抄録
【目的】造血幹細胞移植の前処置薬として用いられるブスルファンはその体内動態の個体差が大きいことが治療上の問題となっている。そこで我々は日本人患者を対象として、ブスルファンの主代謝酵素であるグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)A1の遺伝的多型がブスルファンの体内動態に及ぼす影響を検討した。【方法】12名の日本人成人患者(20-60歳)を対象とし、同種造血幹細胞移植の前処置として、ブスルファン(0.85-1.01mg/kg)を6時間ごとに2日間または4日間にわたって経口投与した。定常状態における血漿中ブスルファン濃度を測定し、その体内動態を解析するとともに、PCR-RFLP法によりGSTA1の遺伝子型(GSTA1*A, 野生型; GSTA1*B, 変異型)を判定した。また、147名の日本人健常人を対象として同様にGSTA1の遺伝子型を判定した。【結果】12名の移植患者の遺伝子型は、*A/*Aが9名、*A/*Bが3名であり、*B/*Bの遺伝子型は見られなかった。*A/*Bの遺伝子型をもつ患者群は、*A/*Aの遺伝子型をもつ患者群に比べて、経口投与後のクリアランス(CL/F)、および消失速度定数(ke)が有意(P<0.01)に低下し、定常状態における平均血漿中濃度(Css)は有意に(P<0.01)上昇した(CL/F, 0.118±0.013 v.s. 0.196±0.011 l/hr/kg; ke, 0.176±0.038 v.s. 0.315±0.021 hr-1; Css, 1344±158 v.s. 854±44 ng/ml)。147名の日本人健常人における*A/*A、*A/*B、*B/*Bの各遺伝子型の頻度はそれぞれ、71.4%、25.9%、2.7%であった。【結論】GSTA1の遺伝的多型が造血幹細胞移植におけるブスルファンの体内動態に影響を及ぼすことが示唆された。変異型アリルであるGSTA1*Bは日本人において広く分布しており、遺伝子型に基づく投与量調節の必要性が示唆された。今後は*B/*Bの遺伝子型をもつ患者群も含め、より多くの症例での検討が必要であると考えられた。