社会心理学研究
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資料論文
新型コロナウイルス(COVID-19)への感染は不運か?:病気に対する原因帰属のプロセスから
村上 幸史
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電子付録

2025 年 40 巻 3 号 p. 216-226

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抄録

At the beginning of the novel coronavirus disease (COVID-19) outbreak, infection risk was touted as controllable by avoiding contact with others, to the point that infected individuals were blamed for a lack of personal responsibility. This cross-sectional study uses an attitude survey to clarify how blame for COVID-19 infection has evolved over time. The results showed that, in 2020, infection was generally attributed to personal factors, in which certain behaviors were blamed. However, as the infected population increased, the disease was no longer perceived as rare. As a result, the blaming and exclusion of infected persons lessened, and the perception that infection “is just bad luck” has become more widespread. The study also explores the relationship between knowledge about disease and blame regarding infection.

問題

COVID-19への感染と非難

本研究は,新型コロナウイルス(以下,COVID-19)の大流行に伴った,感染者に対する意識とその変遷について,感染に関する運や偶然性の認知という観点から追うものである。感染力が非常に強力であったCOVID-19は,未知の病として,人々の間に恐怖を生み出しやすいものであった(Lin, 2020)。シナリオ実験ではあるが,既知の肺がんと比較しても,COVID-19は知覚リスクと恐怖の程度が高かったことも示されている(Boo & Choi, 2023)。

感染症に対する恐怖は,COVID-19においても偏見や差別を導きやすいことが指摘されている。山本・岡(2021)は,行動免疫システムの観点から,病気のかかりやすさや接触に対する嫌悪感からなる感染脆弱意識が高い者ほど,COVID-19感染者へのネガティブなステレオタイプ認知が強まることを示している。また感染症の脅威は,ペストなど古くからスケープゴーティングの対象になりやすく,外集団としての外国人排斥にも結び付きやすいことは元々知られており(Faulkner et al., 2004),COVID-19流行下の外国人への偏見と差別については,数多くの検討がなされている(e.g., Chung & Li, 2020; Dhanani & Franz, 2021; Elias et al., 2021; Lu, 2023)。この背景として,COVID-19の発生源とされた中国人の不健康な食習慣などの構築された言説が,排斥に結び付いたことも指摘されている(Barreneche, 2020)。

中でも,本研究で注目するのは,感染が拡大した初期に生じた,日本における感染者への差別的な非難の向かい方についてである。村上他(2020)はCOVID-19の新聞記事の分析を通して,旅行,ライブハウス,飲み会,夜の街などでの感染が,あたかも欲望を抑えきれなかった快楽の代償のように報じられており,感染した者が非難の矛先である,いわゆるスケープゴートの対象になっていたことを示している。また「クラスター」という括りで,集団感染者を出した学校なども攻撃対象となり,本来は他者から感染させられた被害者の立場にある感染者が,反対に加害者として非難される傾向にあったと考えられる。

重大な損失が生じた場合に,実際の原因が何かを明確にすることよりも,当事者の責任が追及されやすいという,原因と責任の違いについてはよく知られている(e.g., Walster, 1966)。この傾向について,偶然で制御不可能な結果よりも,誰かに責任があると考える方が自身の不安を収めることにつながるという防衛的帰属理論が提案されており,この傾向は判断する側の状況が当事者との関連性が薄い場合に顕著であることも指摘されている(Shaver, 1970)。COVID-19は,感染が非常に拡大しやすいだけでなく,初期には致死性も高く,人々に与えるインパクトは非常に大きなものであった。そのため,行動の責任を求めることが非難することと直結しており,被害者の立場にある感染者であっても非難の対象になりやすいことを示す一例であるだろう。

過去に感染症として大きく報じられたSARSや新型インフルエンザなどの記事分析からは,感染者が取った一部の行為や行動に対して,非難が向きやすい傾向も示されている(村上・植村,2014)。その反面,過去のスペイン風邪流行の報道からは,感染者を非難する風潮はなく,もっと大らかであったことも指摘されている(植村他,2020)。

この非難の背景にあると考えられる推論のメカニズムとして,COVID-19に対する感染や病気自体に関する原因帰属の過程や,因果関係の認識の影響が指摘されている。例えば,三浦他(2020)の国際比較のデータでは,絶対的な割合は高い程度ではない(肯定の割合合計でも10~20%弱)が,日本では他国と比べてCOVID-19への感染が自業自得と判断される割合が高いことが示されている。この背景には,COVID-19への感染が偶然に左右されやすい不運な出来事とされるよりも,人との隔離によって感染をコントロールできるものと喧伝されていたため,病気になったプロセスを責める方向へ非難が向くようになっており,結果的に感染者が責められているという構造があるのではないかと考えられる。例えば,菅原他(2020)は全国紙の分析から,最初の緊急事態宣言後から「接触8割減」の報道が繰り返され,それが人々の行動自粛に寄与した可能性を指摘している3)。上のBarreneche(2020)も,在宅を指示されても家にいない無責任な人々,裕福な者が旅行により感染を拡散するなどの構築された言説と非難の関係を指摘している。ただし,他国の報道傾向の分析からは,COVID-19を封じ込められるという報道の傾向は見受けられない(塩﨑他,2021; 税所他,2021)。また,SARSや新型インフルエンザの場合も含めた感染症報道では,国や自治体の感染防止対策に非難の矛先が向く傾向がある(村上・植村,2014)のに対して,報道量の増加やSNSの個人発信などから,当事者にも焦点が当たりやすくなっている可能性も考えられる。同時にこれらの傾向は,スペイン風邪流行の時代と比べて,感染症がコントロールできる病であるという認識の変化を示していると考えられる。

COVID-19における責任の帰属の方向性とその判断に関しては,本人のせいという内的帰属が行われた場合に,感染者への否定的感情が喚起されやすくなる可能性が示されている(Boo & Choi, 2023)。マスクやワクチンなど,安全性への帰属は本人の努力(内的要因)に向くことも示されている(Cunningham et al., 2022)。ただしイタリアではCOVID-19の主原因は外的要因に帰属される傾向が高く,感染症がコントロールできるものとは捉えられていなかったという結果(Norcia & Coli, 2022)や,ニュージーランドのある島は隔離された場所にあるため,感染の流行から外れたことで住人が運の良さを感じていたという報告もある(Oliver et al., 2021)。またアジアなどの集団主義傾向が高い社会では,政府等が定めるガイドラインへの遵守率が高く,COVID-19の感染拡大に責任があると認識された個人や集団は,厳しく非難されるという文化差の指摘もある(Bavel et al., 2020)。前述の報道の分析からは,COVID-19の感染者を責める報道についての直接的な文化差比較は見られない。ただしBarreneche(2020)Labbé et al.(2022)でも,不道徳や自己中心的な行動を取る者は非難の対象となったことが指摘されており,日本で感染者を非難する報道がなされやすいのは,三浦他(2020)が指摘するように,自業自得という概念に代表される,病気についての個人単位への責任の向きやすさに由来する可能性がある。

以上のことから,感染症の流行自体が非難や排除意識に直結するとも限らず,帰属の方向性と非難の向かい方の関連性については,置かれた環境や状況要因を含めて,改めて検討する必要があると考えられる。

本研究では,以下病気に対する自己責任論や自業自得の意識を視座に置き,これが非難の正当化に結び付く過程,さらにはコントロールできそうなものと認識される病から,運に左右される病という認識の変化によって,COVID-19に感染した者への非難が緩和される可能性について,実際のデータを元に議論する。

病気と自己責任論および自業自得の認識

病気の原因や責任を,発病した本人に求める病気の自己責任論は古くから指摘があり,またこの説明原理が対象への非難や偏見とも結び付きやすく,スティグマ化しやすいことも知られている(例えば,玉手他,2017; Wikler, 2002)。また玉手他(2017)は,実際には当人の自律的な選択によるものではない苦境にもかかわらず,当人の責任を不当に強調する言説が自己責任論であると,本来の自己責任の意味を逸脱して用いられていることを指摘している。

自己責任論の対象となる病は,さまざまな範囲に及んでいる。代表的なものとして,生活習慣病への認識が挙げられる。高血圧や糖尿病などの生活習慣病と呼ばれるようになった症状については,予防の観点から個人のコントロールに関する言及がしばしばなされるようになった。例えば,病のリスクに結び付きやすいとされている肥満などは,実際に病の症状と結び付いた場合に,自業自得や個人の責任とされるようになってきていることが指摘されている(中山,2011)。また現代社会でのあるべき自己像として,首尾一貫したアイデンティティを求められるという個人に関する自己言及の側面から,病気の原因を患者自身に求める傾向があり,結果的に生活習慣病が自己責任化しやすい特徴があることが指摘されている(浮ヶ谷,2005)。先述した玉手他(2017)は,肥満の自己責任化がスティグマ化し,非難が正当化されやすくなる可能性を指摘している。

具体的に,福島(2007)では患者へのインタビューの中で,糖尿病は「過度のカロリー摂取」や「運動不足」から生じるという認識から,病を「自己責任」と明言する患者もおり,選択可能でコントロール可能な行為と発病の結び付きから,原因を過去の生活習慣に求めていることを示している。東(1999)にも入院患者に対するインタビューの中で,一部の発症した患者自身が自業自得と回答している傾向が示されている。この背景にある生活をコントロールできるという認識は,発病の原因が本人に責任のある予防の失敗にあるという,道徳的な非難を正当化することにつながる可能性も指摘されており(福島,2007),自己責任の眼は患者自身だけでなく,他者へも向きやすくなっていると考えられる。

それではCOVID-19のような感染症についてはどうだろうか。感染症は生活習慣病と異なり,他者から病気をうつされる可能性が高いのに対して,興味深いのはハンセン病のような感染力の低い病にも自己責任論が見られることである4)。業病という言葉があるように,ハンセン病は前世の悪業の報いにまで,その原因が求められる傾向があったことが知られている(坂上,2021)。つまり感染も自己責任に帰され,非難されやすいと考えられる。冒頭で挙げた自業自得の範疇は,自己責任論より広いのである。

自業自得の認識と自己責任論は同じような意味で用いられている場合も多いが,後から考えて「コントロールできたのではないか」と認識される行為が,後に生じた結果と現実的な因果関係を想起させることを自己責任と呼ぶのであれば,自業自得の認識には,ハンセン病のような現実的な因果関係を超えた仮定,つまり偶然に左右されることであったとしても,あえて落ち度を探して非難する場合も含まれている。そのため自業自得の認識には責任の追及よりも非難をすること自体,つまり他罰な意味合い(時には自分自身を自業自得と戒めている場合もあるが)に主眼が置かれている可能性が高いのではないかと考えられる。

とりわけ性感染症については,この自己責任論から派生する自業自得という非難の認識は根強いと考えられる。例えば,西(2000)では,エイズ感染者に対するイメージから態度項目を作成する中で,「性交渉でエイズになった人を気の毒とは思わない」や「エイズ患者の中には,同性愛者や麻薬使用者も多いので,自業自得な点も多い」という否定的イメージに関する項目が含まれており,差別の背景には特定の行為に対する代償としての自業自得の認識があり,それを患者に投影していることがわかる。宮本他(1996)もまた,調査結果から,性交渉による感染が自業自得であると回答した者は,態度の前提には感染は回避することができたはずという認識が存在していることを指摘している。生活習慣病も感染症も予防という観点で見れば,コントロール可能という認識を生み出しやすく,病が個人を原因とするものとなることで,結果的に自己責任化しやすく,自業自得という非難の対象になりやすいことは共通している。

前節で述べたように,スケープゴートになりやすい行為は感染の有無よりも,回避できたはず(なのにしなかった)という,むしろどのように感染したかという,原因となった行為のよしあしが問われている。つまり同じ感染でも,原因となる行為のよしあしによって仕方がない感染と悪い感染は区別されており,後者の行為の落ち度はとりわけ誇張されやすいのではないかと推測される。このような認識が生み出すのは,感染したことへの非難以外にも,感染に結び付く行為を非難することによって,人に感染をさせる可能性がある加害者的な扱いである。これは感染したことを自業自得と呼んでいるだけでなく,感染により非難を受けること自体も自業自得と呼んでいるのに他ならない。むしろ非難を正当化するために,自業自得という理由が用いられているとも言える。本研究では,ハンセン病を例に挙げたような「生前の因果」のような推論までは扱わないが,少なくとも自業自得とされる認識の範囲を広く取り,他罰な意味合いにより,非難されてしかるべきという自業自得の認識を以下扱う。

ただしコントロール可能という認識は,自分が感染する可能性についての現状認識を反対の観点で見たものと考えられる。コントロールできていないように思える感染者を非難する,あるいは感染者が非難されて当然だと思うのは,自分が感染していない,つまりコントロールがなされている状態と認識しているからであって,実際にコントロールできているから感染していないとは限らない。先に挙げた,ハンセン病や性感染症では感染者の母数が少ないために,自分の身には及んでいないだけという可能性もあり,感染者への態度は,自分自身が感染する可能性や確率の問題と結び付いている可能性が高いと考えられる。

つまり実際の感染者数が非常に少なかった場合,特にCOVID-19の流行初期のような場合には,風邪やインフルエンザのような多くの者が感染する場合と異なり,特殊な人が感染する病と捉えられていたのではないかと考えられる。そのため,COVID-19への感染しやすさの認識が変化することによって,感染者に対する態度も変化するのではないかと考えられる。具体的には,運や偶然に左右される認識よりも,人為的な行為により感染するという認識が強かった病が,感染者の増加により,運や偶然に左右される病であるという方向に認識の比重が変化すると考えられる。

目的

2020年に感染が社会問題化したCOVID-19は,2022年にはのべ推計ではあるが,日本全体の1割程度が感染するほど,広く流行した。このような大流行と感染の拡大により,感染者に対する非難の意識や原因帰属はどのような形で顕現化し,また変化したのだろうか。

本研究では,病気や感染に関する偶然性の認識が非難の意識に与える影響に注目した。まずCOVID-19の流行が始まった2020年において,他の病気と比較を行い,COVID-19に感染することがどの程度運や偶然であると認識されているのか,また実際に感染した者の行為,とりわけ自業自得に帰されると考えられる行為を取った者がどのように判断されているのかに関する意識調査を行った(研究1)。次に2021年と2022年に経年的な調査を行い,2020年の調査結果と比較した(研究2)。

感染者に対する態度の仮説として,感染の拡大がもたらす影響力の重大性から,当事者に重い責任を負わせるという防衛的帰属理論の観点,および密を避けるなどの対人的な接触を減らすことでコントロールできるというメディア報道の双方が感染者に対する判断に影響したと考えられる。感染者が非常に少ない時期には,自分や周囲のほとんどが感染していなかったことで,感染が運や偶然に左右されると判断される程度は低かったと推測される。このため,第三者的な立場として,感染者には特別な行為を取ったことで感染したという本人の行為自体に原因が帰属されやすく,自己責任で感染しただけでなく,非難を受けるのが当然という自業自得の対象として認識されやすかったと考えられる。これに対して,時間の経過につれて,実際の感染者が増加したことにより,COVID-19への感染は運や偶然に左右されるという意識が高まることで,特定の行為による感染者に対する非難の程度は低下しただろうと予測される。

研究1

方法

回答者

大学生142名(男性85名,女性57名,平均年齢20.1歳)。調査は講義を受講する学生に対してwebにて匿名で行った。時期は自粛期間明け5)の2020年6月第2週である。調査時点での累積感染者数は17,634名であり,人口の0.01%であった。この期間の実行再生産数は0.80~0.96であり,この後また上昇して,1か月後には1.8を超えていた(東洋経済ONLINE,2023)。

測定項目

COVID-19への感染が運に左右されると認知する程度

COVID-19に感染することについて,一般的なことと回答者自身のことを別々に分けて,どの程度運に左右されると思うかの認識をそれぞれ7段階(「1. まったく違う」から「7. まったくそうだ」まで各1項目)で尋ねた。

他の病気が運に左右されると認知する程度

COVID-19と比較するために,感染症のうち,インフルエンザ,風邪,性感染症(梅毒,淋病,HIVなど)全般,肝炎,感染症ではない病気のうち,生活習慣病(糖尿病,高コレステロールなど)全般,ガンのそれぞれについて,一般的にその病気になることがどの程度運に左右されると思うかの認識を7段階(「1. まったく違う」から「7. まったくそうだ」まで,高いほど,運に左右されると判断されたことを示す)で尋ねた。

病気のかかりやすさの認知

個人的な特徴の要因として,回答者自身が全般的に病気にかかりやすいかどうかの認識について,「1. まったく違う」から「7. まったくそうだ」までの7段階(1項目)で尋ねた。

回答者自身が感染する可能性の程度

回答者自身がCOVID-19に感染する可能性を0~100%で回答してもらった

COVID-19への態度項目

1の「感染するかどうかは,かなり運に左右されることである」の運に左右されると認知する程度の項目に加えて,新聞やネット上のCOVID-19への言説から,人為的かどうか,また感染者にどのような対応をすべきと思うかを問うようなCOVID-19への意識や認知や行動を含めた態度を測定する計21項目を作成し,「1. まったく違う」から「7. まったくそうだ」までのそれぞれ7段階で尋ねた。

運に関する態度項目

村上(2002)に基づき,「運の強さ」に関する認知を測定する項目について,回答者自身が認知している,自己の運に関する強弱認知の度合い(「1. かなり強い」から「5. かなり弱い」までの1項目・5段階),および「運の強さには個人差があると思う」(「1. 全くそう思わない」から「7. 全くそう思う」までの1項目・7段階)について回答してもらった。

結果

以下,2020年当時にCOVID-19に感染することが,どの程度偶然であると認識されていたかの程度についてまず検討し,その後COVID-19への感染がどのように認識されていたのかについて,偶然性と人為性の要因を抽出することから検討した。

感染が運に左右される程度

COVID-19に感染することがどの程度,偶然であると認識されていたかについて示すために,まずCOVID-19を含めて,病気や感染が運に左右されると帰属された程度(1点から7点までの7段階)について提示する。COVID-19への態度項目で測定した「感染するかどうかは,かなり運に左右されることである」の平均値は3.80(SD=1.56)であり,7段階で中間値に近かった。

他の各病気に関して,運に左右されると思う程度は,インフルエンザに感染することの平均値が4.06(SD=1.60),風邪をひくことの平均値が3.71(SD=1.61),性感染症全般が3.55(SD=1.86),肝炎が3.87(SD=1.53)なのに対して,非感染症では生活習慣病全般が2.70(SD=1.82),ガンが4.58(SD=1.81)であった(Table 1)。

Table 1 経年調査の平均値の比較

2020年調査2021年調査2022年調査Fη295%CI
COVID-19への態度項目「運左右」得点3.21a3.44ab3.63b4.59*.030.00, 0.08
「達観」得点4.69a4.76ab5.06b3.38*.030.00, 0.07
「行為非難」得点5.37a5.00b4.84b9.15***.070.02, 0.12
「排除」得点3.77a3.60a3.07b10.31***.070.02, 0.13
一般に運に左右されると思われる程度生活習慣病2.702.352.550.79.010.00, 0.03
性感染症全般3.553.313.321.14.000.00, 0.04
風邪3.713.373.470.58.010.00, 0.03
肝炎3.873.463.681.60.010.00, 0.05
インフルエンザ4.063.823.821.02.010.00, 0.04
ガン4.584.314.320.76.010.00, 0.03
COVID-193.80a4.12ab4.61b6.14**.040.01, 0.10
COVID-19への感染可能性の認識回答者自身の感染が運に左右されると思われる程度3.93a4.17ab4.74b5.86**.040.01, 0.10
回答者自身が感染する可能性(%)33.9a35.9a45.4b6.01**.040.01, 0.10

注)異なる英字同士は同行内での多重比較の結果差が見られたものであり,同英字と英字がないものは他との有意差が見られなかったものを示す。

*p<.05; **p<.01, ***p<.001

COVID-19を含めた7つの病気に関して,分散分析を行った結果,病気の種類による有意な主効果が見られ(F(6, 846)=21.23, p<.001, η2=.13, 95%CI[.09, .17]),Tukey法を用いた多重比較の結果,COVID-19とは生活習慣病(t(141)=5.74, p<.001, d=0.65, 95%CI[0.51, 1.68])およびガン(t(141)=4.19, p<.001, d=0.46, 95%CI[−1.34, −0.21])との間に有意差が見られた。これに対して,インフルエンザに感染することや風邪をひくこととの間に,COVID-19との有意差は見られなかった(インフルエンザ:t(141)=1.57, p=.12, d=0.17, 95%CI[−0.78, 0.25];風邪:t(141)=0.49, p=.63, d=0.06, 95%CI[−0.78, 0.25])。ただし,インフルエンザとCOVID-19の相関係数はr=.22(p=.01),風邪とはr=.15(p=.08)と関連は高くなかった。

さらに,COVID-19については,感染が一般的にどの程度運に左右されると思うかと,回答者自身が感染することについて分けて尋ねているが,一般的な感染(3.80)と回答者自身の感染(3.93)の間には,運の影響の認知について有意な差は見られなかった(t(141)=1.15, p=.25, d=0.08, 95%CI[−0.36, 0.10])。回答者自身が感染する可能性の平均値は33.9%(SD=22.95),病気のかかりやすさの認知の平均値は3.32(SD=1.62)であった。

個人的な特徴の要因としての運に関する帰属について,自己の運に関する強弱認知の度合いの平均値は3.11(SD=1.06)であった。これを元に「運の強弱認知」カテゴリーを作成し6),回答者自身が感染する可能性および病気のかかりやすさの認知の程度において,「運の強弱認知」カテゴリーを独立変数とした分散分析を行った結果,主効果は見られなかった(感染する可能性:F(2, 129)=0.52, p=.60, η2=.00, 95%CI[.00, .05],病気のかかりやすさ:F(2, 129)=0.28, p=.76, η2=.00, 95%CI[.00, .04])。この病気のかかりやすさの認知とCOVID-19への感染が運に左右されると思うかについては,相関が見られなかった(一般:r=.02, p=.78;個人:r=−.07, p=.40)。

COVID-19への態度項目

COVID-19への感染に関する認識について,偶然性と人為性の要因を抽出するために,COVID-19への態度項目について因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った。その結果,4因子が得られた(Table 2)。各因子は「感染するかどうかは,かなり運に左右されることである」に代表される,感染が人為的ではなく運や偶然に左右されると認識する程度である「運左右」因子(5項目),「可能性は誰にでもあるのだから,感染したことを謝るのはおかしい」に代表される,感染したことへの諦めの傾向を示す「達観」因子(4項目),「自分のエゴを優先して感染したならば,非難されても仕方がない」に代表される,特定の行為による感染者を非難する程度を示す「行為非難」因子(5項目),「人に感染させる危険性がある者は,徹底的に排除すべきだ」に代表される,強制的にでも感染者を隔離すべきと認識する「排除」因子(4項目)と命名された。因子寄与率は33.4%である。各因子の信頼性係数はTable 2に示した。

Table 2 COVID-19への態度項目についての因子分析結果

平均値「運左右」因子
α=.71
「達観」因子
α=.65
「行為非難」因子
α=.65
「排除」因子
α=.66
感染するかどうかは,かなり運に左右されることである3.80.713
感染したとすれば,単に運が悪かっただけだ3.42.665
感染していない人は,単に運が良いだけだ3.23.659
外国に比べて,日本で感染者が少ないのは,単に幸運であったからだと思う3.05.398
十分な対策をしていれば,感染の可能性は小さいと思う5.46−.311
日常的な生活で感染するものなので,たとえ感染したとしても仕方がない4.13.310.304
可能性は誰にでもあるのだから,感染したことを謝るのはおかしい5.20.861
可能性は誰にでもあるのだから,感染した人を咎(とが)めるべきではない5.22.606
感染するのは,自分の行いが悪いからだ3.51−.386
自覚症状がないのなら,たとえ他の人に感染させてしまったとしても仕方がない3.85.348
もし感染したとすれば,その人自身のせいだと思う4.04
自分のエゴを優先して感染したとすれば,責められても仕方がない5.43.789
人と接触すればするほど,感染のリスクは増えると思う6.08.530
自分のせいで感染したのであれば,他者から非難されても仕方がない4.39−.300.501
同じ感染であっても,仕方がない感染と自業自得の感染に分けられると思う5.35.465
感染しないためには,人に近づかないのが最善の方法である5.59.397
自分が感染することよりも,人に感染させないことの方が重要である5.37
もし感染したとすれば,政府の取った政策に問題があったと思う3.43.567
もし感染したとすれば,うつした他人のせいだと思う3.15.556
人に感染させる危険性がある場所は,強制的に封鎖すべきだ4.92.534
人に感染させる危険性がある者は,徹底的に排除すべきだ3.58.447

負の値に負荷した項目を逆転させてから,因子ごとに項目の平均値を得点(1点~7点)として作成したところ,「行為非難」得点が最も高く(M=5.37, SD=0.89),それに比べると「運左右」得点(M=3.21, SD=1.00)は2.2点ほど低かった(Table 1の2020年調査の項参照)。「達観」得点の平均値は4.69(SD=0.99),「排除」得点の平均値は3.77(SD=1.06)であった。「達観」得点が高いほど,「排除」得点が低いという負の相関(r=−.29, p<.001)が見られたが,その他の項目には関連が見られなかった(Table 3参照)。

Table 3 COVID-19への態度項目間の相関係数

「達観」得点「行為非難」得点「排除」得点
「運左右」得点.13, .12, .20.04, −.07, −.11.17*, −.05, −.09
「達観」得点−.14, −.06, −.33***−.29***, −.42***, −53***
「行為非難」得点.18*, .27*, .53***

注)各セルには左から2020年,2021年,2022年各調査での相関係数を示した。

*p<.05; **p<.01, ***p<.001

感染を仕方がないと捉える傾向である「達観」得点については,感染が一般的に運に左右されると思う程度との相関はr=.13(p=.14),回答者自身の感染が運に左右される程度とはr=.14(p=.10)であり,感染が運に左右されやすいと判断するかどうかと,実際の感染を仕方がないと捉えるかどうかとは独立していた。

考察

本調査の結果,COVID-19への感染は,回答者自身は感染可能性を中程度に見積もっており,中点を基準としても,運に左右されるという要因に帰属される程度は高くなかった。また,感染が運に左右されるという認識と病気のかかりやすさのような個人的な特徴の要因との関連も見られなかった。「達観」と「行為非難」の両方の得点が高かったことからは,「感染自体は仕方がない」という意識を持つ一方で,感染を偶然と捉えるよりも,むしろ感染を特定の行為と結び付けた場合には,「非難されても仕方がない」態度として反映されていると考えられる。

この特定の行為として,本研究では直接的な感染の原因を尋ねた訳ではないが,「人と接触すればするほど,感染のリスクは増えると思う」の項目の平均値が6.08(7段階)と高かったことに代表されるように,態度項目の内容からは,他者との接触が感染可能性を高めると判断されており,感染は「他者と接触する行為を取る」という人為的な要因によるものと認識されていることを示していると考えられる。とりわけ,他者との接触は「自分は(感染していないことから)コントロールできている」と認識されるような行為であり,冒頭で述べた報道内容のような,いわゆる密になったり,不特定多数が集まる場所に行ったりするなど,自分の都合で特定の接触行為を取ることで感染した,スケープゴート化された他者を非難している態度と結び付いているのではないかと考えられる。

このような態度が見られた理由として,実際の感染者数が非常に少なかったことが挙げられる。インフルエンザのような多くの者が感染する場合と違い,COVID-19は,特殊な人が感染する病と捉えられているのではないかと考えられる。福井(2022)の調査でも,COVID-19への感染に対する忌避・偏見的態度は,インフルエンザや風邪のそれよりも高いことが示されている。また,本研究の結果でも,COVID-19への感染が運に左右される程度の認識はインフルエンザや風邪と同程度であったものの,インフルエンザや風邪との相関は小さかった。つまりこれらの病とは区別されている可能性が高いことも,この特殊な人が感染する病という認識を裏付けていると考えられる。感染者の増加に従い,このような態度は変化するのだろうか。そこで研究2では2021年および2022年と約1年ごとの時期に同じ内容の調査を行い,研究1の2020年の調査データとの比較を行った。

研究2

方法

調査時期

2021年7月第3週(以下2021年調査)および,2022年5月第2週(以下2022年調査),いずれも2020年調査との比較のために,緊急事態宣言下にない時期を選んで行った。調査は研究1と同様に,講義を受講する学生に対して,web上にて匿名で行った。研究1との,また各年度間での回答者の重複はなかった。調査時点での累積感染者数は2021年が875,453名であり,人口の0.7%,2022年が8,347,371名であり,人口の6.7%であった。この期間の実行再生産数は2021年が1.20~1.33,2022年が0.98~1.18であり,共にほぼ横ばいであった(東洋経済ONLINE,2023)。

回答者

2021年調査は大学生66名(男性30名,女性36名,平均年齢20.6歳),2022年調査は大学生61名(男性21名,女性40名,平均年齢20.0歳)であった。

測定項目

以下の2項目以外は,研究1に準じている。

感染の状況

「自分が感染した」,「家族が感染した」,「知り合いや親せきが感染した」,「(自分を含めて)知り合いに感染した者はいない」から該当するものをすべて選択してもらった。

ワクチン接種の回数

COVID-19のワクチンを接種した回数について,数字で記入してもらった。

結果

以下,まず2020年とその後の調査時点での感染状況を比較した。その後,それに伴い感染に関する偶然性の認識やCOVID-19への感染の認識がどのように変化したのかを検討した。

感染の状況

回答者自身の感染が2名(3.0%)から4名(6.6%)(2021年調査から2022年調査,以下略),家族のみが2名(3.0%)から7名(11.5%),親戚または知り合いのみ15名(22.7%)から29名(43.9%),自分も含め知り合いに感染なしが47名(71.2%)から21名(34.4%)に推移していた。ちなみにワクチン接種の回数の平均値は,0.5回から2.2回であった。

COVID-19に関する態度の変化

COVID-19への感染に関する認識について,偶然性と人為性の要因の変化を検討するために,COVID-19への認識や態度得点は3年間の比較をTable 1に示した。一般的,あるいは回答者自身の感染は,運に左右されるという方向に認識が変化していた(一般:F(2, 265)=6.14, p=.002, η2=.04, 95%CI[.01, .10];個人:F(2, 265)=6.01, p=.003, η2=.04, 95%CI[.01, .10],以下の多重比較はすべてTukey法を用いている)。また回答者自身が感染する可能性の平均値も上昇していた(F(2, 265)=5.86, p=.003, η2=.04, 95%CI[.01, .10])。これに対して,他の病気についての認識には有意差はなく,変化は見られなかった。

COVID-19への態度項目は,研究1に基づき,「運左右」因子,「達観」因子,「行為非難」因子,「排除」因子のそれぞれで項目の平均値を求めて合計得点を作成して,経年変化を統計的に検討した7)。因子の得点では,「行為非難」得点と「達観」得点が高かったことに変化はなかったが,経年により「行為非難」得点と「排除」得点が低下し,「運左右」得点と「達観」得点が上昇していた(Table 1参照)。これらの得点間の相関係数を求めたところ,「達観」得点が高いほど,「排除」得点が低いという負の相関は同様に見られた(r=−.42(2021年),r=−.53(2022年),ともにp<.001)が,「行為非難」得点と「排除」得点に中程度の正の相関(r=.27(2021年,p=.03),r=.53(2022年,p<.001)),2022年度の調査では「行為非難」得点と「達観」得点にも中程度の負の相関(r=−.33, p<.001)が見られた(Table 3参照)。

2021年と2022年の調査では,回答者自身および周囲の人間の感染状況を尋ねている。そこで周囲の感染状況による認識の変化を調べるために,自分が感染した者を除いて,身近な感染者の有無と年度を独立変数,感染の認識や他者に対する態度項目を従属変数として分散分析を行ったところ,一般的に感染が運に左右されるという認識について交互作用の傾向が見られ(F(1, 122)=2.83, p=.10, η2=.02, 95%CI[.00, .10]),下位検定の結果,2022年度では感染者ありの方がなしの者よりも,感染が運に左右されると認識される傾向が見られた(F(1, 122)=3.92, p=.05, η2=.05, 95%CI[.00, .11])。また年度に関係なく,身近に感染者がいた人の方が回答者自身の感染可能性を高く見積もるという主効果の傾向が見られた(F(1, 122)=3.07, p=.08, η2=.03, 95%CI[.00, .10],以下,Table 4参照)8), 9)

Table 4 周囲の感染者の有無による平均値の比較

2021年調査2022年調査η2
感染者あり感染者なし感染者あり感染者なし
一般に感染が運に左右されると思われる程度4.114.134.934.00.02
回答者自身が感染する可能性(%)40.334.048.140.1.02

考察

研究2では,2020年に行われた研究1の結果を元にして,感染者が拡大した2021年と2022年の調査結果との比較が行われた。その結果,感染が運に左右されるという方向に認識が変化しており,またCOVID-19への態度項目についても,「行為非難」得点と「排除」得点が低下し,「運左右」得点と「達観」得点が上昇したという経年変化が見られた。実際に周囲の者が感染する割合も増加し,回答者自身が感染しやすくなっているという認識の変化からも,これらの結果は感染者の拡大に伴ったものと解釈できるだろう。それにより,特定の行為と感染への結び付きに関する認識も変化した結果,非難の傾向は2020年よりも,和らぐ傾向にあったのではないかと考えられる。

総合考察

COVID-19については,本来は感染させられたはずの被害者に対して向けられる,感染者への非難が生じる要因があったと考えられる。これについて,本研究では病気に関する原因帰属の側面から経年的な意識調査を行って明らかにしようとした。

研究1の結果からは,2020年の時点ではCOVID-19への感染を偶然性に帰属する傾向は高くなく,感染することが仕方ないと捉える傾向である「達観」得点が高かったことを考えると,感染自体に対する非難はそこまで高くはなかったが,特定の行為をスケープゴート化して,感染者の行為を非難する傾向,つまり自業自得の意識が強かったことがわかる。これに対して,研究2の経年調査の結果からは,日本での感染者が発生してから2年以上が経過し,実際の感染者数が増加したこと,とりわけ周囲に感染者が増えてきたことで,特殊な人が感染する珍しい病という認識はなくなったと考えられる。また本研究の結果には,一般的な感染の傾向だけではなく,身近な人が感染することで,回答者自身も他者にうつしたり,うつされたりという当事者になることへの認識の変化も反映されていると考えられる。感染者が増加することで,感染が運や偶然に左右されると判断される程度が高くなるのとは反対に,他者と過度に接したように判断された,特定の人為的な行為による感染者に対する非難の程度が低下したことは,仮説を支持する結果であると考えられる。

また社会状況の変化として,木下(2022)が述べるように,COVID-19が未知の病から「正しく怖がる」病へと変化しており,そのためCOVID-19への感染は,単なる不運な出来事へと変化していったと推測される。他の病気についての認識が,これと比較してほとんど変化していないこともこれを裏付けるだろう。

ただし,個人内の態度では「運左右」得点と「行為非難」得点や「排除」得点の間には,相関が見られていないことから,感染を偶然なものと捉える傾向の変化だけが,非難の程度を左右している訳ではないことには注意が必要であると考えられる。また研究2では同じ大学の学生を対象にしているが,それぞれ回答者は年ごとに異なっている。そのため,COVID-19への態度項目間の相関関係の変化は,経年による態度の認識の変化を示している可能性もあるが,各年度の回答者ごとの何らかの特徴が得点の変化に反映されている可能性についても留意する必要がある。

この感染者の増加とそれに対する知識の増加により,感染に対する認識が変化する可能性は,問題で取り上げたマイノリティである感染者に対する偏見の構造と類似していると考えられる。例えば,飯田(2017)はHIV陽性者への態度について,偏見の解消に向けた知見として,多数者集団と少数者集団とが平等な立場で協同活動すること(上瀬,2002)を引用し,接触経験の有無などの知識の影響を指摘している。接触経験の影響については,Allport(1954 野村・原谷訳 1968)が「偏見の心理」の中で,外集団との直接的な接触が偏見を低減するという接触仮説を挙げており,今回のCOVID-19の場合のように,回答者の周囲に感染者が増加したことの影響はこれに該当すると考えられる。

また一見,感染症にかかることが個人の責任に見えるが,感染症だけに限らず,病気になること自体が,経済的状況や人間関係など,個人を取り巻く環境のような社会状況がその一端を担っており,これが無視されやすいことは自己責任論の立場からも指摘されている(玉手,2018)。健康は社会経済要因などの多くの制御不可能な要因と関連していることから,COVID-19に関しても個人に対する責任の認識が変化することにより,対象者への共感や怒りが変化するという指摘もある(Cox, 2022)。

ただし2022年の時点ではマスクを始めとして予防と効果のアピールは続いており,流行当初よりも低下したものの,感染をコントロールできるという認識によって,運や偶然に左右されやすいという回答者の認識は押し下げられていたと考えられる。特にCOVID-19への態度得点のうち,「行為非難」得点は低下したものの,得点自体はある程度高止まりのままであった。これは知識が増加したとしても,行為への人為性や感染者への非難や偏見,とりわけ特定の行為による感染に対しては,急激に低下しないことも同時に示していると考えられる。大規模なスケープゴートの対象となる災害の分類モデル(釘原,2014)によれば,疫病は時間的・空間的広がりが不明瞭なものであり,COVID-19のような疫病の大流行は収束が見えにくく,感染のみならず,感染対策に対してもスケープゴーティングは持続する可能性があるだろう。

また,冒頭で紹介した三浦他(2020)で示されたCOVID-19への感染が自業自得と判断される傾向は,翌年(2021年)にはさらに高くなったことが示されている(Murakami et al., 2022)。これは感染率(人口比の累積感染者数)が高まった反面,非難の程度が低下していた本研究の結果とは逆方向の結果である。この点については,本研究で扱った自業自得と判断される傾向が,特定の行為による感染者を責める非難の傾向を指しており,異なった概念を示していることを意味する可能性があること,加えて三浦他(2020)Murakami et al.(2022)の調査は一般的な人々を調査対象者としているのに対して,本研究の回答者が大学生であり,スケープゴート化された特定の行為には,ライブハウスなどに通う若者が対象となっているものが多く見られている(村上他,2020)ことからも,本研究の結果との差異は,感染しても重篤になる割合が低い大学生の回答者であったことに由来する可能性がある。ただし,このような限定した回答者においても,周囲の状況に呼応して非難の意識に変化が見られたことは,今後の感染症流行の際にも留意すべきデータを提供していると考えられる。

本調査の問題点としては,社会的望ましさの問題と,回答者が少なかった点が挙げられる。非難や差別の意識は持ち合わせていても本来隠すべきものであり,社会的望ましさが影響して,回答の集計値よりも個人が特定の行為による感染者を非難する程度は,実際にはさらに高かった可能性もある。ただし特定の行為に対する非難の意識は保持しつつ,その反面,マスクやワクチンなど対策を打っていても,流行のピークが何度も訪れるような,非常に感染しやすい運や偶然に左右される病気であるという,COVID-19への認識の変化は示されたと言えるだろう。

また回答者の数については,遠隔授業を受講している学生に協力を求めたため,なかなか回答の参加や呼びかけが難しかったという側面もある。しかしながら,感染の流行下にリアルタイムに調査が行えたことを鑑みて,少ない回答者からでもこのような顕著な傾向が示されたことは,社会状況の変化が個人の認識を大きく変化させた事例としても,一つの重要な資料になっていると考えられる。

脚注

1)本研究の内容は日本社会心理学会第61回大会および第63回大会で発表された。査読をいただいた各先生方にお礼を申し上げます。

2)現所属:大阪大学大学院人間科学研究科招へい研究員

3)同時に「夜の街」に繰り出す人に,責任帰属を示唆する記事が散見されたが,明確に非難したものは少なかったことも指摘されている。

4)もっとも,現在ではハンセン病は非常に感染力が弱いことが知られている。

5) 調査対象者が居住する関西(大阪・京都・兵庫)では,2020年5月21日に第1回目の緊急事態宣言が解除されている。

6) 村上(2002)に基づき,「運の強さには個人差があると思う」という項目に否定的な回答を示した者を除き,自己の運に関する強弱認知の程度を「かなり強い」と「強い」と評定した回答者を合わせて「強運」群,「かなり弱い」と「弱い」と評定した者を合わせて「弱運」群,「どちらでもない」と評定した者を中間群として,3群のカテゴリーに分類した。

7) 各因子の信頼性係数のαは2021年の調査が,「運左右」因子:.70,「達観」因子:.64,「行為非難」因子:.65,「排除」因子:.66,2022年の調査が「運左右」因子:.67,「達観」因子:.69,「行為非難」因子:.68,「排除」因子:.68であった。2020年の調査を含めて,やや値が低いが,そのまま用いた。

8) 研究2においても,他に病気のかかりやすさの認知や運に関する態度項目を測定しているが,これらの項目は経年変化を見込んでいるものではなく,個人特性としての「運の強さ」に関する認知が,病気感染の判断に影響しているかどうかとの関連性を検討しようとしたものであり,ここでは分析やTable 1の結果からは割愛した。

9) 研究1と研究2で分析したデータについては,https://osf.io/ynz9d/にて公開している。

引用文献
 
© 2025 日本社会心理学会
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