抄録
絹タンパク質セリシンはカイコ中部絹糸腺内で大量に生合成され、2本のフィブロイン繊維を接着させ繭の形状を保つ働きをしている。一方、後部絹糸腺が退化したセリシン蚕はほぼセリシンのみから成る糸を吐く。我々は、このセリシン繊維が通常の絹糸とは大きく異なり、ほとんど配向性を持たないことを偏光FTIRを用いた解析により明らかにした。今回、吐糸によるセリシンの繊維化機構を明らかにするため、中部絹糸腺内液状セリシンの赤外吸収スペクトルをATR法により測定し、その二次構造解析を行うとともに、液状セリシンの脱水過程における構造変化を追跡した。その結果、脱水乾燥が進むに従ってβ-シート構造が増加していくことが示唆された。また、脱水がほぼ平衡に達したときの二次構造は、吐糸されたセリシン繊維の二次構造と良く類似していることから、セリシンの繊維化における構造変化は主に脱水作用によるβ-シート構造の増加であり、延伸やずりなどの物理的作用の寄与は小さいことが分かった。