社会福祉学
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労働者年金保険法の立案意図 : 労働移動防止の妥当性を手がかりに
中尾 友紀
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2005 年 45 巻 3 号 p. 12-22

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抄録

本稿では,一般労働者を対象とした日本で最初の公的年金保険である労働者年金保険について,とくにその立案意図のひとつとされる労働移動防止の妥当性を検討し,それをとおしてこの年金の立案意図を改めて考察している.労働移動防止が立案意図に挙げられたのは,起草直前に行われた労務管理調査委員会答申にそうした内容が含まれていたと解釈されたからであり,実際にこの年金に労働移動防止の規定が設けられていたからでもあった.しかし,史料によれば,同委員会答申で提案された年金の目的は,将来に対する不安を除去し,労働者に当面の忍びがたい生活を受容させることであり,とくに鉱山労働者の精神作興を図ることであった.また,労働移動防止の規定は,それが規定された経緯から,この年金の重要性をますます高めようと,立案の最終段階になって急に付け加えられたことが明らかである.すなわち,この年金にとって労働移動防止は立案の本来的な意図ではなかったといえる.

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© 2005 一般社団法人 日本社会福祉学会
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