論文ID: 2022-006
Tangney et al.’s (2004) Brief Self-Control Scale has been widely used in many languages, including Japanese. We developed and validated the Brief Self-Control Scale for Children (BSCS-C). Data came from 1,289 Japanese students in public elementary and junior high schools (691 boys and 598 girls; 633 students in grades 3–6 and 656 students in grades 7–8). Using a cross-validation procedure, exploratory and confirmatory factor analyses supported the one-factor structure of the BSCS-C. Multi-group confirmatory factor analyses indicated configural, metric, and scalar invariance of the BSCS-C across gender and grade groups. Latent mean differences of the BSCS-C across the groups were small. The BSCS-C demonstrated the internal consistency, seven-month test-retest reliability, and correlations with conscientiousness, extraversion, and the number of behavioral problems.
非認知能力の流行と相まって、子どものセルフコントロールが多くの研究者や実践家、一般市民から注目を集めている(たとえば、森口,2021)。子どものセルフコントロールを測定するために、自己報告は実用的かつ効率的な手段となる可能性があり(Shiner et al., 2021)、実際に12歳以上の子ども向け自己報告式尺度がすでに開発されている(Willems et al., 2018)。本研究では、セルフコントロールを誘惑に打ち勝つなど自分の内的反応を変化させる能力、および悪い習慣を断ち切るなど望ましくない行動を止める能力と定義し、その個人差を捉えるセルフコントロール尺度短縮版(Brief Self-Control Scale; 以下、BSCSとする;尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)に基づき、子ども用セルフコントロール尺度(BSCS for Children; 以下、BSCS-Cとする)の作成と妥当化を行う。セルフコントロールやパーソナリティ特性の自己報告は8歳ころからできるという知見を踏まえ(Robson et al., 2020; Shiner et al., 2021)、BSCS-Cの対象は小学3年生以上の児童生徒とする。
セルフコントロールの個人差は、人生における望ましい結果を促進して望ましくない結果を抑制する(メタ分析として、de Ridder et al., 2012やRobson et al., 2020を参照)。たとえば、ニュージーランドの長期縦断研究によれば、3–11歳時点のセルフコントロールは知能指数や家族の社会経済的地位を統制してもなお、32歳時点の身体的健康、物質依存、社会経済的地位、収入、犯罪歴を予測したことに加え(Moffitt et al., 2011)、45歳時点の身体や脳の老化、老後に向けた準備を予測した(Richmond-Rakerd et al., 2021)3)。こうした知見は、子どものセルフコントロールの評価法を確立することの重要性を示唆している。
成人のセルフコントロール研究で最も広く使われているのが、Tangney et al.(2004)により開発された5件法の自己報告式尺度である。この尺度は36項目全項目版のSCSと13項目短縮版のBSCSからなり(Tangney et al., 2004)、人生における望ましい結果ならびに望ましくない結果との関連が確かめられている(de Ridder et al., 2012; Hoyle & Davisson, 2016)。Tangney et al.(2004) はSCSとBSCSをいずれも1因子解としているが、BSCSについてはその後、因子間相関がr>.60と比較的高いものの2因子解も支持されている(de Ridder et al., 2011; Maloney et al., 2012; Manapat et al., 2021; 最近のレビューとして、Wennerhold & Friese, 2023も参照)。こうした因子構造をめぐる議論があるとはいえ、簡便にセルフコントロールの個人差を捉えられるBSCSは、SCS以上に数多く使用されており(de Ridder et al., 2012)、日本でも1因子解による妥当化がなされている(尾崎他,2016)。本研究では、BSCSを1因子解とみなすこれまでの知見を前提に(de Ridder et al., 2012; 尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、子ども向け自己報告式セルフコントロール尺度の作成を目指した。
BSCSは成人に対する使用が主であり(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、子どもへの適用は想定されていない。たとえば、「もっと自制心があればよいのにと思う」(逆転項目)や「趣味や娯楽のせいで、やるべきことがそっちのけになることがある」(逆転項目)といった一部のワーディングは、子どもにとって理解しにくい可能性がある。子どもへ適用する場合には、項目数や評定件数もできるだけ少ないほうが望ましい(Shiner et al., 2021)4)。したがって、BSCSの定義に依拠しつつ、子ども向けにより平易な表現を用いた8項目4件法の自己報告式セルフコントロール尺度として、BSCS-Cを作成した。
子どものセルフコントロールを実証的に理解するため、BSCS-Cが属性を通じて等価であるという測定不変性は重要だろう。BSCSに関するこれまでの研究では、性別および年代による測定不変性が検討されてきた(Morean et al., 2014; 尾崎他,2016; Pechorro et al., 2021)。性別や年代によって尺度の因子構造、各項目の因子負荷量、あるいは切片が異なる可能性は十分にあり、それらの違いを無視した分析は誤った結論を導きかねない(Putnick & Bornstein, 2016)。測定不変性の研究が知能テストや入学試験における人種差別ならびに性差別を是正すべく始まったという歴史的背景を踏まえると(Pendergast et al., 2017)、BSCS-Cの測定不変性を確立することは子どものセルフコントロールをめぐる差別の予防につながると考えられる。そこで本研究では、子どもの性別(男子vs.女子)および学年(小学3–6年生vs.中学1–2年生)によるBSCS-Cの測定不変性を検証した。
性別や学年によるBSCS-Cの因子平均の差も、子どものセルフコントロールを捉えるための有益な情報となる。性別を問わずセルフコントロールを全般的に測定するため、食行動など性差の生じやすい項目はSCSやBSCSから除外されている(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)。その一方で、セルフコントロールと密接な関係をもつ社会的に望ましい特性であるエフォートフル・コントロールやパーソナリティ特性の誠実性は、男子よりも女子において高い上に(Else-Quest et al., 2006; Soto, 2016)、児童期後期よりもむしろ青年期初期において低いという報告もある(Atherton et al., 2020; Soto, 2016)。本研究では、以上のレビューを総合的に考慮し、BSCS-Cの因子平均の性差や学年差を探索的に検討した。
BSCS-Cの信頼性については、内的整合性と再検査信頼性を取り上げる。これまでのBSCSに関する研究では、内的整合性係数はα>.80, 再検査信頼性係数はr>.70と報告されてきた(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)。しかし、既存の子ども向け自己報告式セルフコントロール尺度に関する報告では、内的整合性係数が平均してα=.72, 再検査信頼性係数が平均してr=.40とされていることを鑑みると(Willems et al., 2018)、BSCS-CはBSCSよりも信頼性係数が低い可能性もある。本研究では、BSCS-Cの内的整合性係数は.70以上になり、再検査信頼性係数は.60以上になると予測した。
BSCS-Cの収束的証拠と弁別的証拠については、パーソナリティ特性の誠実性と外向性をそれぞれ外的変数とし、予測的証拠については、問題行動を外的変数とする。BSCSは誠実性とr=.48の相関であった一方で、外向性とはr=.11の相関であった(Tangney et al., 2004)。この結果は、BSCSの得点が衝動をコントロールできるかどうかの個人差を反映しており、現在の目標達成を妨げるような誘惑に打ち勝つ傾向を表す誠実性と関連しやすく、逆に新しい目標を追求する傾向ないしは現在の目標に対して新たな視点を取り入れる傾向を表す外向性とは関連しにくいという議論(Hoyle & Davisson, 2016)と合致していた。また、セルフコントロールが高い子どもほど飲酒や喫煙、暴力といったその後のさまざまな問題行動が少ないという知見は、すでに数多く蓄積されている(Moffitt et al., 2011; メタ分析として、Robson et al., 2020)。Willems et al.(2018)によれば、14歳時点の自己報告によるセルフコントロールの低さは16歳時点の飲酒や喫煙とrs=.10–.21の相関を示した。そのため、BSCS-Cの得点は、誠実性得点と効果量中以上で正の相関、外向性得点と高くても効果量小の相関、その後の問題行動数と効果量小で負の相関を示すと予測した。
本研究の概要本研究の目的は、BSCS(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)に基づき、子どもに適用しやすい8項目4件法のセルフコントロール尺度BSCS-Cを作成し、尺度得点の構成概念妥当性を検証することであった。具体的には、BSCS-Cの因子構造、性別(男子vs.女子)や学年(小学3–6年生vs.中学1–2年生)による測定不変性および因子平均の差、信頼性(内的整合性、7ヵ月後の再検査信頼性)、外的変数(自己報告による誠実性得点と外向性得点、教師評定による翌年度の問題行動数)との相関を検討した。知見の頑健性を確かめるため、十分なサンプルサイズを確保した上で交差妥当化の手続きを用いた。
本研究は第2著者の所属機関における医学研究等倫理審査委員会より承認を得て実施された(承認番号2019-212)。調査対象は、A市教育委員会の依頼に応じた中学校4校とこれらの校区にある小学校5校であった。学校サイズが分析結果に影響しうることを考慮し(たとえば、Yang et al., 2018)、幅広いサイズにわたる小中学校を選定した5)。学校長と保護者には、本調査がエビデンスに基づく学校教育のための取り組みであり、今後の生徒指導に生かしてもらうため分析結果を学級・学校単位でフィードバックすると文書で説明し、同意書による承諾を得た。児童生徒には、担任教員が当日の朝に調査の目的ならびに内容を口頭とスライドで説明し、研究のためのデータ利用を拒否する場合はその旨を伝えるように求めた。さらに、学校長や保護者、児童生徒に対して、調査への回答は即時に個人情報を削除した上でサーバーへ送信され、学校長や担任教員は児童生徒個々人の回答を把握できないことも教示した。ホームルームや授業時間に、担任教員が項目を一つひとつ読み上げながら、タブレット端末によるインターネット調査を行った。
2019年12月に調査を実施した結果、小学3–6年生と中学1–2年生1,301名から回答が得られた。そのうち、異なる項目に連続して同じカテゴリを回答した割合(以下、連続同一回答率とする)が70%以上の児童生徒を不適切回答者として除外し、1,289名(99.1%)を分析対象とした6)。この1,289名をランダムに2分割したところ、サンプルAは644名(小学3–6年生324名[男子181名、女子143名];中学1–2年生320名[男子177名、女子143名])から構成され、サンプルBは645名(小学3–6年生309名[男子154名、女子155名];中学1–2年生336名[男子179名、女子157名])から構成された(詳細については、電子付録Table S1を参照)。因子分析には最低200名のサンプルサイズ(Kline, 2016; Pendergast et al., 2017)、相関分析には最低250名のサンプルサイズがそれぞれ必要とされており(Schönbrodt & Perugini, 2013)、二つのサブサンプルはこれらの基準を満たしている。
BSCS-Cの再検査信頼性を検討するため、2020年7月(7ヵ月後)に第1波と同じ児童生徒に対して追跡調査を行った。追跡調査に際しては、A市教育委員会や調査実施校と協議しながら、学校教育に最も支障を来しにくい時期を選んだ。BSCS(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)と同様に、BSCS-Cはセルフコントロールを比較的安定した個人差として定義している。また、再検査信頼性を検討した国内研究の測定間隔はほとんどが30週(すなわち、7.5ヵ月)以内であった(小塩,2016)。したがって、7ヵ月後の追跡調査は十分に適切と判断した。第一波と同じく、連続同一回答率70%以上の児童生徒を不適切回答者として除外した。その結果、サンプルAは608名(94.4%;小学4–6年生207名[男子119名、女子88名];中学1–3年生401名[男子223名、女子178名])が分析対象となり、サンプルBは627名(97.2%;小学4–6年生202名[男子102名、女子100名];中学1–3年生425名[男子217名、女子208名])が分析対象となった。
測定内容BSCS-C以下の手順により、BSCS-Cが作成された7)。まず、社会心理学や教育心理学、パーソナリティ心理学を専門とする著者3名がBSCSの邦訳(尾崎他,2016)にふりがなをつけた後、小中学生にとって難解と考えられる表現を平易にした。つぎに、内容が他の項目と重複しており、尾崎他(2016)において因子負荷量が.40を下回っていた5項目を除外した(BSCSの邦訳とBSCS-Cの対応については、電子付録Table S2を参照)。残った8項目がBSCSの定義(Tangney et al., 2004)を代表しているかについて、上述の著者3名で検討した。教示は「以下のそれぞれの質問は、今のあなたにどれだけあてはまりますか」とし、評定件数は4件法(1=まったくあてはまらない、2=あまりあてはまらない、3=よくあてはまる、4=とてもよくあてはまる;各カテゴリの回答率については、電子付録Table S3を参照)とした。最後に、A市教育委員会に所属する研究協力者1名との協議を経て、BSCS-Cが小中学生にとって答えやすい尺度となっていることを確かめた。
パーソナリティ特性誠実性と外向性を測定するため、小学生5因子性格検査(曽我,1999)より、統制性因子の「なんでも一生けんめいに取り組むほうだ」と「計画をたてて勉強している」の2項目、ならびに外向性因子の「目だちたがりやである」と「おとなしいほうだ」(逆転項目)の2項目を抽出した。評定件数は4件法(1=まったくあてはまらない、4=とてもよくあてはまる)とした。内的整合性係数については、サンプルA・Bそれぞれ、誠実性がαs=.61, .57(rs=.45, .40)、外向性がαs=.52, .46(rs=.36, .31)であり、いずれも十分とはいえなかった8)。しかし本研究では、児童生徒の負担をできるだけ減らすため、社会心理学や教育心理学、パーソナリティ心理学を専門とする著者3名で検討し、子どもの誠実性や外向性の概念を代表すると考えられる各2項目を抜粋した。
問題行動問題行動を測定するため、2020年度(第1波の翌年度)における飲酒、喫煙、万引き、暴力、所在不明などによる生徒指導事案の数を集計した。担任教員が各児童生徒の問題行動の内容(34カテゴリから該当項目を選択)と発生日をA市教育委員会へ報告した。分布が正に歪んでいたため(サンプルA[歪度=5.28, 尖度=29.87];サンプルB[歪度=13.82, 尖度=223.88])、問題行動の値を平方根変換したところ、若干ではあるが正規分布に近づいた(サンプルA[歪度=4.56, 尖度=19.55];サンプルB[歪度=5.58, 尖度=41.52])。したがって以降では、平方根変換を施した問題行動に基づく分析結果を報告するが、元々の問題行動を分析に用いてもほぼ同様の結果が得られた。
分析計画BSCS-Cの因子構造を検討するため、探索的因子分析と確認的因子分析を行った後、性別と学年による測定不変性を検討するため、多母集団確認的因子分析を行った(Brown, 2015; Kline, 2016; Pendergast et al., 2017; Putnick & Bornstein, 2016)。推定方法は順序カテゴリカルデータに対するロバスト重み付き最小二乗法とした。モデル適合度はCFI>.90, RMSEA<.08, SRMR<.08という基準により評価し、サンプルサイズに依存しやすいχ2値は報告のみにとどめた。測定不変性については、群間で因子構造が等しいとする配置不変(configural invariance)モデル、群間で因子構造と因子負荷量が等しいとする弱測定不変(metric invariance)モデル、群間で因子構造や因子負荷量、切片が等しいとする強測定不変(scalar invariance)モデルの三つを比較した。ネストモデルのあてはまりは、配置不変モデルをベースラインとして、CFIの低下(ΔCFI)が.01以下、およびRMSEAの上昇(ΔRMSEA)が.015以下という基準により評価した(Chen, 2007)。
強測定不変モデルが採択された場合、BSCS-Cの因子平均の性差および学年差を検討した(Pendergast et al., 2017; Putnick & Bornstein, 2016)。男子と小学3–6年生をそれぞれ基準群とみなし、女子と中学1–2年生の因子平均を推定した。Cohen’s dを算出し、.20を効果量小、.50を効果量中、.80を効果量大として群間差を解釈した(Cohen, 1992)。
BSCS-Cの信頼性を検討するため、内的整合性係数としてCronbachのα係数とMcDonaldのω係数を算出し、再検査信頼性係数としてPearsonの積率相関係数と級内相関係数(intraclass correlation; 以下、ICCとする)を算出した。BSCS-Cと外的変数の相関を検討するためにPearsonの積率相関係数を算出し、.10を効果量小、.30を効果量中、.50を効果量大として解釈した(Cohen, 1992)。
以上の分析は、psych 2.1.9パッケージとICC 2.3.0パッケージを用いたR 4.1.1(R Core Team, 2021)、ならびにMplus 8.8(Muthén & Muthén, 1998–2022)により行われた。
本調査は学級単位で実施されたため、BSCS-Cを構成する8項目のICCとデザイン効果を算出した(詳細については、電子付録Table S3を参照)。その結果、学級単位のICCが.05以上だったのは、サンプルAにおいて3項目のみ、サンプルBにおいて2項目のみであった。学級単位のデザイン効果が2.0以上だったのは、サンプルAとBともに1項目のみであった。尾崎(2018b)を踏まえ、本研究では、個人–学級というデータの階層性を考慮したマルチレベルモデルは使用しないこととした。
因子構造・測定不変性の検討BSCS-Cに対する探索的因子分析の結果、固有値はサンプルAにおいて3.93, 0.84, 0.80, サンプルBにおいて3.82, 0.89, 0.82と推移した。1因子解については、サンプルAとBともに、RMSEAの値がやや高かったものの、CFIとSRMRの値は十分に基準範囲内であった(Table 1)。2因子解については、モデル適合度は1因子解よりも良好であったものの、因子間相関がサンプルA(r=.64)とサンプルB(r=.71)ともに高かった。3因子解については、サンプルAにおいて収束したが、サンプルBでは収束しなかった。これらの結果を総合し、1因子解を採択した。Table 2に、各サンプルにおける因子負荷量を記す。
χ2 | df | CFI | RMSEA (90% CI) | SRMR | |
---|---|---|---|---|---|
Sample A | |||||
1-factor solution | 137.91 | 20 | .961 | .096 [.081, .111] | .051 |
2-factor solution | 30.70 | 13 | .994 | .046 [.025, .067] | .023 |
3-factor solution | 13.61 | 7 | .998 | .038 [.000, .069] | .015 |
Sample B | |||||
1-factor solution | 164.32 | 20 | .952 | .106 [.091, .121] | .055 |
2-factor solution | 49.34 | 13 | .988 | .066 [.047, .086] | .029 |
3-factor solution | No convergence |
Note. CFI=comparative fit index; RMSEA=root mean square error of approximation; CI=confidence interval; SRMR=standardized root mean square residual.
F1 | |||
---|---|---|---|
(R) | 1 | I can’t break bad habits. | .71/.67 |
(悪いクセをやめられない) | |||
(R) | 2 | I am lazy. | .72/.76 |
(だらけてしまう) | |||
(R) | 3 | I do things that are bad for me, even if they are fun. | .77/.75 |
(自分にとってよくないことでも、楽しければやってしまう) | |||
(R) | 4 | I wish I could be more patient. | .59/.51 |
(もっとがまんできればいいのにと思う) | |||
5 | I can resist temptation (other fun stuff). | −.42/−.39 | |
(誘惑[他の楽しいさそい]をがまんできる) | |||
(R) | 6 | Sometimes I can’t stop myself, even if I know it is wrong. | .71/.72 |
(よくないことと知りつつ、やめられない時がある) | |||
(R) | 7 | I often start things without thinking them through first. | .59/.57 |
(やる前にしっかりと考えずにものごとをはじめてしまう) | |||
(R) | 8 | Other fun things sometimes keep me from what needs to be done. | .67/.71 |
(他の楽しいことに夢中になり、やるべきことがほったらかしになることがある) |
Note. (R)=reverse item. The English items are translated from the original Japanese items, referred to the Brief Self-Control Scale (Tangney et al., 2004). Factor loadings among sample A are shown on the left and factor loadings among sample B are shown on the right.
性別および学年ごとの確認的因子分析の結果、サンプルAとBともに、ほぼすべての群でRMSEAの値が基準よりもやや高かったものの、CFIとSRMRの値は十分に基準範囲内であった(Table 3)。この結果を踏まえ、測定不変性の検証に進んだ。
χ2 | df | CFI | RMSEA (90% CI) | SRMR | ΔCFI | ΔRMSEA | |
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Sample A | |||||||
Single-group: Gender | |||||||
Boy | 105.50 | 20 | .944 | .109 [.089, .130] | .042 | — | — |
Girl | 75.09 | 20 | .963 | .098 [.075, .122] | .040 | — | — |
Single-group: Grade | |||||||
3–6 | 104.32 | 20 | .937 | .114 [.093, .136] | .047 | — | — |
7–8 | 89.30 | 20 | .957 | .104 [.083, .127] | .040 | — | — |
Multi-group: Gender | |||||||
Configural (structure) | 180.31 | 40 | .953 | .104 [.089, .120] | .041 | — | — |
Metric (loadings) | 165.88 | 47 | .960 | .089 [.074, .103] | .042 | .007 | −.015 |
Scalar (intercepts) | 178.37 | 62 | .961 | .076 [.063, .090] | .044 | .008 | −.028 |
Multi-group: Grade | |||||||
Configural (structure) | 194.33 | 40 | .948 | .109 [.094, .125] | .044 | — | — |
Metric (loadings) | 187.97 | 47 | .952 | .097 [.082, .111] | .045 | .004 | −.012 |
Scalar (intercepts) | 210.74 | 62 | .950 | .086 [.074, .099] | .047 | .002 | −.023 |
Sample B | |||||||
Single-group: Gender | |||||||
Boy | 92.58 | 20 | .946 | .104 [.083, .126] | .041 | — | — |
Girl | 86.12 | 20 | .958 | .103 [.081, .126] | .041 | — | — |
Single-group: Grade | |||||||
3–6 | 110.43 | 20 | .942 | .121 [.099, .143] | .046 | — | — |
7–8 | 62.30 | 20 | .972 | .079 [.058, .102] | .034 | — | — |
Multi-group: Gender | |||||||
Configural (structure) | 178.50 | 40 | .952 | .104 [.088, .119] | .041 | — | — |
Metric (loadings) | 177.75 | 47 | .955 | .093 [.079, .108] | .043 | .003 | −.011 |
Scalar (intercepts) | 203.81 | 62 | .951 | .084 [.072, .097] | .048 | −.001 | −.020 |
Multi-group: Grade | |||||||
Configural (structure) | 171.45 | 40 | .957 | .101 [.086, .117] | .040 | — | — |
Metric (loadings) | 165.14 | 47 | .962 | .088 [.074, .103] | .042 | .005 | −.013 |
Scalar (intercepts) | 218.85 | 62 | .949 | .089 [.076, .101] | .046 | −.008 | −.012 |
Note. CFI=comparative fit index; RMSEA=root mean square error of approximation; CI=confidence interval; SRMR=standardized root mean square residual; Δ=difference.
性別および学年による多母集団確認的因子分析の結果、サンプルAとBともに、配置不変モデルにおけるRMSEAの値が基準よりもやや高かったものの、CFIとSRMRの値は十分に基準範囲内であり、弱測定不変モデルや強測定不変モデルにおけるΔCFIならびにΔRMSEAもカットオフを下回っていた(Table 3)。そのため、より制約の厳しい強測定不変モデルを採択した(因子負荷量については、電子付録Table S4を参照)。
因子平均の差の検討強測定不変モデルに基づいてBSCS-Cの因子平均の性差を検討したところ、効果量はサンプルA(d=−0.22)とサンプルB(d=−0.32)ともに小さく、女子の因子平均が男子の因子平均よりも低かった。学年差に関しても、効果量はサンプルA(d=0.29)とサンプルB(d=0.25)ともに小さく、中学1–2年生の因子平均が小学3–6年生の因子平均よりも高かった。逆転項目の因子負荷量が正であったため(Table 2, 電子付録Table S4)、こうした因子平均の差は、女子の尺度得点が男子の尺度得点よりも高く、中学1–2年生の尺度得点が小学3–6年生の尺度得点よりも低いことを表している。
高得点ほど高セルフコントロールを意味するように逆転項目を処理した上で、8項目の合計値を尺度得点とした。BSCS-Cの平均値はサンプルAにおいてM=20.85(SD=4.38, 歪度=0.04, 尖度=−0.17)、サンプルBにおいてM=20.58(SD=4.43, 歪度=0.18, 尖度=−0.12)であった。Table 4に、性別・学年ごとの記述統計量を記す。
M | SD | Skewness | Kurtosis | |
---|---|---|---|---|
Sample A | ||||
Gender | ||||
Boy | 20.32 | 4.23 | 0.21 | −0.20 |
Girl | 21.52 | 4.48 | −0.19 | 0.03 |
Grade | ||||
3–6 | 21.64 | 4.28 | −0.04 | −0.04 |
7–8 | 20.06 | 4.34 | 0.13 | −0.21 |
Sample B | ||||
Gender | ||||
Boy | 19.73 | 4.35 | 0.25 | 0.25 |
Girl | 21.48 | 4.35 | 0.13 | −0.45 |
Grade | ||||
3–6 | 21.36 | 4.47 | 0.19 | −0.17 |
7–8 | 19.86 | 4.28 | 0.15 | −0.16 |
BSCS-Cの内的整合性係数は、サンプルA(α=.81; ω=.84)とサンプルB(α=.80; ω=.84)ともに高い値であった。同じく再検査信頼性係数は、サンプルA(r=.63, 95% CI[.58, .68], p<.001; ICC=.63, 95% CI[.58, .68], p<.001)とサンプルB(r=.63, 95% CI[.58, .68], p<.001; ICC=.63, 95% CI[.58, .67], p<.001)ともに許容できる値であった。電子付録Table S5に、性別・学年ごとの分析結果を記す。
外的変数との相関の検討BSCS-Cの得点と誠実性は正の相関を示しており、効果量はサンプルA(r=.48, 95% CI[.42, .54], p<.001)とサンプルB(r=.47, 95% CI[.40, .52], p<.001)ともに中程度であった。BSCS-Cの得点と外向性は負の相関を示しており、効果量はサンプルA(r=−.21, 95% CI[−.28, −.13], p<.001)とサンプルB(r=−.26, 95% CI[−.33, −.19], p<.001)ともに小さかった。BSCS-Cの得点と問題行動は負の相関を示しており、効果量はサンプルA(r=−.08, 95% CI[−.15, .00], p=.051)とサンプルB(r=−.09, 95% CI[−.17, −.02], p=.018)ともに非常に小さかった9)。電子付録Table S5に、性別・学年ごとの分析結果を記す。
本研究では、BSCS(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)を基盤とする子ども向け自己報告式セルフコントロール尺度BSCS-Cを作成した。小中学生に対して調査を行い、因子構造、性別および学年による測定不変性と因子平均の差、信頼性(内的整合性、7ヵ月後の再検査信頼性)、外的変数(自己報告による誠実性得点と外向性得点、教師評定による翌年度の問題行動数)との相関から、BSCS-Cの得点の構成概念妥当性を検証した。
BSCS-Cの因子構造を検討したところ、1因子解が採択された。また、性別(男子vs.女子)ならびに学年(小学3–6年生vs.中学1–2年生)によるBSCS-Cの測定不変性を検討したところ、どちらも因子構造、因子負荷量、切片を等しいと仮定する強測定不変モデルが採択された。これらの結果は、BSCSと同様に(de Ridder et al., 2012; 尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、BSCS-Cが性別や学年にかかわらず子どものセルフコントロールを単一の構成概念として捉えられることを示唆している。
BSCS-Cの因子平均の性差と学年差はいずれも効果量小であり、女子は男子よりも尺度得点が高く、中学1–2年生は小学3–6年生よりも尺度得点が低かった。女子は男子と比べて望ましくない行動や習慣、衝動の抑制を周りの大人から求められやすいため、エフォートフル・コントロールをはじめとした社会的に望ましい特性が高くなりやすいとされている(Else-Quest et al., 2006; Soto, 2016)。また、混乱仮説(disruption hypothesis)によれば、青年期初期に起きやすい特有の生理的・社会的・心理的変化が、社会的に望ましい特性をこの時期にいったん低下させる(Atherton et al., 2020; Soto, 2016; レビューとして、Vohs & Piquero, 2021も参照)。こうした知見を踏まえると、本研究でみられたBSCS-Cの因子平均の性差や学年差は妥当といえる。
予測どおり、BSCS-Cの内的整合性係数は.80以上であり、7ヵ月後の再検査信頼性係数は.60以上であった。内的整合性係数については、BSCSと遜色なく(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、十分に高い値となった。再検査信頼性係数については、BSCSの原版が.80以上であり邦訳が.70以上であったことを踏まえるとやや低かったものの(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、国内誌において3ヵ月以上の間隔で得られた心理尺度の再検査信頼性係数が.70であったことを鑑みれば(小塩,2016)、おおむね許容できる水準といえる。そのため、本研究で得られた結果はBSCS-Cの得点の信頼性を支持しているだろう。
BSCS-Cの得点は予測どおり、誠実性得点と効果量中で正の相関を示し、外向性得点と効果量小の相関を示し、翌年度の問題行動数と効果量小で負の相関を示した。BSCS-Cと誠実性の相関は、BSCSに関する結果(Tangney et al., 2004; Hoyle & Davisson, 2016)と同様であった。一方で、BSCS-Cと外向性の相関が負であったことから、本尺度によって捉えられる子どものセルフコントロールは、外向性が表す新しい目標を追求する傾向や現在の目標に対して新たな視点を取り入れる傾向(Hoyle & Davisson, 2016)と相反する可能性がある。ただしより重要なのは、BSCSと同じく(Tangney et al., 2004)、BSCS-Cと誠実性の相関の絶対値が、BSCS-Cと外向性の相関の絶対値よりも高かったことであろう。BSCS-Cとその後の問題行動の相関は、子どものセルフコントロールに関するこれまでの知見(Moffitt et al., 2011; Robson et al., 2020; Willems et al., 2018)と整合していた。したがって、これらの結果はBSCS-Cの得点の収束的証拠、弁別的証拠、そして予測的証拠と考えられる。
BSCS-C全8項目のうち、7項目(88%)は逆転項目により構成されていた。BSCSは13項目中9項目(69%)が逆転項目であり(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)、既存の子ども向け自己報告式セルフコントロール尺度もすべて逆転項目であったため(Willems et al., 2018)、BSCS-Cの尺度構成は先行研究と軌を一にしている。ただし、逆転項目の割合がBSCSよりもBSCS-Cにおいて高いことは、両尺度の性質に予期しない差異をもたらした可能性もある。その結果として、BSCSの得点が外向性と正に相関していたのとは対照的に(Tangney et al., 2004)、本研究においてBSCS-Cの得点は外向性と負に相関していたのかもしれない。今後はこうした可能性を実証的に確かめる必要がある。
本知見の意義は、BSCS-Cの構成概念妥当性を支える証拠を幅広く集めたことにある。具体的には、実質的段階(概念定義や項目作成、内容的代表性)、構造的段階(因子構造や測定不変性、信頼性)、外的段階(収束的証拠や弁別的証拠、予測的証拠)というFlake et al.(2017)によりまとめられた構成概念妥当化の三段階すべてを検討した。二つの独立したサブサンプルに基づいて交差妥当性を確かめたこと、ならびに自己報告によるBSCS-Cの得点と教師評定による問題行動数の関連を報告したことも、本研究の強みである。しかし、BSCS-Cの構成概念妥当化は一度きりで終えられるものではなく(Flake et al., 2017; 村山,2012; Shiner et al., 2021)、今後も検討を重ねていくことが重要だろう。
課題と結論本研究の課題として、以下の四つが挙げられる。第1に、サンプルが一つの自治体に限られているため、他の自治体に住む小中学生を対象とした追試が欠かせない。第2に、子どもの自己報告にはバイアスが生じやすいため(Shiner et al., 2021)、養育者評定および教師評定との相関による評定者間信頼性の検討が必要となる。第3に、収束的証拠(すなわち、誠実性)と弁別的証拠(すなわち、外向性)は既存の尺度から2項目を抜粋して検討されたため、妥当化された尺度を用いて知見の再現性を確かめる必要がある。また、過去の文献に従って(Hoyle & Davisson, 2016; Tangney et al., 2004)、収束的証拠として神経症傾向や協調性との相関、弁別的証拠として開放性との相関を検証することも有益だろう。第4に、予測的証拠をさらに集めるため、将来の問題行動のみならず、学業成績や年収、身体的・精神的健康などをアウトカムとした検証も重要である。BSCS-Cの構成概念妥当化のプロセスは緒に就いたばかりであり、今後より詳細な検討が求められる。
上述した限界があるとはいえ、本研究はBSCS-Cの作成と妥当化に成功した。この知見は、理論的背景を同じくするBSCS-CとBSCS(尾崎他,2016; Tangney et al., 2004)を回答者の発達段階に応じて使い分けた長期縦断研究の可能性を示唆している。こうした試みは、セルフコントロールの生涯発達や予測因子、結果の解明につながるだろう。本論文がセルフコントロールの個人差をめぐるさらなる研究や実践に貢献することを期待したい。
1) 本稿の執筆にあたり、Roy F. Baumeister先生と尾崎由佳先生より、温かい励ましや貴重なご助言を賜りました。また、調査の実施にあたり、A市小中学校の先生方および児童生徒のみなさまのご協力を賜りました。厚く御礼申し上げます。
2) 本研究は平成31年度岐阜市委託研究(岐阜市教委学指(契約)第112号)の補助を受けて実施された。本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はない。
3) この長期縦断研究では、11歳時点のセルフコントロールが面接を用いた自己報告により測定され、それ以前のセルフコントロールは他者評定により測定された。
4) 分冊版調査により回答者1名あたりの項目数を減らす手段もありうるが(尾崎,2018a)、これは欠測値推定という別の技術的問題への対処を必要とする。
5) 調査実施校の全校児童生徒数は、小学校がM=291.20名(SD=161.22)、中学校がM=283.75名(SD=113.87)であった。
6) このプロジェクトには、本論文と関係しない他の尺度がいくつか含まれていた。プロジェクト全体における連続同一回答率の平均値がおよそ50%、同じく標準偏差がおよそ10であった。そこで、連続同一回答率が平均値+2標準偏差(すなわち、70%)以上の児童生徒を不適切回答者とみなした(吉澤他,2023)。なお、インターネット調査における不適切回答者を検出する方法として注意確認項目が知られているが(Maniaci & Rogge, 2014; 三浦・小林,2015)、児童生徒を対象とする本プロジェクトでは、注意確認項目の追加は参加者の負担や心情、教育的観点から望ましくないと判断した。今後は機械学習による不適切回答者予測の知見を生かすことも有益だろう(尾崎・鈴木,2019)。
7) BSCSの原版の著者であるRoy F. Baumeister氏、およびBSCSの邦訳の著者である尾崎由佳氏の承諾を得た。
8) 誠実性尺度と外向性尺度は2項目4件法の順序カテゴリカルデータであったため、内的整合性係数としてSpearmanの順位相関係数も報告した。
9) 誠実性と問題行動の相関はサンプルAにおいてr=.00 (95% CI [−.08, .07], p=.933)、サンプルBにおいてr=.02 (95% CI [−.06, .09], p=.686)であった。また、外向性と問題行動の相関はサンプルAにおいてr=.06 (95% CI [−.01, .14], p=.109)、サンプルBにおいてr=.08 (95% CI [.00, .15], p=.050)であった。これらの結果は、誠実性得点や外向性得点よりも、BSCS-Cの得点が翌年度の問題行動数の少なさと相関することを示唆している。