2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s303
ヒト以外の動物をドナーとする異種移植は、ドナー臓器不足に対する実践的な解決策と考えられる。解剖・生理学的類似性、動物数の確保、微生物管理法の確立などの点からブタがドナーとして最適とされるが、ゲノム編集技術の進歩による遺伝子改変が飛躍的に進んだ結果、異種移植の直近5年間の成績向上は目覚ましく、ヒヒへの移植により腎臓では6-8ヶ月、同所性心臓移植でも6ヶ月以上にわたる生命維持が可能であるという結果が複数施設から報告されており、また米国では医療用途の遺伝子改変ブタがFDAに認可されるなど、臨床試験開始の機運が高まる。一方、外界と直面し、自然免疫系や獲得免疫系相互の働きにより強い拒絶反応を惹起しうる異種肺移植の最長生存は、我々の既報の14日と大きく劣る。臓器による解剖・生理学的な特殊性や免疫学的特異性に基づき、どのようにして異種肺移植の成績を向上させるべきか?という点は、肺移植領域だけでなく、全ての臓器移植にとって、異種移植の特徴を明確にし、安心・安全な医療として認知されることに直結する。異種肺移植の成績をはかるための標的因子の解明やその対策とともに、日本で異種移植研究と実用化を進めるための国内における遺伝子改変ドナーブタ供給システムの整備などについて、これまでの成果、および今後の展望について報告する。