2024 年 40 巻 1 号 p. 11-17
This study aims to investigate how the number of choices affects regret in the context of multiple-choice questions. We hypothesized that regret would be stronger when people failed on a question with fewer choices than when they failed on a question with more choices, and that the effect of choice would be mediated by perceived closeness to success. In both Experiment 1 (a scenario experiment) and Experiment 2 (a laboratory experiment), participants rated the degree to which they experienced regret when they failed to choose the correct answer option in a quiz with a prize. The number of alternatives presented in the quiz was manipulated (2 vs. 8). The results showed that in both experiments, a failure when choosing from a small number of alternatives produced more regret than when choosing from a larger number of alternatives. However, no mediating effect of perceived closeness to success was observed. The effect of the number of choices on regret was discussed.
選択肢が多いことは,通常,好ましいと思われやすい。選択の幅が広がるからである。しかし実際には,選択肢が多いことは決定に対する満足感を低下させたり(Iyengar & Lepper, 2000),後悔を強めたり(e.g., Inbar et al., 2011; Sagi & Friedland, 2007)することが知られている。この現象は選択肢過多効果と呼ばれ,主に消費者行動の文脈でその効果が論じられてきた(Chernev et al., 2015)。しかし選択を迫られる状況は購買行動以外にも存在する。試験やクイズで出題される選択式問題もそうした状況の1つであり,解答者は適切な選択肢を選ぶ必要があり,選択を誤れば後悔を経験する。このような文脈の違いは,選択肢の数と後悔との関係にどのような影響を与えるのだろうか。本研究では,選択式問題という文脈において,選択肢の数が後悔にどのような影響を与えるのかを検討した。
選択肢過多効果に対する文脈の影響一般に,選択肢過多効果は,選択肢の多さが過剰な認知的負荷をもたらすという心理プロセスによって引き起こされることが指摘されている(e.g., Iyengar & Lepper, 2000)。選択肢が多すぎる状況では,すべての選択肢を比較しようとすると,人の認知資源を超える過剰な認知的負荷がかかる。このような状況では,選択肢を十分に比較することができないため,自身の決定に対する自信や満足感が低下し,後悔も大きくなる。実際,選択肢過多効果の研究をレビューしたChernev et al.(2015)は,選択肢過多効果の調整要因として,選択の難易度(時間制限があるか否かなど),選択肢の優劣のつけにくさ,選択者の明確な選好基準の有無,選択者の目標2)の4つの要因を挙げている。いずれの要因についても,選択肢が多いことによって認知的負荷が過剰となる場合に選択肢過多効果が顕著となる。
特に消費者行動の文脈では,選択肢数の増加はより良い選択肢を選べる可能性を高めることを意味し,このことが選択肢を比較できないことに対する不満足感や後悔を引き起こすことが指摘されている(Diehl & Poynor, 2010)。一方で,試験やクイズで出題される選択式問題では明確な正解が設定されており,選択肢数の増加は正解を選べる可能性を減じるものでしかない。この意味で,選択式問題という文脈での「選択」は,先行研究で論じられてきた「選択」とは異なる課題構造を有しており,これまでと同様の議論は適用できないと考えられる。選択式問題では,選択肢の数と後悔との間にはどのような関連が見られるのだろうか。この新たな研究課題を検討するにあたり,本研究では後悔と成功への近さとの関連に注目した。
後悔と成功への近さ後悔は「もし過去に違う選択をしていれば,現状がもっとよいものであったのに」と想像する際に経験するネガティブな感情である(Zeelenberg & Pieters, 2007)。現実と非現実の比較という高次な認知過程(反実思考)によって引き起こされる感情であり,悪い結果に対する責任感を伴うことに特徴づけられる(Connolly & Zeelenberg, 2002)。つまり,その結果に対して責任がなければ後悔は経験されない。自分が選んで悪い結果となった場合には後悔が経験されるが,運が悪くて悪い結果となった場合には失望感が経験される(Breugelmans et al., 2014)。
後悔を強める要素の1つとして,Kahneman & Tversky(1982)は「(実際には起こっていないが)起こり得たことへの近さ」を挙げている。すなわち,理想状態が現在の状態に近いほど,反実思考が産出されやすく,強い後悔が生じる。例えばKahneman & Tversky(1982)は,飛行機の出発から5分遅れた場合と30分遅れた場合では,前者のほうがより後悔すると予測されやすいことを指摘している。「どのようにすれば5分早く着けたか」のほうが「どのようにすれば30分早く着けたか」よりも想像しやすいからである。Medvec et al.(1995)も,オリンピックの銀メダリストのほうが「あと少しで金メダルだったのに…」と考え,銅メダリストよりもネガティブな感情を表出していたことを報告している(同様の結果として,Fernandez-Duque & Landers, 2008)。
前述の通り,選択式問題には明確な正解が設定されている。したがって,理想状態(正解すること)にどの程度近いのかを意識しやすい(「あと少しで正解できた」,あるいは「正解の答えからは程遠かった」ということを意識できる)。そして選択肢の数は,成功への近さの知覚を決定するものの1つであると考えられる。すなわち,選択肢の少ない問題(例えば2択問題)のほうが多い問題(例えば8択問題)より正解できる可能性が高く,問題を間違えた際に「あと少しで正解できたのに」と捉えられやすい可能性がある。このことは,選択式問題においては選択肢過多効果が起こらないばかりか,少ない選択肢を呈示された場合のほうが多い選択肢を呈示された場合よりも強い後悔が引き起こされる可能性を示すものである。
本研究の目的と仮説本研究の目的は,選択式問題の文脈において選択肢の数と後悔との関連を明らかにすることであった。具体的には,選択肢が少ない問題で失敗したときには多い問題で失敗したときよりも後悔が強まること,またその選択肢の効果が成功への近さの知覚によって媒介される可能性について検討した。
本研究の仮説は以下の通りであった。
仮説1(成功への近さ)選択肢の数が少ない問題のほうが,多い問題よりも正解できる可能性が高いと知覚されやすい。
仮説2(後悔)選択肢の数が少ない問題で間違えたときのほうが,多い問題で間違えたときよりも強い後悔が経験される。
仮説3(成功への近さの媒介効果)選択肢の数が後悔に及ぼす効果は,成功への近さの知覚によって説明される。
本研究ではこれらの仮説を,場面想定法を用いたオンライン実験(実験1)と行動実験(実験2)によって検討した。
倫理的配慮本研究は第二著者の所属する大学の倫理審査委員会の承認を得て行われた(実験1の承認番号03-73; 実験2の承認番号HR-PSY-186)。
クラウドソーシングサービスを通じて協力を依頼した成人111名を対象に実験を実施した。回答に欠損のあった3名をデータから除外し,108名(男性50名,女性58名;平均年齢40.07,SD=9.71)の回答を分析対象とした。
実験手続き本実験は,オンライン実験のためのプラットフォームであるQualtrics(https://www.qualtrics.com/jp/)を利用して,インターネット上で実施された。
実験協力に同意したあと,実験参加者はまず,「景品(お米10 kg)のかかっているクイズ大会において,最終問題で選択式問題が出題され,迷いながら選択肢Aを選択した」というシナリオを読み,その場面をできるだけ鮮明に想像するように教示された。最終問題はコンビニの人気スイーツランキング2位を当てるというものであり,その解答として呈示される選択肢の数が操作された。具体的には,選択肢2条件の参加者には2択の問題であったことが説明された一方で,選択肢8条件の参加者には8択の問題であったことが説明された。シナリオを読んだ後,実験参加者は,成功への近さの知覚を測定する項目(「あなたはこの問題にどの程度正解できると思いますか」)にスライダーを用いて回答した(「0:全く正解できない」~「100:絶対に正解できる」の101件法)。
その後,続きのシナリオとして「選択肢Aが不正解であり,選択肢Bが正解であることがわかった」という場面が呈示された。参加者はその場面において後悔を感じる程度(5項目;Breugelmans et al., 2014)について,7件法(「0:全く感じない/思わない」~「6:とても強く感じる/そう思う」)で評定した3)。また,満足感(「満足している」)と失望感(「がっかりした気持ちを感じる」)についても同じ尺度を用いて評定した。最後に,その場面のネガティブさ(「あなたにとってこの出来事はどのくらい悪い出来事でしょうか」)について7件法(「0:全く悪い出来事ではない」~「6:とても悪い出来事である」)で評定した。後悔を測定する項目の信頼性は十分に高いと判断された(α=.82)ため,5項目の平均を算出して得点化し,後悔の程度を示す指標として分析で用いた。
結果各変数の条件ごとの平均値(SD)およびt検定の統計量をTable 1に示した。
Items | Number of Options | t(106) | p | d | |
---|---|---|---|---|---|
Two | Eight | ||||
Closeness to success | 58.45 (20.87) | 41.19 (24.75) | 3.93 | <.001 | 0.75 |
Regret | 3.64 (1.24) | 2.98 (1.06) | 2.92 | .004 | 0.56 |
Satisfaction | 1.88 (1.60) | 2.31 (1.46) | −1.47 | .146 | 0.28 |
Disappointment | 4.68 (1.36) | 4.13 (1.52) | 1.96 | .053 | 0.38 |
Badness | 3.18 (1.65) | 2.46 (1.38) | 2.44 | .016 | 0.47 |
Note. Bold type means statistical significance.
成功への近さの知覚に対して,対応のないt検定を行った(Table 1)。この結果,仮説通り選択肢の数の効果は有意となり,選択肢2条件の参加者は選択肢8条件の参加者よりもクイズに正解できると思っていたことが示された。
後悔とその他の評定項目後悔について対応のないt検定を行ったところ,条件間で有意な差が見られ,選択肢2条件のほうが選択肢8条件よりも強い後悔が報告されていた(Table 1)。これは仮説2を支持する結果であった。
一方で,後悔以外の感情(満足感・失望感)においては有意な差は見られなかった。ただし,場面のネガティブさについては選択肢の数の効果は有意となり,選択肢2条件は選択肢8条件よりも状況が悪いと判断されていた(Table 1)。
成功への近さの媒介効果最後に,後悔に対する選択肢の数の効果を成功への近さの知覚が媒介するかを検討するために,媒介分析を行った(Figure 1)。実験条件(選択肢の数)をダミー変数化し(0=2択,1=8択),変数間の単相関分析を行ったところ,いずれの変数間においても有意な相関が見られた(選択肢の数×成功への近さ:r(106)=−.36, p<.001; 選択肢の数×後悔の強さ:r(106)=−.27, p=.004; 成功への近さ×後悔の強さ:r(106)=.25, p=.010)。
Note. Standard coefficients are shown.
まず,後悔の強さを目的変数に,選択肢の数を説明変数にした回帰分析を行った。この結果,選択肢の数は後悔の強さを有意に予測していた(b=−0.65, SE=0.22, 95%CI[−1.09, −0.21], β=−.27, t(106)=−2.92, p=.004)4)。さらに成功への近さを説明変数に追加した結果,成功への近さの効果は有意傾向(b=0.01, SE=0.01, 95%CI[−0.001, 0.02], β=.17, t(105)=1.73, p=.087)であり,また選択肢の数の効果は有意のままであった(b=−0.51, SE=0.24, 95%CI[−0.97, −0.04], β=−.21, t(105)=−2.14, p=.035)。間接効果の検定(Bootstrap法,3,000回)を行った結果,95%信頼区間([−0.36, 0.01])は0を含んでおり,成功への近さの知覚の媒介効果は認められなかった。
考察本実験の結果,選択肢が2つ呈示された条件の参加者のほうが,選択肢が8つ呈示された条件の参加者よりも成功に近いと予測し,また失敗時には強い後悔を報告していた(仮説1・2支持)。しかし選択肢の数が後悔に与える効果は成功への近さの知覚によって媒介されていなかった(仮説3不支持)。
本実験では,選択式問題においては選択肢の数が少ない場面のほうが,多い場面で失敗したときよりもより強く後悔が経験されることが明らかとなった。また,こうした選択肢の効果は失望感や満足感では見られなかった。唯一,場面のネガティブさについては後悔と同様の条件差が見られたが,これは場面のネガティブさが後悔の強さと相関する(Connolly & Zeelenberg, 2002)ことが反映されたためであると考えられる。このことは,選択肢の数の効果が後悔特有のものであることを示唆している。
しかし予測していた成功への近さの知覚による媒介効果は確認できなかった。その理由として,本実験が場面想定法であったことが影響した可能性が考えられる。本実験では参加者は自分では選択をせず,実験者から与えられた「あなたは選択肢Aを選んだ」というシナリオを読んだ後に成功への近さ(「どの程度正解できると思うか」)について回答していた。そのため,一部の参加者は8択の条件であっても「この後に呈示されるシナリオは,正解できたという場面か,不正解だったという場面かの2択であろう」と考え,回答していた可能性がある。その結果,本来の成功への近さの知覚が測定できず,後悔との関連があまり強く見られなかった可能性が考えられる。
また,Gilbert et al.(2004)では,後悔を予測した場合には成功に近いほど後悔が強まりやすい一方で,実際に経験した場合には選択が正当化されるために成功への近さの効果が見られないことを報告している(同様の結果として道家・村田,2009)。実験1は場面想定法であり,後悔経験を「予測」したために選択肢の数の効果が見られた可能性がある。実際に選択式問題を解き,間違えて後悔を経験した場合にも実験1と同様のパターンが見られるかはわからない。
以上の問題点を踏まえ,実験2では実験室実験を実施し,仮説を再検討した。
G*Power 3.1(Faul et al., 2007)を用いてサンプルサイズを決定した。実験1の結果から,本研究で検出したい効果の効果量が中程度(d=0.5)であることが想定された。α=.05,パワー=.80とすると,効果を検出するのに最低限必要なサンプル数は128であったため,最低限N=128となることを目指してデータを収集した。
実験参加者大学生133名を対象に実験を実施した。参加者全員が課題で必ず不正解になるということに完全に気付いていた2名をデータから除外し,131名(男性49名,女性81名,その他1名;平均年齢20.26,SD=1.79)の回答を分析対象とした。
実験手続き参加者は実験協力に同意した後,まず,課題としてコンビニの人気スイーツランキングについてのクイズが出題されること,そしてクイズに正解すると景品としてお菓子5)がもらえることを説明された。その後,ランキングの第2位に当てはまるスイーツを選択肢の中から選ぶよう求められた。このクイズにおいて呈示される選択肢の数が操作され,参加者は2つの選択肢から選ぶ選択肢2条件か,8つの選択肢から選ぶ選択肢8条件のどちらかの条件にランダムに割り振られた。参加者は5分間考え,クイズに解答した。解答を終えた後,実験1と同様に,成功への近さの知覚を測定する項目にスライダー(101件法)を用いて回答した。
その後,参加者は実験者とともにパソコン画面上に呈示されたクイズの結果を確認し,参加者の解答が不正解であったという虚偽のフィードバックを受けた(どの選択肢を選んだとしても参加者全員が不正解となるよう操作されていた)。クイズで不正解になったことを受け,参加者は今どのように感じているかを,実験1と同様に後悔(5項目)・満足感・失望感・場面のネガティブさについて7件法で評定した。後悔5項目の信頼性は比較的高いものであった(α=.69)ため,5項目の平均を後悔の指標として用いた。
最後に年齢・性別を回答してもらい,課題を終了した。課題終了後,デブリーフィングを行い,本研究の真の目的を改めて説明した上でデータ提供への同意の有無を確認し,謝礼(お菓子)を渡して実験は終了した。
結果各変数の条件ごとの平均値(SD)およびt検定の統計量をTable 2に示した。
Items | Number of Options | t(129) | p | d | |
---|---|---|---|---|---|
Two | Eight | ||||
Closeness to success | 61.39 (16.81) | 43.45 (19.40) | 5.66 | <.001 | 0.98 |
Regret | 2.36 (1.07) | 1.80 (1.20) | 2.84 | .005 | 0.49 |
Satisfaction | 2.62 (1.60) | 2.69 (1.62) | −0.25 | .801 | 0.04 |
Disappointment | 3.80 (1.59) | 3.02 (1.81) | 2.65 | .009 | 0.46 |
Badness | 1.61 (1.32) | 1.11 (1.15) | 2.30 | .023 | 0.40 |
Note. Bold type means statistical significance.
成功への近さに対して対応のないt検定を行ったところ,実験1と同様に選択肢の数の効果は有意となり,選択肢2条件の参加者のほうが選択肢8条件の参加者よりもクイズに正解できる自信があったことが示された(Table 2)。
後悔とその他の評定項目次に,後悔について対応のないt検定を行ったところ,選択肢の数の効果が有意となり,選択肢2条件において選択肢8条件よりも強い後悔が報告されていた(Table 2)。これは仮説2を支持する結果であった。また,場面のネガティブさについても実験1と同様に,条件間で有意な差が見られた。
一方で,後悔以外の感情について,満足感では選択肢の数の効果は有意ではなかったが,失望感では有意となった。選択肢2条件の参加者は選択肢8条件の参加者よりも強い失望感を報告していた。これは実験1とは異なる結果であった。
成功への近さの媒介効果最後に,選択肢の数が後悔の強さに及ぼす影響を成功への近さの知覚が媒介するかどうかを確かめるために媒介分析を行った(Figure 2)。選択肢の数をダミー変数化して単相関分析を行ったところ,いずれの変数間においても相関は有意となった(選択肢の数×成功への近さ:r(129)=−.45, p<.001; 選択肢の数×後悔の強さ:r(129)=−.24, p=.005; 成功への近さ×後悔の強さ:r(129)=.21, p=.014)。
Note. Standard coefficients are shown.
まず,後悔の強さを目的変数に,選択肢の数を説明変数にした回帰分析を行った。この結果,選択肢の数は後悔の強さを有意に予測していた(b=−0.56, SE=0.20, 95%CI[−0.96, −0.17], β=−.24, t(129)=−2.84, p=.005)。さらに成功への近さを説明変数に追加した結果,成功への近さは後悔の強さを予測しておらず(b=0.01, SE=0.01, 95%CI[−0.003, 0.02], β=.13, t(128)=1.39, p=.166),また選択肢の数の効果は非有意となった(b=−0.43, SE=0.22, 95%CI[−0.86, 0.01], β=−.18, t(128)=−1.93, p=.056)。間接効果の検定(Bootstrap法,3,000回)を行った結果,95%信頼区間は0([−0.37, 0.06])を含んでおり,成功への近さの知覚の媒介効果は認められなかった。
考察本実験の結果,選択肢が2つ呈示された条件の参加者のほうが,選択肢が8つ呈示された条件の参加者よりも成功に近いと予測し,また失敗時には強い後悔を報告していた(仮説1・2支持)。しかし選択肢の数が後悔に与える効果は成功への近さの知覚によって媒介されていなかった(仮説3不支持)。これらの結果は実験1と一貫するものであった。
実験1では,仮説3が支持されなかった理由として,場面想定法を用いていたために2択の枠組みで捉えていた参加者がおり,正確に成功への近さの知覚を測定できていなかった可能性を指摘した。しかし実際に参加者自身が選択を行った実験2でも成功への近さの平均値は実験1と同様であったため,この解釈は疑わしい。
別の可能性として,フィードバックを受けた後に参加者が自身の決定を正当化し,後悔が減じられていたことが影響した可能性が考えられる。強い後悔を経験したときには認知的不協和が生じ,選択が正当化されやすいことが知られている(Gilovich & Medvec, 1995; Gilovich et al., 1995)。したがって,もともと強い後悔が経験されていた選択肢2条件において多くの参加者が自身の選択をより正当化し,条件間での後悔の差が小さくなった結果,フィードバック前に測定されていた(正当化されていない)成功への近さと(正当化された後の)後悔との関係が弱まった可能性がある。
この可能性を示唆する結果として,実験1とは異なり,実験2では失望感の条件差が見られたことが挙げられる。失望感は後悔と同じ負の感情ではあるが,その結果の責任が自分にないとき(運や状況に依存するとき)に感じる感情である(Breugelmans et al., 2014)。選択肢2条件で選択肢8条件よりも失望感が高く評定されたということは,特に選択肢2条件で選択の正当化が生起していた(参加者が「自分はベストを尽くした,これ以上は間違えても仕方がない」と自分の責任を減じていた)可能性を示すものだと考えられる。
予測時(実験1)に比べて,経験時(実験2)には自身の行動の正当化を通じて後悔の条件差が縮まったという解釈は,成功への近さの効果が予測時にのみ見られるとするGilbert et al.(2004)の知見とも一致する。一方で,本研究ではGilbert et al.(2004)とは異なり,自身の選択の正当化後も,依然として条件間で後悔の差が見られた。どのような場合に経験時にも成功への近さの効果が残るのか,今後検討していく必要があるだろう。
本研究では,選択式問題の文脈では,選択肢が少ない問題で失敗したときには多い問題で失敗したときよりも後悔が強まること,またその選択肢の効果は成功への近さの知覚によって媒介される可能性について検討した。仮想場面法(実験1)・行動実験(実験2)ともに,選択式問題では,少ない選択肢の中から選んで失敗した場合のほうが多くの選択肢の中から選んだ場合よりも後悔が強く経験されることが示された。しかし,この選択肢の数の効果は,成功への近さの知覚によっては説明されなかった。これらの結果は,選択肢の数が少ない課題で失敗したときには成功に近い(「あと少しで正解できたのに」)と捉えられやすく,より強い後悔を引き起こすという仮説を一部支持するものであった。
これまで多くの先行研究が消費者行動の文脈で選択肢の数が後悔に及ぼす効果を示してきた(Chernev et al., 2015)。そうした知見では,選択肢が多い選択課題のほうが,選択肢が少ない選択課題よりも,失敗時に強い後悔が生じるという選択肢過多効果が示されてきた。これに対して本研究は,選択式問題という文脈においてはむしろ選択肢の数が少ない場合のほうが多い場合よりも後悔を強めることを示した。本研究は,これまで検討されてこなかった選択肢過多効果に対する文脈の影響を示した点で意義がある。
また,後悔研究ではこれまで,成功への近さが後悔を強めることに注目した研究は数多く行われてきた(e.g., Fernandez-Duque & Landers, 2008; Kahneman & Tversky, 1982; Medvec et al., 1995)。その一方で,選択肢の数によって成功への近さの知覚を操作した研究はあまり見られない。本研究は,予測時(実験1)と経験時(実験2)の両方において,選択肢の数の効果が頑健に見られることを示した。選択肢の数という要因に注目し,成功への近さが後悔に及ぼす影響を示す知見を提供したという点で,本研究は後悔研究にも貢献できると考える。
しかし本研究では,成功への近さの知覚は後悔の強さを予測せず,仮説は支持されなかった。この理由として,失敗のフィードバックを受け取った後に参加者が自身の選択を正当化し,後悔が減じられていた(e.g., Gilovich & Medvec, 1995; Gilovich et al., 1995)可能性を指摘した。この解釈は,成功への近さに注目する多くの後悔研究で指摘されるものでもある(道家・村田,2009; Gilbert et al., 2004)。しかしこの解釈の妥当性は直接検討できていない。成功への近さの知覚以外の変数が選択肢の数の効果をもたらしている可能性も含め,何が選択肢の数の効果を引き起こしているのか,今後,検討していく必要がある。
本研究の限界として,第一に,どのようなときに選択肢が多いほうが後悔し,どのようなときに選択肢が少ないほうが後悔するのか,その境界条件を直接検討できていない点が挙げられる。本研究では選択式問題の「明確な正解がある」という特徴に注目したが,本当にその特徴が選択肢の数と後悔との関連に影響を与えているかはわからない。また,他の要因が選択肢の数と後悔との関連に影響している可能性もある。今後,選択肢過多効果が得られるのか,それともその逆のパターンが得られるのか,境界条件を探っていく必要があるだろう。
また,本研究では実験1・2ともに,2択と8択の2つの条件のみを設定し,選択肢の数が後悔に与える影響を検討した。このため,選択肢の数が少なくなればなるほど後悔がより強くなっていくのか,という問いには答えられない。2択の問題では不正解になった場合,それと同時に必然的に正解の選択肢も知ることとなるが,3択以上の問題では正解を示されない限り明確に知ることはできない。このため,選択肢の数が重要であるというよりも,2択が特別である可能性も否めない。今後,選択肢の条件数を増やして選択肢の数と成功への近さ,そして後悔との関係を調べる必要があるだろう。
最後に,これまで多くの研究で,後悔は失敗からの学習を促し,よりよい意思決定を促進する機能を持つ可能性が議論されてきた(e.g., Zeelenberg, 1999)。本研究の結果は,後悔という観点からは,選択肢の数が少ない問題を通じて学習したほうが,選択肢の数が多い問題を通じて学習するよりも,効率よく学習できる可能性を示唆している。しかし同時に,選択肢の数が少ないほど偶然正答する確率が高くなるために学習が進まなかったり,あるいは問題が簡単すぎて動機づけが下がったり,といったような多様な影響も予測される。今後の展望として,後悔やその他の要因も含めて,選択肢の数の効果が学習効率に及ぼす影響を検討することも重要であるだろう。そのような検討を行っていくことで,将来的に,よりよい学習教材の開発に寄与することが期待される。
1) 本論文は広島大学総合科学部に提出された筆頭著者の令和4年度卒業論文を加筆修正したものである。
2) Chernev et al. (2015)では,「選択者が選択する際に認知資源を最小化したいと考えている程度」と定義されている。例えば,利用可能な選択肢を増やしたいという目標のもとでは,認知的負荷は過剰にはならず,選択肢過多効果は起こらない。
3) 具体的には,「後悔を感じる」「失敗したと思う」「自分の間違いを訂正したいと感じる」「自分に怒りを感じる」「この状況になった責任は自分にあると思う」の5項目であった。また,中点にラベルは付されておらず,0のみが「感じない」を示し,数値が大きくなるにつれ,各知覚や感情が強く経験されていることを示す尺度となっていた。
4) 本稿においてβは標準偏回帰係数を示す。
5) 実験1では正解時の商品は米10 kgであったが,実験参加者が大学生であること,実験参加の謝礼としてイメージしやすいことを考慮し,実験2では景品をお菓子に変更した。実験1と比較して実験2において後悔の平均値が全体的に小さくなったのは,この景品(報酬の大きさ)の変更が影響した可能性が指摘できる。