移植
Online ISSN : 2188-0034
Print ISSN : 0578-7947
ISSN-L : 0578-7947
56 巻, Supplement 号
選択された号の論文の360件中1~50を表示しています
  • 岩田 誠司, 竹田 昭子, 荒木 千代美, 吉田 清美, 園田 美香, 中川 かな子, 山口 圭子, 仲間 貴享, 勝連 知治
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    移植コーディネーター(CO.)による病院啓発の目的は、終末期患者やその家族の臓器提供に関する、「提供したい・したくない」といった意思を尊重できる体制づくりの支援であり、その体制の拡充によって、臓器提供者数の増加は結果的に見込まれると思われる。

    家族からの偶発的な申し出に頼らない体制の確立というのは、今後の移植医療推進の大きな鍵を握っていると言える。

    しかしながら、『臓器提供の意思を確認する』という行為については、救命に全力を注ぐ医療者にとって大きな負担であることは言うまでもなく、また義務化された行為ではないため、実施する医療機関を拡大することは容易なことでない。

    また、最近では新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、移植Co.による病院訪問や臓器提供のシミュレーション、研修会開催などの病院啓発活動も制限されており、この状況が続けば、これまで地道に培ってきた移植医療への関心が病院内で薄れていくことが懸念される。

    そこで、病院啓発活動の縮小による影響を補うために、臓器提供に関する患者や家族の意思を尊重することを目的とした医療者向けのガイドブック「わたしたちはこう伝えています」という冊子を九州沖縄地区の移植Co.が共同で作成した。

    冊子の内容や病院からの反響、活用方法について紹介する。

  • 青木 大, 田中 秀治, 小川 由季, 佐々木 千秋, 西迫 宗大, 明石 優美, 副島 一孝, 佐々木 淳一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    昨今、組織提供数は減少傾向にあり、さらに新型コロナウイルス感染症蔓延で危機的状況に直面している。要因の1つは、実際に現場で従事するコーディネーターや出動する組織バンクの体制が、主にマンパワーの問題で活動エリア制限されているのが現状である。今後、各地で活躍するコーディネーター間での業務乗入れにより活動範囲の拡大が期待される。

    現在コロナ禍により、対面式病院開発、研修が実施不可能となっているが、この状況を活用しデジタルデバイスを使用した教育システムの導入を①日本スキンバンクネットワーク(JSBN)を中心とした3バンク間での「web研修」、②遠隔地を結ぶ研修体制の構築、③JSBNによる「スキンバンクチャンネル」の開設、として考案した。

    Web研修では、主にロールプレイを中心としたプログラムに構成し実施したが、各分野のSpecialistが特性を生かすことにより、コーディネーターにとって欠かせない知識取得には効果的であり、継続的な研修、現場実践を行う事で、信頼感が生まれ、相互乗り入れが可能となると思われた。

    「遠隔地からの研修体制の構築」ではVRを用いたICコンテンツ作成により、対面研修により近い実施が可能となるほか、コーディネーターの目線の動きや、家族の表情など、より詳細に観察でき、また、自分の映像を振り返ることにより、自身の態度、言葉、目線など、今までにはない多角的な振り返りが可能となった。

    さらに、スキンバンクチャンネルによる支援では、いつでも自分が必要とする情報や映像にアクセスする事が可能となっており、自己学習はもちろん、実際の現場出動時に、寸暇でもアクセス可能となり、現場対応の負担軽減につながると示唆された。

    本研究は厚生労働科学研究費補助金(移植医療基盤整備研究事業)分担研究「組織提供に際しての選択肢提示に関する諸問題に関する研究」の一環として実施した。

  • 長屋 文子, 熊木 孝代, 中村 晴美, 縄田 寛
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    当院は、2020年1月まで8件の脳死下臓器提供を行った。これらは全てIntensive Care Unit(以下ICU)とHigh Care Unit(以下HCU)での対応であった。単一部署での一定数の症例経験は、部署内の柔軟性を持つ体制の構築、移植医療に関する知識や倫理観の向上に繋がり、ICU/HCUにおける臓器提供体制は成熟期に入ったと考えられた。

    しかし、COVID-19患者の受入れが開始となり、ICUの一部とHCUがCOVID-19専用病棟となった。これに伴いICU/HCU内の法的脳死判定が可能な環境を備える病床をその目的で使用出来なくなり、経験豊富な部署での脳死下臓器提供が事実上困難となった。COVID-19禍の状況変化に伴い院内環境も刻々と変化したが、終末期にある患者とその家族が人生の最期のをどのように迎えるかを決定するに当たり、必要な情報の提供に努め、臓器提供の意思がある場合には適正かつ円滑に対応するべく病院、医師側と共通認識を図り、対応可能病床の選定と病棟環境調査、臓器提供に関する啓発、症例対応ドナーCo人数の見直し等を行った。

    現実に、初めて脳死下臓器提供対応する病棟での提供を経験し、病棟スタッフとドナーCoの連携や情報共有、スタッフの心のケアの重要性を再認識した。COVID-19禍における外部医療者の受け入れ、面会制限等が家族に与える影響も課題であり、学びと共に課題と展望につき論じたい。

  • 田村 恵美, 植田 育也
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     小児領域での臨床場面では、あらゆる手を尽くしても、この先、治療方法がない場合に、終末期を迎えるときにはどのようにして看取るのかを話し合いがもたれている。ここ数年、小児での在宅での看取りも可能となり、多くの病院では自宅に帰すのか、病院で看取るのかも含めて検討されている。臓器提供に至るような状況のこどもの場合は、病院で選択肢の中の一つとして臓器提供ということも話し合いの中で出てくることもあるであろう。ただ、状況として、伝えることが難しい現状もあり、いまだに小児領域では、「死」に関連することをお伝えすることに躊躇することも多いのが現状である。また、臓器提供に関しては、「臓器提供」ということの提示をすることに疑問を持つ医療者も多く存在することも事実である。

     対象であるこども自身が成長発達の過程にあり、自分自身の今後を語るには困難なこと、疾患の予後の不確実さがあること、両親・家族の希望や治療への期待などが障壁となり、本当にこの子が臓器提供ということを望んでいるのかを推察していくには、困難な場合もあること、そして、代理意思決定していく家族が多様化していることも含め、小児領域では臓器提供に至るまでには多くの課題がある。しかし、その子がどうしたいのかを医療者自身がともに考えていくことで何かの手がかりとなると考え、臓器提供ということも含めたケアの実践を報告する。

  • 田中 友加, 坂口 剛正, 大段 秀樹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】臓器移植患者にSARS-CoV-2が感染した場合、免疫抑制下であるが故に急激に重症化する報告がある。免疫抑制薬による患者管理には慎重な対応が求められる。本研究は、各種免疫抑制剤がSARS-CoV-2複製へ与える影響について、in vitro SARS-CoV-2感染システムを用いて解析した。

    【方法】SARS-CoV-2/JP/Hiroshima-46059T/2020株のVeroE6/TMPRSS2細胞感染培養系に各種免疫抑制剤を臨床有効濃度を振って添加し、RNAウイルス量をRT-PCRで、細胞内ウイルス蛋白をウェスタンブロッティング法で解析した。

    【結果】CNI阻害剤(tacrolimus, cyclosporine)、mTOR阻害剤(everolimus)、ステロイド(methylpredonisolone)、プロテアソーム阻害剤(bortezomib)は、ウイルス増殖、細胞内ウイルス蛋白量ともに抑制効果を認めなかったが、増殖性の誘導も見られなかった。一方、核酸合成阻害剤のmycophenolate mofetil(MMF)は、濃度依存性にウイルス抑制効果を認め高濃度(1000ug/ml)ではウイルスNタンパク質の減少も示した。

    【結語】感染細胞株を用いたin vitroの検討では、MMFは抗SARS-CoV-2抑制効果を示し、臨床における免疫抑制管理に有効である可能性がある。

  • 寺嶋 毅
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    COVID-19の流行は臓器移植と移植後に影響を及ぼしている可能性がある。

    前者は、臓器提供や移植手術数に及ぼす影響である。自施設では眼科にて角膜移植が積極的に行われている。COVID-19流行前の2019年度と流行期である2020年度を比較検討したところ、移植数は224から199に減少した。要因のひとつとして自施設での検眼数が減少したことがあげられた。死亡数、連絡数、出動数、オプション提示(OP)数、献眼承諾数は、552 から472、540 から463、331 から196、259 から142、22 から8と減少した。連絡に対する出動率が61.3%から42.3%、OPに対する献眼承諾率が8.5%から5.6%と低下していた。出動率低下の要因として、死亡時にCOVID-19の疑いが完全に否定できないケースの増加が考えられた。承諾率低下の要因として、面会制限によって家族として満足いく介護やお看取りができなかったこと、できるだけ早くつれて帰りたいという家族の思いなどが考えられた。

    後者は、移植後の患者がCOVID-19を発症した場合の治療への影響である。臓器移植あるいは免疫抑制剤の内服はCOVID-19の重症化因子のひとつにあげられている。我々は腎移植後の免疫抑制剤服用中にCOVID-19肺炎を発症した3症例を経験した。COVID-19の重症化には過剰な免疫の関与が知られており酸素吸入を必要とする中等症Ⅱ以上の症例ではデキサメタゾンが推奨されている。免疫抑制剤を服用中での薬物療法など治療経験を考察を加えて提示したい。

  • 朝居 朋子, 横田 裕行
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s14
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染拡大の中で院内移植コーディネーター(Co)研修への影響、現状の研修体制等を調査した。46都道府県61名に対し自記式質問紙調査を行い、43都道府県53名から回収した(回収率87%)。院内Co設置は40都道府県871施設2,876名、年間の研修会開催数は2回が15都道府県、3回13都道府県、毎月開催は1都道府県であった。新型コロナウイルス感染拡大後に研修会を中止したのは30都道府県であった。今後は感染予防策をとったうえで対面開催18都道府県、オンライン開催14都道府県であった。コロナ禍における院内Coとの関係性の変化は、あっせんに関しては必要な活動でもあり特に大きな変化はなかった。一方、日常的な病院啓発活動は制限を強いられ、関係性が「良い」がコロナ前59%からコロナ禍31%に減り、「どちらかといえば良くない」が2%から31%に増えた。また、日常的な相談対応も「良い」が半減、「どちらかといえば良くない」が増加した。現状では関係悪化はないものの、対面研修や病院訪問が減少している状況が長びくと院内Coとのコミュニケーション不足につながる懸念が示された。また、病院がコロナ対応に注力し、臓器提供体制整備の余裕がないことも挙げられていた。研修会開催数の減少、研修のスタイルの変更、コロナ禍による都道府県Coの病院訪問の減少などから、今後長期的に見て影響が出ることが考えられた。

  • 稲田 眞治
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s15
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    COVID-19(以下コロナ)の蔓延により救急医療へ負荷がかかった2020年、臓器提供数は心停止後9件・脳死下69件の計78件にとどまり、改正臓器移植法の施行後、最も少なかった。日本救急医学会は厚労科研のもと、コロナ禍における臓器提供の現状を把握するため、2020年10~11月に全国救命救急センター290施設へ意識調査を実施、212施設から回答を得てその結果を公表した。202施設が行政依頼でコロナ患者を受け入れ、210施設で一定の防護体制を実施、救急終末期患者の家族への説明形態は116施設で何らかの制限を実施していた。2020年にドナー候補を経験した53施設のうち30施設が臓器提供に至り、臓器提供に至らなかった23施設中、コロナ診療との関連で提供中止になったと回答したのは4施設のみであった一方、67施設で院内コーディネーターがコロナ診療に関わり、85施設が法的脳死判定の手技によるエアロゾル発生に何らかの留意を示し、28施設が臓器提供時に来院する関係者に対し何らかの受け入れ制限を想定あるいは実施していた。本意識調査ではコロナ診療に伴う負荷は総じて臓器提供に直接支障を来さなかったと示唆されたが、自由記載を詳らかに評価すると「マンパワー不足のため臓器提供にならないよう病状説明してほしいと暗に言われた」との記載も確認された。本演題では、意識調査の結果を報告し、コロナ診療に従事している一救急医の立場から、コロナ禍での臓器提供について考察する。

  • 高橋 美香, 千葉 利香, 武山 佳洋, 森下 清文, 嶋村 剛, 原田 浩
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s16
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    COVID-19に対する緊急事態宣言発令中の北海道において、脳死下臓器提供の斡旋をおこなった。本事例では提供施設のコロナ対策に準じて予定通りに進めることができた。しかし臓器提供に係わるコロナ対策は都度、相談を要し、提供施設の負担は大きかったと推察する。そこでコロナ対策下での臓器提供プロセスの課題について検討する。

    提供施設は地域唯一の感染症指定医療機関であることに加え、3次救急を担っているため、コロナ感染症重症患者をゾーニングした救急病棟にドナーも入室していた。

    臓器提供に携わる移植Co、MC、摘出医ら院外者のPCR検査は、院内コロナ対策に基づいて、提供施設でのウイルス検査陰性を確認する必要があり、施設の検査科が全て対応した。摘出医に関しては、陰性確認のために摘出前日午後には現地入りし、ドナー家族に関しては市内在住のドナーと同居家族のため検査対象とはしていなかった。

    ドナー管理は徹底したコロナ対策下で行われ、移植Coも病棟入室を最小限にし、控室に準備された電子カルテによって情報を収集した。またドナー3次評価や臓器搬送においては、効率的な導線を事前に確認するなど感染リスクの低減に努めた。

    今後も全国的にコロナ対策は継続せざるを得ないことが予測されるため、臓器提供における院外者のPCR検査や提供施設で許容される行動など、コロナ禍での国内各地の経験を集約し、標準化することが提供施設の負担軽減につながると考える。

  • 関 一馬, 高橋 恵, 上村 由似, 佐川 美里, 田村 智, 片岡 祐一, 吉田 一成
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s17
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】コロナ禍での臓器提供は、レシピエントへのドナー由来のCOVID-19の伝播が否定できず、感染拡大のリスクも高い。そのため、平時よりも慎重な対応が求められる。しかし、それにより臓器提供意思があるにも関わらず、臓器提供を断念せざるを得ない現状がある。

    【方法】救命救急センターへ搬送された後に治療限界を迎え、患者もしくは家族が臓器提供意思を表示した症例を対象とした後方視的研究。COVID-19感染拡大防止のため院内対策を開始した2020年2月~12月において、COVID-19が臓器提供に与えた影響を検証する。

    【結果】対象症例は35例。提供に至った症例は角膜1例であり、例年の提供数と比較し93%減少となった。提供に至らなかった症例は34例あり、内訳はCOVID-19の影響10例、意思確認後家族辞退18例、医学的適応外2例、その他4例であった。このうち、COVID-19の影響による10例の詳細は、4例が院内移植医療体制の見合わせによるもの、5例が死後24時間以内でのPCR検査結果判定不能によるもの、1例が説明後家族辞退であった。患者本人の事前意思があった症例は3例であり、その全てが、院内移植医療体制の見合わせにより提供に至らなかった。

    【結語】COVID-19の影響により臓器提供を断念した症例のうち、33%が患者本人の事前意思があり、院内体制が要因であった。安全に配慮しながらも、患者・家族の尊い意思を尊重できるよう、院内体制を見直し、体制整備に努めていく必要がある。

  • 三浦 敬史
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2018年7月より2年間、ニューヨークのモンテフィオーレメディカルセンター(MMC)で多臓器移植のフェローとして勤務している時にcovid-19の爆発的な感染拡大を経験した。WHOからpandemicの宣言があった2020年3月11日に、MMC1例目の患者が出た後、covid-19の入院患者数は、10日後に100人、その10日後には1000人を超え、手術室やいろんな会議室などもコロナ患者のI C Uへ改築された。特にニューヨークはどこよりも感染爆発が早かったため, まだ情報がなく、全ての待機手術は中止となり、移植手術は、肝臓移植のstatus1以外、約2ヶ月間中止せざるを得なかった、ドナーが出てもアメリカ内ですらニューヨークから他州へ摘出にいく事は感染を恐れた他州から拒否され、やむなくドナー病院の摘出医師へお願いせざるをえなかった。移植患者の中では特に腎移植患者が多数犠牲となった。

    あれから約1年半がすぎ、いろんなことが分かり、今後の移植のあり方なども考えられる程度には落ち着いてきている。ワクチンについて、covid-19のドナーからレシピエントへの感染の可能性、レシピエントがcovid-19にかかった時の治療、covid-19に起因した臓器不全患者への移植、covid-19既感染ドナー候補、レシピエント候補がcovid-19感染疑いの場合の対応など、ニューヨークでの経験を踏まえ、今後の移植医療のcovid-19への対処の仕方や課題など自分なりに考察をしてみたい。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 太田 充彦, 蔵満 薫, 曽山 明彦, 木下 修, 江口 晋, 湯沢 賢治, 江川 裕人
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s19
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    <目的>

    COVID-19流行期における日本の脳死臓器提供の状況と、それに対する移植施設の状況をアンケートにより調査し、本邦の移植医療の現状を明らかとする。

    <方法>

    令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)新型コロナウイルス感染症流行時に移植実施施設において脳死下・心停止下臓器移植医療を維持推進するための調査研究の一部としてアンケート調査を行った。アンケートはWeb形式で行い、それぞれの施設の代表者に記名式で答えてもらった。

    <結果>

    アンケートは206施設中177施設から回答があり、回収率は85.9% であった。2019年は脳死下臓器提供が98件、心停止後臓器提供が28件であったが、2020年の脳死臓器提供数は68件、心停止後臓器提供件数は9件と減少した。特に、第3波を迎えた2021年冬に臓器提供件数が著明に減少していた。アンケートの回答が得られた177施設中85施設(48%)で一時的に移植医療の提供を中止していた。結果、2020年は2019年と比べ、小腸移植を除く、全ての死体臓器移植件数が60‐70%程度(前年比、心:64%、肺:73%、肝:72%、膵:57%、腎:71%)に減少していた。

    <結語>

    本邦は諸外国と比べると、COVID-19陽性患者、死亡者ともに少ないが、移植医療が大きく影響を受けている現状が明らかとなった。

  • 山永 成美
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s20
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    コロナ禍となりはや1年以上が過ぎ、これまで不可能と考えられていたスピードでワクチンも開発され、移植患者への接種も開始された。パンデミック初期に比べるとエビデンスも蓄積され、手探り感のあったコロナ禍での移植医療の在り方が元に戻りつつあるようにも感じる。しかし、痺れを切らした世界中の経済活動が本格的に再開していく中で、未だ特効薬は存在せず、変異株の出現など、新な問題が山積している。刻一刻と変化するコロナ禍の状況においても、変わらず安心安全な移植医療を提供していく必要がある。最新の新型コロナウイルス感染症と移植医療に関する文献的報告をレビューし、Withコロナの移植医療のあり方と共に報告する。

  • 吉川 美喜子, 小野 元, 江川 裕人
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s21
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延は臓器提供・移植医療に大きな影響を及ぼし、2020年の脳死下・心停止後の総臓器提供数は臓器提供に至らなかった1例を含む計78件(前年126件)で、脳死下・心停止後ドナーからの臓器移植数は大きく前年を下回る結果となった。

    【アフターコロナも見据えた臓器提供体制の構築】令和2年度厚生労働科学特別研究事業「コロナ禍における脳死下・心停止下臓器提供経験施設の実態調査に基づく臓器提供施設の新たな体制構築に資する研究」で実施した調査では、コロナ禍のため患者・家族が臓器提供を希望してもその思いが遂行できなかった施設の存在、今後COVID-19で通常医療が更に逼迫されると臓器提供を遂行できないと考えている施設が多いことが明らかになった。このような状況を鑑み、アフターコロナも見据えて、患者・家族の臓器提供の意思をかなえるための院内・外の体制を構築するための提言を作成した。今後の展開と課題についてこの場をかりて検討する。

  • 松田 暉
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s22
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     欧州を中心に生命維持治療中止(WLST)を伴うcontrolled (c)DCD(C:circulatory)が活発化し, 腎臓から肝臓, 肺さらに心臓へと広がり,ドナープール拡大に繋がっている. 心臓移植の立場からわが国への導入の課題を考察した.

     cDCDでの心臓移植は豪州のSt.Vincent病院で2014年から, 英国のRoyal Papworth 病院で2015年から, 共に体外機械灌流を用いる方法で始まり, 温阻血時間を短縮し, 成績は脳死移植(DBD)と遜色なく, 豪州, 欧州内, 米国で広まっている. 対象はMaastricht(M)分類IIIで, WLSTに続く循環停止(死亡宣告)後, 体内での脳を除く常温灌流後に心摘出するか(英国), 体外に直接摘出して灌流装置に移す方法が行われている.

     ドナ―プール拡大にcDCD導入が期待されるが, 「臓器提供と死」の定義論からDBDへの影響を危惧し, 特に心臓は,と議論は封印されてきた.しかし,体内再灌流を避け, 体外機械灌流の使用で倫理的, 医学的問題は少なくなると思われる. cDCDはM分類III,IVが対象となりWLSTが基本となる. WLSTは3学会終末期医療ガイドライン等に記載されているが臓器提供に繋げる道が未整備である. 課題は現在のuncontrolledDCDにcDCDを加た新たな臓器提供の枠組みを(省令等で)どう混乱なく作れるかであろう. cDCDは提供者側の意思を尊重する上でDBDを補完する役割も大きく, 社会的理解が求められる.

     ドナー不足が深刻なわが国でのcDCDの役割りと課題について臓器横断的議論が待たれる.

  • 黒田 暁生
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s23
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    1型糖尿病は決まった単位で同じ食事を摂取しても次の食前の血糖値が同じような値とならず血糖管理が困難であると自覚する症例が多い。血糖管理の結果が不良であり、腎透析にまで至った症例に膵腎同時移植が適応になり、糖尿病専門医による管理によっても血糖管理困難である1型糖尿病症例に対し膵島移植が適応となる。膵臓移植後の移植膵内分泌機能は徐々に改善してゆき移植後3年ほどで概ねその効果は最大に達する。

    移植前には血糖測定、持続血糖測定を行っているが、移植後にインスリンが不要となるとこれらの測定ができなくなってしまう。血糖値が測定できなければ移植膵臓・膵島の障害が起こっても検出することができない。このためあえて少量のインスリン投与を残して血糖値をモニターするということが行われる場合がある。

    生活管理については適応評価の行われる移植前から移植内科医の指導もあり、管理状態を改善していることが多く、また移植後はさらに厳しい生活管理の指導、および臓器のドナーに対する責任感もあり、より管理状態を高める。

    残念なことに糖尿病専門医のほとんどは1型糖尿病患者に対して満足な指導ができていない。大阪大学で担当した移植前の適応評価目的の症例の多くは、われわれの1型糖尿病患者向けの指導で容易に血糖管理ができるようになる。今後特に1型糖尿病を専門に治療する「1型糖尿病専門医」ができることを個人的には切に願う。

  • 入村 泉, 馬場園 哲也
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s24
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    膵移植は1型糖尿病に対する根治療法であり,移植膵の生着により頻回のインスリン注射から解放され,QOLや合併症,生存率の改善が期待される.当院では2001年1月から2021年5月までに72例の1型糖尿病患者に対して膵移植を施行しているが,本ワークショップでは,当院での経験を基に膵移植前から移植後における糖尿病内科医の役割について考察する.

    移植前は,膵移植登録の適応評価や待機期間中の全身管理に従事する.レシピエントの適応基準は,内因性インスリン分泌の著しい低下とされており,食後2時間血清Cペプチド (CPR) 0.5 ng/mlあるいはグルカゴン負荷前後ΔCPR 0.3 ng/ml以下であることを確認し,悪性腫瘍など禁忌事項に該当しないか評価した上で,適応判定申請書を膵臓移植中央調整委員会に提出する.適応ありと判定された場合には,登録後も定期的な全身精査が必要である.周術期,とくに移植直後は移植膵からのインスリン分泌を頻回測定することで,移植膵内分泌機能障害の早期発見に努めている.さらに移植後は,免疫抑制薬などによる耐糖能障害の有無を確認する必要がある.

    以上,移植前から移植後にかけて,糖尿病内科医は移植外科医や移植コーディネーターなどと密に連携しながら,膵移植のチーム医療を推進している.

  • 平塚 いづみ, 四馬田 恵, 鈴木 敦詞
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s25
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    膵臓移植は特に末期腎不全を合併した1型糖尿病患者に対して生命予後を改善し、ADL・QOLを大きく改善することができる。一方で、移植後は糖質コルチコイドや免疫抑制剤による糖代謝ならびに骨代謝の悪化などが懸念される。

    当施設は国内でも有数の膵臓移植の実施施設として、多くの膵臓移植登録を行っている。移植待機期間は近年短縮傾向にあるが、登録患者は複数の進行した合併症を抱えており、待期期間中も細心の全身管理が重要になる。また、移植後は定期的に耐糖能評価を行っているが、インスリン分泌のパターンは様々であり、日常的に反応性の低血糖を自覚する患者も少なくない。現在、低血糖が合併症の進展ならびに生命予後に大きく影響することが重視されており、移植後に安定した血糖管理が行うための治療法のさらなる改善も望まれる。また移植医療の進歩とともに長期間にわたり移植膵機能を保持できる症例も増加しており、長期予後をみすえた合併症管理の重要性が増している。われわれの施設でも移植後に定期的に末梢神経障害や骨代謝等の観察も行い、併存疾患へのきめ細やかなケアを目指している。今後も膵臓移植に携わる内科医として、長期予後を見据えた内科的管理を行い、エビデンスの構築とともに、1型糖尿病の根治治療となり得る膵臓移植の適応や有用性について、正しく啓発活動を行うことも社会的責任の一つと考えている。

  • 藤倉 純二, 穴澤 貴行, 松山 陽子, 伊藤 遼, 中村 聡宏, 境内 大和, 波多野 悦朗, 稲垣 暢也
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s26
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    当院では2004年から膵島移植が行われており、我々は当時膵島移植を受けた患者の経過観察から膵島移植の安全性と有効性を報告してきた。

    また、2013年以後の先進医療膵島移植においては、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の副作用対策として投与されるステロイドによる高血糖が、膵島生着の障害となる懸念から、持続インスリン静注を病棟看護師がアルゴリズムに従って操作することで、血糖値を正常に維持できるような術後管理を行うようにした。移植後患者では血糖値に対応する柔軟な膵島内分泌機能により血糖変動が安定することを持続グルコースモニタリング(CGM)により示すことができた。

    今日、持続皮下インスリン注入療法(CSII)の進歩は著しいが、高齢者や手指、視聴覚障害を有する患者における利用は困難とされている。当院では、網膜症により全盲に至った1型糖尿病患者に膵島移植を施行する機会があった。移植前後共にペン型のインスリン注射器を用いた頻回注射による古典的な強化インスリン療法をおこなっており、経過を報告したい。

    先進医療の有効中止を経て2020年4月に同種死体膵島移植術が新規に保険収載された。高度な血糖管理デバイスを使用できない症例や、それらの利用によっても血糖管理困難な症例は存在し、膵島移植が内科治療と共に発展していくことで、コントロール困難な糖尿病を克服できることが期待される。

  • 大宮 かおり, 芦刈 淳太郎, 林 昇甫
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s27
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    移植コーディネーター(Co)は、現在、JOTCo35名、都道府県Co59名で活動している。

    JOTCoの主な業務には、臓器移植法等の関連法令に基づき適正なあっせん手続きを実施する「あっせん業務」と家族の代理判断の任意性や家族総意の確認、臓器提供後の家族訪問・電話相談、サンクスレターの受け渡し、レシピエントの術後経過報告等、倫理的視点に立ち、臓器提供から臓器提供後に亘り継続支援を実施する「支援業務」がある。

    JOTではこれまでの支援業務を振り返り、より質の高いドナー家族支援の実践を目指すため、法改正後596事例の家族に対し意識調査を実施した。そのうち、190事例(31.9%)の家族が調査を受諾し、87%が「臓器提供をしてよかったと思う・やや思う」と回答した。しかし、自由記載欄には『脳死』の認知に関する受容と否認・拒絶や受け入れがたい現実を『臓器提供』として昇華するといった防衛機制による発言が様々みられた。

    家族は『本人の死』という現実に直面しつつも、前に進もうとする心情との葛藤の狭間にあり、Coは家族面談前に家族の段階的心理状態を丁寧に把握する必要がある。このため、家族が行う意思決定のプロセス支援を目的に、医師、看護師、臨床心理士等とJOTCoとの効果的な情報共有と家族支援の方針確認を行う『事前カンファレンス』の実施が必須であると考える。Coの現状と今後の展望について、ドナー家族への意識調査の結果も踏まえ述べる。

  • 小川 直子, 吉川 美喜子, 尾迫 貴章, 渥美 生弘
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s28
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    世界で最も多い死後臓器提供者数を誇るスペインで効果的なDTI-TPM教育(集中治療領域の医療スタッフに対する臓器提供の教育)を受けた日本人は多いが、TPM教育受講者が学んだ内容を実践するためのシステムがなく、TPM教育受講者がいる地域においても臓器提供数が増えない現状が続いている。TPM教育受講者がTPM教育を模したワークショップを開催し始めているものの、一部での地域のみという限定した状況となっている。

    日本では、スペインのTPMの役割に該当する院内ドナーコーディネーター(以下、院内Co)が2,000名以上設置されているといわれているが、それら院内Coが活かされていない現状がある。今後は適切な臓器提供の適応判断等が行えるような育成が必要である。それが行われることにより、臓器提供のプロセスへの負担軽減につながると考えられる。

    TPM受講者と都道府県コーディネーター(以下、都道府県Co)が連携を図り、世界共通の教育システムを用いて、日本に適した院内Coの教育環境整備を早急に行うことが必要である。TPM教育受講者の院内Co育成者としての活躍を期待する。

    しかしながら、都道府県Coは雇用形態や給与形態などの待遇が都道府県によりさまざまであり、統一した活動を行うことは難しい現状がある。日本に適した院内Coの教育環境整備を行っていくためには、地域の事情を把握できている都道府県Coが必要不可欠であり、待遇等の見直しも必要であると考える。

  • 纐纈 一枝, 谷口 未佳子, 加藤 櫻子, 渡邊 美佳, 剱持 敬, 星長 清隆
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s29
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】当院は脳死下臓器提供13件、心停止下臓器提供248件、臓器移植も646件行われ臓器提供、臓器移植を積極的に行っている。今年度より肺移植、膵島移植の施設認定を受けている。院内コーディネーターの役割は、臓器提供の普及啓発や臓器提供意思確認から、移植に至るまでのあっせん業務であり、家族対応に加えて医療者との調整業務も重要である。提供に至る過程で、医療者及び家族との調整に難渋するケースは少なくない。今回、ドナーコーディネーションにおける医療メディエーター導入につき検討した。

    【方法】当院では院内コーディネーターを含む医療メディエーターチームを組織し、院内勉強会に加えて、医療メディエーターの外部講師による講演会を開催した。臓器提供の現場において、医療メディエーターが必要と考えたが、院内コーディネーターが医療メディエーションスキルを獲得することで、患者・家族に寄り添い支援し、医療現場におけるコンフリクトや葛藤を緩和し、より良い医療とケアを提供できると考えられた。

    【まとめ】臓器提供の現場は,急に死を迎えることで医療者と家族にコンフリクトや葛藤が起きやすい。またJOT、都道府県コーディネーター、摘出チームなど外部の多職種が集まるため、院内コーディネーターは医療メディエーションスキルを獲得し、医療者と患者の中立的対話を促し、患者家族に寄り添う支援を行うことがこれからの移植医療に必要とされると考える。

  • 山本 真由美
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s30
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    A病院では、1997年より肝移植プログラムが開始となり、2020年末までに333例の肝移植が実施された。自身がレシピエント移植コーディネーター(RTC)として活動を開始した2006年は、生体肝移植実施100例を超えた頃であった。活動開始当初に、移植実施に至るまでの意思決定支援や関係各所への調整がスムーズに行えず、レシピエントやドナー候補者、家族らに辛い思いを残してしまったことを経験した。またドナー候補者の術前体調管理ができていず移植が延期になったり、移植後再飲酒を繰り返す症例への関わりに難渋したことを経験し、RTCとして移植医療に携わる責任の重さとそれに立ち向う覚悟を持った。その後は、円滑かつ安全な移植医療が行われるように、RTCとして何を大事にすべきかを自分に問い続けながら役割を発揮してきた。特に重視しているのは、移植医療における倫理的課題であり、移植医、医療関係者、専門家、複数のRTCらと最善の解決に向けて十分に検討するようにしている。RTCには、倫理的感受性、問題解決能力、調整能力、コミュニケーション技術、そして困難に立ち向かう意志の強さが必要だと考える。時代の変遷を経て、長期生存症例の増加や移植適応疾患の変化、以前には考えられなかった独居で頼れるキーパーソン不在の紹介症例の増加などがあり、取り組む課題も変容している。RTCの在り方とは、その役割をその時代に合わせて柔軟に変化させていくことが重要であると考える。

  • 後藤 美香, 内田 緑, 三田 篤義, 大野 康成, 増田 雄一, 吉澤 一貴, 中澤 勇一, 池上 俊彦, 副島 雄二
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s31
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    レシピエント移植コーディネーター(以下RTC)の認知および業務環境は施設により様々である。また、専従配置できない職場環境や後進育成の困難さは各施設が抱える問題である。当施設では、臓器担当の専従RTCは1名が配置されており、2014~2019年度の期間は専従・専任の2名体制となった。その間、私自身は専従から部署異動により専任として兼務する事となった。しかし、後進の退職を機に2020年度より専従に戻り現在1名で従事している。専任という立場での実践や移植医療チームとの連携・調整を行い、改めて専従・専任双方の立場からRTCの今後の在り方について考察したので報告する。

    2006年度より専従として従事した後、2014年度に後進に引き継ぎ集中治療部へ異動し、専任として後進の支援に加え、部署での移植看護教育を行った。部署では移植看護の標準化と看護ケアの底上げ、患者・家族の意思を尊重した検討と合意への看護実践、集中治療期から終末期医療への移行期も見据えたケアへの意識づけなどを通し、実践力を強化した。

    部署におけるケアの質向上・安全な実践体制の整備には、専任の果たせる役割は大きく、部署内での人材育成、専従への支援、更には後進育成、チーム医療体制の強化へと繋がると考える。専任RTCとしての職務は、職場環境の制限下においてもRTCとしての一部の役割を実践できる有用な機会と考えられるが、後進を育成するためには専従RTCの方が果たせる役割は大きい。

  • 伊達 洋至, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 大角 明宏, 中島 大輔
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s32-s33
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2010年の臓器移植法改正により小児脳死ドナーからの臓器移植が可能となったが、小児脳死ドナー数は限られている。2021年5月までに日本国内で行われた17歳以下の小児に対する肺移植は109例であるが、脳死肺移植25例(23%)、生体肺移植84例(77%)であった。

    京都大学呼吸器外科で行った小児肺移植は41例であり、男児21例、女児20例。年齢は、3歳から17歳、平均身長125.2 cm、平均体重23.1 Kg であった。適応疾患は、造血幹細胞移植後肺障害21例、肺高血圧症9例、間質性肺炎6例、その他5例であった。脳死肺移植は6例で、全例が脳死両肺移植であった。生体肺移植は35例で、うち15例(42.9%)がsingle-lobe transplantationであった。また、5例に区域肺移植を行った。5年生存率は89.3%と良好であった。

    小児肺移植では、生体肺移植が主流である。サイズマッチングの観点から様々な術式の工夫が必要であるが、長期成績は良好であった。

  • 平田 康隆, 小野 稔
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s34
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2010年の臓器移植法の改正以降、日本においても少しずつ小児に対する心臓移植は2020年まで少しずつ増加してきた。成人と同様、ほとんどの症例において移植前に補助人工心臓(VAD)を必要としており、2020年12月までに行われた55例中VAD待機中の患者は52名(95%)であった。特に体格の小さい小児においては体外型の小児用補助人工心臓EXCORを使用せざるを得ないことも多い。日本におけるEXCOR装着から移植までの待機期間の中央値は1年以上であり、海外と比べて非常に長いにもかかわらず、その成績は極めて良好である。しかし、2020年以降、小児の脳死ドナーは減少し、それに伴って小児の心臓移植数は激減している。心臓移植という出口がない現状で国内におけるEXCORは飽和状態になっている。また、小児に対して用いられていた植え込み型補助人工心臓のHVAD、Jarivik 2000も現在使用不可となっており、極めて厳しい状況にある。これらを解決するには小児のドナーが増えることしか道がないと考えられる。一方、先天性心疾患を伴う重症心不全に対する心臓移植および補助人工心臓の需要も増加しており、これらの患者にどう対応するかも問題となっている。これら、現在の日本における小児心臓移植と補助人工心臓の課題について論じる。

  • 佐藤 裕之
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s35
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    小児腎移植において献腎移植の数が決して多くない本邦ではこれまで多くの移植が生体腎移植で施行されてきた。しかし、小児への待機ポイントの加算の上、2010年の改正臓器移植法による15歳未満の脳死下臓器提供開始、2013年の先行的腎移植の申請受付開始、2018年20歳未満ドナーからの小児レシピエントへの優先という流れの中で、小児レシピエントにおいて献腎移植の待機期間は短くなり、小児腎移植における選択肢になっていることは紛れもない事実である。当院は小児専門施設であるがゆえに献腎移植の選択肢を示しやすくなり、さらにはその数も増えてきている。ただし、待機期間が短いといってもそれなりの期間の待機が必要である上に、その待機期間に起こりうる透析治療における合併症や手術難易度の悪化、献腎でなければ移植しないとういう方針での腎移植を行った先に起こりうる将来的な腎代替療法の選択の問題、さらにはまずは腎移植を行えばという観点での腎代替療法の選択に伴う潜在的な問題など現状の成人での待機期間を考慮すると各種の問題を先送りして移植を行っている可能性があるもの事実がある。今回、現在の小児献腎移植の現状とそれに伴う小児献腎移植の適応すべき状態とその限界、さらには今後の課題について述べたい。

  • 内田 孟, 阪本 靖介, 三森 浩太郎, 中尾 俊雅, 栁 佑典, 清水 誠一, 福田 晃也, 笠原 群生
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s36
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    近年、肝単一臓器障害でなく、他臓器疾患を合併した症例に対する肝移植も増加しつつある。さらに、小児の肝移植適応疾患の中には、原疾患に他臓器障害を合併する症例も多く存在する。しかし、小児肝移植領域において、肝移植時に他臓器疾患を合併した症例の予後については検討されていることが少ない。また、他臓器移植の適応も検討しなければならない症例も少なからず存在する。

    当施設では2021年5月までに663例の18歳未満小児肝移植を実施した。先天性心疾患を合併した症例は22例に認め、2例に肝移植前に心臓手術を実施した。移植後に先天性心疾患に起因した合併症は認めなかった。肺高血圧症は4例に認め、移植後に全例で肺高血圧症の改善を認めた。肺内シャントは64例に認め、うち2例が移植後に増悪し死亡理由に関与していた。移植時に原病関連腎疾患もしくは肝硬変による肝腎症候群を合併していた症例は54例で、うち5例は腎代替療法が導入されていた。54例の腎疾患合併症例のうち、腎肝移植前6例に対し、肝移植後8例に対し、腎移植が対し施行されていた。炎症性腸疾患を10例で合併しており、9例が原発性硬化性胆管炎に併発していた。短腸症候群を5例で認め、2例で肝移植前に、1例で肝移植後に小腸移植が施行されていた。

    今回、自施設における経験をもとに、他臓器疾患合併症例に対する肝移植医療の課題や最新の知見を、文献的考察を加えて報告する。

  • 竹村 裕介, 篠田 昌宏, 山田 洋平, 長谷川 康, 笠原 群生, 阪本 靖介, 北郷 実, 尾原 秀明, 板野 理, 黒田 達夫, 梅下 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】我が国の小児脳死肝移植の全国データ解析は未だなされていない。

    【方法】2019年3月までに本邦で実施された脳死肝移植523例の情報を日本臓器移植ネットワーク、日本肝移植学会から収集し、小児(18歳未満)の成績を中心に検討した。

    【結果】小児例は73例(14%)。年齢は中央値(四分範囲) 8 (1–15)歳。ドナー年齢36 (16-46)。原疾患は肝硬変33例 (BA 21. PSC10, AIH 1, 原因不明1 )、代謝性疾患20例、急性肝不全(ALF)17例、原因不明3例。再移植19例、分割移植35例。1年グラフト生存(GS)は79%で成人(89%)に比べ有意に不良だった(P=0.02)。小児の1年グラフト生存(58例)、廃絶(15例)の比較では、後者で有意に2歳未満ALF、ICU在室、再移植、中等度以上腹水、ドナーHBc抗体陽性例が多く、MELD(PELD:12歳未満)が高かった。2歳未満のALFの1年GS(10例40%)は、2歳以上ALF(6例, 83%)、2歳未満非ALF(11例, 91%)に比し有意に予後不良だった。多変量解析では、2歳未満ALF、再移植、MELD(PELD)が独立した予後因子として同定され、ドナー因子や阻血時間は同定されなかった。並存危険因子個数別1年GSは0個100%、1個70%、2個27%だった。

    【結語】小児脳死肝移植の成績改善には危険因子を意識した対策が必要である。

  • 成田 淳, 橋本 和久, 廣瀬 将樹, 石井 良, 石田 秀和, 大薗 恵一, 平 将生, 渡邊 卓次, 澤 芳樹, 上野 高義
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s38
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    近年の小児重症心不全に対する心臓移植判定の増加と共に、適応に係る非常に難しい判断を要する場面に遭遇する。適応外基準に合致するような全身性疾患や遺伝性疾患であってもその症状発現や各臓器の重症度は非常にスペクトラムが広く、将来的な予後を予測することが難しい。

    特に小児の脳神経障害の評価において、重症心不全が急性増悪した状態ではすでに深鎮静の管理下にあり、画像所見でしか情報が得られず十分な評価が困難となる。その画像診断ツールも補助循環装着後にMRI撮像は不可能となり、診断は限定的となる。また判定評価時に精神運動発達遅滞を認めていても重症心不全による影響と考え、成育歴の聴取が問題なく明らかな遺伝子・染色体異常がない限り、最終的には「適応外とは言い切れない」という判断になる。当院で脳神経学的評価の元、適応外判断となった例などを挙げて、その適応評価と基準の再考を議論したい。

    また、肝腎機能においてもStageⅣ以上の腎不全や新犬山分類のF4と判断される肝硬変でない限り、概ね移植適応は得られるが、それぞれの臓器の予備能は極めて低く移植後予後に大きく影響する事は疑いの余地がない。

    有生思想的な観点ではなく、生命予後だけが移植適応を規定するのかという事を議論し移植予後の向上、医療経済や社会生産性も含めて移植後の各臓器障害の程度やQOLなどについて深く追及した基準が求められると考えている。

  • 橋元 宏治
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s39
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    肝移植が必要な小児患者では他の臓器不全合併は稀ではない。その場合、肝移植単独では良好な成績が望めない場合があり、多臓器移植を同一ドナーから一期的に行うのが望ましい場合がある。Scientific Registry of Transplant Recipientsによる過去18年のアメリカ小児移植データによると(2002-2020年)、9024例(88.5%)の肝移植に対し、肝臓+小腸 837例(8.2%:膵臓を含む)、肝臓+腎臓 289例(2.8%)が行われた。多臓器移植の症例数は2007年まで増加傾向だったが、2008年以降は減少に転じ、2010年以降は毎年50例前後である。肝小腸同時移植の主な適応は長期中心静脈栄養(TPN)に関連した肝疾患である。興味深いことに2才以下のレシピエントでは、90.8%がTPN関連肝疾患を患っていたのに対し、12才以上ではその割合は70.5%に低下し、腫瘍関連疾患が11.4%と増加してくる。肝腎同時移植の適応は成人では肝腎症候群及び慢性腎不全が大半であるが、小児では代謝性疾患が40%以上、先天性肝線維症が30.8%を占めていた。特徴的であったのは2才以下のレシピエントは53.9%がprimary oxalosisであった。肝腎同時移植のグラフト生存率はレシピエントの年齢を問わず肝移植単独とほぼ変わらず良好であったが、肝小腸同時移植は5年でおよそ60%前後と他に比べて低率であった。本シンポジウムではアメリカでの腹部多臓器移植の現状と問題点について考察する予定である。

  • 中村 緑佐, 白水 隆喜, 恒吉 唯充, 杉本 龍亮, 原田 俊平, 川井 信太郎, 吉川 美喜子, 昇 修治, 牛込 秀隆
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s41
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    抗体関連型拒絶反応(AMR)における組織障害性評価に補体活性測定は重要である。

    C3d活性を次の検体を用いて評価した。1.既知の抗HLA抗体を含む移植前LCT陽性FCM陽性血清(LCT+/FCM+, n=7), 2.LCT陰性FCM陽性血清(LCT-/FCM+, n=4)。

    単一HLA抗原(HLA class I を4種類、class II を4種類)を発現させた遺伝子組換え細胞を用い、Immunocomplex fluorescent analysis(ICFA)法に従い、対応する抗HLA抗体を含む血清とincubationを行った。その後、補体血清を添加さらにincubationし、細胞可溶化の後、Luminexにてsolution-based assayを実施した。

    LCT+/FCM+血清は計11種の抗HLA 抗体を、LCT-/FCM+血清は計5種の抗HLA 抗体を持ち、single antigen beads法での抗HLA 抗体のMFIはそれぞれ14734.9.1±2181.4*及び4271.5±1939.5 (p<0.0001)とLCT+/FCM+血清で有意に高値であった(*希釈後MFI評価2検体を含む)。ICFA法indexはLCT+/FCM+, LCT-/FCM+で12.3±17.6及び 1.9±1.1(p=0.21)であった。ICFA C3d indexは4.1±4.2及び1.2±1.0(p=0.15)となり、C3d活性はLCT陽性血清で高い傾向にあった。MFIとC3d index間, ICFA indexとC3d index間の相関係数はそれぞれ0.51, <0.2と明らかな相関は認めなかった。

    ICFA法でのC3d indexの評価はMFI, ICFA indexと独立しており、別途評価することで組織障害活性の評価につながる可能性がある。

  • 加茂 直子, 奥村 晋也, 小木曽 聡, 穴澤 貴行, 伊藤 孝司, 秦 浩一郎, 田浦 康二朗, 波多野 悦朗
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】リツキシマブはABO不適合やDSA陽性生体肝移植に対し術前投与されている。肝細胞癌(以下肝癌)再発におけるリツキサン投与の意義について検討した。

    【方法】対象は2006年2月から2018年10月までに当科で肝癌に対し生体肝移植を施行した117例。術前リツキシマブ投与群(リツキシマブ群(n=31))と非投与群(対照群(n=86))における生存率、再発率、死因につき比較。ミラノ基準、京都基準についても同様に検討。さらに、術前因子に着目した肝癌再発に対する独立予後危険因子につき検討。

    【結果】移植後1,3,5年生存率は89%/81%/79%、再発率は5%/9%/11%。リツキシマブ群(n=31))と非投与群(対照群(n=86))の移植後1,3,5年生存率は87%/77%/69% vs 89%/82%/82% (p=0.11)、再発率は4%/4%/8% vs 5%/11%/12% (p=0.55)と有意差なし。非再発関連死亡はリツキシマブ群で高い傾向(p=0.07)。ミラノ基準、京都基準ともに、再発率は有意差なし。腫瘍最大径(P=0.003) と術前治療あり (P=0.024)が肝癌術後再発に対する独立予後危険因子 。

    【結語】リツキシマブ投与は、生体肝移植後肝癌再発に影響しないと考えられた。

  • 小野 紘輔, 井手 健太郎, 田中 友加, 小林 剛, 大平 真裕, 田原 裕之, 谷峰 直樹, 今岡 祐輝, 佐藤 幸毅, 山根 宏昭, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s43
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景

    近年、エプレットミスマッチ数と拒絶反応や移植後成績との関連についての報告が散見されるが、肝移植領域における検討は少ない。

    目的・方法

    2010年1月から2019年12月に当院で施行した生体肝移植症例のうち、ドナー、レシピエント共にHLA-A, B, C, DRB1, DQB1のallele解析が行われ、移植前後にHLA抗体検査およびリンパ球混合試験が行われた45症例を対象に、HLA Fusion Match Makerを用いてエピトープ解析を行い、急性細胞性拒絶(TCMR)およびde novo DSA産生との関連を検討した。CFSE-MLRの結果と併せてT細胞応答との関連も評価した。

    結果

    TCMRに関して、背景因子はレシピエント年齢(p=0.04)、免疫学的因子はHLA-DQB1エプレットミスマッチ数(p<0.01)に有意な関連を認めた。HLA-DQB1エプレットミスマッチ数はROC曲線よりカットオフ値を算出し、カプランマイヤー法で解析したところ層別化可能であった。エプレットミスマッチ数は反応性CD8陽性T細胞CD25表出率と有意な関連を認めた(p<0.01)。de novo DSA産生は、背景因子に有意差はなかったが、HLA-DQB1アレルミスマッチ数(p=0.04)、エプレットミスマッチ数(p=0.02)に有意な関連を認めた。TCMR同様にエプレットミスマッチ数で層別化可能であった。

    考察

    肝移植においてTCMRおよびde novo DSA産生とHLA-DQエプレットミスマッチ数との関連が示唆された。より汎用性のある予測因子となりうるかさらなる検討が必要と思われる。

  • 石塚 敏, 笹野 まゆ, 古屋 海, 藤田 龍司, 小林 悠梨, 安尾 美年子, 三浦 ひとみ, 岩藤 和弘, 平田 義弘, 江川 裕人
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s44
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】

    ABO血液型不適合生体肝移植では、血液型抗体価に関係なく拒絶反応や臨床的免疫寛容が生じる症例がある。

    我々は、この原因を解明するためFlow cytometry法を用いた抗A/B-IgG サブクラスおよび C1q 結合抗体測定を行い、それぞれの反応性の違いを解析したので報告する。

    【対象および方法】

    対象は、東京女子医科大学においてABO血液型不適合生体肝移植を施行した20症例である。

    方法は、間接抗グロブリン法Indirect anti-globulin test(IAT)、Flow cytometry法によりTotal-IgG抗体と4種類のサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4) およびヒト補体C1qに反応するIgG抗体ついて測定した。

    【結果】

    移植前の血液型IgGサブクラスは、IgG2・IgG1・IgG3・IgG4の順で抗体量を保有している症例が多かった。特にO型は、A型・B型に比べ抗体量が多い傾向にあり、抗A/B共にC1q(IgM処理)陽性症例が多く認められた。 移植後に抗体関連拒絶反応を生じた症例では、血液型IgGサグクラスの変動と共にC1qも高値を示し、トランスアミナーゼと類似するような推移を示していた。

    【結語】

    本研究の結果から症例数は少ないものの、IAT法による抗体価が低くてもIgGサブクラスの産生量によっては移植後の拒絶反応に影響があると思われる。

  • 市田 晃彦, 赤松 延久, 長田 梨比人, 三原 裕一郎, 裵 成寛, 河口 義邦, 石沢 武彰, 金子 順一, 有田 淳一, 長谷川 潔
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s45
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】当科のABO血液型不適合肝移植症例に対する肝移植の免疫抑制プロトコルを提示し、その成績を検証する。

    【方法】移植の14日以上前にリツキシマブ375mg/m2を投与した。抗血液型抗体64倍以上の症例では抗体価をモニタリングしつつ、移植までに2~5回の血漿交換を行った。また、移植7日前よりタクロリムス(目標血中濃度5ng/dl)・MMF(500mg/日)の内服を行い、移植後はこれにステロイドを加え3剤併用とした。

    【結果】2016年に血液型不適合移植を開始してから2020年12月までの症例は21例であった。このうち1例に抗体関連拒絶を認め、グラフト不全のため死亡している。また、他の1例で術後肝動脈血栓症をきたし手術関連死亡を認めたが他の19例は生存中である(術後在院日数中央値44日、生存期間中央値597日)。CMV感染を10例(47.6%)に、細胞性拒絶を6例(28.5%)に認め、うち2例では繰り返す細胞性拒絶に3回以上のステロイドリサイクル療法を行った。また、退院後に3例は肺炎で、1例は腹膜炎で、1例は卵巣膿瘍で再入院・加療を要した。

    【結論】

    血液型不適合移植後は抗体関連拒絶、細胞性拒絶、晩期の感染性合併症に注意して経過をみる必要があると考えられた。

  • 平間 崇, 秋場 美紀, 春藤 裕樹, 渡邉 龍秋, 渡辺 有為, 大石 久, 新井川 弘道, 岡田 克典
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s46
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    肺移植は様々な終末期呼吸器疾患に対して生存期間を延長させる効果が期待できる一方、感染症を繰り返すことで呼吸不全に至る疾患も肺移植の適応疾患である。欧米では嚢胞性肺線維症がその主たる疾患であるが、本邦では希少疾患であり、気管支拡張症が感染性肺障害の代表疾患となる。気管支拡張症では様々な病原体が気道から検出されるが、特に問題となるものがPseudomonas aeruginosa (PA) であり、急性増悪や予後不良因子関連している。また、PAは肺移植後に検出される最多の病原体であり、さらに慢性肺移植片機能不全(CLAD)と関連する報告もある。そのため、東北大学で肺移植を施行された136名を対象に、感染性肺障害の移植前、移植後のPAの検出率を調査し、移植後生存期間やCLADとの関連性を評価した。また、副鼻腔炎の罹患率、他の合併感染症(Cytomegalovirus、Aspergillus、non-tuberculous Mycobacteria)についても報告する。さらに、本シンポジウムでは、これら病原体の移植前、移植後の治療について、欧米のガイドライン等を参照に、本邦での治療法の違いなどについても解説する。

  • 岡本 耕
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s47
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    肺移植後患者においてサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus: CMV)感染症は、遭遇する頻度が高く、また予後に大きな影響与えるため、最も重要な感染症の一つである。CMV感染症は体液・組織からCMVのタンパク(抗原)や核酸が検出をもって診断されるが、厳密には症状の有無によってCMV infection(症状・所見なし)とCMV disease(症状・所見あり)に区別される。臨床的には、無症候性のウイルス血症(抗原血症)、発熱・倦怠感・白血球減少・異型リンパ球増多・血小板減少・トランスアミナーゼ上昇を主徴とするCMV syndrome、そして肺炎をはじめとする組織侵襲性のCMV diseaseのいずれかとして認識される。CMV感染症は、それ自体による直接的な影響だけでなく、免疫能低下に伴う他の日和見感染症の増加、および拒絶とも関連するため、予防が極めて重要である。予防戦略には、universal prophylaxis(予防投与)とpre-emptive therapy(先制治療)があるが、ドナー陽性・レシピエント陰性例を中心に前者が行わることが多い。抗ウイルス薬としては、ガンシクロビルやバルガンシクロビルが用いられるが、好中球減少や腎障害などが問題となる。本講演では肺移植患者におけるCMV感染症のマネジメントについて、ピットフォールや最近のトピックも含めて概説する。

  • 大角 明宏, 長尾 美紀, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 豊 洋次郎, 中島 大輔, 伊達 洋至
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s48
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    肺移植の適応条件として活動性感染がないことが挙げられる。当科では非結核性抗酸菌(NTM)感染について、治療による喀痰からの排菌の消失、画像上増悪がないことを適応基準とし、移植待機中も検査を反復している。2008年6月から2021年3月までに施行した261例を対象に肺移植前後のNTMの治療成績を検討した。移植前のNTM感染の既往は7例に認めた。1例は18年前のNTM後遺症に対する肺移植症例、1例は21年前の完治例であった。そのほか5例はいずれも造血幹細胞移植後肺障害に生じたNTM感染で、3例は加療により移植前に陰性を確認、2例は呼吸状態の悪化に伴い排菌無きことを確認した後に加療継続の上、生体肺移植を施行した。いずれの症例も移植後に感染の再燃なく全例生存中である。一方、移植後のNTM感染は13例に認めた。7例が抗菌薬加療後生存中だが、1例は膿胸に対して手術を施行した。残り6例のうち3例は慢性移植肺機能不全に対して再肺移植施行済もしくは待機中である。移植後NTM感染の6例が死亡し、死因は喀血1例、GVHD1例、肺胞タンパク症1例、慢性移植肺機能不全3例であった。移植前のNTM感染は治療介入により良好な結果が期待し得るが、特に造血幹細胞移植後肺障害症例では、術前の慎重な経過観察と適切な加療が肝要である。移植後は慢性移植肺機能不全への進展も危惧され、移植前と同様、厳密な管理体制が重要である。

  • 久保 友次郎, 田中 真, 石上 恵美, 石原 恵, 坂田 龍平, 富岡 泰章, 枝園 和彦, 諏澤 憲, 大谷 真二, 山本 寛斉, 三好 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s49
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】Clostridioides.difficile感染症(CDI)は臓器移植の中でも肺移植患者に多く,特に欧米では強毒株が多く予後不良とされている.従来は,酵素免疫測定法(EIA)による抗原及びトキシンの検査のみで診断されていたが,トキシン検査の感度が低く診断精度に問題があった.そこで2018年に作成された診療ガイドラインにおいて,便培養(TC)やPCR(NAAT)を追加して行うことが記載された.本邦における肺移植後のCDIについてはこれまで報告されておらず,今回検討を行った.【方法】2010年2月から2020年2月までに当院で施行した肺移植133例(脳死92,生体41)を対象に, 肺移植から初回退院までに発症したCDIについて後方視的に検討した. 【結果】肺移植後に下痢を発症した68例 (51%)にEIAを行った. 5例(4%)はトキシン陽性でCDIと診断され,全例 VCM内服で治療可能であった.51例(38%)は抗原陰性でCDIの可能性は低いとされた. 12例(9%)で抗原陽性・トキシン陰性であったが, TC/NAATが追加されたのは2例のみで,結果は陰性であった.残り10例はTC/NAAT追加されず,うち2例はVCM内服で改善していた.【結論】肺移植患者の5%でCDIと診断し,そのうち30%は従来検査で偽陰性であった.また,いずれも経過が良好であったのは強毒株ではなかったことが理由の一つと考えられる.肺移植後はCDIを疑った適切な検査や治療介入が重要であり、また今後は強毒株による感染も念頭に注意が必要である.

  • 杉本 誠一郎, 三好 健太郎, 田中 真, 富岡 泰章, 石原 恵, 石上 恵美, 諏澤 憲, 枝園 和彦, 山本 寛斉, 岡﨑 幹生, 山 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】感染性肺疾患に対する肺移植では,感染症の管理がCLAD発症にも関連しており,特にびまん性汎細気管支炎(DPB)では慢性期の原疾患の再発も報告されている.我々は以前,DPBに対する肺移植の中間成績(観察期間中央値4.9年)を報告したが(Interact Cardiovasc Thorac Surg 2016),本研究ではDPBに対する肺移植後の慢性期管理と長期成績を報告する.

    【方法】当院で2021年5月までに施行された205例の肺移植を対象に,DPBを原疾患とする6例を後方視的に検討した.

    【結果】年齢中央値は38.5(27-40)歳で,5例が女性で,全例に両肺移植が施行された(脳死5例,生体1例).慢性期の免疫抑制療法は全例がTac+MMF+PSLであり,Tac目標血中トラフ濃度は5-9ng/mLで,MMF投与量は500㎎/日が3例,1000㎎/日が2例,1500mg/日が1例で,PSL投与量は全例で5mg/日であった.移植後に1例が肺アスペルギルス症を発症し,それ以外の5例では喀痰培養で緑膿菌が再度検出されるようになり,3例でCAMの持続投与が再開された.1例は定期的な免疫グロブリンの皮下投与が必要であった.慢性副鼻腔炎の手術は4例で移植前,1例で移植後に施行され,未施行の1例は移植後7年で肺炎のため死亡した.CLADを1例に認めたが,PTLDは認められなかった.観察期間中央値は10.3年(2.8~18年)で,6例中5例が生存しており,DPBの明らかな再発は認められなかった.

    【結論】DPBに対する肺移植でも,適切な慢性期管理により,良好な長期成績が得られる可能性がある.

  • 前之園 良一, 松永 知久, 藤原 裕也, 谷口 俊理, 上原 博史, 平野 一, 能見 勇人, Stefan G., 東 治人
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s51
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    男女差にみられるような性特異的な影響は様々な疾患で示されている。腎移植においてもドナーまたはレシピエントの性別及び性ホルモンレベルの移植免疫への影響は未だ不透明であり議論の余地が残っており約400.000人以上の米国Scientific Registry of Transplant Recipientsに登録された腎移植患者データを用いて検証した。若い女性のレシピエントはドナーの性別とは無関係にgraft survivalが低い事が示された。一方で高齢の女性レシピエントでsurvival rateは高く、年齢による女性ホルモンのレベルの影響がある可能性を示した。実験的に雌マウスにおける移植片生存の延長を移植マウスモデルで検証した。In vivoで移植片の生存率は卵巣摘除した老マウスと対照のレシピエントで同等であり、卵巣摘除後の若マウスとその対照で有意差を認めた。また卵巣摘除後にT細胞の低下を認め、女性ホルモンの欠乏はCD4 + T細胞によるIFN-ɣおよびIL-17 +の発現を低下させ、Tregを増加させた。In vitroではestradiol濃度に依存しCD4 + T細胞のTh1細胞・Tregへの分化が変化し、移植片の生存を延長する可能性を示した。臨床データと実験的に示されたデータを踏まえ、女性のにおける年齢別の移植片生存パターンは異なる可能性がある。その背景として女性ホルモンは腎臓を含めた移植片のsurvivalに影響を与えるT細胞に深い影響を与え、年齢および性別固有の移植免疫に影響する可能性があることを示した。

  • 望月 哲矢, 田中 友加, 坂井 寛, 田原 裕之, 谷峰 直樹, 大平 真裕, 井手 健太郎, 大段 秀樹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s52
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】

    異種移植において、Galα1,3Galβ1,4GlcNAc(Gal)抗原応答性B細胞はCD5- B-1b細胞フェノタイプを示し、CNI抵抗性である。本研究では、Gal糖鎖抗原応答B-1b細胞の制御を目的として、in vitro / in vivoマウスモデルを用いて検討した。

    【方法と結果】

    Gal-KOマウスにGal抗原を投与すると、Gal抗原応答性B-1b細胞が活性化され、これらはCNI単剤には抵抗性であった。In vitro B細胞分化誘導モデルで、T細胞非依存性B細胞サブクラス活性化メカニズムを検討した結果、B-1b細胞分化にはTLR-MyD88シグナルが必須であり、Gal糖鎖抗原はB細胞上のTLR-MyD88を刺激する可能性が示唆された。そこで、抗Gal抗体産生抑制効果を検討したところ、MyD88阻害剤の併用投与はCNI単剤に比較し、有意な抑制効果を認めた。この治療戦略を応用し、BCR経路の上流に必須のシグナル分子であるBruton’s tyrosine kinase (BTK)阻害剤と、histone deacetylase(HDAC)阻害剤の併用を試みた。これらの薬剤によるBCR / MyD88の阻害はほぼ完全に血清抗Gal抗体産生を抑制した。

    【結語】

    BCR / TLR-MyD88の両経路を阻害することで、Gal糖鎖抗原応答B細胞活性を克服し異種移植の実現に繋がる可能性を示した。

  • 當山 千巌, 前田 晃, 正畠 和典, 野村 元成, 渡邊 美穂, 上野 豪久, 宮川 周士, 奥山 宏臣
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s53
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    (背景)補体因子C5aは,補体カスケード時に産生され免疫細胞の炎症反応を促進する.しかし,移植免疫におけるC5aの役割は不明な点が多い.我々はラット小腸移植モデルに対してC5a受容体阻害薬を使用し,拒絶反応ややマクロファージ に及ぼす影響を検討した.

    (方法)小腸移植モデルは,ドナーDA,レシピエントLewisで約20cmの回腸を異所性移植した. 薬剤はPMX53(C5aR1阻害薬)を使用し術後腹腔内投与した.まずグラフト生存率を比較し,次に組織学的評価及び細胞機能的評価として,腸管粘膜のHE染色,混合リンパ球試験(MLR,腸管膜リンパ節由来T細胞とドナー脾臓細胞の混合培養)を行った.マクロファージ産生能への効果評価のために,骨髄細胞にG-CSFとPMX53を投与しマクロファージ への分化をFACSで評価した.

    (結果)グラフト生存期間は,非投与群に対してPMX53群で延長した(6.6±1.2 vs 13.7±2.3日,n=5,p<0.05).組織学的評価では,移植後6日目のグラフト腸管絨毛の短縮を抑制した.MLRのStimulation Indexは,非投与群に対してPMX53群 で有意に低く(3.07±0.11 vs 2.39±0.20, n=5, p<0.05),細胞増殖を抑制した.マクロファージ 産生能評価は,非投与群に対してPMX53の0.5μM投与群では有意に抑制した(56.5%±6.44 vs 22.5%±2.30, n=4, p<0.05).

    (結語)

    C5a/C5a受容体シグナルの阻害は,小腸移植免疫で拒絶反応を制御する可能性が示唆された.今後は抑制機序の解析を予定している.

  • 平井 敏仁, L Ramos, Lin Po-yu, Garcia K., S Negrin
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s54
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    IL-2はTreg細胞の重要な増殖因子だが、IL-2受容体(IL-2R)は通常のT細胞(Tcon)にも発現しており、特異性はない。そのため、免疫制御目的にTreg細胞を増殖させようとIL-2を投与すると、逆にTcon細胞による拒絶反応を惹起することになる。我々はIL-2とIL-2Rの結合部位を遺伝子工学にて直交型(orthogonal;ortho)に改変することで、各々が特異的に反応するが、相対する野生型には結合しないortho IL-2/ortho IL-2Rペアを作成した。本研究では、ortho IL-2Rを体外でTreg細胞に導入し、ortho IL-2を投与することで、この改変Treg細胞(ortho Treg)を特異的に増殖させることができるか、マウス骨髄移植モデルで検証した。

    ドナー骨髄細胞とともに投与されたレシピエント由来のortho Tregは、ortho IL-2投与により有意に増加し、骨髄の生着を促進した。野生型IL-2はTcon細胞を増殖させ、骨髄拒絶を促進したが、ortho IL-2ではこのような副反応は全く認めなかった。骨髄移植後に同一ドナーからの心臓移植を行ったところ、ortho IL-2投与群は、非投与群や野生型IL-2投与群と比べ、有意に心臓グラフト生着期間を延長した。以上から、細胞工学により作成されたortho IL-2/ortho IL-2Rペアが新しい鍵と鍵穴として機能することで、Treg細胞による移植免疫寛容誘導の効率を改善できる可能性が示唆された。

  • 原田 昌樹, 内田 浩一郎, 藤本 啓一, 松本 龍, 徳重 宏二, 奥村 康, 竹田 和由
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s55
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs:Myeloid-derived suppressor cells)は癌や感染症などの病的状態で骨髄から誘導される免疫抑制細胞として報告されている。臓器移植における免疫治療としての位置づけは明確でない。

    【方法】MDSCsのセルソースとして、ドナー、レシピエント、3rdPドナーに分け、その抑制能とマウス心臓移植におけるグラフト生着期間を評価した。さらに、培養誘導したMDSCsをサブタイプ別にその抑制能とグラフト生着期間を比較し、その免疫抑制の機序を探索した。【結果】いずれのセルソースから誘導されたMDSCは、グラフト生着を延長させた。Ly6ChiMDSCs(単球性)はLy6ClowMDSCsと比較し、グラフト生着期間を有意に延長させ(Fig.A)、それはiNOSを介した直接抑制とnTreg増殖による間接的な抑制維持による機序が明らかとなった(Fig.B)。【結論】単球由来のMDSCs移入療法は臓器移植時の新たな免疫抑制導入療法の可能性がある。

  • 若井 陽希, 阿部 奈津美, 兵藤 透, 吉田 一成
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s56
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    在宅血液透析(Home Hemodialysis:HHD)は、医師の管理の元、患者自身が自宅で血液透析を行う治療法である。自宅に血液透析関連機器を設置し、介助者・付添者の協力の元、患者自身が、回路組立・穿刺・透析中の管理・返血等の全ての手技を行う治療法であるため、導入のハードルが高く、我が国での導入数は少ない(全慢性透析患者の0.2%(760名)(2019年統計時点))。

    しかしながら、「自宅で好きな時に透析を実施可能」「透析回数や透析量の増加による予後改善への期待」「食事制限の緩和」「生活の質の改善」「就労率の上昇」等の利点が評価され、徐々に導入数は増加してきている。

    これらの利点は、腎移植によって得られる利点と一部一致しており、腎移植を含めた様々な腎代替療法について広く選択肢を求める患者に対し、提示すべき有意な療法であると思われる。

    また、当院では、移植腎機能が低下し透析再導入が必要となった患者に対してもHHDを導入している(2015年時点で、当院でのHHD導入例42名のうち11名(26.2%)が腎移植経験例)。これらの患者のHHD導入後の生活の質は高く、移行後の経過は総じて良好である。

    以上の経験から、HHDは療法選択の様々な時期で腎移植と共に検討されるべき治療法であり、また、腎移植とのコンビネーションという視点で、HHDの利点と課題について検討を行うことが有用であると考えている。

  • 岡本 雅彦, 片岡 桂子, 山﨑 未来, 神谷 エリカ
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s57
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    腎移植後長期生着例の増加により、移植時には予測不能なフレイルや認知症により要介護状態となる事例も見られる。このような場合移植施設への通院が難しくなり、入院治療にも限界があるため在宅医療も念頭においた医療体制の構築が必要となる。一方移植医療はその専門性や制度面から地域では受け入れられにくいことも否めない。

    当施設は常勤医1名の無床診療所で一般外来診療を行う一方、在宅療養支援診療所として難病や末期がん、腎不全など常時180名前後の在宅患者を担当し、年間約80例の在宅看取りを行っており、当地の地域包括ケアシステム(安城モデル)を腎移植患者にも生かす取り組みをしている。在宅においても血中濃度モニタリングによる免疫抑制剤の調整やリハビリテーションによるADLの維持を行い、併存症によっては在宅酸素療法、在宅中心静脈栄養等も用いて非移植患者同様最後まで支えることが可能だが、腎移植患者ではその担い手の確保も問題である。

    これまでの経験より、地域で腎移植患者を受け入れていくためには①治療プロトコールの簡素化②移植施設とかかりつけ医の連携③医師、歯科医師、薬剤師のアウトリーチ④介護系サービス事業者や一般市民への移植医療の普及啓発が必要と考える。またCOVID-19時代を迎え、ICTを活用した病診連携や多職種連携、ACP(Advance Care Planning)や地域臨床倫理コンサルテーションの重要性が増しておりこれらについても紹介したい。

  • 岡部 安博, 佐藤 優, 目井 孝典, 野口 浩司, 加来 啓三, 小川 智子, 中村 雅史
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s58
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    腎移植はその数および質において目覚ましい発展を遂げており最近では20年から30年の長期移植腎生着患者も存在する。しかし、長期生着・長期生存の時代であるからこそ、悪性腫瘍や脳血管障害を来す患者も増えている。また腎移植患者の高齢化が進んでおり、2ヶ月に一度の定期外来通院が困難な患者も増えている。当院では現在はまだ在宅診療を行っている腎移植患者はほとんどいないが、今後も移植患者の高齢化や介護者の高齢化によって在宅医療や訪問診療による腎移植患者管理が必要となる時代が来ると考えられる。しかし、現状では急性期疾患の治療後に療養型病院に転院する時ですら腎移植患者は免疫抑制剤を内服しているからといって敬遠され、なかなか転院先が見つからないということを経験する。 これが在宅診療や老健施設での管理となると更にケアマネージャーや往診医との連携も必要となりより困難な状況となる。今後さらに腎移植患者が増えれば外来の待ち時間がより長くなり、益々外来受診が困難となっていく。腎移植で在宅医療を目指すには、多職種を含めた管理システムを構築すること、免疫抑制剤を往診医でも処方できるような制度の変更などが必要であろう。また緊急入院への対応も必要であるため往診医と連携病院とのネットワークを利用した患者情報の共有などが必要になる。コロナ禍で病院への受診が困難な状況である今こそ真剣に考える時期である。

  • 森 清
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s59-s60
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    在宅医療は、ADL低下となり通院困難となった方方のご自宅での生活を、在宅医(訪問診療)と多職種連携によって寄り添う医療である。臓器不全を合併し訪問診療を受けていることは多いが、移植前・移植後の患者が訪問診療を行う診療所に紹介されることは比較的稀である。移植主治医と在宅医の相互理解により、臓器不全の患者たちのQOLが高まることに期待したい。そのためには、①適切な在宅医とチームを組み、②二人主治医制を活用し、③適切な対診(コンサルト)関係と④移植医を中心としたチーム形成が大切である。今後は、⑤ジェネラルとしての移植医療を初期研修医にも指導され、⑥ACPをふまえた診療(一人暮らしを含む)・⑦グリーフケアをみすえた医療が、多職種連携の上で実現されることを願っている。

feedback
Top