論文ID: 2024
The purpose of this study was to revise the Attitudes towards Paranormal Phenomena Scale (APPle) to capture various aspects of skeptical attitudes, so that the believing and skeptical attitudes toward paranormal phenomena could be measured in detail. A questionnaire survey was conducted with undergraduates. Using exploratory factor analysis, six factors (Total Denial of Paranormal Phenomena, Denial Based on Current Situational Awareness, Inclination Towards Fortunetelling and Magic, Believing in Spirituality, Intellectual Curiosity about Paranormal Phenomena, and Fear of Paranormal Phenomena) were extracted, and a scale with 25 items called APPle II was created. From the viewpoints of internal consistency, confirmatory factor analysis, test-retest reliability, and criterion-related validity, sufficient reliability and validity were confirmed. Among the six factors, “Inclination Towards Fortunetelling and Magic” and “Believing in Spirituality” were regarded as believing attitudes, whereas “Total Denial of Paranormal Phenomena” and “Denial Based on Current Situational Awareness” as skeptical attitudes. “Intellectual Curiosity about Paranormal Phenomena” could be both believing and skeptical, and seemed to be based on analytical and critical thinking.
心霊現象や占い、UFO、超能力など、現代の科学知識では説明がつかない不思議な現象を総括して「不思議現象」と呼ぶ。不思議現象と聞いてイメージされる対象は多様であり(菊池,1998)、この現象は具体的な対象によって定義されるというより、その論理メカニズムや信奉メカニズムとがセットとなって構成される。菊池(1995)によれば、その特徴は、(a)現代の科学知識では説明がつかない現象の存在を疑うことなく信じる、(b)科学的論法を軽視する、(c)科学的な方法論で説明したとしても、その方法論に欠陥が見られる、の3点であるとされている。不思議現象を信奉するメカニズムの精緻な解明は、予測困難な時代において、不思議現象の悪用を防ぎつつ、人々のウェルビーイングを促進するための手がかりにつながる可能性がある。
不思議現象信奉に関する心理学的な研究の多くにおいては、対象を列挙して信奉度を測定し、パーソナリティ変数との相関を分析する研究モデルが採用されているが、これらの先行研究では知見が一致しないことも多い。たとえば、権威主義的傾向について、不思議現象信奉者が高いとする研究(斉藤,1981)もあれば、非信奉者でその傾向が高いと認める研究(中村,1995)もある。また、不安傾向が不思議現象信奉と関連しているとする知見(松井,2001; Tobacyk & Pirttilä-Backman, 1992)と、関連がないとする知見(岩永・坂田,1998)とが混在している。Locus of Controlにおいては、外的統制と関連を示す研究(岩永・坂田,1998; Tobacyk & Tobacyk, 1992)と内的統制との関連を示す研究(McGarry & Newberry, 1981)の双方が認められる。認知能力と不思議現象信奉についても、信奉者は批判的思考や分析的思考などの認知能力が低いことを示す研究(Alcock & Otis, 1980; Gray & Gallo, 2016)もあれば、不思議現象信奉に分析的、直感的両方の思考スタイルが正の影響を及ぼすことを示す研究(Majima, 2015)もある。
これら先行研究の知見が一貫しない理由として、これらの知見が「信じている—信じていない」の一次元のみで測定される信奉度に基づくものであることが考えられる(小城・川上・坂田,2006)。そこで、小城ほか(2006)は、不思議現象の12対象(UFO、占い、霊、超能力、手相、たたり、神仏の存在、前世の存在、おまじない、血液型性格判断、神社などのお守り、死後の世界)に対する意見やイメージなどを自由記述データとして収集し、この回答の質的な分析結果に基づいて、不思議現象に対して、信奉行動だけでなく、認知や感情も含めた包括的な態度を測定する尺度を作成した。さらに小城・坂田・川上(2008)は、この項目の一部を修正し、大学生男女699名に対する調査結果から、不思議現象に対する態度尺度(Attitudes towards Paranormal Phenomena Scale: APPle)を開発した。APPleおよびその短縮版であるAPPle SE/30(坂田・川上・小城,2012)は、「占い・呪術嗜好性」、「スピリチュアリティ信奉」、「娯楽的享受」、「懐疑」、「恐怖」、「霊体験」の6下位尺度から構成される。
不思議現象信奉に関する先行研究においては「信奉」に主眼が置かれ、「懐疑」は「信奉の低下や否定」または「非信奉」として位置づけられている。このため、懐疑そのものに着目した研究は少ないが、Kurtz(1988)は、不思議現象に対する懐疑は、根拠と批判的思考に基づいた科学的・選択的な懐疑と、議論や検討の余地を一切残さない独断的・全面的な懐疑とに分かれることを指摘した。また、Lindeman, Svedholm-Häkkinen, & Riekki(2016)では、懐疑は分析的思考と正、直感的思考と負の関連を示すが、必ずしもすべての懐疑者が分析的思考をしていないこと、この、分析的思考をしない懐疑者は、分析的思考を行う懐疑者に比べ、潜在的な処理では、不思議現象信奉と強く関連する存在論的混乱を生じやすいことが示されている。さらに、懐疑的な性格と科学的な態度との相関は弱く、また懐疑的な性格の下位尺度には不思議現象信奉に正の影響を示すものもあり、懐疑的な性格と科学的な態度とは不思議現象信奉に独立に影響することも示唆されている(Irwin, Dagnall, & Drinkwater, 2016)。以上のことから、「信奉」と「懐疑」とは必ずしも単純に対立する概念ではないことが示唆される。そして「信奉」の中に深い心性に根差した信奉と表面的にエンターテイメントとして楽しむ態度があるように、「懐疑」においても、メディアが娯楽のために演出した不思議現象に特化した限定的否定、精緻な情報処理を回避するための全否定、不思議現象を非科学的なものと非難する風潮への同調、不思議現象の存在に伴う恐怖を排除するための反動的な否認など、多様な側面があると推測される。
そこで本研究では、APPleに、不思議現象に対する懐疑的態度をより仔細に捉えるための尺度項目を追加し、不思議現象に対する信奉的態度と懐疑的態度をより精緻に測定するための尺度に改訂することを目的とする。研究1では探索的因子分析による因子構造の確認と再検査信頼性の確認、研究2では確認的因子分析による因子構造の交差妥当性の確認、研究3では基準関連妥当性の検証を行う。この改訂版に期待される因子構造として、APPleの「占い・呪術嗜好性」「スピリチュアリティ信奉」といった信奉的な態度因子が再現されること、懐疑的な態度因子は細分化され、その中には信奉的な態度因子との相関が負ではない因子が存在することが挙げられる。また、基準関連妥当性については、Majima(2015)やIrwin et al.(2016)を踏まえると、批判的思考などの分析的思考との間で、信奉的な態度因子はおおむね負の関連、懐疑的な態度因子はおおむね正の関連が認められるが、そのような関連が認められないものも存在すると予測される。
なお、本研究の分析において、確認的因子分析にはAmos ver.23.0が、それ以外にはHAD(清水,2016)が用いられた。また、相関係数についてはCohen(1992)に倣い、|r|=.10を効果量小、|r|=.30を効果量中、|r|=.50を効果量大と判断した。
研究1の調査対象は、近畿圏の大阪樟蔭女子大学、首都圏の聖心女子大学、立正大学、中部圏の名城大学に所属する大学生589名(男性34名、女性555名;平均年齢:19.2歳、SD=1.2)であった。なお、このうち、聖心女子大学に所属する大学生183名(女性のみ;平均年齢:19.0歳、SD=1.2)は再検査信頼性確認のための調査にも参加した。
調査時期および方法2015年4月から2019年1月に、担当教員により講義時間内に質問紙調査が実施された。このうち、再検査信頼性確認のための調査は2015年から2018年の7月に行われた。調査は数回に分けて行われ、回答時間は各回約15分であった。
調査内容筆者ら3名が小城ほか(2006)の予備調査(60名)の回答(たとえば、「霊がいると思うと怖いから信じていない」、「タコ星人はフィクションだと思うが、地球外に生命体は存在しているかもしれない」といった多義的な記述)を改めて精査し、Kurtz(1988)の選択的懐疑・全面的懐疑の概念や、菊池(2012)、今泉(2003)の議論を参考に、討議によって不思議現象に対する「懐疑」の概念を整理した。菊池(2012)は、疑似科学的な補完代替医療を例に、そのすべてを非科学的だとして未検証なまま切り捨てること自体が二分法的で、疑似科学と通底する態度であると指摘している。つまり、不思議現象に対する懐疑においても、こうした非科学的な態度に基づく懐疑があると想定される。また、今泉(2003)は、大学生を対象に科学知識の量と超常現象信奉との関係を予測させ、科学で説明不能な現象は存在を否定するという「傲慢な科学信奉」(今泉,2003)的態度から超常現象を否定する態度につながることや、逆に、科学知識の多さは好奇心から超常現象を肯定する態度につながること、さらにはメディアを「盲信」することで、科学知識と超常現象の肯定否定とが無関係になることなどを自由記述データにより明らかにしている。概念整理と対応する項目作成の結果、盲目的否定、信奉者の否定、信奉者の責任帰属批判、メディアによる捏造、結果・効用・影響の評価、信奉メカニズムの理解、不思議現象への知的好奇心、批判的思考に基づく批判、不思議現象への科学的容認態度に関する85項目が作成された。この85項目に関して探索的因子分析を繰り返し(川上・坂田(2016)など)、取捨選択した結果、「(主にメディアで取り上げられる不思議現象に対する)懐疑」、「社会的現実を根拠とした否定」、「血液型性格判断に対する批判」、「事件の頻度を根拠とした否定」、「前世帰属に対する否定」に対応する48項目を抽出した。この48項目にAPPle SE/30の30項目を加え、計78項目からなるAPPle IIが作成された。「よくあてはまる」(5点)から「まったくあてはまらない」(1点)の5件法で回答が求められた。質問紙の中には他の尺度が含まれていたが、本研究ではAPPle II 78項目が分析に用いられた。
倫理的配慮回答は任意で中止可能であること、個人は特定されないこと、協力しなくても不利益を被らないことを質問紙の表紙に明記し、口頭でも説明を行った。なお、筆者らの所属機関における倫理審査委員会の承認を受けている(聖心女子大学:承認番号27_5・29_1・29_5・29_6・29_8、大阪樟蔭女子大学:承認番号29-16、30-297)。
結果と考察APPle II 78項目のうち天井効果・床効果が疑われる項目を除いた66項目に関して探索的因子分析(重みづけのない最小二乗法、Promax回転)を行った。固有値の推移(14.50, 6.96, 4.31, 3.44, 2.83, 2.20, 1.95…)や解釈可能性から6因子解を採用し、因子負荷量が|.55|以上であることを基準に分析を繰り返し、25項目を採択した(APPle II: Table 1)。各因子に負荷の高い項目により下位尺度を構成し、その平均値で下位尺度得点を算出した。
項目 | サンプルA (N=589) | サンプルB (N=458) | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
探索的因子分析 | 確認的因子分析 | |||||||||||||
F1 | F2 | F3 | F4 | F5 | F6 | h 2 | F1 | F2 | F3 | F4 | F5 | F6 | ||
心霊写真やUFOの写真は、加工されたものだ | .79 | .06 | .00 | .07 | −.01 | −.03 | .67 | .80 | ||||||
UFOや宇宙人を目撃したという人は、別のものを見間違えたのだと思う | .71 | .03 | .08 | −.05 | −.05 | −.04 | .47 | .68 | ||||||
バラエティ番組で扱われている心霊現象やUFOはすべてやらせだ | .71 | −.02 | .02 | .03 | .00 | −.05 | .46 | .69 | ||||||
心霊写真にはトリックがあると思う | .68 | −.06 | .02 | −.06 | .13 | .02 | .51 | .66 | ||||||
UFOや宇宙人のイメージは、テレビが作ったものだ | .63 | −.03 | .03 | .00 | −.03 | −.01 | .36 | .58 | ||||||
ネッシーやツチノコといったUMA(未確認動物)は、メディアが作り出したものだ | .62 | .03 | −.13 | .16 | .02 | −.07 | .51 | .60 | ||||||
心霊写真は、単なる思い込みにすぎない | .58 | .02 | −.08 | −.12 | −.06 | .14 | .40 | .66 | ||||||
もし本当に霊がいるなら、未解決の事故や殺人がもっと起きているはずだ | −.06 | .86 | −.04 | .07 | −.03 | −.07 | .67 | .73 | ||||||
もし、本当に霊が存在しているなら、社会的に大騒動になっているはずだ | −.04 | .77 | .08 | −.06 | −.02 | .02 | .57 | .77 | ||||||
霊能者の力が本当だったら、不可解な事故や殺人がもっと起きているはずだ | −.01 | .74 | −.08 | .03 | .06 | −.03 | .55 | .69 | ||||||
もし、心霊現象が本当なら、世の中はパニックになっているはずだ | .08 | .73 | .13 | −.07 | −.02 | .08 | .63 | .71 | ||||||
呪いやまじないが本当に効くのだったら、世の中で不審死がもっと起きているはずだ | .11 | .65 | −.06 | .04 | .05 | .03 | .54 | .74 | ||||||
おまじないが効くと考えると安心する | .06 | .02 | .81 | −.12 | .03 | .04 | .61 | .69 | ||||||
占いが当たると考えると安心する | .05 | .02 | .71 | .04 | .02 | .03 | .53 | .75 | ||||||
おまじないを信じている | −.01 | −.09 | .71 | .12 | −.02 | −.05 | .60 | .78 | ||||||
占いは当たると思う | −.16 | .05 | .64 | .04 | −.01 | −.05 | .51 | .79 | ||||||
先祖の霊はあると思う | .00 | −.10 | .01 | .71 | .03 | .03 | .59 | .72 | ||||||
死後の世界はあると思う | .00 | .03 | −.04 | .67 | −.02 | −.02 | .36 | .63 | ||||||
神仏に無礼を働くと、罰が下ると思う | .07 | .11 | .12 | .57 | −.04 | .09 | .40 | .50 | ||||||
心霊写真のトリックを科学的に解明するのはおもしろい | .04 | .04 | −.01 | −.05 | .83 | .00 | .68 | .75 | ||||||
心霊現象を科学的に説明しているテレビ番組はおもしろい | −.08 | −.03 | .02 | .09 | .78 | .01 | .68 | .76 | ||||||
UFOや宇宙人の目撃証言を、科学的に分析するのはおもしろい | .04 | .02 | .02 | −.04 | .74 | −.01 | .55 | .84 | ||||||
おまじないは怖い | .11 | −.15 | .05 | .01 | .03 | .77 | .59 | .71 | ||||||
占いは怖い | −.13 | .11 | −.08 | .03 | .02 | .71 | .55 | .70 | ||||||
超能力は怖い | −.06 | .04 | .02 | .04 | −.06 | .58 | .34 | .54 | ||||||
因子間相関 | F1 | — | .52 | −.26 | −.31 | −.10 | .03 | — | .53 | −.28 | −.30 | .20 | .02 | |
F2 | — | −.08 | −.10 | .08 | .21 | — | −.09 | −.22 | .20 | .10 | ||||
F3 | — | .46 | .20 | .16 | — | .62 | .07 | .18 | ||||||
F4 | — | .11 | .15 | — | .13 | .23 | ||||||||
F5 | — | .14 | — | −.03 | ||||||||||
F6 | — | — |
注)F1:全面的な否定(α=.85, M=3.06, SD=0.77)、F2:現状認識に基づく否定(α=.87, M=2.99, SD=0.92)、F3:占い・呪術嗜好性(α=.81, M=2.97, SD=0.89)、F4:スピリチュアリティ信奉(α=.70, M=3.64, SD=0.87)、F5:知的好奇心(α=.83, M=3.17, SD=1.06)、F6:恐怖(α=.71, M=2.30, SD=0.87)。太字はAPPle IIで新たに追加された項目。
第1因子は不思議現象の証拠について信頼性を疑い、不思議現象の存在を全面的に否定する内容と解釈され、「全面的な否定」と命名された。APPle SE/30の「懐疑」が不思議現象を包括的に否定する内容であったのに対し、APPle IIの「全面的な否定」はメディアで喧伝される対象を多く含んでいる。第2因子は、不思議現象が存在するのであれば生起するはずのことが生起していないという現実を根拠として不思議現象の存在を否定する態度と関連する因子であると解釈され、「現状認識に基づく否定」と命名された。第3因子は、APPle SE/30の「占い・呪術嗜好性」と同様の項目群に高く負荷しており、占いやおまじないを楽しみ、活用する態度を示す因子として、「占い・呪術嗜好性」と命名された。第4因子は、APPle SE/30の「スピリチュアリティ信奉」と同様の項目群に高く負荷しており、神仏や心霊や前世を信奉する因子として、「スピリチュアリティ信奉」と命名された。第5因子は、「知的好奇心」と命名された。APPle SE/30の「娯楽的享受」が単に「おもしろい」という感情的評価のみを測定していたのに対し、この「知的好奇心」は、不思議現象の科学的メカニズムや心理的トリックを解明していくおもしろさを含む態度の因子であると解釈された。第6因子はAPPle SE/30の「恐怖」と同様の項目群に高く負荷しており、「恐怖」と命名された。各下位尺度についてα係数を算出したところ、すべて.70以上の値が得られ、十分な内的整合性が確認された。
「全面的な否定」、「現状認識に基づく否定」といった不思議現象に懐疑的な因子間では互いに効果量大の正の相関が認められた。同様に、不思議現象に対して信奉的な「占い・呪術嗜好性」と「スピリチュアリティ信奉」との間には効果量中の正の相関が認められた。これらの信奉的な因子は、懐疑的な因子である「全面的な否定」との間には効果量小から中の負の相関が認められたが、「現状認識に基づく否定」との間には効果量小以下の負の相関、または、ほぼ無相関関係が示された。「知的好奇心」は内容的には懐疑的な因子であると解釈されたが、信奉的な「占い・呪術嗜好性」「スピリチュアリティ信奉」との間に、効果量小の正の相関が認められ、一方で、懐疑的な因子との関係においては「全面的な否定」との間にのみ効果量小の負の相関が認められ、「現状認識に基づく否定」との間には効果量小以下の正の相関が認められた。また「恐怖」は、「全面的な否定」以外のすべての因子との間に効果量小の正の相関が認められた。これらのことから、「占い・呪術嗜好性」と「スピリチュアリティ信奉」は信奉的な態度、「全面的な否定」と「現状認識に基づく否定」は懐疑的な態度として位置づけられるが、「全面的な否定」が「恐怖」とはほぼ関連しない一方、「現状認識に基づく否定」は「恐怖」と正の関連を示す点において異なることが示唆された。また、「知的好奇心」は、不思議現象を懐疑し科学的に解明しようとする懐疑的態度である一方で、信奉的態度とも親和的であること、「恐怖」は、恐怖の対象として不思議現象の存在を認める信奉的態度であるとともに、「全面的な否定」以外の懐疑的態度とも関連することが示唆された。これらの結果は、Irwin et al.(2016)の知見から予測される因子構造と整合的であった。
次に、APPle IIの再検査信頼性について検討した。同一年の4月と7月に実施したAPPle II各下位尺度の相関係数(r)を算出したところ、「全面的な否定」で.70、「現状認識に基づく否定」で.54、「占い・呪術嗜好性」で.65、「スピリチュアリティ信奉」で.60、「知的好奇心」で.50、「恐怖」で.61の相関係数が得られた。再検査までの期間やAPPle IIが態度尺度であることを考慮すると、十分な再検査信頼性が示されたと解釈された。
大阪樟蔭女子大学、聖心女子大学、立正大学、名城大学に所属する、研究1の調査対象とは異なる大学生458名(男性38名、女性420名;平均年齢:19.2歳、SD=1.1)であった。因子構造の交差妥当性の確認のため、探索的因子分析とは異なるサンプルで確認的因子分析を行うことを意図し、研究1と研究2の調査対象は折半された。
調査時期および方法調査は2015年4月から2019年1月に、担当教員により講義時間内に質問紙調査が実施された。
調査内容使用された質問紙は、研究1と同一であったが、研究1で選定されたAPPle II 25項目が分析に用いられた。
倫理的配慮研究1と同様であった。
結果と考察探索的因子分析で得られた6因子モデルをもとに確認的因子分析を行った。その結果、χ2(260)=564.85, p<.001, CFI=.926, GFI=.909, RMSEA=.051と高い適合度が示された。因子負荷量および因子間相関をTable 1に示した。この結果から、因子構造の交差妥当性が支持されたと考えられる。「知的好奇心」は他因子との相関係数に関して、研究1と値の大きさや正負が異なっていたが、相関係数の小ささを考えると、「知的好奇心」は個人によって、より懐疑的な態度との関連が強い場合やより信奉的な態度との関連が強い場合があることが考えられる。
研究1、2に参加していない、大阪樟蔭女子大学、聖心女子大学、立正大学、名城大学に所属する大学生420名(男性81名、女性335名、不明4名、平均年齢19.3歳、SD=2.3)が調査対象であった。
調査時期および方法調査は2020年7月から10月に、担当教員により講義時間内にwebフォーム形式の質問紙調査として実施された。
調査内容APPle II 25項目、統計的リテラシー尺度(古賀,2020)16項目、批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)33項目が使用された。統計的リテラシー尺度は「数値やデータへの関心」(e.g., 「元々のデータの分布を予想する」)、「懐疑的・複眼的な見方」(e.g., 「出ていない別の隠れたデータがないか疑う」)、「他者との関わり」(e.g., 「内容を判断する際は多くの人の意見を参考にする」)の3下位尺度で構成され、「非常にあてはまる」(5点)から「まったくあてはまらない」(1点)の5件法で回答が求められた。批判的思考態度尺度は、「論理的思考への自覚」(e.g., 「複雑な問題について順序だてて考えることが得意だ」)、「探求心」(e.g., 「いろいろな考え方の人と接して多くのことを学びたい」)、「客観性」(e.g., 「いつも偏りのない判断をしようとする」)、「証拠の重視」(e.g., 「結論をくだす場合には、確たる証拠の有無にこだわる」)の4下位尺度から構成され、「あてはまる」(5点)から「あてはまらない」(1点)の5件法で回答が求められた。
倫理的配慮研究1と同様であった。
結果と考察APPle IIに関しては研究1、2と同様に、批判的思考態度、統計的リテラシーはそれぞれ先行研究に倣い、尺度が構成された。各尺度の基本統計量をTable 2に示した。批判的思考態度尺度に関しては、下位尺度の一つである「証拠の重視」のα係数が.52と低かったため、平山・楠見(2004)において構造方程式モデリングにより批判的思考態度を4因子の合成因子とするモデルの適合性が支持されていることに則り、全33項目の平均得点を批判的思考態度得点とした。なお、全33項目のα係数は十分な値を示した(Table 2)。
N | M | SD | α | ||
---|---|---|---|---|---|
統計的リテラシー | 数値やデータへの関心 | 410 | 3.32 | 0.73 | .83 |
懐疑的・複眼的な見方 | 416 | 3.72 | 0.71 | .63 | |
他者との関わり | 418 | 3.86 | 0.64 | .61 | |
批判的思考態度 | 403 | 3.37 | 0.49 | .89 | |
論理的思考への自覚 | 413 | 2.89 | 0.63 | .86 | |
探求心 | 415 | 3.71 | 0.67 | .84 | |
客観性 | 414 | 3.68 | 0.57 | .70 | |
証拠の重視 | 418 | 3.56 | 0.73 | .52 |
次に、APPle IIの基準関連妥当性の検証のために、各尺度との相関係数を算出した(Table 3)。その結果、統計的リテラシーとの間では、「全面的な否定」、「現状認識に基づく否定」といった懐疑的態度および「知的好奇心」が、「数値やデータへの関心」と「懐疑的・複眼的な見方」と効果量小の正の相関を示した。さらに、「知的好奇心」は、「他者との関わり」とも効果量小の正の相関を示した。一方、信奉的態度である「占い・呪術嗜好性」は「数値やデータへの関心」および「懐疑的・複眼的な見方」と効果量小の負の相関を示したが、「スピリチュアリティ信奉」と「恐怖」は統計的リテラシーとの間に有意な相関が示されなかった。
I | II | III | IV | V | VI | |
---|---|---|---|---|---|---|
統計リテラシー | ||||||
数値やデータへの関心 | .19*** | .16*** | −.10* | .01 | .17*** | .06 |
懐疑的・複眼的な見方 | .20*** | .11* | −.11* | .01 | .14** | .06 |
他者との関わり | .03 | .09 | .02 | .03 | .17*** | −.02 |
批判的思考態度 | .07 | .12* | −.11* | .08 | .24*** | −.10 |
注)I:全面的な否定、II:現状認識に基づく否定、III:占い・呪術嗜好性、IV:スピリチュアリティ信奉、V:知的好奇心、VI:恐怖。
*p<.05, **p<.01, ***p<.001
また、批判的思考態度との間では、懐疑的態度のうち「現状認識に基づく否定」が効果量小の正の相関を示したが、「全面的な否定」は有意な相関が示されなかった。また、「知的好奇心」は、批判的思考態度との間で効果量小から中の正の相関を示した。一方、信奉的態度のうち、「占い・呪術嗜好性」は批判的思考態度との間に効果量小の負の相関を示したが、「スピリチュアリティ信奉」、「恐怖」は有意な相関が示されなかった。
以上の結果は、「全面的な否定」、「現状認識に基づく否定」といった懐疑的態度が、おおむね分析的思考と正の関連を示すことを確認する結果である。一方で、懐疑的態度が一様に分析的思考と正の関連を示すわけでもないことが確認された。また、信奉的態度に関しても、「占い・呪術嗜好性」については、おおむね分析的思考と負の関連を示すことが確認されたが、信奉的態度が一様に分析的思考と負の関連を示すわけでもないことが確認された。これらの関連性については先行研究からの予測と整合的であった。以上より、APPle IIの基準関連妥当性は支持されたと考えられる。
本研究では、不思議現象に対する懐疑的態度の多様な側面を捉え、不思議現象に対する信奉的態度と懐疑的態度を精緻に測定できるよう、APPleを改訂することを目的とした。探索的因子分析(研究1)の結果、「全面的な否定」、「現状認識に基づく否定」、「占い・呪術嗜好性」、「スピリチュアリティ信奉」、「知的好奇心」、「恐怖」の6下位尺度25項目からなるAPPle IIが構成された。このAPPle IIについて、内的整合性、再検査信頼性(研究1)、因子構造の交差妥当性(研究2)、基準関連妥当性(研究3)の観点から信頼性・妥当性について検証した結果、おおむね十分な信頼性・妥当性が確認された。
本研究の結果、APPle IIの下位尺度の中で、不思議現象に対する信奉的態度と位置づけられるのは「占い・呪術嗜好性」、「スピリチュアリティ信奉」、「恐怖」、懐疑的態度と位置づけられるのは「全面的な否定」、「現状認識に基づく否定」、信奉的とも懐疑的とも言えるのは「知的好奇心」であると判断できる。しかし、一様に信奉的態度と懐疑的態度が負の関連を示すわけではない。第一に、「現状認識に基づく否定」については、分析的思考との関連は示しているものの、「恐怖」とも関連していることから、不思議現象に対する恐怖を打ち消すために、反動的に否定している可能性が示唆された。ただし、この可能性を検証するためには、APPle IIの「恐怖」が測定している対象が、不思議現象の存在を認めた上での不思議現象そのものに対する恐怖なのか、占いなどの科学的裏付けのないものが人々を操作することへの恐怖なのかについて解明する必要がある。第二に、「全面的な否定」は、批判的思考態度との関連が認められなかった。これらの結果は、不思議現象に対する信奉的態度と懐疑的態度は必ずしも単純に負の関連を持つものではなく、また必ずしもすべての懐疑者が分析的思考をしていないことを示した先行研究(Irwin et al., 2016; Lindeman et al., 2016)と整合的である。
さらに、本研究の結果から、分析的思考や批判的思考に最も関連の強い態度は、信奉的態度とも懐疑的態度とも言いうる「知的好奇心」である可能性が示唆された。一見すると非科学的にも捉えられる不思議現象に対し、一方的に否定することなく、論理性に基づいて追究しようとする態度こそ、批判的思考を獲得した結果である可能性が見出されたことは興味深い。
不思議現象信奉研究においては、権威主義傾向(中村,1995; 斉藤,1981)、不安傾向(岩永・坂田,1998; 松井,2001; Tobacyk & Pirttilä-Backman, 1992)、Locus of Control(岩永・坂田,1998; McGarry & Newberry, 1981; Tobacyk & Tobacyk, 1992)、認知能力(Alcock & Otis, 1980; Gray & Gallo, 2016; Hergovich & Arendasy, 2005; Royalty, 1995; Wesp & Montgomery, 1998)、思考スタイル(Majima, 2015)といったパーソナリティ変数と信奉度との関連に関して、知見が一致しないことも多かったが、本研究の知見は、先行研究における矛盾や不一致に対して、新たな解釈の可能性を提案することができる。すなわち、信奉か懐疑のどちらかに極化し、自身と異なる態度を全面的に否定する態度は、分析的思考や批判的思考からはむしろ遠く、そうした極化の背景には、精緻な情報処理の回避、人知を超えた存在や事象に対する恐怖などがあると考えられる。情報処理の回避や、恐怖の解消のために、反動的に否定する対応や、占いや呪術によって人生や運命をコントロールしようとする対応に分かれるが、それらの対応の規定因として、権威主義傾向やLocus of Controlといったパーソナリティ変数が介在しているのかもしれない。
本研究の限界と今後の課題は以下の通りである。まず本研究のデータが大学生、そして女性のものに偏っていることである。特に再検査信頼性の検討は大学生女子のみのデータに基づくものであり、本研究の知見を他の年齢層や男性に一般化するには慎重である必要がある。また、本研究の知見のみでは、APPle IIによって測定された懐疑的態度が、Kurtz(1988)が指摘する、科学的・選択的な懐疑と独断的・全面的な懐疑を十分に弁別し得ているか証明できないことである。この点については、今後さらなる検討が求められる。
こうした限界や課題を持ちつつも、本研究において不思議現象に対する態度を精緻に測定できる尺度を開発したことは、予測困難な時代において、不思議現象とどのような態度で向き合うことが、カルト被害などの社会問題を防ぎ、ウェルビーイングを促進するのかを明らかにする上で有意義であると言える。今後は、APPle IIを用いて不思議現象に対する態度の規定因とその変容に関わる要因を探り、不思議現象については安易な信奉も、全面的な否定も、科学的、論理的思考からは外れるものであるという視点から、不思議現象に対する適切な態度を明らかにし、教育・介入に役立てていくことが課題である。
1) 本研究の一部は科学研究費補助金基盤C「不思議現象と心理学教育(課題番号15K04038 研究代表者 小城英子)」の助成を受けた。
2) 調査の実施にあたり、畑中美穂先生(名城大学)、髙橋尚也先生(立正大学)にご協力いただきました。また、論文審査においては、主査を始め、審査者の先生方に大変有益なコメントをいただきました。記して感謝いたします。
なお、本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はない。