2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s498
本邦の脳死ドナーは100例/年を超え、急性肝不全のみならず、生体肝移植後肝不全や末期の非代償性肝硬変に対しても脳死肝移植が可能になってきている。腎移植も生体腎移植90%を占めるものの、ようやく2000例/年を超える状況となってきている。 一方,多発性肝嚢胞に対する肝移植は予後も良好とされ良い適応と考えられるが、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)では腎不全になり、腎移植後も肝嚢胞は増大することが多く、時に大きくQOLを損なっている症例が存在するが肝移植の適応にならないことが多い。2009年以降のADPKDに対する腎移植は92例(生体89例、献腎3例)であった。男性56例、女性36例で平均年齢は48.2 歳 (26-73;中央値49)。生存率、生着率は98.3%(観察期間1-140:平均56.4ヶ月)と良好であった。これらADPKD症例では腎移植術後繰り返す嚢胞感染や肝嚢胞の進行によりADLを極めて損なっている症例があるが、肝移植の適応にならず苦慮している。我々の症例ではこれまでに名古屋大学に紹介し、生体肝移植を施行していただいた2例、脳死肝腎同時移植登録作業を進めていたが、至らず死亡した症例を経験している。また繰り返す嚢胞感染で入退院を繰り返す症例(2例は敗血症にて死亡、1例は膵癌にて死亡)もある。これらからADPKDに対しての移植の際には生体ドナーで腎移植を施行するのか、肝移植は生体ドナーか、脳死ドナーか、肝腎同時移植なのか。現時点での問題を提起したい。