タイの医療保障制度は錯綜しており,一部の富裕層および特権的な医療保障が給付される官僚層以外,大多数の国民は不十分な制度のなかに置き去りにされ,国民の30%強が無保険状態にある.さらに,貧しい者ほど負担が重くかつ劣悪な医療しか受けられないという構造的な問題も指摘されてきた.こうした反省に立ち,2002年10月から全国民に良質な医療へのアクセスを可能にするための30バーツ政策が施行されている.この政策は町村単位で13のデジタル番号制度によって住民を把握し,疾病の初期の段階での医療と生活指導を行うことで重病化を防ぎ,総体としての医療費を削減しようとするねらいをもつものである.財政上の問題や住民の正確な実態把握の問題など不安材料は尽きない.先駆的に動き始めている一県での調査を基に,30バーツ政策を検討した.