社会心理学研究
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原著論文
ヘルプマーク利用者に対する援助意図の促進因および抑制因の検討
橋本 博文前田 楓山崎 梨花子佐藤 剛介
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電子付録

2023 年 39 巻 2 号 p. 97-106

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抄録

The “Help Mark,” a unique symbol that people with hidden disabilities wear to receive help from others, has been promoted nationwide in recent years as part of efforts to achieve a symbiotic society in Japan. However, awareness of the Help Mark has been insufficient, and some people with hidden disabilities have been reluctant to wear it. In this study, a web-based experiment was conducted to examine the factors that promote or hinder the intention to help those who wear the Help Mark, according to social and cultural psychology theories. To analyze the effects of wearing the Help Mark, the cost of helping, and the explicit solicitation of help, the experiment used scenarios that manipulated these factors. We also analyzed the effect of interdependent self-construal on participants’ intentions to help. Results showed that when the cost of helping is relatively low, intentions to help can be increased by the person with hidden disabilities wearing the mark, and intentions can be increased when solicitation is explicit. We also found that when it comes to helping those who wear the Help Mark, the rejection-avoidance tendency and being young may serve as inhibiting factors.

目的

近年、共生社会の実現に向けた取り組みの一環として、ヘルプマークの普及が公的に推進されている。しかし、ヘルプマークの普及、そしてその活用は十分であるとは言い難い。なぜ、ヘルプマークは活用されにくいのだろうか。本研究では、ヘルプマークに対する人々の認知度やその有益さの認識を定量的に把握すると同時に、上述の問いについて社会・文化心理学における理論的観点から考察する。そして、ヘルプマーク利用者に対する援助意図の促進因と抑制因を検討するためのオンライン実験により得られた知見を踏まえ、ヘルプマークを本来の意味としての「助け合いのしるし」へと転換するためのアプローチについても検討を加える。

ヘルプマークのこれまでと現状

ヘルプマークは、義足や人工関節を使用している者、内部障害や難病の者、または妊娠初期の者など、配慮や援助を必要としている人々が身につけるものとされている。赤い四角に白色で十字とハートのマークが描かれており、赤色と十字は「助けが必要」であること、ハートマークは「助ける意志」を意味している。このマークを身につけることによって、たとえば公共交通機関などにおいて周囲の人たちに配慮や援助が必要であることを知らせ、ヘルプマーク利用者が必要とする援助を得やすくなるような状況づくりを目的としている。

2012年に東京都議会において、人工関節を利用している都議会議員が、「見えない障害(invisible disability)」、すなわち見た目にはわからない障害を抱える人々を示す統一的なマークの必要性を訴えたことがヘルプマーク作成のきっかけである。ヘルプマークは各自治体の窓口において無料で配布されており、個人情報の提供などの手続きもなく容易に入手できる。作成以降、ヘルプマークの普及が公的に推進され、近年では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本人だけでなく外国人観光客にもわかりやすくすることを念頭にJIS規格を改正し(JIS Z8210)、ヘルプマークの認知度をさらに高めるための取り組みもなされてきた。

こうした一連の取り組みが有する社会的な意義は極めて大きい。世界保健機関によると、世界人口の約15%にあたる10億人以上が、何らかの障害を抱えつつ生活しているとされ(World Health Organization and the World Bank, 2011)、さらにそうした障害のほとんどが、他者の目からは見えないとの指摘もある。見えない障害を抱える人々の割合は定かではないが、慢性疾患以外にも、神経発達障害、精神障害、聴覚障害、慢性的な痛み、疲労、めまいの症状など、見えない障害が数多く存在する事実に鑑みれば、私たちが予想する以上に多いことは容易に想像できる。実際に、障害者の80%以上が、「見た目にはわからない」と捉えることもできる(Disabled World, 2022)。このことを踏まえれば、日本独自のヘルプマーク制度は見えない障害を抱える人たちを「見える化」し、そうしたマークを利用する人々の、ひいては障害者全体の社会的包摂を促すという意味において重要な役割を担っている。

しかし、へルプマーク制度の社会的な意義が大きく、また、その普及・活用が積極的に進められている現状にもかかわらず、ヘルプマークの認知度はいまだ十分な水準にないことが指摘されている(例えば、ゼネラルパートナーズ障がい者総合研究所,2017)。また、障害当事者からも、ヘルプマークを着用したとしても、人々の認知不足により十分な配慮や援助が得られない、利用時の周囲の反応が気になるといった声が挙がっており、それゆえに、障害当事者がそもそもヘルプマークを利用したいと思わなかったり、ためらっていたりする可能性なども指摘されている。

ヘルプマークの活用をためらう日本人の心理

本研究では、ヘルプマークの活用をためらう日本人の心理について、援助行動に関連する社会心理学の理論や研究知見、さらには社会・文化心理学における援助行動の文化差に関連する先行研究の知見を援用するかたちで考察を試みる。まず社会心理学分野において、援助行動は、Latané & Darley(1970)による傍観者効果の研究を発端とし、その意思決定プロセス(松井,1990)や生起過程のモデル(高木,1997, 1998)などが提唱され、豊富な知見が蓄積されてきた。こうした研究においては、援助提供者の行動や心理状態のみならず、援助要請者の側の心理状態についても詳細な検討がなされている。また、より近年においては、文化心理学分野において、とくに援助要請者の心理に焦点を合わせた研究が多くなされ、援助がもたらす意味あいが文化によって異なるとの主張も目につくようになってきた。例えば、Taylor et al.(2004)はアジア人やアジア系アメリカ人が援助要請に消極的である理由として、他者との「関係性への懸念(relational concerns)」——集団の和を乱したくない、自分の面子を失いたくない(自身のプライドを損ないたくない)などの既存の人間関係についての懸念——を挙げている。彼女らの解釈によると、東アジアの文化では援助要請者の側が自身の要請によってまわりの人たちとの調和を乱してしまうのではないかと考える結果として、援助要請をためらうとされている。すなわち、他者からの援助を、自身が抱えている困り感に抗うための資源として捉えるのではなく、自身が身を置く集団内の調和を乱す要因として捉えており、そうした懸念が援助要請をためらわせるというわけである(Kim et al., 2006, 2008)。

関係性への懸念は、援助を享受する側のみならず、提供する側の心理にもあてはまる。たとえば、Niiya et al.(2022)は、アメリカ人と比べて日本人は援助提供をためらいやすいこと、そしてその理由の1つとして、見知らぬ他者の援助の必要性が不確かであることを挙げている。つまり、援助を提供したとしても、要請者・受容者にとっては不十分な援助にすぎないのではないか、また要請者・受容者の側が本当に望んでいる援助とはならないのではないかと考え、結果として相手に迷惑をかける可能性を考えるあまり、援助提供をためらってしまう(see also, Kim et al., 2006, 2008; Miller et al., 2017; 新谷,2020)。Hashimoto, Ohashi, & Yamaguchi(2022)も同様に、日本人はアメリカ人と比べて、たとえ親しい関係性にある人物であったとしても、その相手から明確な援助要請がない限りは援助提供をためらう傾向を示している。援助を規定するさまざまな状況特性を整理したモデル(例えば、Staub, 1979)においても援助を必要とする程度は重要視されているが、上述した研究知見は、援助の必要性が援助行動を規定するかという点に文化差が存在する可能性を示していると言える。つまり日本人は、たとえ援助の必要性をわかっていたとしても、援助を享受する側の心理的負債感を気にするあまり、援助をためらってしまう可能性がある。こうした援助を必要とする側と援助を提供する側双方が相互にためらいあう現象は、まさに「意図せざる結果」として理解することもできる。

日本における互恵性の規範

援助要請や援助提供に対する心理的なためらいは、石井(2020)において整理されているとおり、日本人の間で共有されている「交換関係に基づく互恵性の規範」と密接に関わっている。『菊と刀』(Benedict, 1946 長谷川訳 2005)にも示されるように、日本人の対人相互作用には「負債(債務)」の考え方がつきまとい、相手に心理的な負担——援助提供者が援助を行うために負う心理的な労力——を負わせてしまいかねないため、援助の享受それ自体を避ける行動原理を採用する傾向にある。こうした行動原理は、日本人の心のあり方によるというよりは、むしろ内輪づきあいを基本とする閉鎖的な社会状況のあり方によるものである。山岸ら(e.g., Yamagishi et al., 1998, 2008)をはじめ適応論(Yamagishi & Hashimoto, 2016; Yuki & Schug, 2020)の視座を採用する社会・文化心理学分野の研究では、集団主義的と形容される社会状況の特徴を「特定の集団から離脱ないし排除された人間が、既存の集団において提供されていた資源を新しい集団から提供される可能性が小さい」社会状況として捉えてきた。そして、そうした閉鎖的な社会状況に身を置く人々は、既存の集団からの離脱ないし排除が致命的な帰結をもたらすために、同じ集団の成員に悪く思われないように行動するなど、集団からの排除リスクを最小化する行動原理が生態学的合理性(Gigerenzer, 2000)を有するという理論的な想定を置いている。こうした想定にもとづき、実際に山岸らの研究グループは、欧米の文化を生きる人たちに比べて、日本の文化を生きる人たちの方が、同じ集団成員に悪く思われないような行動原理や、集団から排除されるリスクを最小化するような行動原理を採用しやすいことを繰り返し示してきている(Sato et al., 2014; Yamagishi et al., 2008, 2012)。

また、排除リスクを最小化する行動原理の適応合理性という観点からは、文化心理学において注目されてきた文化的自己観(Markus & Kitayama, 1991)について従来とは異なる解釈を提示することも可能である。従来の文化心理学研究においては、歴史的に共有されている自己についての前提としての「文化的自己観(Markus & Kitayama, 1991)」が重要視されてきた。この文化的自己観は、他者と互いに結びついた人間関係の一部として自己を捉える「相互協調的自己観」と、他者から分離した独自の存在として自己を捉える「相互独立的自己観」に大別される(Markus & Kitayama, 1991; 北山,1998)。前者の相互協調的自己観は日本を含む東アジアの文化において優勢であるとされ、後者の相互独立的自己観は欧米の文化において優勢であるとされている。文化心理学における相互協調的自己観は、多くの場合、相互扶助や助け合い(Markus & Kitayama, 1991; Kitayama, et al., 2009)、思いやり(内田・北山,2001)などといった、まわりの人たちとの調和のとれた関係を積極的に構築することを意味していたが、近年では、まわりの人たちとの調和を大切にするという意味での相互協調性(以下、「調和追求傾向」)と、既存の集団からの排除を回避するために、なるべく波風をたてないように行動せざるを得ないというような、まわりの人たちから嫌われたりしないよう気をつけて振る舞うという意味での相互協調性(以下、「排除回避傾向」)を弁別すべきであるという議論が展開されている(Hashimoto & Yamagishi, 2013, 2016)。そして、Hashimoto & Yamagishi(2016)の研究では、相互協調性の2つの側面を弁別するための尺度を従来の文化心理学研究を踏まえて作成し、その妥当性を示すと同時に、日米の大学生を対象としてその尺度値の平均の比較を行っている。その結果、協調性の調和追求の側面を測定する尺度値には日米差が見られないが、排除回避の側面を測定する尺度値には日米差が見られ、アメリカ人大学生と比べて日本人大学生の方がよりその得点が高いことが明らかにされている。

協調性の二側面に関する研究は、基本的に山岸(1997)による集団主義的制度に関する論考に着想を得て行われたものである。この論考においては、閉鎖的な社会、すなわち、集団内における相互監視と集団からの排除の脅威が存在する社会状況によって、既存の関係からの離脱を抑制するような心のあり方や行動のあり方が規定されているとされる。加えてこの論考では、心のあり方と社会のあり方との間に動的な相互規定関係が想定されている。このメカニズムの中に身を置く個々人が有する排除回避的な心や行動のあり方(例えば、既存の集団成員から嫌われ、集団から追い出されてしまうことを避ける心や行動のあり方)は、ある特定の行動に対する他者からの反応の予想を生み出すかたちで個々人のデフォルトの適応行動を導く。ここで重要なのは、そうした適応行動(例えば、内集団への協力行動)そのものが、今度は他者に対して同様の行動をとることに対する社会的な意味でのインセンティブとなる(ある個人の自集団への協力行動が、他者の自集団への協力行動を生じさせる)ことにより、適応行動群から構成される集団主義的な社会を生み出す役割を担っているという点である。この意味において、日本人の対人相互作用における「負債(債務)」の考え方は、排除回避的な心のあり方や行動のあり方の1つとして理解することが可能であり、たとえ「一過性」の援助場面であったとしても、上述したような動的な相互規定関係においては、排除回避的な心のあり方や行動原理を前提とする結果として、ヘルプマーク利用者への援助が抑制されている可能性は十分に考えられる。これに対して、調和追求的な心のあり方や行動原理はどのように位置づけるべきだろうか。適応論の立場による知見からは、そもそも調和追求的な心のあり方や行動原理が文化特定的である(例えば、日本を含む東アジアの文化においてより優勢に示される)とする考え方に疑問が投げかけられている。他者との調和ないし協力を導く行動原理は、いかなる社会においても普遍的な適応戦略として解釈することもでき(Hashimoto & Yamagishi, 2013)、実際に、先行研究において東アジアの文化においてより優勢であるとする結果が示されているわけではない(Eisen & Ishii, 2019; Ishii & Eisen, 2018)。したがって本研究では、排除回避的な心のあり方や行動原理に注目し、以下の仮説を検証することとする。

本研究の仮説

本研究では、上述の援助行動の文化差に関する先行研究を踏まえつつ、日本における互恵性の規範に着目した場合に予測できる以下の3つの仮説を検討する。

仮説1:ヘルプマーク利用者の援助要請が明確な状況よりも、不明確な状況において、援助提供はためらわれやすい。

本研究で検討する第一の仮説は、序論部で整理した先行研究の知見群から導かれる。すなわち、(援助を必要としているはずの)他者からの援助要請が不明確であることこそが援助提供をためらわせる要因となるとの仮説である。ヘルプマーク利用者はマークの着用によって援助が必要であることを意図的に明示しているが、援助提供者にその明確さが十分に伝わるとは言いきれない。例えば、援助を必要としていることはわかるものの、どういった援助が適切かはわからない。そういった観点からヘルプマーク着用による援助要請は曖昧な部分を残していると考えられる。こうした要請の不明確な状況が援助意図を抑制するか否かを検討するため、本研究では援助要請が明確な状況(直接援助を求める状況)と比較するかたちで検討する。

仮説2:援助提供にかかる心理的負担が小さい(提供者自身が援助を行う)場合よりも、心理的負担が大きい(提供者自身が他者の力も借りて援助を行う)場合において、援助提供はためらわれやすい。

第二の仮説は、援助提供者にとっての心理的負担に関わる基本的な仮説である。日本人の対人相互作用につきまとう「負債(債務)」の考え方に触れる以上、援助提供にかかる心理的負担についてもあわせて検討する必要がある。援助提供者にとっての心理的負担は、当然援助を提供する側に躊躇をもたらすが、同時に、援助要請者にとっては、その心理的負担を提供者に抱かせてしまうことが予測できるため、援助要請を躊躇することになる。また、援助を享受することもまた、要請者にとって大きな負債感に繋がると考えられる。そのため、本研究では、援助提供にかかる心理的負担を以下の方法部で詳述する場面想定法シナリオにより操作し、援助提供にかかる心理的負担の効果についての仮説2を検討する。

仮説3:排除回避傾向が強い人ほど、相手からの援助要請が不明確な状況においてヘルプマーク利用者に対する援助提供をためらいやすい。

上述の仮説3は、序論部で整理した排除リスクを最小化する行動原理の適応合理性についての議論から導かれる。ただし、本研究では排除回避傾向の効果を個人差の効果としてのみ捉えているわけではなく、したがって、いかなる状況でも排除回避傾向が援助提供に効果を持つと想定しているわけではない。相手からの援助要請が不明確な状況においてのみ、排除回避傾向が効果を持つと予測している。

方法

上述の仮説を検討するために、ヘルプマーク利用者に対する援助意図を促進する要因、また抑制する要因を調べるためのオンライン実験を実施した。

実験協力者

4条件に対してそれぞれ20, 30, 40, 50, 60代の5つの年齢層20名ずつで合計400名の一般成人を対象に実験を実施した。協力者については、クロス・マーケティング社に委託するかたちで募集した。クロス・マーケティング社には調査票を設計する段階でトラップ質問やストレートライン回答者の把握を依頼し、回答に不備があった者は分析から除外することとした。さらに、事後的にヘルプマーク利用者か否かを尋ねており、分析対象者(320名)はヘルプマーク利用者以外とした。データの分析にはSAS 9.4(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた。

研究倫理

本研究は、大阪公立大学大学院文学研究科研究倫理審査委員会による承認を得て実施した(承認番号3-11)。

実験デザイン

ヘルプマークを着用することや援助要請が明確になることの効果を分析するため、ヘルプマークの着用(有・無)と援助に伴う心理的負担(大・小)を操作したシナリオを用意し、2×2の参加者間要因配置を用いた。また、援助要請の明確さについては参加者内要因で配置した。実際に用いたシナリオ文については、Appendixを参照されたい。

質問項目

ヘルプマークの認知度

まず、ヘルプマークの簡単な説明(援助や配慮を必要としている方々がそのことを周囲の方に知らせることを目的として作成されたマークに「ヘルプマーク」があります)を提示し、その後でヘルプマークを知っているか否かについて「知らない(1)」「聞いたことはあるが、よくは知らない(2)」「知っている(3)」の三択で尋ねた。分析では「知っている(3)」を1,それ以外を0にダミー変数化した。

ヘルプマークの有益さ認識

次に、ヘルプマークが役立っていると思うか否かについて、「役立っていない」か「役立っている」の二択で回答を求めた。なお、分析に使用するにあたって、「役立っていない」を0,「役立っている」を1にダミー変数化した。

条件間のシナリオと質問文

「ヘルプマークの着用(有・無)」と「援助に伴う心理的負担(大・小)」を操作するためのシナリオを条件ごとに提示した。援助に伴う心理的負担が小さな条件では、シナリオを提示した後に、「立ったままつり革を利用している人に声をかけて座席を譲ろうとする」か否かを4件法2)で尋ねた。また、援助に伴う心理的負担が大きな条件では、同様にシナリオ提示後、「優先座席に座っている人にかばんを自分の膝に置くように声をかけて、立ったままつり革を利用している人に座席を譲ろうとする」か否かを4件法3)で尋ねた。シナリオはAppendixに示されているように、まず援助要請が明確ではない状況のシナリオが提示され、その状況のシナリオにおける援助意図を回答させたのちに、援助要請が明確な状況のシナリオを提示し、再度援助意図の回答を求めた。条件によって、また、要請の明確さ(不明確・明確)によって、援助意図のパターンに差が生じるか否かを調べることが本研究の主眼である。

文化的自己観尺度

文化的自己観尺度(Hashimoto & Yamagishi, 2016)の下位尺度である調和追求尺度と排除回避尺度(各5項目)について、「全くあてはまらない(1)」から「とてもよくあてはまる(7)」までの7件法で尋ねた。

デモグラフィック要因

年齢、性別などのデモグラフィック要因についても尋ねた。なお、性別については女性を0,男性を1にダミー変数化した上で分析に使用した。

結果

ヘルプマークの認知度と有益さ認識

ヘルプマークの認知度を尋ねる質問に対して、「知らない」と答えた人は320名中128名(40.0%)、「聞いたことはあるが、よくは知らない」と答えた人は91名(28.4%)、「知っている」と答えた人は101名(31.6%)であった。また、ヘルプマークの有益さ認識を尋ねる質問に対して、「役立っていない」と答えた人は194名(60.6%)、「役立っている」と答えた人は126名(39.4%)であった。「知っている」と答える人ほど、ヘルプマークが「役立っている」と答えているという認知度と有益さ認識の関連性(χ2(1)=22.41, p<.001)も示されていたが、ヘルプマークを「知っている」と答えた人に限定しても、「役立っている」と答えた人の割合は58.4%(59/101名)にすぎず、序論で示した調査結果と同様に、ヘルプマークの認知度、およびその有益さについてはいまだ十分に社会に浸透していない現状がうかがえる。

各条件におけるシナリオ場面での援助意図の比較

ヘルプマークの着用(有・無)と援助に伴う心理的負担(大・小)を操作した合計4つのシナリオ場面における援助行動について、要請の明確、不明確ごとに援助意図に差異が示されるか否かを検討した。分析を行うにあたり、援助意図を測定するために設けた尺度に対する4件法をそのまま分析に用いて平均値を比較した場合の結果と、4件法で測定した援助意図尺度を援助意図なしありの2件法にダミー変数化し、援助意図割合を比較した場合の結果をそれぞれ見比べることとした。なお、結果は以下の図や表に示すとおり、大きくは変わらないが、シナリオ場面の効果を分析する際には平均値を、他の心理変数との関係を分析する際には割合を分析に使用することとする。

Figure 1には参加者間要因として配置した4つのシナリオごと、また参加者内要因として配置した要請の明確さ(不明確・明確)ごとに援助意図の程度を示している。まず、援助意図尺度の平均値を従属変数、シナリオにおける2要因(参加者間:ヘルプマーク(有・無)と心理的負担(大・小))と援助要請の明確さ(参加者内:明瞭・不明瞭)の計3要因を独立変数とする分散分析を行ったところ、ヘルプマークの主効果(F(1, 316)=9.59, p<.01,偏η2=.03)と心理的負担の主効果(F(1, 316)=62.12, p<.001,偏η2=.16)がそれぞれ有意となった。さらに、援助要請の明確さの主効果も有意であった(F(1, 316)=97.05, p<.001,偏η2=.23)。交互作用効果はいずれも有意ではなかった。援助要請の明確さの主効果は仮説1を、また心理的負担の主効果は仮説2を支持する結果であり、援助提供者の援助意図に対して援助要請の明確さが重要な要因であるとする先行研究における知見とも整合的である。加えて、ヘルプマークの主効果は、ヘルプマークの着用が援助意図を高める可能性を示唆する結果である。さらに、Figure 1に示されているように、援助要請が明確でない状況では、小さな心理的負担かつヘルプマークをつけている人に対してのみ、援助意図は理論的中央値(つまり50%、ないし2.5)を有意に上回っていた。このことは、援助に際して心理的負担のかかる(まわりの人たちの協力も仰ぐ必要のある)場合に関しては、ヘルプマーク利用者に対する援助は示されにくい一方で、心理的負担が小さな(自分自身が援助を提供する)場合では、ヘルプマークを身につけることで援助行動が示される可能性を示している。これに対して、援助要請が明確な状況においては、ヘルプマークの有無にかかわらず、心理的負担の小さな場合に援助意図得点が理論的中央値を有意に上回っていた。このことから、明確な援助要請がヘルプマークの着用それ自体の効果を上回ることも示唆される。

Figure 1 Comparison of intentions to help (shown as mean and probability) by conditions and situations

各条件におけるロジスティック回帰分析の結果

援助意図の有無の規定因を検討するため、シナリオと状況(援助要請が不明確な状況と明確な状況)ごとに援助意図の有無を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。独立変数はTable 1Table 2に示すとおり、年齢、性別、ヘルプマークの認知度、調和追求傾向と排除回避傾向である。興味深いことに、調和追求傾向と排除回避傾向は正の相関を示す関係(r=.34)にあるものの、おおむね調和追求傾向は援助意図と正の関連、反対に排除回避傾向は負の関係を示す結果が散見された。

Table 1 Results of the logistic regression analysis in the unsolicited situation

Small psychological burden (Small PB)Large psychological burden (Large PB)
w/mark (n=80)w/o mark (n=78)w/mark (n=83)w/o mark (n=79)
OR95%CIOR95%CIOR95%CIOR95%CI
Age1.080**1.019–1.1451.0140.975–1.0540.9950.958–1.0331.0210.972–1.072
Sex0.4750.132–1.7070.5710.211–1.5482.2820.805–6.4682.0620.510–8.341
knowledge2.7720.623–12.3341.4800.535–4.0930.4570.149–1.3972.8870.717–11.623
Harmony seeking3.439*1.034–11.4391.1260.541–2.3423.555**1.454–8.6943.253*1.229–8.607
Rejection avoidance0.259**0.100–0.6741.1510.700–1.8920.6120.371–1.0081.0400.539–2.008

**p<.01, *p<.05, p<.10

Table 2 Results of the logistic regression analysis in the solicited situation

Small psychological burden (Small PB)Large psychological burden (Large PB)
w/mark (n=80)w/o mark (n=78)w/mark (n=83)w/o mark (n=79)
OR95%CIOR95%CIOR95%CIOR95%CI
Age1.094**1.023–1.1701.0240.975–1.0751.0060.973–1.0410.9960.960–1.032
Sex0.2720.058–1.2880.5870.170–2.0291.2310.487–3.1072.1160.726–6.162
knowledge1.6850.361–7.8612.4130.577–10.1021.8920.721–4.9691.8410.607–5.578
Harmony seeking0.5560.189–1.6361.2300.516–2.9341.9020.914–3.9583.138**1.485–6.633
Rejection avoidance1.3480.604–3.0102.244*1.141–4.4150.9540.626–1.4541.3920.849–2.283

**p<.01, *p<.05, p<.10

援助要請が明確でない状況において、援助意図が理論的中央値を超えていた条件(ヘルプマークの着用があり、援助に伴う心理的負担の小さな場面のシナリオ)では、年齢(オッズ比(95%CI)=1.08[1.02–1.15])と排除回避傾向(オッズ比(95%CI)=0.26[0.10–0.67])、そして調和追求傾向(オッズ比(95%CI)=3.44[1.03–11.44])が援助意図をそれぞれ有意に予測していた。この結果は、年齢が高くなるほど、排除回避傾向が低くなるほど、また、調和追求傾向が高くなるほど、援助要請が不明確なヘルプマークの利用者に対して対象者の援助意図は高まる可能性を示しており、仮説3を部分的には支持する結果である。ただしそれ以外の条件では排除回避傾向の効果は示されず、仮説3を支持する結果はおおむね得られなかった。

考察

本研究では、ヘルプマーク利用者に対する援助意図の促進・抑制因についてオンライン実験を通して検討した。その結果、1)援助に伴う心理的負担が小さい場面ではヘルプマークの着用が周囲の人々のマーク着用者に対する援助意図を高める可能性、また、2)援助要請が明確になれば、そうした援助意図は十分に高まる可能性が示された。さらに、3)排除回避傾向の強さや年齢の低さがヘルプマーク利用者に対する援助意図の抑制因となる可能性も示唆された。ヘルプマークの着用の効果を示す本研究の結果は、ヘルプマークが「助け合いのしるし」としての役割を果たす可能性を示すものである。また、日本人の間では、援助要請の明確さこそが援助意図を規定する要因となることを示す結果は、既存の知見(Hashimoto, Ohashi, & Yamaguchi, 2022; Niiya et al., 2022)とも合致している。ただし、Figure 1に示されているとおり、明確な援助要請によって周囲の人々のマーク利用者に対する援助意図が高まる可能性を示す本研究の結果を踏まえると、ヘルプマークの着用それ自体は、援助を要請する側にとっては心理的なためらいを減らす一助になるとしても、援助を提供する側の心理的なためらいの低減にはつながっていないとの解釈も可能である。

排除回避傾向の強さと年齢の低さがヘルプマーク利用者への援助意図の抑制因となる可能性を示す本研究の結果も示唆に富む。排除回避傾向と調和追求傾向は相互協調性の二側面として概念的には位置づけられており、また本研究のデータでも両者は正の相関を示す関係にある。しかし、排除回避傾向は援助意図と負の相関を示しやすい一方、調和追求傾向は一貫して正の相関を示すことが本研究の結果から示唆されている。一見すると矛盾した排除回避傾向と調和追求傾向にみられる関係性は、異質な他者への寛容性を扱う先行研究(前田・橋本,2021)においても示されており、調和追求傾向が援助意図に対する促進因である一方、排除回避傾向は援助意図に対する抑制因であるとの解釈はある程度妥当であると考えられる。ただし、調和追求傾向には社会差が示されず、排除回避傾向において頑健な社会差が示されている(アメリカ人と比べ日本人の間では排除回避傾向が顕著に示される)こと(Hashimoto & Yamagishi, 2016)や、日本人の中でも若年層において排除回避傾向が顕著に示されること(Hashimoto, 2021)を考慮すれば、日本独自のヘルプマーク制度における今後の普及施策を考える上で、排除回避傾向や年齢との関連を念頭に置きながら、ヘルプマーク利用者に対する援助提供の心理的なためらいをいかに低減させるかという問いを考慮する必要がある。

援助要請の明確さとの関連、および排除回避傾向との関連を示す本研究の結果から導き得る今後のアプローチとしては、少なくとも以下の2点を検討する価値があると言えるだろう。第一に、ヘルプマークそのものの周知である。本研究におけるヘルプマークの認知度と援助意図には、弱くはあるが正の相関関係が示されている。あくまで相関関係であるため、因果関係にまで踏み込んだ解釈は差し控えるが、本研究や先行研究の結果に示されているような認知度の低さはやはり目を背けるべきではないだろう。さらに、「ヘルプマークが役立っていない」と回答した割合が約6割にのぼっていた点も見過ごせない。ヘルプマークの普及には、「近い将来に自分や自分の家族の誰かがヘルプマークを身につける日が来るかもしれない」という『当事者としての未来』に思いを馳せることが有用な手立てである可能性も示されている(Hashimoto, Maeda, & Sato, 2022)。そうした研究知見を踏まえ、さまざまなアプローチによって、単に知っているという段階から、ヘルプマークに対するより深い理解を促していくことが喫緊の課題であろう。また第二に、ヘルプマーク利用者への援助提供は、決して利用者からの否定的な反応を誘発するものではない点を明確にするアプローチも必須である。平たく言えば、ヘルプマーク利用者に、援助提供は「よけいなお節介」だと受け止められるわけではないという点をより積極的に共有する必要がある。ヘルプマーク利用者の援助要請がより明確になるようにヘルプマーク(ないしヘルプカード)4)の認知を行うと同時に、援助に際する「負債」を働かせないような手立てを同時に検討していくことによるヘルプマークのさらなる有効性の向上は十分に見込むことができる。

最後に、本研究の結果を解釈するにあたって、個々人の心の性質の反映としてのみ理解すべきではない点をあらためて強調しておきたい。具体的な例として、援助行動の程度を比較した調査研究に対する一面的な解釈が挙げられる。援助行動の文化差を比較することのできるCharities Aid Foundation(2019)の調査結果は、援助に関する行動指標について日本が世界最下位の125位に位置づく——人助け行動指標、寄付行動指標、さらにはボランティア行動指標のすべてにおいて世界最下位に位置づく——ことを示しており、この結果はCharities Aid Foundation(2021)においても再現されているが、これらの結果から、日本人は冷たい人たちだと解釈する必要はないと思われる。本研究の結果が明確に示しているように、状況によって人々の援助意図は変化しうる。具体的には、ヘルプマーク利用者に対して援助提供をしたいという選好(preference)を有していたとしても、援助提供がもたらす相手からの反応の予測ないし期待(expectation)が否定的である状況下では援助がためらわれる恐れがあるということである。選好と期待が一貫しないことにより援助意図が高まらないのであれば、上述した2つのアプローチなどによって、それらを一貫させていくことでその改善を見込むことができる。本研究の結果は、そうした可能性を示唆するものであり、ヘルプマーク利用者への援助意図に対する状況要因の役割に今後一層注目する必要があるだろう。

本研究の課題

本研究の結果は、あくまで場面想定法によるシナリオ実験に基づくものであるという点が本研究の課題の1つである。加えて、シナリオ提示順序についても、援助要請が不明確な状況に関するシナリオが必ず先に提示されており5)、方法に関する改善点も少なくない。そのため、本研究で得られたヘルプマークを着用することによる効果などについての過度な一般化は避けるべきであろう。今後は、フィールド観察などを通じて本研究で得られた効果が頑健なものか否かを検討する必要がある。第二に、本研究で操作を加えた援助要請の明確さについては、今後より慎重な検討を加える必要がある。操作を強調するため、本研究ではヘルプマーク利用者が声をかけるというシナリオを用いていた。しかし、見えない障害を抱える人々の個別具体的な困り感を踏まえれば、ヘルプマーク利用者の援助要請の明確化の方法も、声かけのみではなく多様なあり方を検討すべきである(例えば、発声や、意思表示などのコミュニケーションが困難なケースなどがある)。第三に、本研究における「心理的負担」についても、今後の研究において精緻化していく必要がある。「心理的負債」に関する研究は、とりわけ援助要請者側の立場にたった研究が多くなされているが(例えば、一言他,2008)、本研究では、こうした援助要請者側の心理的負債を規定する一要因として心理的負担を位置づけていた。今後の研究では、援助提供者の側のその他の要因(例えば、心理的な負担以外の物質的な負担など)も視野に含め、先行研究で提唱されてきた援助に関するモデルとの整合性を検討する必要がある。

上記のような課題はあるにせよ、本研究の結果は、ヘルプマーク制度における今後の取り組みを考える上で重要なヒントを提供するものである。「助け合いのしるし」としてのヘルプマークの役割に期待を込めることは十分に可能であるが、そのために現実的に乗り越えるべき問題点も山積している。ヘルプマークを利用する中で感じる日本人にとっての心理的負担ないし負債をいかに低減していくことができるか、さらにヘルプマーク利用者の援助要請の明確化の方法を多様なかたちで検討できるかという点を深く考察することで、今後のヘルプマークの活用や普及のあり方を見直していく必要がある。

脚注

1)本研究は、吉田秀雄記念事業財団助成研究の支援を受けて実施した。

2)具体的な質問文は「この状況であなたは、立ったままつり革を利用している人に声をかけて座席を譲ろうとするでしょうか。それとも声をかけることはしないでしょうか。(ここでは、そうしたいとかそうすべきということではなく、この状況で「あなたが実際にとりそうな行動」を以下からひとつお選びください。)」であり、「絶対に声をかけて座席を譲ろうとする(1)」「たぶん声をかけて座席を譲る(2)」「たぶん声をかけない(3)」「絶対に声をかけない(4)」の4件法で回答を求めた。

3)具体的な質問文は「この状況であなたは、優先座席に座っている人にかばんを自分の膝に置くように声をかけて、立ったままつり革を利用している人に座席を譲ろうとするでしょうか。それとも声をかけることはしないでしょうか。(ここでは、そうしたいとかそうすべきということではなく、この状況で「あなたが実際にとりそうな行動」を以下からひとつお選びください。)」であり、「絶対に声をかけて座席を譲ろうとする(1)」「たぶん声をかけて座席を譲る(2)」「たぶん声をかけない(3)」「絶対に声をかけない(4)」の4件法で回答を求めた。

4)ヘルプマークの裏側には、「支援の内容」や「配慮して欲しいこと」「連絡先」を書いたシールを張ることができるようになっている。また、緊急連絡先や必要な支援内容などを記載する「ヘルプカード」もマークとは別に配布されており、このカードは障害のある方などが災害時や日常生活の中で困ったときに、周囲に自己の障害への理解や支援を求めるためのものである。

5)この提示順に限った理由は、援助要請が明確な状況に関するシナリオを先に提示することによる影響を考慮したためであるが、今後の研究において参加者間でのデザインを用いるなどの工夫が必要となる。

引用文献
 
© 2023 日本社会心理学会
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