本研究は,介護老人保健施設(以下,老健施設)に入所した高齢者の経験をとらえることを目的としており,具体的には,老健施設に対する満足と不満の内容と特性,不満への対処のしかたとその理由を検討した。調査の対象者は都内の3つの老健施設に入所している高齢者31人であり,参与観察とインタビューを行い分析した。対象者の老健施設への満足は,過去の経験と比べて肯定的な意味を見いだせる生活が得られたことによるものと考えられた。同時に対象者は不満をもっており,その内容は,身体的,生理的ニーズが充足されない,生活習慣の断絶,他人との不愉快な接触に要約された。これらの不満は施設側に必ずしも把握されておらず,あきらめる,避ける,個人内で解消するという「消極的対処」がなされていた。その理由としては,(1)不満の原因となる事態を容易に改善できないと対象者が認識していたため,(2)入所が一時的であったため,(3)満足できる点があったためと考察された。