2015 年 56 巻 3 号 p. 44-57
高機能自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されている母親およびASDが疑われる母親14名についてインタビューを行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)による質的研究を実施した.その結果,対象者は,子どもの頃から親からの身体的・心理的虐待や,学校でのいじめなど,さまざまな外傷体験を有しており,結婚前から精神疾患を発症していたことが明らかにされた.さらに,妊娠・出産後は,妊娠・出産の不安,自身の特性に起因する悩み,子どもや夫,周囲との関係についてなどさまざまな悩みを抱え,思うようにいかない子育てから,ひどい抑うつや育児ノイローゼなどに至ったことがわかった.そして,母親がストレスや不安の軽減につながるか否かは,自身や子どもへの支援,夫からの理解,自身の特性の理解によって規定された.分析結果から,グレーゾーンの母親も含めた包括的な早期支援および,「子育て世代包括支援センター」を活用した多職種間連携による支援の必要性が示唆された.