抄録
「教育の職業的意義」をめぐる議論が教育の効果だけでなく理念の次元にも展開することで、実業教育論の歴史の 検討が改めて課題として浮上している。この課題の検討のため、本稿は従来実業教育史において等閑視されてきた戦前 期経営者の実業教育論を分析する。戦前期の代表的経営者武藤山治の実業教育論を、従来の教育論を代表する井上毅、 手島精一らのそれと比較した結果、実業教育の正当化として、国家主義的価値だけでなく、個人の幸福や能力の発揮と いう個人主義的価値及び社会的意義を提示していたことが明らかになった。