2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s130_2
膵臓移植レシピエント候補者は,術前に長い糖尿病罹患期間・透析期間を有しており,これらに伴う低栄養状態にあることが多い.また移植自体が原則的に脳死ドナー発生後に実施されるものであり,患者は手術直前の入院となるため,予定待機手術のように術前に一定期間の栄養管理を行うことは出来ない.我々は移植前のサルコペニアと術後合併症や膵グラフト生着率との関連性を報告しており,この結果は術前のサルコペニア改善による移植成績向上の可能性を示唆するが,実際の術前入院期間を踏まえると,手術直前の栄養介入の実施は難しい.そのため,糖尿病主治医と連携して出来る限り良好な栄養状態を保つ必要がある.膵臓移植後の栄養管理としては,他の移植同様に移植臓器の機能に配慮する必要があり,機能低下を認めれば糖尿病や腎不全患者に準じた管理を求められる.また,膵臓移植特有のものではないが,免疫抑制状態となるため,感染予防を意識した食事指導が必要となる.さらに,栄養に関する膵臓移植の特徴として,レシピエントの多くに糖尿病性胃腸障害を認め,これは膵臓移植後に必ずしも消失しないため,術後には内服薬が十分に吸収されず期待される薬物濃度に達しない可能性,術後腸閉塞が起こりやすい可能性などを念頭におく必要がある.以上のように,膵臓移植後には,他の臓器移植後と同様の管理に加えて,糖尿病に特有の胃腸障害にも留意した栄養管理が必要となる.