社会心理学研究
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自己制御ニーズに基づくソーシャルサポートの有効性についての検討
竹橋 洋毅
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ジャーナル フリー HTML 早期公開

論文ID: 2209

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抄録

This study investigated whether enacted social support was effective in a Japanese population based on the regulatory effectiveness of support (RES). RES is the extent to which social support can satisfy two needs (truth and control) concerning the recipient’s self-regulation. In this study, participants were asked to recall support they received from a long-term partner (Study 1) or a non-family member or non-partner (Study 2) for a difficulty they faced. Furthermore, they indicated RES, perceived responsiveness (PR) of the supporter, motivation, and mood for self-regulation. Data from 239 adults in Study 1 and 221 undergraduates in Study 2 were analyzed. Confirmatory factor analyses indicated that RES consisted of the abovementioned factors (truth and control) and was a different construct from PR. Furthermore, regression analyses found that RES was associated with motivation for self-regulation and high arousal-positive mood compared to PR. These results suggest the importance of RES in Japan. Finally, the implications and limitations of this study are discussed.

問題

健康的な生活を送るために、ソーシャルサポートは重要である。ソーシャルサポートとはある個人を取り巻くさまざまな人々からの有形、無形の援助である(嶋,1992)。「必要が生じた際に、自分は他者から支援を受けることができる」という認識(支援の知覚)は、一貫して健康上の利益と関連することが示されている(Uchino, 2009)。一方で、ある状況において実際に受けたソーシャルサポート(提供された支援)については必ずしも効果的であるとは限らず、そのようなサポートが幸福感に及ぼす効果はあまり明らかにされていない(Uchino, 2009)。支援者がよかれと思って行った手助けが被支援者にとって重荷になったり、自信喪失につながったりすることは日常でも見かけられる。「提供されたサポートの効果性と関連する要因とは何なのか?」という問いは、心理学の基礎研究と応用において重要だといえる。

この問いについて、近年、ソーシャルサポートの効果を自己制御(self-regulation)の観点からとらえなおすことで、有効なサポート提供のあり方を再考しようとするアプローチが登場している(例えば、Zee et al., 2020)。このアプローチでは、被支援者自身が直面する問題を解決しようとする姿を自己制御としてとらえ、自己制御過程において特に重要になるニーズを、サポート提供によってどれほど充足できるかが受け手の動機づけやウェルビーイングと関連すると想定する。本研究ではこの立場に基づいて、提供されたサポートの問題についての検討を試みる。

効果的なソーシャルサポート提供についての先行研究

ソーシャルサポートの先行研究では、被支援者のニーズに対応することの重要性が注目されてきた。その1つがサポートマッチング理論であり、被支援者のニーズに合致した特定の種類や量のサポートをするほど、被支援者に利益をもたらすと想定されている(Rini & Dunkel-Schetter, 2010)。例えば、情報的サポートが求められている場合には情報的サポートを行い、情緒的サポートが求められている場合には情緒的サポートを行うことが効果的であると想定されている(Cutrona et al., 2007)。Rini & Dunkel-Schetter(2010)によれば、ソーシャルサポートの有効性についての問題は、サポートが被支援者のニーズにどれほどうまく対応できたかによって説明することができる。

被支援者のニーズに対応することの重要性は、応答性知覚(Perceived responsiveness; 以下、PR)の研究からも示唆される。PRとは「相手が自分を思いやり、支援的に反応してくれる」という被支援者の知覚である(Reis et al., 2004)。Zee et al.(2020)によれば、2009から10年間のJournal of Personality & Social PsychologyのInterpersonal Relations and Group Processesセクションに掲載されたソーシャルサポートに関する18本の論文のうち13本(72%)がPRの概念に言及し、6本(33%)がPRの尺度を用いていた。これは、近年のソーシャルサポート研究におけるPRの重要性を示唆する(Zee et al., 2020)。PRは、受け手にとっての社会的評価の懸念を低減させるため、提供されたサポートについての被支援者の負担を軽減することが示されている(Maisel & Gable, 2009)。サポートに伴う被支援者のコスト知覚は援助要請の低さと関連する要因(永井・新井,2007)であることから、PRは提供されたサポートの有効性を考える上で重要であるといえる。

しかしながら、これらの理論に基づいたサポートにはいくつかの問題が存在することが指摘されている。まず、サポートマッチングの効果が一貫していないことである(詳しい議論はZee et al., 2020を参照)。例えば、Cutrona et al.(2007)の研究では、受け手のニーズに対応したサポート(情報の要求に応じて情報的なサポートを提供)と不対応のサポート(情報の要求に応じて情緒的なサポートを提供)は、どちらも有効であった。日本の論文でも、提供されたサポートと対処要求(必要とするサポート)の種類の一致性は、心身の自覚症状やハッピネスがより良好になるという相乗効果を必ずしももたらさないことが示唆されている(周,1994)。また、PRについては支援者との「人間関係」の良好さを説明するという知見が蓄積しているが(Reis & Gable, 2015)、提供されたサポートの効果そのものを説明対象とする概念ではないため、それを説明することを目的とする場合にはより適した概念が存在する可能性があるという指摘(Zee et al., 2020)がなされている。以上より、提供されたサポートの効果をとらえる上では、サポートマッチングやPRでは十分とは言い難い。

それでは、サポートの効果を高める上で重要となる要因とは何だろうか。従来のソーシャルサポート理論では強調されてこなかったが、近年では被支援者の「自己制御のニーズ」に対応することの重要性が注目され始めている(Zee et al., 2020)。被支援者は動機や目標をもって問題解決に臨むという自己制御を行う主体であるので、被支援者が自ら問題解決に取り組む上で生じるニーズに対応することがサポートの効果を高めるのではないかという視点である。例えば、従来の研究ではあからさまな直接的な支援(目に見える支援)があからさまでない間接的な支援(目に見えない支援)よりも被支援者の自己効力感を損なうため、効果的ではないことが示されているが(例えば、Bolger & Amarel, 2007; 小川,2018)、これは自己制御志向性により調整されることが明らかにされている(Zee et al., 2018)。すなわち、自己制御の査定モード(立ち止まって自分や状況をよく振り返る)が優勢である人々では目に見えないサポートが効果的だったのに対し、移動モード(可能な限り迅速に問題解決できるよう行動を起こす)が優勢である人々では目に見えるサポートが効果的であった。査定モードが優勢である人は評価懸念が高いため、それを喚起しにくい目に見えないサポートが効果的であったのに対し、移動モードが優勢である人は迅速な問題解決を優先するため、どうすればよいのかがはっきりわかる目に見えるサポートが効果的であったと考えられる。また、査定モードの優勢な支援者ほど被支援者の自己制御モードに合わせた支援を提供し、そのテーラーメイドの支援が被支援者のネガティブ気分の改善と関連することも報告されている(Cavallo et al., 2016)。これらの知見は、ソーシャルサポートを個人の自己制御に関わる過程の一部としてとらえ、自己制御ニーズに応える視点の重要性を示唆する。

この流れを受け、Zee et al.(2020)はソーシャルサポートにおける自己制御のニーズそのものに焦点を当て、測定することを試みている。その際、彼女らはHiggins(2012, 2018)の自己制御効果性理論に着目した。Higgins(2012)は、動機づけ研究の知見を俯瞰し、人々が効果的に人生を追求することを望んでおり、そのためには望ましい結果を得ること(価値;value)、状況をコントロールすること(統制;control)、状況を正しく理解すること(真実;truth)の3つの心理欲求を持つと論じた。価値は自己制御の結果に主眼を置いているのに対し、統制と真実は自己制御のプロセスに焦点を当てているため、始発された自己制御の問題を考える上では統制と真実が主に重要になる(Higgins, 2018)。統制は期待(Eccles & Wigfield, 2002)や有能性(Ryan & Deci, 2000)といった動機づけ研究における既知の概念に対応するが、真実はこれまで焦点が当てられてこなかった概念だといえる。Higgins(2018)は、特に複雑で困難な課題をうまく実行するためにはこの両方が必要であるとした。これを踏まえ、Zee et al.(2020)は「提供されたサポートが自己制御ニーズ(真実と統制のニーズ)をどれほど満たしてくれたと思うか」というサポートへの評価である、サポートの制御効果性(Regulatory Effectiveness of Support; RES)という概念を新たに提案した。真実に関する効果的なサポートとは、被支援者が直面している問題状況への理解を高めることである。これは問題への適切な対処を実行するために重要である。統制に関する効果的なサポートとは、被支援者が状況を自分でコントロールできていると感じられるようにすることである。これは、被支援者が「サポートされているのは自分が自分をコントロールできていないからだ」と感じ、自己効力感が低下するというサポートの負の効果を生じさせない上でも重要である。彼女らは、サポートへの評価であるRESと自己の状態(自己制御への動機づけ、気分)の関係について、RESが高いほどサポートの受け手の自己制御への動機づけや気分が良好だろうという正の相関を予測した。

Zee et al.(2020)は、パートナーからのサポートを主な対象として、RESの構成概念妥当性と予測的妥当性をPRと比較する形で検証した。PRが比較対象とされたのは、従来のソーシャルサポート研究において重要な変数とされてきたためであった。Zee et al.(2020)は7つの研究を行い、研究1, 2ではRESの自己報告尺度を作り、その構成概念がPRとは異なることを確認的因子分析により示した。研究3–5では日常生活で受けたサポートについての自己報告のデータ、研究6, 7では実験室での2者間のやりとりについての観察と自己報告のデータから、RESの予測的妥当性を検証した。最後に、全研究におけるRESとPRの効果量についてメタ分析を行った。その主な結果として、RESが高いほどサポートの受け手の自己制御への動機づけや自己制御中のポジティブ気分が高く、ネガティブ気分が低いという相関がみられ、その相関はPRよりも大きいことが示された。

RESという概念は、サポートの効果を高める上で受け手の主観が鍵であり、その重要なニュアンスを指し示すという点において、理論的および実用的な価値を有する。サポートの提供は必ずしもウェルビーイングを高めるわけではないが(例えば、Bolger & Amarel, 2007)、それは受け手の内的な状態(目標や欲求など)によって提供されたサポートの解釈が異なり、動機づけやウェルビーイングの向上効果が異なるためであると考えられる(Zee et al., 2018)。このような解釈の重要性を強調する視点は、動機づけやストレスの理論と軌を一にする。動機づけの理論(例えば、Eccles & Wigfield, 2002; Ryan & Deci, 2000)では、本人の解釈(価値、効力感など)を動機づけやウェルビーイングの重要な規定因として位置づけている。特に自己決定理論(Ryan & Deci, 2000)では、実証研究を進めるなかで、解釈において重要な側面を基本欲求(関係性、有能性、自律性)として倹約的に説明し、その知見を足掛かりとして欲求の充足や阻害を導く具体的な支援方法を明らかにしている。Lazarus & Folkman(1984)はストレッサーの脅威性と対処可能性という認知的評価こそがストレス反応の規定因であるとしている。これらの知見は、人々の動機づけやウェルビーイングを考える上で、主観に着目し、重要なニュアンスを蓄積することが的確なサポートにつながることを示す。これを踏まえると、サポート提供についてより深く理解し、実際によい支援を行う上で、RESは有益な視点をもたらしうる。特に真実欲求は、動機づけやウェルビーイングに関する代表的理論である自己決定理論で着目されてこなかったため、独自性がある。自己制御において正しい方向に進めているという真実の感覚は重要なシグナルになること(Higgins, 2012, 2018)から、自立支援のためのソーシャルサポートには真実欲求の充足という観点が重要になると考えられる。

しかしながら、RES研究には2つの重要な検討課題が残されている。1つ目は、一般化可能性が十分に検討されていないことである。RESに関する論文はZee et al.(2020)の1報しか刊行されておらず、検証が米国でしか行われていない。わが国では自己制御における真実欲求の重要性を示した研究も、ソーシャルサポートにおける真実欲求の充足の重要性を示した研究も、管見の限り存在しない。動機づけ研究では文化普遍的な心理欲求が仮定され、それを支持する知見もみられていること(例えば、Ryan & Deci, 2000)から、社会的エージェントとしての人の心理欲求を描き出そうとするRESの重要性も文化普遍的である可能性がある。一方で、文化心理学の観点(Markus & Kitayama, 1991)からすると、北米文化圏で得られた知見が東洋文化圏でも再現されるとは必ずしもいえず、知見の再現可能性や一般化可能性の検証は重要な検討課題として指摘することができる。また、長期的パートナー以外からの支援についてRESの効果がほとんど検討されていない点でも、一般化可能性は明らかではない。サポートは友人、教師、上司、心理師などのさまざまな人々から提供されうることを考慮すると、この点は重要な課題といえる。したがって、北米とは異なる文化圏の人々を対象に、長期的パートナー以外の人間関係からの支援において、RESの因子構造およびRESと自己制御への動機づけや気分の関係を検討することは重要な課題であるといえよう。2つ目は、感情の測定が一部の側面しか行われていないことである。Zee et al.(2020)では、ネガティブ気分とポジティブ気分が測定されたが、ポジティブ気分の測定は「活気のある」などの高覚醒なものに限られていた。しかしながら、支援の結果として生じるポジティブ気分には安心などの低覚醒なものもあると考えられる。気分の次元についての研究では、高覚醒ポジティブ感情と低覚醒ポジティブ感情の質的な違いが示されており(例えば、寺崎他,1992; Watson & Tellegen, 1985)、例えば、前者は理想や利益への接近成功、後者は義務履行や損失抑止の成功と関連するという指摘(Higgins, 1998)が存在する。Zee et al.(2020)はサポートを自己制御の観点からとらえなおしたために自己制御を推し進めるエネルギーとなる高覚醒ポジティブ気分に着目したと考えられるが、サポートの結果としては被支援者が心穏やかに日々を過ごせるという心の安寧も重要であろう。このため、RESの有用性を評価する上では安心などの低覚醒ポジティブ気分について検討することがきわめて重要であると考えられる。これに関連し、北米文化圏では高覚醒ポジティブ気分の追求が幸福感につながるために重視されるのに対し、東洋文化圏では低覚醒ポジティブ気分の追求が幸福感につながるために重視されるという文化心理学の知見(Uchida et al., 2008)も提出されている。Zee et al.(2020)が検証していない、RESと低覚醒ポジティブ感情の関係について検討することは東洋文化圏の人々へのサポートを考える上で重要であるといえよう。これらの2つの課題はRESの効果と前提条件を明らかにする上で重要であると考えられる。

本研究の目的

本研究はソーシャルサポートにおけるRESの有用性や一般化可能性を調べるファーストステップとして、RESと受け手の自己状態(自己制御への動機づけ、気分)の相関について調査により検討することを目的とした。具体的には、日本人を調査対象として、パートナーからの支援(研究1)とその他の関係からの支援(研究2)も扱った。本研究ではRES、自己制御への動機づけ、サポート後の気分(高覚醒ポジティブ、低覚醒ポジティブ、ネガティブ)を測定し、RESが動機づけや気分とどのように相関するのかについて検討した。なお、ソーシャルサポート研究では従属変数として長期的状態を測定するもの(例えば、人生満足感、精神健康)が多く存在するが、本研究では「あるサポート」と「その後の自己状態」との関係について検討することが目的であったため、その時々で変動しうる気分や動機づけを測定対象とすることが目的に適うと考えられる。本研究ではZee et al.(2020)と同様に、RESの比較対象としてPRを用いた。

本研究の作業仮説としては、以下を設定した。確証的因子分析において、RESは真実因子と統制因子の2つの下位因子を持つ1つの概念だとする2因子モデルは下位因子を設定しない1因子モデルよりも適合度が良好だろう(仮説1)。「RESとPRは相関するが、異なる概念であるとするモデル」が「RESとPRの相関を1とする同一概念モデル」や「RESとPRの相関を0とする無関連概念モデル」よりも適合度が良好であろう(仮説2)。自己制御への動機づけ、サポート後の気分のそれぞれを従属変数、RESとPRを独立変数とする強制投入法による重回帰分析において、RESが高いほど、動機づけや高覚醒ポジティブ気分が高く、ネガティブ気分が低いという相関がみられるだろう(仮説3)。なお、低覚醒ポジティブ気分については仮説を設定せず、RESとの関係を探索的に検討することとした。

本研究の概要は以下の通りであった。研究1では、Zee et al.(2020)の知見が日本においても再現されるかを確かめるため、社会人を調査対象としてパートナー関係におけるRESの有効性を検討した。研究2では、RESの一般化可能性を拡大するために、大学生を対象として、幅広い関係性の人々からのサポートにおけるRESの有効性を検討した。

研究1

方法

調査対象者

本調査に先立ち、スクリーニング調査をインターネット調査会社に委託して行った。サンプル数は5,000で、対象者は20–49歳であった。スクリーニング調査では、性別、年齢、半年以上の関係があるパートナーの有無、現在のパートナーと何年の関係か(年数を整数で回答を求めた)、現在のパートナーと結婚しているか否か、現在のパートナーと同棲しているか否か、自分自身の重要な問題に関して現在のパートナーに助けられた経験の有無をたずねた。スクリーニング調査の結果、半年以上関係のあるパートナーがいて、自分自身にとって重要な問題に関してパートナーに助けられた経験があると回答した男女が抽出された。この調査手続きのため、抽出された人々は自分が「助けられた」と認識していたといえる。それらの人々に対して本調査を実施し、400名から回答を得た。調査対象者が質問をきちんと読まずに質問に回答する人が含まれる可能性を考慮し、質問項目の途中に「1を選んでください」という項目を設けた。その項目に1以外を回答した107名(26.75%)、さらに「自分の年齢」と「交際年数」に同一の数値を回答した3名を除く290名(男性139名、女性151名。年齢はM=36.34, SD=8.35)を分析対象とした。なお、交際年数の平均は9.66、SDは7.73であった。

調査内容

Zee et al.(2020)と同様に、「あなたにとって重要な問題に関して、パートナーがあなたを助けようとした最近の経験を思い出してください」という教示文の後に、調査対象者は自身の「重要な問題の内容」と「その問題に対してパートナーがどのように助けたか」について自由回答形式で回答した後、次の4つの指標に回答した。

RESの測定には、Zee et al.(2020)により作成された尺度を日本語に訳したものを使用した。原著者から日本語版作成の許諾を得た上で、著者が項目と教示文の日本語訳を行い、英語に精通した文化心理学者に依頼しバックトランスレーションを行い、意味の同一性を確認した。訳出においては、原著者にニュアンスの確認を行った。本尺度は、2因子(真実因子、統制因子)を3項目ずつ、合計6項目であった。真実因子は「パートナーとのやり取りは、状況に対するあなたの理解にどれくらい影響を与えたと思いますか」という教示後に項目を提示した。統制因子は「パートナーとのやり取りは、状況をコントロールできているというあなたの感覚にどれくらい影響を与えたと思いますか」という教示後に項目を提示した。評定は、7件法であった(1. まったくあてはまらない–7. 非常にあてはまる)。項目等はAppendixに示す。

PRの測定には、Zee et al.(2020)と同様に、Reis et al.(2018)により作成された尺度を日本語訳したものを使用した。著者が項目と教示文を訳出し、英語に精通した文化心理学者に依頼しバックトランスレーションを行い、意味の同一性を確認した。本尺度では、「パートナーの普段の様子についてお聞きします」という教示の後に、質問項目への回答を求めた。本尺度は12項目からなる一次元の尺度であり、項目の例は「パートナーは、私の話に本当によく耳を傾ける」などであった。評定はRESと同じ7件法で、信頼性係数αは.97だった。

サポート後の気分の測定については、「その助けを受けた後、あなたはどのように感じましたか?以下の項目を読んで最もあてはまると感じる数値を選んでください」という教示文の後に、寺崎他(1992)の多面的感情状態尺度の「活動的快」、「抑うつ・不安」、「非活動的快」の3因子から、寺崎他(1992)によって示された因子負荷量の高さに基づき5つずつ採用した項目を提示し、評定を求めた。高覚醒ポジティブ感情である活動的快は、「活気のある」、「元気いっぱいの」、「気力に満ちた」、「はつらつとした」、「陽気な」により測定した。ネガティブ感情である抑うつ・不安は、「気がかりな」、「不安な」、「悩んでいる」、「自信がない」、「くよくよした」により測定した。低覚醒ポジティブ感情である非活動的快は、「のんびりした」、「ゆっくりした」、「のどかな」、「やわらいだ」、「平静な」により測定した。評定は7件法だった(1. まったく感じなかった–7. 非常に感じた)。信頼性係数αは、活動的快で.97、抑うつ・不安で.91、非活動的快で.87だった。

自己制御への動機づけの測定については、Zee et al.(2020)と同様に、「助けを受けた後の、あなたの問題解決への取り組みについてお聞きします」という教示文の後、「その問題の解決に向けて行動しようと思った」という1項目を提示し、7件法により評定を求めた(1. まったくそう思わなかった–7. 非常にそう思った)。

倫理的配慮

本研究は著者の所属機関の倫理委員会の承認を得た上で実施された。

結果

分析方法

研究1, 2ともに、清水(2016)のHAD 17.202ソルバーオン版を用いた。

RESの確証的因子分析

Zee et al.(2020)と同様の手続きで、RESの構成概念妥当性を検証するため、最尤推定で構造方程式モデリング(SEM)を行った。RESが2因子(真実因子と統制因子)であると仮定した場合のモデルの適合度は、χ2(8)=49.88(p<.001), CFI=.98, RMSEA=.13, SRMR=.02, GFI=.95, AGFI=.86, AIC=75.88であった。RESが1因子であると仮定したモデルの適合度は、χ2(9)=176.34(p<.001), CFI=.90, RMSEA=.25, SRMR=.06, GFI=.82, AGFI=.57, AIC=200.34であった。以上より、2因子モデルの適合度がより高いことが示された。つまり、先行研究と同様にRESが真実因子と統制因子の2因子で構成されることが示された。ただし、2因子モデルにおいてもRMSEAが.10を超えており、適合度が十分に良好であるとはいえなかった。2因子の因子間相関は.86と高かったことから、Zee et al.(2020)は6項目の平均をRES得点として分析に用いた。これに倣い、本研究においてもRESの6項目の信頼性係数αを求めた結果、.94であった。本研究では6項目を平均することで、RES得点とした。なお、下位尺度の信頼性係数αは、真実で.90、統制で.94であった。

RESとPRの弁別的妥当性を確認する確証的因子分析

RESとPRが相関するが、異なる概念であるかを検証するため、Zee et al.(2020)を参考に、Figure 1に示すモデルにおいてRESとPRの相関を「1と制約しない場合(関連するが異なる概念)」、「1と制約する場合(同一の概念)」、「0と制約する場合(無関連の概念)」について、最尤推定で構造方程式モデリングを行った。RESとPRが相関するが異なる概念(相関を1と制約しない)と仮定した場合のモデル適合度は、χ2(12)=53.51(p<.001), CFI=.98, RMSEA=.11, SRMR=.02, GFI=.95, AGFI=.89, AIC=85.51だった。RESとPRの相関を1と制約した場合のモデル適合度は、χ2(13)=232.49(p<.001), CFI=.88, RMSEA=.24, SRMR=.22, GFI=.85, AGFI=.68, AIC=262.49だった。RESとPRの相関を0と制約した場合のモデル適合度は、χ2(13)=192.36(p<.001), CFI=.90, RMSEA=.22, SRMR=.25, GFI=.86, AGFI=.71, AIC=222.36だった。以上から、RESとPRを「相関するが異なる概念」とするモデルが他のモデルよりも適合していた。ただし、1と制約しないモデルにおいてもRMSEAが.10を超えており、適合度が十分に良好であるとはいえなかった。また、RES得点とPR得点の相関は.65で、中程度であった。

Figure 1 RESとPRについてのSEM

記述統計量

記述統計量と相関係数をTable 1に示す。

Table 1 記述統計量と相関係数

研究1MSDr
1234567
1. RES5.571.18
2. 真実5.621.21.94**
3. 統制5.511.29.95**.79**
4. PR5.471.17.61**.56**.60**
5. 活動的快4.791.39.55**.47**.56**.52**
6. 抑うつ・不安2.921.23−.16**−.14*−.16**−.26**−.23**
7. 非活動的快4.381.25.34**.28**.36**.32**.50**−.11
8. 自己制御への動機づけ5.721.06.56**.50**.56**.44**.46**−.26**.25**
研究21234567
1. RES5.400.92
2. 真実5.600.94.89**
3. 統制5.201.10.92**.63**
4. PR5.410.96.32**.27**.31**
5. 活動的快4.251.28.42**.31**.44**.17*
6. 抑うつ・不安3.351.15−.24**−.18**−.24**−.21**−.28**
7. 非活動的快3.941.27.19**.12.22**.25**.35**−.16*
8. 自己制御への動機づけ5.791.12.48**.50**.38**.13.33**−.15*.05

**p<.01, *p<.05

重回帰分析

RESとPRが自己制御への動機づけや気分とどのように関連するかを検討するために、Zee et al.(2020)に基づき、活動的快、抑うつ・不安、非活動的快、自己制御への動機づけのそれぞれを従属変数、RESとPRを独立変数とする強制投入法による重回帰分析を行った。VIFは1.61で、多重共線性は生じていなかった。重回帰分析の標準化偏回帰係数に関する結果をTable 2に示す。本研究では変数間の相関の大きさを記述する際、Cohen(1988)の基準を参照し、0.1の相関は「小」、0.3の相関は「中」、0.5の相関は「大」と記述する。活動的快ではRES(β=.36, p<.001)の効果、PR(β=.30, p<.001)の効果が有意で、これらが高いほど活動的快が高いという中程度の相関がみられた。抑うつ・不安ではPRの効果が有意で(β=−.27, p<.001)、PRが高いほど抑うつ・不安が低いという小さな相関がみられたが、RESの効果はみられなかった(β=.00, n.s.)。非活動的快ではRESの効果(β=.22, p<.001)とPRの効果が有意で(β=.19, p=.008)、これらが高いほど非活動的快が高いという小さな相関がみられた。自己制御への動機づけではRESの効果(β=.47, p<.001)とPRの効果が有意で(β=.15, p=.02)、これらが高いほど自己制御への動機づけが高いという相関がみられた。RESとの相関は大に近く、PRとの相関は小さかったと記述でき、また、βの95%信頼区間に重複がみられなかったことから、自己制御への動機づけとの相関はRESのほうがPRよりも大きかったといえる。

Table 2 自己制御の気分と動機づけを従属変数とする重回帰分析

研究1RESPRadjust R2
β95% CIβ95% CI
活動的快.36**(.24 .48).30**(.18 .42).35**
抑うつ・不安.00(−.14 .15)−.27**(−.41 −.12).06**
非活動的快.22**(.09 .36).19**(.05 .32).13**
自己制御への動機づけ.47**(.35 .59).15*(.03 .27).32**
研究2β95% CIβ95% CIadjust R2
活動的快.41**(.28 .54).04(−.09 .17).17**
抑うつ・不安−.19**(−.33 −.05)−.14*(−.28 −.01).07**
非活動的快.13(−.01 .26).21**(.07 .34).07**
自己制御への動機づけ.49**(.37 .61)−.03(−.15 .10).22**

βは標準化偏回帰係数を示す。**p<.01, *p<.05

考察

RESの確証的因子分析の結果、RESが2因子で構成されると仮定したモデルはRESが1因子モデルよりも適合度が高かった。この結果は仮説1と一致し、RESが真実因子と統制因子の2因子を持つ構成概念であることが示された。さらに、RESとPRの弁別的妥当性を確認するための確証的因子分析の結果、RESとPRが相関する異なる構成概念であると仮定したモデルは、RESとPRの相関が1と制約したモデルや0と制約したモデルよりも、適合度が高いことが示された。RES得点とPR得点について相関分析を行った結果、中程度の相関を示した。すなわち、RESとPRには相関があるが、その値は同一の概念といえるほどには高くなかった。したがって、RESとPRは相関するが、異なる構成概念として扱うほうが妥当であると考えられる。これらはZee et al.(2020)の結果と本研究の仮説2を支持するといえる。

重回帰分析の結果、RESが高いほど自己制御への動機づけが高いという相関がみられ、その効果量は大に近かった。この結果は仮説3を支持する。PRも自己制御への動機づけと相関したが、効果量は小さいものであった。Zee et al.(2020)の主張する通り、被支援者の自己制御への動機づけを高める上では、PRではなく、RESが効果的であるという可能性が示唆される。活動的快ではRES, PRともに中程度の相関も示されたが、この結果も仮説3と一致する。抑うつ・不安についてはPRとの相関のみがみられた。この結果は、仮説3と一致せず、Zee et al.(2020)とは異なっていた。この理由2)としては、文化的自己観の違いに起因する可能性がある。西洋文化圏では相互独立的自己観が優勢であり、理想追求という促進焦点的な関心が重視されるのに対して、東洋文化圏では相互協調的自己観が優勢であり、義務履行という防止焦点的な関心が重視される(Lee et al., 2000)。東洋文化圏ではパートナーという重要他者からの受容的な対応(PR)が防止目標の達成を意味し、抑うつ・不安の低さと関連した可能性がある。一方で、RESは自己制御の状況理解やコントロールの感覚に関するものであり、いまの自分が他者から受容されているかとは直接的に関連せず、防止目標の達成を意味しないために、抑うつ・不安とは関連しなかったのかもしれない。

本研究では新たに、低覚醒ポジティブ気分である非活動的快を測定した。重回帰分析の結果、RESは非活動的快と正に相関したが、その効果量は小さかった。非活動的快は安心などを含むが、これらの感情はネガティブな結果の不在を意味し(Higgins, 1998)、自己制御の停止のシグナルであると考えられている(例えば、Carver, 2004)。RESは活動的な心的状態(活動的快、自己制御への動機づけ)とはよく関連するが、鎮静的な心的状態(非活動的快)とはそれほど関連しないのかもしれない。また、非活動的快についてはPRの効果もみられており、RESが非活動的快と特に関連する要因であるとはいえない結果だった。したがって、被支援者の心の安寧をもたらす上では、RESだけでなく、PRも重要かもしれない。ただし、いずれも効果量が小さかったことには留意すべきであろう。被支援者の心の安寧をもたらす上では、他により重要な要因が存在するのかもしれない。この知見は本研究で初めて見出されたものであることから、異なるサンプルを対象とした調査を行い、知見の再現性について確かめる必要がある。

まとめると、研究1では本研究の仮説はRESの概念構造、自己制御への動機づけと活動的快との相関という点では支持された。日本でも長期的なパートナー関係においては、RESの高いサポートがPRの高いサポートと同程度以上に動機づけやポジティブ気分の高さと関連すると考えられる。

研究2

方法

調査対象者

関西圏の国立女子大学の学生を対象とした。回答者の属性(年齢、性別)をたずねた後、「あなたにとって重要な問題に関して、周りの人(例:友人、恋人、先輩、先生)があなたを助けようとした経験を思い出してください」と教示した。そして、その問題の内容と、回答者と助けようとした人との関係をたずねた。想起する人は1人だけと注釈した。「家族」は想起しないように教示したが、その理由としては血縁者や配偶者へのサポートは適応上の重要な課題の1つであり(Kenrick, 2011)、サポートし合うことへのとらえ方やその影響が家族とそれ以外の間で異なり、RESやPRの効果を観測しにくくさせる交絡要因になる可能性が懸念されたためであった。著者は、友人、先輩、教師、上司といった家族でない人々の間のサポートについても関心があったため、研究2ではそれらの人々からのサポートに焦点を当てた。本調査では293名から回答を得たが、そのうち41名は想起対象の基準を満たさなかった(すなわち、家族を想起対象に挙げた)。また、研究2ではパートナー以外の幅広い関係性においてRESの効果がみられるかという知見の一般化に関心があったため、「恋人」を想起した31名についても分析から除外することにした。このため、221名(年齢の18–24歳、M=19.95, SD=1.35。すべて女性)を分析対象とした。因子分析には最低200名のサンプルサイズが必要とされるという主張(Pendergast et al., 2017)があるが、本調査はこの主張の基準を満たしている。なお、想起された他者は、友人が118名(53.39%)、先生が77名(34.84%)、先輩が17名(7.69%)、カウンセラーが4名(1.81%)、上司が3名(1.36%)、知人が2名(0.90%)であった。

調査内容

インフォームド・コンセント後、調査対象者の重要な問題に関し、周りの人が助けようとした経験を想起するように求めた。調査参加者は「その問題の内容」と「助けてくれようとした人との関係」について回答した。その後、研究1と同様の指標に回答した。信頼性係数αは、PRで.92、活動的快で.92、抑うつ・不安で.84、非活動的快で.85だった尺度得点は、研究1と同様の方法で算出された。

結果

RESの確証的因子分析

研究1と同様に、最尤推定の構造方程式モデリングを行った。RESが2因子であると仮定した場合の適合度はχ2(8)=26.68(p<.001), CFI=.95, RMSEA=.10, SRMR=.04, GFI=.96, AGFI=.90, AIC=52.68であった。RESが1因子であると仮定したモデルの適合度は、χ2(9)=31.61(p<.001), CFI=.94, RMSEA=.11, SRMR=.05, GFI=.96, AGFI=.90, AIC=75.88だった。したがって、複数の指標において2因子モデルの適合度が1因子モデルより高いことが示された。2因子の因子間相関は.89と高く、Zee et al.(2020)は6項目の平均をRES得点として尺度化を行っていた。これを踏まえて、RESの6項目のα係数を求めたところ、.80であった。本研究では6項目を平均することで、RESの得点とした。なお、下位尺度の信頼性係数αは、真実で.70、統制で.70であった。

RESとPRの弁別的妥当性を確認する確証的因子分析

RESとPRが異なる構成概念であるかを検証するため、最尤推定の構造方程式モデリングを行った。RESとPRが相関する異なる構成概念であると仮定した場合の適合度は、χ2(12)=30.13(p=.003), CFI=.95, RMSEA=.08, SRMR=.04, GFI=.96, AGFI=.91, AIC=62.13であった。RESとPRの相関が1だと制約したモデルの適合度は、χ2(13)=129.16(p<.001), CFI=.70, RMSEA=.20, SRMR=.20, GFI=.88, AGFI=.74, AIC=159.16であった。RESとPRの相関が0だと制約したモデルの適合度は、χ2(13)=54.35(p<.001), CFI=.89, RMSEA=.12, SRMR=.11, GFI=.94, AGFI=.86, AIC=84.35であった。以上より、RESとPRが相関するが異なる構成概念だとするモデルが他のモデルよりも適合することが示された。RES得点とPR得点の相関係数は.36だった。

記述統計量

記述統計量と相関係数をTable 1に示す。

重回帰分析

活動的快、抑うつ・不安、非活動的快、自己制御への動機づけのそれぞれを従属変数、RESとPRを独立変数とする強制投入法による重回帰分析を行った。VIFは1.12で、多重共線性は生じていなかった。結果をTable 2に示す。活動的快ではRESの効果(β=.41, p<.001)が有意で、RESが高いほど活動的快が高いという中程度の相関がみられたが、PRの効果(β=.04, n.s.)は有意ではなかった。抑うつ・不安ではRESの効果(β=−.19, p=.006)とPRの効果(β=−.14, p=.04)が有意で、これらが高いほど抑うつ・不安が低いという小さな相関がみられた。非活動的快ではPRの効果(β=.21, p=.003)が有意で、PRが高いほど非活動的快が高いという小さな相関がみられたが、RESの効果(β=.13, p=.07)は有意傾向で、効果量も小さかった。自己制御への動機づけではRESの効果(β=.49, p<.001)が有意で、RESが高いほど自己制御への動機づけが高いという相関がみられ、その効果量は大に近いものであったが、PRの効果は有意ではなかった(β=−.03, n.s.)。なお、βの95%信頼区間に基づけば、活動的快や自己制御への動機づけとの相関はRESのほうがPRよりも大きかったといえる。

考察

RESについての確証的因子分析の結果、2因子を仮定したモデルの適合度が1因子を仮定したモデルよりも高かった。これは、RESが真実因子と統制因子の2つの因子を持つ構成概念であると示したZee et al.(2020)の結果と一致し、本研究の仮説1を支持する。次に、RESとPRの弁別的妥当性を調べる確証的因子分析を行った結果、RESとPRが相関する異なる概念であると仮定したモデルは、RESとPRの相関が1であると制約したモデルおよび0であると制約したモデルよりも適合度が高いことが示された。また、RESとPRは.36という小–中程度の相関を示した。RESとPRは相関があるが、高すぎることはなかったことを併せて考えると、異なる概念として扱うほうが妥当であると考えられる。この結果はZee et al.(2020)の知見、本研究の仮説2と一致している。

重回帰分析の結果、RESが高いほど自己制御への動機づけ、活動的快が高いという中から大に近い相関がみられたのに対して、PRの効果はみられなかった。この結果は仮説3と一致する。本結果は、Zee et al.(2020)の主張するように、被支援者の自己制御の活動性を高める上ではRESがPRよりも有効である可能性を示唆する。抑うつ・不安では、RESとPRの小さな効果がみられ、仮説3と一致する。研究1の回帰分析ではRESと抑うつ・不安が無相関で、PRとだけ相関しており、その点では研究2の結果と異なっていた。研究1の時点ではこの結果を文化差の観点から解釈したが、研究2ではそのような結果が得られなかったことから、研究1の結果を文化差から解釈することはできない。本研究はシンプルな横断調査であるため、なぜ研究1においてRESがネガティブ感情の低さと関連しなかったのかについて確からしい仮説を考えることは難しいが、少なくとも研究2の結果からは東洋文化圏においてもRESがネガティブ感情の低さと関連すること、それには何らかの調整要因が存在する可能性があることは示唆される。ただし、研究2でみられたRESと抑うつ・不安の相関は小さなものだったことには留意が必要であろう。RESの効果の一般化可能性について今後さらに検討が蓄積していくことが求められる。

非活動的快では、PRの小さな効果のみが有意で、RESの効果は有意ではなかった。RESと非活動的快の間に小程度以下の相関しかみられなかったという点では、研究1と共通した結果であるといえる。この結果から、RESは活動的な心的状態(活動的快、動機づけ)とはよく関連するが、鎮静的な心的状態(非活動的快)とはそれほど関連しないということをより確からしく言うことができるかもしれない。感情研究では高覚醒ポジティブ感情と低覚醒ポジティブ感情が異なる性質や機能を有するという知見が蓄積しているが(例えば、Carver, 2004; Higgins, 1998; Watson & Tellegen, 1985)、ソーシャルサポートにおいても問題解決への自己制御を促すような感情状態を促す働きかけと心の安寧をもたらす働きかけは根本的に異なっている可能性が考えられる。本研究の結果は、RESの効果が自己制御の活性化に限定され、ソーシャルサポートにおいて重要な心的安寧をもたらすわけではないかもしれないことを初めて示した点で重要な知見を提供するといえる。また別の可能性として、今回測定された非活動的快は「のんびりした」などの項目により測定されたが、これらの感情はサポートを受けた直後というよりも、もう少し時間が経過してから経験される感情であり、参加者のなかに時間的に離れた経験を念頭に非活動的快を評定した人が含まれていたことが結果に影響したかもしれない。今回測定された非活動的快がRESやPRとは時間的に離れた経験への心理的反応だったとすると、その時間的距離が変数間の相関を希釈させた可能性が考えられる。本研究のような横断調査では時系列的な問題を明らかにすることはできないため、今後はその問題を扱うのに適した実験法による検討が求められる。

まとめると、研究2ではRESの概念構造、動機づけと活動的快との相関についての仮説は支持された。日本人大学生の家族やパートナー以外の幅広い社会的関係においても、RESの有効性が示唆されたといえる。PRではこの効果がみられなかったため、被支援者の活動性を高めるという目的ではPRよりもRESを考慮することが重要かもしれない。

総合考察

本研究では、日本人を対象とし、RESが自己制御への動機づけ、高覚醒ポジティブ気分やネガティブ気分だけでなく、低覚醒ポジティブ気分とどのように相関するかについて検討した。研究1では社会人の長期的なパートナー関係、研究2では大学生を対象として家族やパートナー以外の幅広い社会的関係について検討した。

まず、研究1, 2で共通して示された主な結果について述べる。RESは、2因子構造が安定してみられ、6項目全体の尺度信頼性係数も高かった。これらの結果はZee et al.(2020)と一致し、RESを1つの尺度として見なして得点を算出しても問題がないと考えられる。次に、RESとPRの弁別的妥当性を確認する確証的因子分析では、RESとPRは相関するが、異なる構成概念であることが示された。これはZee et al.(2020)の結果と本研究の仮説2を支持する結果だといえる。自己制御への動機づけ、活動的快、抑うつ・不安、非活動的快を従属変数にそれぞれRESとPRを独立変数とした重回帰分析では、RESが高いほど自己制御への動機づけや活動的快が高いという中から大に近い相関が示された。これは、本研究の仮説3と一致するとともに、Zee et al.(2020)の知見と一致する。PRではRESよりも活動的快や動機づけとの相関が全体的には小さかったため、被支援者の活動性を促進する上ではRESがPRよりも重要かもしれない。一方で、抑うつ・不安や非活動的快についてはRESとの相関はそれほどみられず、効果量は小以下であった。

次に、本研究の意義を述べる。学術的意義としては、日本人を対象として、パートナー関係以外の関係において、RESと自己制御への動機づけ・気分との相関を明らかにした点があげられる。マッチング理論(例えば、Rini & Dunkel-Schetter, 2010)やZee et al.(2020)では主に親密な人間関係におけるサポートの効果に焦点を当ててきたが、本研究では必ずしも親密とはいえない人間関係におけるソーシャルサポートの効果を検討し、RESとの相関を示した。RESは基本的心理欲求と関連することから、幅広い関係性におけるサポート効果を向上させる可能性がある。また、本研究はRESと低覚醒ポジティブ気分の関係を初めて検討した点でも意義がある。本研究の結果は、RESは、被支援者の自己制御を活発にさせる動機づけ効果において特徴づけられるが、心の安寧をもたらすケアとしてはそれほど有効ではないかもしれないことを示唆する。応用的意義としては、今回作成した日本語版RES尺度の利用可能性が挙げられる。日本語版尺度があることで、日本での研究が行いやすくなり、効果的なソーシャルサポートのあり方を解明し、現実場面での支援を改善する上で有用な視点を提供しうる可能性がある。具体的には、対人援助では傾聴や共感的理解の重要性が強調されてきたが、それに加え、被支援者の自己制御を支えるために真実と統制の欲求に注目することは有効かもしれない。

最後に、今後の課題を述べる。まず、本研究とZee et al.(2020)では因果関係が検討できていない。本研究は横断調査であるため、気分や動機づけがRESやPRの解釈に影響するという逆方向因果の可能性、さらには特性的なパーソナリティや動機づけが本研究で扱っている諸変数に影響を及ぼすことによって第三変数効果(およびそれに伴う疑似相関)が生じている可能性も否定できない。RESを規定するのは主体(被援助者)側の要因なのか、それとも援助者側の要因なのか、もしくはそれらの組み合わせなのかについて明らかにすることは、今後の重要な課題であろう。これらを検討する上では、他者からのサポートが必要とされる現実あるいは架空の場面を設定し、RESを重視した働きかけとPRを重視した働きかけの効果を比較するといった実験が必要である。また、サポート提供を受けたにも拘らず、サポートの効果を実感しなかったために「助けられた」と考えなかった人々は本研究には含まれていない。Zee et al.(2020)では実際にパートナーとの相互作用をさせた場合にもRESと支援結果との相関を見いだしているが、再現性や一般化可能性を確認するために、わが国でも実際の相互作用場面の反応について検討することが求められる。

Appendix
Appendix サポートの制御効果性(RES)尺度の教示と項目

真実尺度 パートナーとのやり取りは、状況に対するあなたの理解にどれくらい影響を与えたと思いますか?
1. パートナーが助けてくれたことで、状況をよりよく理解することができた。
2. パートナーが助けてくれたことで、状況を新たな視点で見ることができた。
3. パートナーが助けてくれたことで、状況についてある程度の見通しを得ることができた。
統制尺度 パートナーとのやり取りは、状況をコントロールできているというあなたの感覚にどれくらい影響を与えたと思いますか?
1. パートナーが助けてくれたことで、状況をコントロールできると感じるようになった。
2. パートナーが助けてくれたことで、進むべき方向に向かえるようになった。
3. パートナーが助けてくれたことで、状況についてより自信を持てるようになった。

評定方法は、7件法(1. まったくあてはまらない–7. 非常にあてはまる)である。なお、研究2ではさまざまな人間関係を対象としたため、教示と項目の「パートナー」の部分を「その人」に変更した。

脚注

1) 本稿は、加藤由夏さんの卒業論文に基づいて作成された。また、尺度のバックトランスレーションは、鳥山理恵先生にご助力いただいた。厚く御礼申し上げる。

2) 他の可能性として、支援提供者との関係年数の長さが影響したという仮説も考えられる。研究1の参加者はZee et al. (2020)よりも関係年数が長いパートナーからの支援を受けており、そのことがRESやPRの効果に影響を及ぼしたかもしれない。この点を調べるため、パートナーとの関係継続年数、RESと関係継続年数の交互作用、PRと関係継続年数の交互作用を独立変数として追加的に投入し、抑うつ・不安を従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、本文中の結果と同様に、PRの主効果のみが有意であった(VIFは1.94未満で、多重共線性は生じていなかった)。PR×関係継続年数の交互作用はみられなかったことから、関係継続年数が長いほど、PRのネガティブ気分緩和効果が強くなるという仮説は棄却される。

引用文献
 
© 2024 日本社会心理学会
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