抄録
【目的】一般に、小腸上部では、小腸下部や大腸に比べて吸収に関与する表面積が大きく、また細胞間隙経路の透過性も高いと考えられることから、多くの薬物において消化管上部からの吸収性が下部に比べて高いという現象が報告されている。しかし、薬物によっては、消化管下部においても上部と同程度の高い膜透過性を示す場合もあり、各薬物経口投与後の吸収部位差を知ることは、徐放化製剤化などその後の製剤開発を行う上でも極めて重要である。そこで我々は、薬物の構造と消化管吸収における部位差の関係を明らかにする目的で、脂溶性、電荷、溶解性などの異なる化合物の消化管からの吸収動態について検討を行った。さらに、消化管の輸送担体も部位によって活性が異なる場合が報告されていることから、今回特にP糖タンパク質の発現部位差と薬物吸収への関与についても検討を加えた。
【方法】Wistar系雄性ラットの消化管各部位を用いてclosed loop法およびsingle pass法により各薬物の膜透過性を測定した。モデル薬物としてmannitol、antipyrine、danazole、albendazole等を用いた。また、消化管管腔内のpHの影響を検討するために緩衝能の異なる二種のリン酸緩衝液を用いて検討を行った。
【結果・考察】mannitol antipyrineでは消化管下部に比べ上部での膜透過性が高く、明らかな吸収部位差が認められた。一方、danazoleの吸収性には消化管部位差は殆ど認められなかった。これは、danazoleのCaco-2単層膜透過性が20 x10-6cm/sec程度と高く、この様な薬物では絨毛の上部から速やかに吸収されるため、絨毛構造による表面積増大の影響がほとんど現れなかったものと考えられる。この点に関して、P糖タンパク質の関与も含めてさらに詳細な検討結果を報告する。