2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s93
【背景】脳死膵臓移植における腹部大動脈石灰化(AAC)の意義は明らかにされていない.今回,AACが脳死膵腎同時移植(SPK)後の予後に与える影響について検討したので,報告する.【対象・方法】2019年12月までに当院にて施行した脳死膵臓移植54例のうち術前のAACの定量化(Agatston score法)が可能であったSPK39例を対象とした.AACの値に基づいた術後成績を累積生存率,膵グラフト生存率の点から評価した.【結果】対象症例におけるAACの中央値を用いて低AAC群(19例)と高AAC群(20例)に分けたところ,累積生存率は,高AAC群において低AAC群よりも有意に低値であった(10年累積生存率75.0% vs. 100%,p=0.04).膵グラフト生存率は,Death with functioning graft(DWFG)を含まない場合は両群間に有意差を認めなかったが(10年膵グラフト生存率76.5% vs. 88.8%,p=0.43),DWFGを含む場合は高AAC群において低AAC群よりも有意に低値であった(50.4% vs. 88.8%,p=0.04).膵グラフト喪失の理由は,高AAC群でDWFG4例,グラフト血栓症3例,グラフト十二指腸穿孔1例であり,低AAC群で拒絶1例,グラフト血栓症1例であった.DWFGを含む膵グラフト生存率に関する多変量解析では,AACのみが独立した規定因子であった.【結語】脳死膵臓移植症例において,AACが著明な症例では術後にDWFGが多く認められた.同術前の高AAC症例に対する,より緻密な術後フォローが重要である可能性が示唆された.