社会心理学研究
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資料論文
メタ規範の多元的無知に関する検討:ソーシャルメディアにおける罰強度の適切性に関する過大推測
岩田 和也清水 裕士
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電子付録

2025 年 41 巻 1 号 p. 29-36

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抄録

Controversial statements posted on social media often appear to elicit disproportionately severe punitive responses. However, research suggests that such reactions may be driven by a small subset of users, indicating a possible gap between perceived and actual norms regarding punishment severity. This study investigated whether pluralistic ignorance exists concerning meta-norms, and shared beliefs about what is considered an appropriate level of punishment. We conducted two surveys through a crowdsourcing platform: Study 1 included 404 participants, and Study 2 involved 280 participants, all of whom maintained active X (formerly Twitter) accounts. Participants viewed posts that featured instances of excessive punishment and were asked to evaluate both their own attitudes and their perceptions of others’ attitudes toward these responses. Results showed that while pluralistic ignorance was not observed, participants consistently overestimated others’ endorsement of excessive punishment. These findings highlight the role of social media’s structural and communicative features in fostering misperceptions of meta-norms.

問題

ソーシャルメディア上で攻撃的な言論が頻出することが社会問題となっている(Gervais, 2015; 津田,2024)。ネット炎上を代表とするように,不適切とされる言動に対して誹謗中傷や侮辱など強い非難が殺到する事例が頻繁に生じており,2023年には総計1,583件の炎上事例が発生している(デジタル・クライシス総合研究所,2024)。極端な意見や過激な非難による情報発信の萎縮(山口,2020),態度の極化(Mak et al., 2024),社会的分断の拡大など(Druckman et al., 2023),種々の否定的な影響が問題となっている。

ソーシャルメディアが不寛容で攻撃的な言論が創出される場として認識されることがある一方で(Gottfried, 2020),過激な投稿をする人は実際には極少数であることから(e.g., Matook et al., 2022),不寛容性に関する実態と人々の認識との間に乖離が生じている可能性がある。本研究では,不寛容性を「不適切な言動に対する罰強度が厳格であること」と定義し,こうした不寛容性に関する認知的乖離を多元的無知として定式化したうえで,ソーシャルメディアにおける攻撃性や不寛容性に対する人々の認識について経験的な証拠を得ることを目的とする。特に,ソーシャルメディアにおいて時に罰として機能する侮辱や中傷などについて,その罰強度の適切性に関する人々の認識に着目する。なお,多元的無知を扱った研究では,誤った規範認識と規範順守行動との関連が検討される場合があるが(e.g.,岩谷・村本,2017; Prentice & Miller, 1993),本研究では認知的乖離のみに注目し,規範順守行動との関連は検討しない。

ソーシャルメディアにおける罰強度の適切性に関する過大推測

近年,ソーシャルメディアにおける不寛容性が社会問題として指摘されている。NHK放送文化研究所(2016)の調査では,「他人の過ちや欠点を許さない不寛容な社会」だと回答する人は,「寛容な社会だ」と回答する人よりも多いことが示されている。また,不寛容性について論じた書籍が近年多く出版されていることからも(赤堀,2018),人々の間で不寛容性の高まりが広く認識されていることが窺える。

ここで使用される「不寛容性」は多義的な概念であり,少なくとも(1)言動の不適切さを決める基準が厳格であること,(2)不適切な言動を取った者に対する罰強度が厳格であること,という2つの意味が含まれる。(1)の例としては,政治的に中庸な意見が不適切とされることや,NHK放送文化研究所(2016)の調査で扱われた項目である「大きな災害が起きたときには,インターネット上に,楽しそうな写真や文章を投稿するのは不謹慎だ」といった態度に加えて,仮想的な例として,目上の人に敬語を使わないことが違法行為とされることなどが挙げられる。ここでの不寛容性は,規範逸脱行為や不適切行為の基準にかかわる厳格さであり,それらの不適切行為に対する罰の強さを示すものではない。したがって,たとえ数円の罰金しか科されないとしても,違法か否かを決める基準に厳格さが認められれば,(1)の定義に照らして不寛容と名指される。

本研究では,(2)に該当する不寛容性の認識を扱う。例として,窃盗や殺人など一定の違法行為に対して,刑罰が過度に重くなることが挙げられる。ここでの不寛容性は,違法行為や不適切行為の基準に関する厳格さではなく,そのような行為に対する罰強度の厳格さを指す。ソーシャルメディアは特に不寛容性の象徴とされ,社会的迷惑行為者に対して単なる注意を超えた誹謗中傷がされたり,不適切な言動を行った芸能人がネット炎上により自殺に追い込まれたりするなど過剰な罰が頻発している(山口,2020)。本研究では,このような過剰な罰を適切だとする不寛容性について検討する。一方で,ソーシャルメディアにおいて過剰な罰を与える人が実際には非常に少数であることが複数の研究によって明らかにされている(Johnen et al., 2018; 小山他,2019; Matook et al., 2022)。たとえば,田中・山口(2016)では,ネットの炎上に加担したことがある人の割合はインターネット利用者の内およそ0.00025%以下であり,他者に対して過剰な罰を適用する人が決して多数派ではないことが示されている。侮辱的とは分類され得ない投稿が実際には多数であることや(Johnen et al., 2018),攻撃性の高い投稿を閲覧しても拡散や加担行為を行わない人が実際には大多数であること(横澤・篠田,2022),過剰な罰に対する罰則強化に賛成意見を持つ人が約87.5%であることからも(CCCマーケティング株式会社・株式会社Tポイント・ジャパン,2021),多くの人が過剰な罰を支持していないことが分かる。

過剰な罰を適用あるいは支持する人々が実際には少数であるのにもかかわらず,他者がそれを支持する程度が過大推測されている可能性がある。実際にネット炎上の中で過剰な罰の対象となった経験を持つ人々は,「世界中から誹謗中傷を受け」(国連人口基金,2021)たと述懐している。また,ネット利用者の約70%がインターネットを攻撃的な場だと認識している(山口,2015)ことからも,過剰な罰の適切性に対する人々の認識と「他者の認識」に対する人々の推測との間には乖離が生じている可能性が考えられる。

メタ規範の多元的無知

先行研究においては,こうした罰強度の適切性に関する認知的乖離は多元的無知として説明されてきた。多元的無知は,「集団の多くの成員が,自らは集団規範を受け入れていないにもかかわらず,他の成員のほとんどがその規範を受け入れていると信じている状況」として定義される(神,2009, p. 300; Katz & Allport, 1931)。飲酒規範(Prentice & Miller, 1993),残業規範(宮島,2018),男性の育児休業取得(宮島・山口,2018)など種々の規範について多元的無知が生じていることが明らかにされてきた。たとえば残業規範では,実際には集団成員の多くが残業を支持していないのにもかかわらず,自分以外の他者は残業を支持しているのだろうと誤って認識することによって,多くの人が支持していない残業を奨励する規範が維持される状況となっている(宮島,2018)。

本研究で想定される多元的無知はメタ規範に関するものである。メタ規範とは,一般に「規範逸脱者に対する制裁行為についての規範」として理解されており(e.g., Axelrod, 1986),その具体的な操作的定義は研究によって異なる。たとえばEriksson et al.(2021)は,規範逸脱者に与える4つの罰形態(ゴシップ,社会的追放,言語的・物理的暴力,何もしない)に対する適切性判断を測定することで,「規範逸脱者に対する適切な罰形態を規定する規範」としてメタ規範を操作的に定義している。

これに対して本研究では,上記の不寛容性の議論に基づき,罰の形態ではなく罰の強度に着目する。すなわち,ソーシャルメディア上で見られる過剰な罰に対する適切性判断を測定し,「規範逸脱者に対してどの程度の罰が適切であるかを規定する規範」としてメタ規範を操作的に定義する。具体的には,通常の規範を「ある言動が不適切か否かを規定する基準」と定義し,メタ規範を「不適切とされる言動に対して,どの程度の重さの罰が適切であるかを規定する規範」として定義する。前述したように,本研究では不寛容性を「不適切な言動を取った者に対する罰強度が厳格であること」としているが,これはメタ規範が厳格な状況を示したものと言える。また,メタ規範の多元的無知を,多くの人々が不適切な言動に対する過剰な罰を支持しないのにもかかわらず,他者はそれを支持すると誤って認識する状況として定義する。具体的には,「不適切な投稿に対する過剰な罰についてソーシャルメディア上の他者が適切だと思う程度」が過大推測され,結果として多くの人が支持していない不寛容かつ厳罰的なメタ規範が維持される状況をメタ規範の多元的無知とする。メタ規範の多元的無知という概念を用いることによって,実際には過剰な罰を適用・支持する人は少数であるのにもかかわらず,他者がその罰を支持している程度が過大に認識されてしまう状況を捉えることができるだろう。

本研究においては,論争性の高い話題に関する投稿とそれに対する侮辱や中傷といった過剰な罰を参加者に提示する。その過剰な罰の適切性に関する参加者自身の認識,および,ソーシャルメディア上の他者の認識に対する推測を尋ねることで,罰強度の適切性に関する実態と認知とのギャップ,すなわちメタ規範の多元的無知が生じているか否かを検討する。なお,探索的検討として位置づけられる研究1では,多元的無知の厳密な操作的定義の設定,および,事前登録を経ずに調査を実施する。続く研究2において,研究1の結果を踏まえたより精緻な手続きや多元的無知の操作的定義に関する事前登録を行う。

研究1

研究1では,メタ規範に関する誤推測について探索的に検討するために,ソーシャルメディアにおいて過剰な罰の適用が生じやすい話題を一つ取り上げ,調査を実施する。調査では,論争性の高い話題に関する投稿に対して,侮辱や中傷のような過剰な罰が適用される場面を参加者に提示し,適用された罰の強度に対する参加者自身の適切性判断と他者が行う適切性判断に対する推測を尋ねる。ソーシャルメディアの中でも,X(旧Twitter)はネット炎上の露出元として最も頻度の高い媒体であり,炎上件数全体のおよそ65%を占める(デジタル・クライシス総合研究所,2024)。そこで,本研究では,Xの投稿を模した刺激を作成し,調査を実施した。また,投稿内容として,論争性が高く炎上しやすい話題の例として挙げられるジェンダーに関する投稿(田中・山口,2016)を刺激として扱った。

方法

参加者

2024年7月に,クラウドソーシングサービス企業であるクラウドワークスを通して,X(旧Twitter)のアカウントを所持している参加者を募集し,調査を実施した。参加者は404名(うち女性177名)で,平均年齢42.30歳,SD=9.60であった。

手続き

刺激1(Figure 1)を提示した後,各測定変数について回答を求めた。刺激1はXの投稿を模したものであり,人物Aが人物Bの投稿(人物Aによって不適切とみなされているジェンダーの話題に関する投稿)を引用しながら,人物Bに対して罰(侮辱・中傷)を与えている状況を表している。なお,本研究は,関西学院大学「人を対象とする行動学系研究」倫理規定に基づいた審査の承認を受け,実施された(承認番号:2024-27)。

Figure 1 刺激1

調査項目

参加者評価A/他者評価推測A

人物Aが人物Bに対して与えた過剰な罰に関して,どの程度適切であると思うかについての判断,および,ソーシャルメディア上の他者が行う適切性判断に対する推測を尋ねる項目である。「Aさんの投稿について,あなた自身はどのように考えますか」(参加者評価A),「Aさんの投稿について,ソーシャルメディアを利用している他の人々はどのように考えると思いますか」(他者評価推測A)という質問文を提示し,「非常に不適切である」,「不適切である」,「どちらとも言えない」,「適切である」,「非常に適切である」の5件法で回答を求めた。得点が高いほど,投稿を適切と評価し(参加者評価A),他者が適切だと評価すると推測している(他者評価推測A)ことを示す。

その他

性別,年齢,収入,学歴,職業,X閲覧時間に加えて,人物Aの投稿閲覧による発言頻度の変化を尋ねた発言傾向,議論重視,投稿Bについての適切性評価である参加者評価B/他者評価推測B,炎上認知経験,炎上に対する考え方,心理的特権意識,文化的自己観,平等主義的役割態度を探索的分析の範囲として測定した。

結果

参加者評価Aと他者評価推測Aの差に関する検証

メタ規範に関して誤推測が生じているかどうかを検討するために,参加者評価Aと他者評価推測Aについて対応のあるt検定を行った結果,他者評価推測A(M=2.28, SD=0.75)は参加者評価A(M=2.08, SD=0.89)よりも有意に得点が高かった(t(403)=6.09, p<.001, d=0.26, 95%CI[−0.40, −0.12])。以上の結果から,論争性の高い話題に関する投稿に対して与えられた罰強度について,他者が適切だと認識する程度が実際よりも過大に推測されていることが示された。なお,分析にはHAD18_002(清水,2016)を使用した。

考察

研究1の目的は,論争性の高い話題に関する投稿に適用される罰強度の適切性に関して,メタ規範の誤推測が生じているか否かを探索的に検討することであった。その結果,参加者評価Aは他者評価推測Aよりも有意に低いことから,罰強度の適切性に関して,参加者は他者の適切性判断を実際よりも過大に推測していることが示された。

研究2

研究1では,罰強度の適切性に関する過大推測が生じていることが示されたが,それを多元的無知として解釈するためには,厳密な操作的定義の設定が必要である。これまでの多元的無知研究においては,規範に対する参加者評価が他者評価推測よりも有意に得点が低い(参加者は「自分よりも他者の方が規範を支持している」と推測している)場合に多元的無知が生じていると解釈されている(e.g.,宮島,2018)。一方で,多元的無知の測定・分析方法は,先行研究の間でも一貫しておらず(e.g.,正木・村本,2021; 宮島,2018),未だに研究者間で共有された操作的定義が得られていない。研究1においては,参加者評価Aが他者評価推測Aよりも有意に得点が低かったものの,参加者評価と他者評価推測の間に中点を跨いだ差が見られなかったことから,参加者がソーシャルメディア上の他者は過剰な罰を「支持している」とは推測していない可能性が残されている。多元的無知は,「他の成員のほとんどがその規範を受け入れていると信じている状況」(神,2009, p. 300; Katz & Allport, 1931)として説明されることから,他者評価推測Aが中点を下回る場合,多元的無知が生じているとは必ずしも結論付けられない。そこで,多元的無知の分析方法についてより精緻な定義をしたうえで調査・分析を改めて実施する必要がある。

研究2では,以下の3つの条件を満たした場合に多元的無知が生じていると定義する。すなわち,(1)参加者評価が他者評価推測よりも有意に得点が低いこと,(2)参加者評価が中点3を有意に下回ること,(3)他者評価推測が中点3を有意に上回ること,以上を満たした場合に多元的無知が生じていると定義する。これまでの多元的無知研究では,(1)のみをもって多元的無知が生じているとされる場合もあるが(e.g.,宮島,2018),(1)のみが満たされる場合では,参加者が規範を支持している可能性や,「他者が規範を支持していない」と推測される可能性が残される。これらの可能性を排除するためには,(1)と同時に,(2),(3)の条件を満たす必要がある。仮に,(1)が満たされ,(2)および(3)のいずれか,あるいは両方が満たされなかった場合,メタ規範に多元的無知が生じているとは言えないが,メタ規範の実態と認知との間に乖離が存在しており,罰強度に対する他者の適切性判断を過大推測していると結論付けることが可能である。研究2では,この認知的乖離をメタ規範の多元的無知と区別し,「罰強度の適切性に関する過大推測」として定義する。

また,研究1では,参加者評価と他者評価推測が単一の項目によってのみ測定されていた。研究2ではより精緻な測定を行うため,宮島・山口(2018)における多元的無知の測定方法を参照し,全4項目によって参加者評価,他者評価推測を測定する。

加えて,研究1で使用された刺激はジェンダーに関する話題に限定されており,一般化可能性には限界があるため,論争性の高い他の話題に関する投稿を用いて調査を実施する。育児や社会的迷惑行為などの話題は,ソーシャルメディアにおいて侮辱や個人情報の拡散といった過剰な罰が生じる場合が多い(津田,2024)。そこで研究2では,育児に関して不適切とみなされる投稿,および,社会的迷惑行為に該当する投稿に関して,メタ規範の多元的無知,あるいは罰強度の適切性に関する過大推測が生じているか否かを検討する。

本研究では,以上の問題点を踏まえた仮説および分析方法をOpen Science Framework(OSF)に事前登録2)したうえで,研究2を実施する。なお,事前登録を実施するのはジェンダーの話題に関する投稿のみであるため,育児および社会的迷惑行為に関する投稿については,探索的分析の範囲として扱う。

方法

参加者

2024年8月にクラウドソーシングサービス企業であるクラウドワークスを通してX(旧Twitter)のアカウントを所持している参加者を募集した。サンプルサイズについては以下のように設計した。まず,3つの平均値差について仮説を同時に立てているため,有意水準αを1.67%とした。また,研究1の結果を踏まえて効果量dを0.25,検出力を0.95に設定し,Rを用いてサンプルサイズ検定を行った結果,264名が必要なサンプルサイズとして計算されたため,280名を対象として調査を実施した。質問文を精読せずに回答した参加者を特定するための項目であるDQSで,指示通りの回答をしなかった1名を除いた279名(うち女性109名,Mage=42.01, SD=9.63)を分析の対象とした。

手続き

調査票はQualtricsを用いて作成した。研究1で使用された刺激1に加えて,育児に関する投稿(刺激2,電子付録Figure S1),社会的迷惑行為に該当する投稿(刺激3,電子付録Figure S2)に対して,人物Aが罰(刺激2:侮辱・中傷,刺激3:個人情報拡散の提案)を与えている状況を表した刺激を提示した。各刺激の提示後,測定変数について回答を求めた。なお,本研究は,関西学院大学「人を対象とする行動学系研究」倫理規定に基づいた審査の承認を受け,実施された(承認番号:2024-27)。

調査項目

参加者評価A/他者評価推測A

「Aさんの投稿内容について,あなた自身はどのように考えますか」(参加者評価A),「Aさんの投稿内容について,ソーシャルメディアを利用している他の人々はどのように考えると思いますか」(他者評価推測A)という質問文を提示し,「1:好ましくない(と思うだろう)」~「5:好ましい(と思うだろう)」,「1:支持しない(だろう)」~「5:支持する(だろう)」,「1:受け入れられない(だろう)」~「5:受け入れられる(だろう)」,「1:否定的に評価する(だろう)」~「5:肯定的に評価する(だろう)」の4項目を尋ねた。宮島・山口(2018)で多元的無知の尺度として使用された5項目のうち,本研究の文脈において妥当と判断した4項目を使用した(人物評価に関連すると思われる「魅力的である」は除外した)。

罰としての認識

各刺激について,参加者が人物Aによる投稿を人物Bに対する罰として認識したかどうかを検証するための項目として,「Aさんは,Bさんを罰していると思う」,「Aさんは,Bさんを懲らしめていると思う」,「Aさんは,Bさんに制裁を与えていると思う」の3項目を5件法(「1:当てはまらない」~「5:当てはまる」)で尋ねた。

その他

性別,年齢,年収,学歴,職業,X閲覧時間,投稿Bに対する適切性評価である参加者評価B/他者評価推測B,投稿A/Bに対する賛否,投稿A/Bに対して賛成する人の割合推測,発言傾向についても回答を求めた(詳細はOSFに記載した)。

結果

刺激1~3について各尺度の信頼性係数を求めた。参加者評価Aはαs>.92,他者評価推測Aはαs>.91,参加者評価Bはαs>.89,他者評価推測Bはαs>.90,罰としての認識はαs>.88,刺激1について測定した発言抑制(ジェンダー関連の投稿を抑制する程度)に関しては逆転項目を処理して信頼係数を求めた結果,α=.71であり,十分な信頼性を有していた。各変数の関連性を検討するために,相関分析を行った(Table 1)。なお,分析にはHAD18_002(清水,2016)を使用した。

Table 1 研究2における各変数の相関

123456
1 性別
2 年齢−.12*
3 世帯収入.06−.04
4 参加者評価A.16**−.18**.23**
5 他者評価推測A.00−.03.07.61**
6 参加者評価B−.10.05−.07−.16**.02
7 他者評価推測B−.04.05−.06−.14*−.06.71**

* p<.05, ** p<.01

罰としての認識

Aの投稿が罰として認識されたか否かを確認するための検証を行った。刺激1(M=3.60, SD=1.04, t(277)=9.67, p<.001),刺激2(M=3.66, SD=0.96, t(278)=11.53, p<.001),刺激3(M=4.36, SD=0.85, t(277)=26.72, p<.001)のいずれにおいても罰としての認識の中点3を上回ったため,操作に成功したと言える。

参加者評価B

各刺激について,参加者評価Bの平均値を算出したところ,刺激1(M=2.62, SD=0.81, t(274)=−7.88, p<.001),刺激2(M=3.25, SD=0.79, t(275)=5.20, p<.001),刺激3(M=1.12, SD=0.41, t(255)=−73.39, p<.001)であり,刺激1・3において,参加者は投稿Bを不適切だと認識していることが示された。一方で,刺激2については平均値が中点を上回っているため,投稿Bが不適切だとはみなされていないことになり,多元的無知が成立する前提を満たしていないと解釈される。

メタ規範の多元的無知に関する検証(刺激1:ジェンダー)

メタ規範の多元的無知,あるいは罰強度の過大推測が生じているかどうかを検討するために,参加者評価Aと他者評価推測Aについて対応のあるt検定を行った。なお,参加者評価A,他者評価推測Aは各4項目の平均値を算出し,得点化した。分析の結果,他者評価推測A(M=2.43, SD=0.83)は参加者評価A(M=2.05, SD=0.88)よりも有意に得点が高かった(t(263)=8.13, p<.001, d=0.44, 95%CI[0.27, 0.67],Figure 2)。また,参加者評価Aの平均値は中点3を有意に下回り(t(268)=−17.96, p<.001),他者評価推測Aの平均値は中点3を有意に下回っていた(t(272)=−11.74, p<.001)。以上の結果から,罰強度の過大推測が生じていることが示された一方で,他者評価推測Aが中点を上回らなかったことから,メタ規範に多元的無知が生じているとは言えないことが示唆された。

Figure 2 メタ規範の多元的無知の検証(研究2・刺激1)

メタ規範の多元的無知に関する検証(刺激2:育児,刺激3:社会的迷惑行為)

探索的分析として,育児および社会的迷惑行為に関する刺激2・3に関して,参加者評価Aと他者評価推測Aについて対応のあるt検定を行った。なお,3つの平均値差について分析を行うため,有意水準αを1.67%とした。分析の結果,刺激2に関する他者評価推測A(M=2.43, SD=0.95)は参加者評価A(M=2.13, SD=0.94)よりも有意に得点が高く(t(262)=6.80, p<.001, d=0.32, 95%CI[0.15, 0.49],電子付録Figure S3),罰強度の適切性に関する過大推測が生じていることが示唆された。一方で,参加者評価A(t(265)=−15.20, p<.001),他者評価推測A(t(270)=−10.29, p<.001)ともに,中点を有意に下回ったことから,メタ規範の多元的無知が生じているとは言えないことが示された。

社会的迷惑行為に関する投稿である刺激3に関しても同様にt検定を行った結果,他者評価推測A(M=2.90, SD=1.12)は参加者評価A(M=2.40, SD=1.13)よりも有意に高かったことから(t(268)=9.55, p<.001, d=0.45, 95%CI[0.28, 0.62],電子付録Figure S4),罰強度の適切性に関する過大推測が生じていることが示唆された。一方で,参加者評価A(t(270)=−8.89, p<.001)は中点3を有意に下回ったが,他者評価推測Aと中点との間に有意差は見られなかった(t(274)=−1.62, p=.106)ことから,多元的無知が生じているとは言えないことが示された。一方で,他者評価推測Aの平均値が中点に近いことは,「他者は中庸に近い判断をしている」と認識されている可能性を示している。すなわち,多元的無知とは言えないものの,自他で異なった方向性のメタ規範を有していると誤認識している可能性が示唆された。刺激2・3の分析結果を示す図は電子付録に記載した。

考察

研究2の目的は,研究1で使用された刺激および測定尺度を精緻化し,多元的無知の操作的定義について事前登録をしたうえで,メタ規範に多元的無知が生じているか否かを検討することであった。その結果,参加者評価は他者評価推測よりも有意に低く,罰強度の適切性に関する過大推測が生じていることが示された。研究1と同様,不適切とされる投稿をした人物に対する罰強度に関して他者が認識する適切性が,過大に推測されていることが示された。また,罰強度の適切性に関する過大推測は,ジェンダーに関する投稿のみならず,育児や社会的迷惑行為に関する投稿においても同様に生じていることが示唆された。一方で,メタ規範に多元的無知が生じているとは結論付けられない結果となった。

総合考察

本研究は,ソーシャルメディア上の過剰な罰に関して,メタ規範の多元的無知,あるいは,罰強度の適切性に関する過大推測が生じているかを検討した。本研究の結果から,罰強度の適切性に関する過大推測が生じていることが示された。

近年,不適切な言動に対して,誹謗中傷や侮辱といった過剰な罰が適用される事例が頻出していることが問題とされている(e.g.,赤堀,2018)。一方で,本研究の結果から,人々は「過剰な罰」を他者が適切だと認識する程度を過大に認識していることが明らかとなり,不寛容性が広く支持されているという誤った認識が生じている可能性が示された。

罰強度の適切性に関する過大推測は,極端な投稿が注目されやすいソーシャルメディアの環境的特性に起因することが推察される。過剰な罰を他者に与える人は実際には極少数であるものの,そうした罰を適用する人々は攻撃的な投稿を頻繁に繰り返すことに加えて(山口,2020),怒りの感情を伴う投稿は拡散されやすいため(Fan et al., 2014),過激な言論が実際よりも広く支持されているように認識される状況となっていると考察できる。

また,本研究では,罰強度の適切性に関する過大推測が生じることは示されたものの,メタ規範の多元的無知が生じているとは言えないことが示された。過剰な罰に対する他者の適切性判断を過大に推測していることが示された一方で,過剰な罰が全面的に「支持されている」とまでは推測されていない可能性が残されたと言える。多元的無知の分析方法や操作的定義は先行研究の間でも一貫していないことを踏まえると(e.g.,正木・村本,2021; 宮島,2018),今後は多元的無知自体の分析方法に関して慎重な議論が必要だろう。

本研究の限界と今後の検討課題を挙げる。限界点として,第一に,罰強度の適切性判断を測定する尺度の精緻化が挙げられる。現実場面での罰の内容や罰の対象となる言動は多岐に渡るため,今後はそれらの広範性を取り入れた尺度の開発が必要だろう。

第二に,結果の一般化可能性が限界点として挙げられる。本研究では,扱った刺激がジェンダー,育児,社会的迷惑行為に関する投稿に限定されており,また,そのうち事前登録を実施した仮説はジェンダーについての投稿に関するもののみであった。ソーシャルメディアにおいて過剰な罰の対象となり得る話題は政治,宗教,違法行為など幅広く存在し,また罰の対象となるのは一般人だけではなく,著名人,法人の場合も存在する(山口,2020)ことを踏まえると,今後は話題や罰対象者の多様性を考慮した検討が必要だろう。

今後の展望として,罰強度の適切性に関する誤認識と情報発信の抑制との関連を検討することが挙げられる。ソーシャルメディアでは,政治・宗教・ジェンダーなど論争的な話題に関して誹謗中傷や侮辱など強い非難が頻出しやすいが(田中・山口,2016),そのような誹謗中傷を恐れる人が多数いることや(Gottfried, 2020),情報発信にフラストレーションを感じる人々が多いこと(e.g., Gottfried, 2020; Pew Research Center, 2020)が報告されている。さらに,極端かつ過激な意見を持つ人々が頻繁に投稿する一方で,中庸な意見を持つ多くの人々が誹謗中傷を恐れて投稿を抑制し沈黙することで,総体としては過激な意見ばかりが目立つ状況となることが示唆されている(津田,2024)。それによって生産的な議論が抑制されることが問題とされていることからも(山口,2020),他者が過剰な罰を支持しているという認識と情報発信の関連について検討する意義があると考えられる。

また,罰強度の適切性に関する誤認識を修正する介入方略の検討も考えられる。先行研究では,飲酒規範に関する多元的無知が生じている状況において,参加者に対して多元的無知の説明やそれに関するディスカッションを行わせることで,主観的な規範的圧力が低下し,飲酒量が低減することが示されている(Schroeder & Prentice, 1998)。不寛容性の過大認識が引き起こす種々のネガティブな影響を考慮すると(e.g., Gottfried, 2020; Druckman et al., 2023),誤推測の介入方略がソーシャルメディアにおけるメタ規範認識に対しても同様に適用可能であるか否かについて,今後検討する意義があると考えられる。

脚注

1) 論文の執筆にあたり,稲増一憲氏(東京大学),岩谷舟真氏(関西学院大学)に助言を頂きました。深く感謝申し上げます。

2) 以下に,事前登録の内容をアップロードしている。https://osf.io/eh5pj/?view_only=01d77114f9924f259c73ccd88539d913

引用文献
 
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