、検出力(1−β)が0.8~0.9になるよう184~240名に参加者数を設定した。公共財ゲームを行うグループ内での協力の相関が高くなると考えられたため、グループ内相関を考慮したサンプルサイズ設計を行った。本研究と同様の公共財ゲームを行った水野・清水(2021)では、グループ内相関がρ=.76(95%CI[.60, .87])であった。グループ内相関が大きくなるほど必要サンプルサイズが大きくなるため、上限である.87に設定した。

参加者の募集は、関西の私立大学で心理学関連の授業を受講する学生を対象に行われた。参加者は、実験謝礼に加えて授業の追加の点数を得た。うち分析対象となったのは、統制条件に割り当てた実験回であったのにもかかわらず罰条件の教示を行ったミスのために実験を途中で中断した回の8名を除く228名(男性70名、平均年齢19.43歳、SD=1.13)であった。

実験デザインおよび手続き

実験は一要因二水準参加者間計画であった。実験条件は罰条件と統制条件であった。

参加者は、オンライン会議ツールであるZoomに、自身や大学のコンピュータでアクセスした。このとき、「一人で静かに集中できる場所」で参加するよう事前に求めた。参加者の名前や画像が表示されないようにし、参加者のビデオやマイクはオフの状態であったため、参加者同士は完全に匿名の状態であった。実験参加への同意を得たあと、web上の実験プログラムへアクセスするよう求めた。実験プログラムはoTree3(Chen, Schonger, & Wickens, 2016)を用いて作成された。参加者の意思決定は、画面上に表示されている選択肢の中から選択する、もしくは回答を入力する形で行われた。

一つ目の課題において、参加者は自身と見知らぬ他者との報酬分配について平等な分配と不平等な分配のうち好ましいほうを52回選択するように求められた。これは利他性および平等性を測定する課題であった(水野・清水,2020)。二つ目の課題では、参加者は繰り返しのある公共財ゲームを行うよう求められた。公共財ゲームのルールに関するクイズを出題した後、自身以外の他の参加者が平均的に何ポイントを貢献すると思うかを0~20ポイントでたずねた(他者の協力への期待)。

公共財ゲーム終了後、参加者は公共財ゲーム中の戦略(例:自分が多くのポイントを得ることをどの程度意識していたか)および公共財ゲームに関する記述(例:「自分は、罰があるとき罰の基準ポイントを手掛かりに貢献額を決めた」)について5件法で回答した。また、同年度に実施された水野・清水(2021)の実験に参加したか、同回の実験に友人などの知り合いがいたかどうかをたずねた。

謝礼は、公共財ゲーム内全15回内で獲得したポイントを1ポイント1円として計算した金額に100円を足した金額の電子版Amazonギフトカードであった。謝礼の計算方法については、実験開始前と公共財ゲーム開始前の2回、参加者に伝えられていた。

公共財ゲーム

繰り返しのある公共財ゲームが4名1組で行われた。グループメンバーは固定であることが参加者に伝えられた。参加者は毎回、実験者から渡された20ポイントのうち何ポイントをグループに貢献するか、0~20ポイントの間から選択した。グループに貢献しなかったポイントは各参加者の手元に残った。参加者全員が貢献したポイントが実験者によって2倍され、4人の参加者で分配された。分配によって得たポイントと手元に残したポイントの合計が参加者の得るポイントとなった。結果は毎回表の形式でフィードバックされた4)(図1)。ID(Aさん、Bさん、Cさん)は毎回固定であったが、そのことは参加者に特に知らせなかった。累積のポイントについては、自身のものについても他参加者のものについても表示されなかった。

図1 結果のフィードバック画面

15回の繰り返しの公共財ゲームは、5回ずつの3フェーズに分かれていた。3つのフェーズがあることは参加者には知らされなかった。フェーズ間には次のフェーズの説明をするとともに、これから他の参加者が平均的に何ポイントを貢献すると思うかをたずねた(他者の協力への期待)。フェーズ1は全参加者共通で、フェーズ2とフェーズ3が条件によって異なった。繰り返し回数は明示されなかった。

実験条件

罰条件に割り当てられた29グループでは、フェーズ2開始時に、「罰制度が導入されます。(中略)この後は、貢献額が10ポイント以下の人は、12ポイントが引かれるようになります。」と教示された。罰条件のフェーズ2では、結果のフィードバックの後に罰に関するフィードバックが行われた。罰に関するフィードバックでは、参加者自身の貢献ポイントが11ポイントを上回っていた場合は、「あなたの貢献ポイントは11ポイントを上回っていたため、罰はありませんでした。よって、この回であなたが得たポイントは最終的に〇ポイントでした」、10ポイント以下であった場合は「あなたの貢献ポイントは10ポイント以下であったため、12ポイントが引かれました。よって、この回であなたが得たポイントは最終的に〇ポイントでした。」と表示された。罰に関するフィードバックは、自身の結果についてのみ表示された。フェーズ3開始時には「皆様には先程と同様の課題を行っていただきますが、この後には、罰制度が廃止されます。この後は貢献額にかかわらずポイントが引かれることはなくなります」と教示された。統制条件に割り当てられた28グループは、3フェーズを通して罰のない公共財ゲームを行った。フェーズ間の説明では、今後も同じ課題を続ける旨が教示された。

分析デザイン

R3.6.0(R Core Team, 2019)を用いて、切片に4人集団間での変量効果を仮定した混合モデルによる要因の効果の分析を行った。モデルは

  
(1)

である。Yijはフェーズ3の5回の貢献額の平均値、Xjは要因(統制条件0、実験条件1)、Zijはフェーズ1の5回の貢献額の平均値、altijは利他性、equijは平等性、beliefijはフェーズ1開始前の他者の協力への期待、C1ijは実験参加経験の有無、C2ijは同時刻の実験における知り合いの有無であった。(1)のモデルをフルモデルとし、β0j, β1Xj, β2Zijはモデルに強制投入した。β3altij以降の統制変数については、BICが最も小さくなるように選択して投入した。モデル選択はlmerTestパッケージ(Kuznetsova, Brockhoff, & Christensen, 2017)のlmer関数を用いて最尤法(REML=FALSE)で行い、実験効果の検定は制限つき最尤法(REML=TRUE)で行った。BICが最小になったモデルについて、Yijに対するXjの効果β1が5%水準の両側検定で負に有意になることをもって仮説支持とした。

事前登録

仮説と方法および分析デザイン、分析用Rコードは、OSFに実験実施前に登録された5)。

倫理的配慮

本研究は、関西学院大学「人を対象とする行動学系研究」倫理規程に基づいた審査の承認を受けたうえで実施された(承認番号:2021-1)。

結果

フェーズごとの平均貢献額

15ピリオドの貢献額の推移を図2に示した。罰条件では、フェーズ1の平均貢献額は10.75(SD=5.39)、フェーズ2の平均貢献額は14.10(SD=3.64)、フェーズ3の平均貢献額は8.63(SD=6.54)であった。統制条件では、フェーズ1の平均貢献額は9.76(SD=4.35)、フェーズ2の平均貢献額は7.95(SD=5.11)、フェーズ3の平均貢献額は7.76(SD=5.40)であった。フェーズ1での平均貢献額に条件間で有意差は見られなかった(t(212.97)=1.53, p=.12)。

図2 条件ごとの平均貢献額の推移

フェーズ3での貢献額を目的変数としたLiner Mixed Model(仮説検証分析)

モデル選択の結果、β0j, β1Xj, β2Zijのみのモデルが選択された。仮説を検証するため、LMMによる実験効果の検定を行った(詳細は「方法」の「分析デザイン」に記載している)。標準化偏回帰係数βを得るために、目的変数を標準化した。その結果、フェーズ1の貢献額Zijの主効果のみが有意(β2=.10, t(223.32)=11.36, p<.001)であり、要因Xjの主効果は見られなかった(β1=.04, t(44.67)=0.26, p=.799)。よって、仮説は支持されなかった。

追加分析として他者の協力への期待についても分析を行ったが、誌面の都合上電子付録に記載した。

考察

本研究の目的は、社会的ジレンマ状況において罰の逆効果が起こるか、Chen et al.(2009)の概念的追試を行って確認することであった。本研究における罰の逆効果とは、罰システムのある状況を経験していない場合と比較して罰を取り除いたあとの協力が下がる現象を指す。仮説、例数設計により決定した参加者数、実験方法、分析方法を事前登録したうえで実験を行った。その結果、罰で一時的に協力が上がり、廃止したあとは統制群と同程度の水準になった。よって、仮説は支持されず、Chen et al.(2009)の結果は再現されなかった。

結果から、本研究の条件(表1)では罰の逆効果は起こらないか、たとえあったとしても非常に小さな効果であろうことが示唆される。有意な効果が見られなかったことから積極的にその効果がないとはいえないことには注意が必要であるが、本研究は十分な検出力のもとで行われており、どのような罰の条件であれば逆効果が起こる可能性を低くできるかについてある程度の考察は可能であろう。

一つ目の条件は、罰の大きさである。Kamijo, Nihonsugi, Takeuchi, & Funaki(2014)は、公共財ゲームの元手と限界収益率とのバランスから罰の大きさを「強い罰」「中程度の罰」「弱い罰」に分類し、罰の大きさによって公共財ゲームでの均衡が異なることを示したが、その分類によれば本研究での元手の60%の罰は「強い罰」にあたる。罰の大きさが大きいほど対象となる行動がよくない行動であると判断されやすい(Mulder, Verboon, & De Cremer, 2009)。本研究のような十分に大きい罰の場合は、基準値以下の行動がよくない行動であるとの規範を示す効果によって罰の逆効果が起こらない可能性がある。

次に、罰の与え方である。Chen et al.(2009)Study 1や本研究の貢献が元手の半分以下だと必ず罰せられる罰は、いくら貢献すればよいかの基準を明確にし、どのような行動をするのが規範的に望ましいか示すような罰(以下、「示範的な罰」とする)である。特に本研究においては、参加者への教示において貢献額が基準値以下だとポイントが引かれる「罰制度」という言葉を用いて参加者に罰システムについて説明しており、より基準値以下の貢献がその場の道徳に反した行動であると認識されていた可能性がある。このことから、明確に罰が科される基準が決まっていて明示されていれば、罰の逆効果が起こらない可能性がある。

また、本研究では罰のある公共財ゲームの前に罰のない公共財ゲームを行うフェーズを設けたが、罰の逆効果が起こっていたChen et al.(2009)Study 1では設けられていなかった。この違いが結果の違いをもたらしたのだとすれば、罰がない状況を先に経験したとき(本研究におけるフェーズ1)は他者の協力がそのまま他者の利他心や道徳心に帰属されるが、初めから罰があるとき(Chen et al., 2009 Study 1におけるフェーズ1)には他者が協力したことが状況の顕著な特徴である罰に大きく帰属されることで他者の利他心や道徳心への帰属は小さくなっていた(割引原理; Kelley, 1973)と説明することができるだろう。よって、フェーズ構成の違いが罰の逆効果が起こるかの違いをもたらしたのだとすれば、初めに罰がない状況を経験し、罰がない状況での他者の協力がどの程度であったかを覚えていれば罰の逆効果が起こらない可能性がある。

一方で、本研究の結果は、罰の逆効果だけでなく、罰がなくなったあとに罰条件の協力が統制群よりも高くなる効果(ここでは罰の順効果と呼ぶことにする)も見られなかったと解釈可能であろう。罰によって協力するのが望ましいという規範が作られるのであれば、罰がなくなったあともその規範が維持されることが期待される。しかし、強くて示範的な罰が導入されたときであっても、廃止された後も協力を持続させるほどの効果はないのかもしれない。

限界点と今後の展望

限界点として、公共財ゲームで獲得したポイントに応じて謝礼が支払われたとはいえ、参加者の多くが追加の授業の点数に動機づけられていたと考えられることが挙げられる。氏名などの個人情報と実験での選択データが紐づくことはないことは実験前に十分に説明し同意を得たが、実験内で正しい行動をしなければならないと誤解をさせた可能性は否定できない。よって、参加者は多くのポイントを得ることよりも「正しい」行動をすることを志向しており、選択に応じて謝礼額が変動するインセンティブがうまく機能していなかった可能性がある。また、本研究では罰行使者が誰であるかを参加者に明確に示していなかったが、貢献額が基準値以下だとポイントが引かれるという説明を実験者が行ったため、罰行使者が実験者だと認識されていたといえる。罰行使者に対する信頼が高いとき(Mulder et al., 2009)や罰行使者が公正な手続きに基づいて罰を行使していると感じられるとき(Verboon & van Dijke, 2011)に罰が行動に対する道徳的価値を形成するという知見があり、「授業で募集された実験の、信頼に足る実験者」像が結果に影響した可能性は十分に考えられる。すなわち、罰の逆効果を起こしうる要因の効果と、罰の順効果を起こしうる要因の効果(実験者効果)とが相殺された結果として、罰の逆効果も順効果も起こらなかったのかもしれない。これらの実験者効果を避けるため、あらかじめ実験内での選択が謝礼金額にしか影響しないことを十分に説明する配慮や、クラウドソーシングサービスを通して募集した参加者を対象とすることが必要であろう。

本研究の結果からは行動が基準に満たないと強いペナルティのある罰が新たに導入された場合には罰の逆効果が起こる可能性が低いと考えられるが、罰の逆効果という現象自体が起こらないと結論づけることはできない。罰の逆効果は、協力を増やすために導入したはずの罰を実施できなくなったときに仮に罰を導入しなかった場合よりも協力が低下するという負の帰結を生むことを意味しており、強くて示範的な罰を導入したとき以外には起こるとすればやはり問題である。本研究での強い罰は非協力がよくないこと、裏返せば協力することがよいことであるとの規範を作る効果が大きく、罰がなくなった後にそのままの協力の高さを維持することはできずとも、統制群と同程度の協力ならば維持できた可能性がある。規範を示す効果が小さいと考えられる弱い罰の場合や中程度の罰の場合に罰の逆効果が起こるかどうかについては検討の余地があるだろう。罰の与え方についても、Mulder et al.(2006)やIrwin et al.(2014)のような、貢献額が最も少ない参加者もしくは貢献額が最も少ない二人の参加者に罰を与えるタイプの罰がある。このような罰の与え方は他者よりも多く貢献すれば罰せられない状況を作る、いわば競争的な罰システムである。このタイプの罰は、違反者が多すぎて全員を罰することができない状況を表現している。競争的な罰システムがある状況では、ポイントを貢献しないことがよくない行動であるという認識が生まれにくく、罰の逆効果が起こりやすいと推測される。また、初めに罰がない状況を経験し、罰がない状況での他者の協力がどの程度であったかを覚えていれば罰の逆効果が起こらない可能性があることは、裏返せばその場に初めから罰がある場合や、罰がない状況での他者の協力について覚えていない場合には罰の逆効果が起こる可能性があることを意味する。

最後に、金銭的なインセンティブによって協力を促すサンクションには、罰だけでなく報酬も存在する。報酬の悪影響について研究した文献では、報酬も罰と同様に廃止後の協力を低下させる(Chen et al., 2009)、他者の協力への期待を下げる(Irwin et al., 2014)ことが報告されている。非協力者が減るほど実行のコストが下がる罰と異なり、報酬はそれによって協力者が増えれば増えるほど報酬支払いのためのコストがかかる。ゆえに、いったん制度を導入した後に縮小・廃止せざるを得なくなるリスクは報酬のほうが高く、同パラダイムを用いて報酬の逆効果を検討することにも意義があるだろう。

脚注

1) 論文の執筆にあたり、竹内あい氏(立命館大学)、上條良夫氏(早稲田大学)、ReproducibiliTea Tokyoの皆様、岡田葦生氏(関西学院大学/日本学術振興会)に助言を頂きました。深く感謝申し上げます。

2) 罰システムが協力を阻害するという文脈で、成員同士で罰し合うタイプの罰を扱った研究もある(e.g., 金・内藤・犬飼・亀田,2019; Mulder & Nelissen, 2010)が、ここでは中央集権タイプの罰を扱った研究についてレビューする。

3) 宇佐美(2011)の式(22)から混合モデルの検定力分析を行った。Chen et al.(2009)で報告されているt値を元に効果量dを算出したところ1.12であったことから、大きい効果量の目安である0.8とした。

4) ポイントは小数が出る場合には四捨五入された。

5) 以下のリンク先に、事前登録およびデータ、実験プログラムのコードをアップしている。https://osf.io/v6572/

引用文献
 
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