気相での化学反応ダイナミックスを理解するうえで反応前後の状態選別をした,状態から状態への化学(State-to-State Chemistry)の果たす役割は大きい。ここでは状態選別という言葉をキーワードとして,この方法論の固体表面での化学反応への適用について考えてみる。表面がかかわるさまざまな過程の中で,気相でいう状態から状態への方法論がほぼそのまま取り入れられているものとしては簡単な分子の固体表面での直接散乱の研究が挙げられる。しかし,一般の表面化学反応ダイナミックスの研究に気相での方法論や取り扱いをそのまま適用することにはいくつかの困難がある。そこで,具体例として2原子分子の非弾性散乱,水素分子の解離吸着,一酸化炭素の酸化反応,光誘起表面反応を概観しながら状態選別した表面科学の研究の現状と今後について議論する。