2002 年 43 巻 1 号 p. 12-22
1990年代のアメリカにおける福祉改革は,当時台頭した新自由主義的な論調を反映して,福祉支出を抑制し,受給のための資格要件を厳格にした。これによって,各州の福祉政策は総じて縮小し,受給者は受給のために保守派が理想とする行動(市場での労働,伝統的家族へのコミットメントなど)へのよりいっそうの従属を余儀なくされた。新たな福祉プログラムは,受給者と非受給者の区別をより鮮明に認識させ,受給者の数や経済的・政治的力を奪うものである。つまり,ミドルクラスをプログラムから切り離すことで福祉政策への敵意を助長しながら,福祉水準の切り下げによって福祉受給者が自立する機会を奪っているのである。このような政策を転換し,福祉受給者をより自立的な福祉社会のアクターへ変えるためには,公的な就労支援と労働条件の整備が不可欠といえるだろう。